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battle28…揺れる心(前編)
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「あぁあ、全く……ヘタクソだねぇ…」
そう呟きながら你はウサギのぬいぐるみを掲げていた。
「もぉっと上手くやらなくちゃ…お姫様☆」
どうやってなのか…李厘達の会話の様子を見ていた你。
「ただでさえ解りやすいところに置いて、警備もせずに、わざとお姫様にあげたんだから、もっとうまく使ってくれないと困るんだよね…」
そういいながらもクククと笑っていた。
「それじゃぁ、下手くそなお姫様と皇子さまの為に少しだけ手伝ってあげようかな…」
そう呟くと你はスッと立ち上がったのだ…
昼間一旦八戒と別れてから様子がおかしかった雅。それでも気付かれないようにと気を張っているため、八戒はそれ以上何も聞くことはできなかった。その日の夕方。
「夕飯、行きましょうか?」
「おっ!!やった!!」
「今度は三蔵も行きますよね?」
「さすがに飯は行く」
「そういって今朝行かなかったの誰だよ」
「何か言ったか?」
「本当の事だろうが」
そう話しながらも皆で支度していた。
「あれ?雅?どうしたの?」
「悟空…ごめん…ちょっとしんどくて…」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!休憩してる…なんだろうな…疲れちゃったのかも…」
「すぐに戻ってくるから…」
「心配しないで?ゆっくりと行ってきてよ!ね?」
笑顔で雅は四人を送り出した。
「大丈夫かなぁ…雅」
「本人が大丈夫って言ってんなら大丈夫だろうけど…」
「ひっかかりますね…」
「……」
「三蔵?」
「もしかして昨日三蔵ヤりすぎてとか?」
「冗談言ってる場合じゃないですよ?」
「……」
三蔵は無言のまま三人に着いていくだけだった。
四人を見送った後、ため息を吐きながらもどうしていいか、解らなくなりかけていた。
「信じたいものを信じたらいい」
「好きだ…」
そういわれ続けてきたにも関わらず、雅は今日李厘に言われた言葉がひっかかっているように思えてなら無かった。
コンコン…
扉をノックする音が聞こえ開けに行くも、誰もいなかった。
「…誰だったんだろう…」
そう思いながらもふと足元に一枚の紙切れがあることに気付いた。
「…?」
『話がある。三十分もすればいいだろう。街外れにある大木まで来い。』
「三蔵?」
扉から顔を出してみるもののその姿は無かった。しかし、名前は無いにしろ、この口調は三蔵しか思い当たらなかった。
「…なんだろう、話って…」
そう思いながらも支度をすると、宿主に大木までの道を聞いて雅は宿を後にした。
「こっちの方だと思うけど…」
そう呟きながらも、やっとの思いで見つけた大木だった。
「ここか…なんだろ…話って…」
そう考えながらも雅は三蔵が来ることを待っていた。
時は少し戻り…
「皇子サマ☆」
「…貴様か…」
「嫌だなぁ、そんなに悪態吐くなんて」
「何の用だ」
「昨日は魔天経文取り損ねちゃったみたいだね」
「……」
「せっかくボクが薬を置いておいたのに」
「……わざとだったのか?」
「人聞き悪いなぁ。ちょっとした手伝いのつもりだったんだよ?」
「フン……」
「それでさ?ボクの作戦に乗らない?」
「断る」
「まぁまぁ、そういわないで。」
そういいながら你は顔の前にウサギを持ち上げた。
「ボクがカノジョにちょっと話をしたら皇子サマの出番って訳。」
「訳が解らん」
そういって背中を向けた紅孩児。
「うまく行くかどうかは解らないけど……ほしいんだよね?経文」
そう呟くと你は『先に行くよー』と行ってしまった。
どれくらいの時間が経っただろうか。雅はずっと大木の下で待っていた。
「食事処に行ってみようかな……あ、でも行き違いになると困るし……」
そう呟きながらもただひたすらに待っていた。
「きっとごはんが長引いてるのかな…それとも…何かあったのかな……」
しかし、それを調べる術はもちろんなく、ただじっと待っているしかなかった。
「こんばんは」
「え?」
「一人?」
そう話しかけてきたのはウサギのぬいぐるみだった。
「えっと……」
「クスクス、そんなに警戒しなくても」
「あなた……誰?」
「ボク?名乗るものでもないよ、キミに伝言頼まれただけだから」
「伝言?」
「うん、そう。三蔵って言ったかな?金髪の人にね」
「三蔵から?」
「『もう待っていなくてもいい。待っていても無駄だ。顔も見たくない』って。酷い内容だけど、伝えてほしいって頼まれてね。」
「三蔵……が?」
「ごめんね、良く解らないけどボクは頼まれただけだから。あ、そうそう。これ、長い事待ってるみたいな口ぶりだったから。それじゃぁ」
そう言ってドリンクを一本手渡して、その場を離れていく。名前も解らない、そんな人に頼み事をする様な人じゃない。でも、もし本当だったら…
『誰も信じてねぇっていってたじゃん!』
『顔も見たくない』
昼間に李厘が何気なく放った言葉とさっきの人の言葉がリンクする。雅の頭の中では色々なことが巡り回っている。
「おい……」
「え…?」
「……お前は…」
「………ッッ」
紅孩児を見た途端に雅は後ずさりをする。そんな相手に紅孩児は小さくため息を吐くとくシャリと前髪を掻き上げた。
「別に取って食おうとかは思っていない。」
「……」
「どうしたんだ。三蔵一行の女だろう」
その言葉に胸が軋む。紅孩児自体も你の思惑は解らない。それでも目の前にいる雅をなぜか放っておけなかった。
「昨日は李厘がすまなかった」
「……いえ…」
「……」
二人の間には沈黙が流れた。どうしていいのかも解らないまま、雅はその場を離れようとしたが、行き場が無い。
「三蔵一行とはぐれたのか?」
「……いえ…そう言う訳じゃ…」
「そうか…」
「経文なら…私どうこうしても三蔵からはもらえないですよ?」
「そんなことは解っている。」
「……」
「でもまさか、三蔵が女を連れて行動するとはな。戦いの力も無い者を傍に置くとは…」
「……そうですよね…」
「三蔵の女、なのか?」
「…ッッ」
「…そうか」
「違う…と思う。そうだって…三蔵の大切な人になれたかもなんて…私の思い上がりだったのかも…」
「よく、理由は解らんが」
「…ごめんなさいもう私行きますね…」
そういいながらも立ち上がった雅。街に戻ろうと歩き出そうにもなかなか足が動かない。
「おい」
「……大丈夫ですから」
そういいながらも缶を開けごくりと飲み込んだ。小さな缶だとはいえ、突然言われた別れで、からからになった喉を潤すにはちょうど良かった。
「……私…」
「三蔵一行の事なら気にすることは無いだろう」
「あなたには関係ない!!」
そういって腕をつかもうとした紅孩児の腕を振り払うと同時にバチっと雅の力が暴走を起こした。ビリッと来る感覚に紅孩児は一瞬驚いたもののフッと目を細めた。
「なるほどな、それで傍に置いているのか」
「……」
「妖気は感じない。術師でもない、どんな力かは解らないが……何かあるな…」
「……ッッ放っておいて……」
「そうは行かない。」
そう言われた直後だ。雅はグラリと視界が揺らぐのを感じた。しかしすぐに収まる。力の使い方を間違えたせいか…そう思って気にも止めなかった。
「おい…」
「……いい加減にして…」
「三蔵一行には力のみでしか必要とされていないのか?」
「…そんなこと…そうだよ…そんなこと無い…」
「だったら何で泣いている」
「……何か理由があるのかも知れない…」
「よく解らんが、その理由とやらをあいつらに聞けるのか?」
「……」
「あいつらはよく言っている。自分達が良ければそれでいいと。」
雅が何を飲んだかを知らない紅孩児は悪気もないかの様に以前に聞いていた事をそのまま話している。それは昼間に李厘に聞いていたのと酷似していた。しかし、昼間と明らかに違う感覚に襲われた。頭の中に嫌に木霊するかの様に響いて取れなかった。
「……でも…」
「三蔵一行に居られると少し厄介だな…」
ポツリと呟いた紅孩児。耳の奥にこびりついて取れない『負』の言葉。
「もう……いやだ…」
そう呟いた時だ。右の耳に黒のピアスのようなものが付いた。
「……もう…やだ…」
「おい…」
紅孩児はそれに気付いた。
「これ…」
「……一人は…いや…」
そういって紅孩児にきゅっと巻き付いた。
「おい…」
「……ッッ」
その様子を遠くから見ていたのは你だった。
「こうも簡単に飲んでくれるとはねぇ…。経文なんてどうでもいいんだよ。ごめんね?皇子サマ。ボクにとってみたらね。壊れてくれるのをみれたらいいかなぁ」
クスクスと笑っている。そう。あの雅に飲ませたのは你が仕込んだものだ。全てを無にしてしまうのは惜しい。どうせなら壊れていく様を見れたなら少しは酒の肴になるだろうと考え、甘酸っぱいドリンクに少し薬を混ぜた。それは人の心を惑わせ、あったものを無かったように、そしてそのときに身近にいる人を慕う…相手が人間であればあるほど、素直であればあるほどかかりやすい術がかけられる。その証として、術にかかっている間は何かしらの変化がある。雅の場合には右耳に現れたピアスの様な黒飯石だった。
その頃の一行は、とっくに宿に戻ってきていた。
「おかしいですね、雅が書き置きも無く、食事にも来ず、姿を消すなんて…」
「おい、三蔵!昨日雅に何したんだよ!!」
「これと言って何もしちゃ居ねえよ」
「だって、朝から雅なんか昨日と様子違ったし!!」
「そうは言っても、それはきっと雅がイイ女になっただけだろうけど『うるせえ』…何よ…全く」
「遊んでる場合ではないと思うのですが…」
昼間の様子の事もあって八戒は少し気になってしかたが無かった。
「あ……」
窓の外には雨が振りだした。
「どうしましょうね…」
「俺、雅探してくる!」
「僕も行きましょうか、悟浄、あなたも」
「あぁ。」
「三蔵はここに居てくださいね」
「ぁん?」
「雅が戻ってきた時に困るでしょう?」
「……チッ…」
そう舌打ちをして、椅子に座っている。三人が三人バラバラに出ていこうとした時だった。最後に出た八戒を宿主が呼び止めた。
「お嬢ちゃんとは会えたのかい?」
「え?」
「あれ、連れとの約束があるからと場所を聞かれたんだけどねえ」
「その場所って…」
「あぁ、街外れの大木なんだけど。でももうこんなに雨も強くなってきてるし。皆さんいるなら大丈夫かね」
「すみません。ありがとうございます、ご主人」
そうお礼を言って八戒は教えてもらった大木の元へと向かっていった。
そう呟きながら你はウサギのぬいぐるみを掲げていた。
「もぉっと上手くやらなくちゃ…お姫様☆」
どうやってなのか…李厘達の会話の様子を見ていた你。
「ただでさえ解りやすいところに置いて、警備もせずに、わざとお姫様にあげたんだから、もっとうまく使ってくれないと困るんだよね…」
そういいながらもクククと笑っていた。
「それじゃぁ、下手くそなお姫様と皇子さまの為に少しだけ手伝ってあげようかな…」
そう呟くと你はスッと立ち上がったのだ…
昼間一旦八戒と別れてから様子がおかしかった雅。それでも気付かれないようにと気を張っているため、八戒はそれ以上何も聞くことはできなかった。その日の夕方。
「夕飯、行きましょうか?」
「おっ!!やった!!」
「今度は三蔵も行きますよね?」
「さすがに飯は行く」
「そういって今朝行かなかったの誰だよ」
「何か言ったか?」
「本当の事だろうが」
そう話しながらも皆で支度していた。
「あれ?雅?どうしたの?」
「悟空…ごめん…ちょっとしんどくて…」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!休憩してる…なんだろうな…疲れちゃったのかも…」
「すぐに戻ってくるから…」
「心配しないで?ゆっくりと行ってきてよ!ね?」
笑顔で雅は四人を送り出した。
「大丈夫かなぁ…雅」
「本人が大丈夫って言ってんなら大丈夫だろうけど…」
「ひっかかりますね…」
「……」
「三蔵?」
「もしかして昨日三蔵ヤりすぎてとか?」
「冗談言ってる場合じゃないですよ?」
「……」
三蔵は無言のまま三人に着いていくだけだった。
四人を見送った後、ため息を吐きながらもどうしていいか、解らなくなりかけていた。
「信じたいものを信じたらいい」
「好きだ…」
そういわれ続けてきたにも関わらず、雅は今日李厘に言われた言葉がひっかかっているように思えてなら無かった。
コンコン…
扉をノックする音が聞こえ開けに行くも、誰もいなかった。
「…誰だったんだろう…」
そう思いながらもふと足元に一枚の紙切れがあることに気付いた。
「…?」
『話がある。三十分もすればいいだろう。街外れにある大木まで来い。』
「三蔵?」
扉から顔を出してみるもののその姿は無かった。しかし、名前は無いにしろ、この口調は三蔵しか思い当たらなかった。
「…なんだろう、話って…」
そう思いながらも支度をすると、宿主に大木までの道を聞いて雅は宿を後にした。
「こっちの方だと思うけど…」
そう呟きながらも、やっとの思いで見つけた大木だった。
「ここか…なんだろ…話って…」
そう考えながらも雅は三蔵が来ることを待っていた。
時は少し戻り…
「皇子サマ☆」
「…貴様か…」
「嫌だなぁ、そんなに悪態吐くなんて」
「何の用だ」
「昨日は魔天経文取り損ねちゃったみたいだね」
「……」
「せっかくボクが薬を置いておいたのに」
「……わざとだったのか?」
「人聞き悪いなぁ。ちょっとした手伝いのつもりだったんだよ?」
「フン……」
「それでさ?ボクの作戦に乗らない?」
「断る」
「まぁまぁ、そういわないで。」
そういいながら你は顔の前にウサギを持ち上げた。
「ボクがカノジョにちょっと話をしたら皇子サマの出番って訳。」
「訳が解らん」
そういって背中を向けた紅孩児。
「うまく行くかどうかは解らないけど……ほしいんだよね?経文」
そう呟くと你は『先に行くよー』と行ってしまった。
どれくらいの時間が経っただろうか。雅はずっと大木の下で待っていた。
「食事処に行ってみようかな……あ、でも行き違いになると困るし……」
そう呟きながらもただひたすらに待っていた。
「きっとごはんが長引いてるのかな…それとも…何かあったのかな……」
しかし、それを調べる術はもちろんなく、ただじっと待っているしかなかった。
「こんばんは」
「え?」
「一人?」
そう話しかけてきたのはウサギのぬいぐるみだった。
「えっと……」
「クスクス、そんなに警戒しなくても」
「あなた……誰?」
「ボク?名乗るものでもないよ、キミに伝言頼まれただけだから」
「伝言?」
「うん、そう。三蔵って言ったかな?金髪の人にね」
「三蔵から?」
「『もう待っていなくてもいい。待っていても無駄だ。顔も見たくない』って。酷い内容だけど、伝えてほしいって頼まれてね。」
「三蔵……が?」
「ごめんね、良く解らないけどボクは頼まれただけだから。あ、そうそう。これ、長い事待ってるみたいな口ぶりだったから。それじゃぁ」
そう言ってドリンクを一本手渡して、その場を離れていく。名前も解らない、そんな人に頼み事をする様な人じゃない。でも、もし本当だったら…
『誰も信じてねぇっていってたじゃん!』
『顔も見たくない』
昼間に李厘が何気なく放った言葉とさっきの人の言葉がリンクする。雅の頭の中では色々なことが巡り回っている。
「おい……」
「え…?」
「……お前は…」
「………ッッ」
紅孩児を見た途端に雅は後ずさりをする。そんな相手に紅孩児は小さくため息を吐くとくシャリと前髪を掻き上げた。
「別に取って食おうとかは思っていない。」
「……」
「どうしたんだ。三蔵一行の女だろう」
その言葉に胸が軋む。紅孩児自体も你の思惑は解らない。それでも目の前にいる雅をなぜか放っておけなかった。
「昨日は李厘がすまなかった」
「……いえ…」
「……」
二人の間には沈黙が流れた。どうしていいのかも解らないまま、雅はその場を離れようとしたが、行き場が無い。
「三蔵一行とはぐれたのか?」
「……いえ…そう言う訳じゃ…」
「そうか…」
「経文なら…私どうこうしても三蔵からはもらえないですよ?」
「そんなことは解っている。」
「……」
「でもまさか、三蔵が女を連れて行動するとはな。戦いの力も無い者を傍に置くとは…」
「……そうですよね…」
「三蔵の女、なのか?」
「…ッッ」
「…そうか」
「違う…と思う。そうだって…三蔵の大切な人になれたかもなんて…私の思い上がりだったのかも…」
「よく、理由は解らんが」
「…ごめんなさいもう私行きますね…」
そういいながらも立ち上がった雅。街に戻ろうと歩き出そうにもなかなか足が動かない。
「おい」
「……大丈夫ですから」
そういいながらも缶を開けごくりと飲み込んだ。小さな缶だとはいえ、突然言われた別れで、からからになった喉を潤すにはちょうど良かった。
「……私…」
「三蔵一行の事なら気にすることは無いだろう」
「あなたには関係ない!!」
そういって腕をつかもうとした紅孩児の腕を振り払うと同時にバチっと雅の力が暴走を起こした。ビリッと来る感覚に紅孩児は一瞬驚いたもののフッと目を細めた。
「なるほどな、それで傍に置いているのか」
「……」
「妖気は感じない。術師でもない、どんな力かは解らないが……何かあるな…」
「……ッッ放っておいて……」
「そうは行かない。」
そう言われた直後だ。雅はグラリと視界が揺らぐのを感じた。しかしすぐに収まる。力の使い方を間違えたせいか…そう思って気にも止めなかった。
「おい…」
「……いい加減にして…」
「三蔵一行には力のみでしか必要とされていないのか?」
「…そんなこと…そうだよ…そんなこと無い…」
「だったら何で泣いている」
「……何か理由があるのかも知れない…」
「よく解らんが、その理由とやらをあいつらに聞けるのか?」
「……」
「あいつらはよく言っている。自分達が良ければそれでいいと。」
雅が何を飲んだかを知らない紅孩児は悪気もないかの様に以前に聞いていた事をそのまま話している。それは昼間に李厘に聞いていたのと酷似していた。しかし、昼間と明らかに違う感覚に襲われた。頭の中に嫌に木霊するかの様に響いて取れなかった。
「……でも…」
「三蔵一行に居られると少し厄介だな…」
ポツリと呟いた紅孩児。耳の奥にこびりついて取れない『負』の言葉。
「もう……いやだ…」
そう呟いた時だ。右の耳に黒のピアスのようなものが付いた。
「……もう…やだ…」
「おい…」
紅孩児はそれに気付いた。
「これ…」
「……一人は…いや…」
そういって紅孩児にきゅっと巻き付いた。
「おい…」
「……ッッ」
その様子を遠くから見ていたのは你だった。
「こうも簡単に飲んでくれるとはねぇ…。経文なんてどうでもいいんだよ。ごめんね?皇子サマ。ボクにとってみたらね。壊れてくれるのをみれたらいいかなぁ」
クスクスと笑っている。そう。あの雅に飲ませたのは你が仕込んだものだ。全てを無にしてしまうのは惜しい。どうせなら壊れていく様を見れたなら少しは酒の肴になるだろうと考え、甘酸っぱいドリンクに少し薬を混ぜた。それは人の心を惑わせ、あったものを無かったように、そしてそのときに身近にいる人を慕う…相手が人間であればあるほど、素直であればあるほどかかりやすい術がかけられる。その証として、術にかかっている間は何かしらの変化がある。雅の場合には右耳に現れたピアスの様な黒飯石だった。
その頃の一行は、とっくに宿に戻ってきていた。
「おかしいですね、雅が書き置きも無く、食事にも来ず、姿を消すなんて…」
「おい、三蔵!昨日雅に何したんだよ!!」
「これと言って何もしちゃ居ねえよ」
「だって、朝から雅なんか昨日と様子違ったし!!」
「そうは言っても、それはきっと雅がイイ女になっただけだろうけど『うるせえ』…何よ…全く」
「遊んでる場合ではないと思うのですが…」
昼間の様子の事もあって八戒は少し気になってしかたが無かった。
「あ……」
窓の外には雨が振りだした。
「どうしましょうね…」
「俺、雅探してくる!」
「僕も行きましょうか、悟浄、あなたも」
「あぁ。」
「三蔵はここに居てくださいね」
「ぁん?」
「雅が戻ってきた時に困るでしょう?」
「……チッ…」
そう舌打ちをして、椅子に座っている。三人が三人バラバラに出ていこうとした時だった。最後に出た八戒を宿主が呼び止めた。
「お嬢ちゃんとは会えたのかい?」
「え?」
「あれ、連れとの約束があるからと場所を聞かれたんだけどねえ」
「その場所って…」
「あぁ、街外れの大木なんだけど。でももうこんなに雨も強くなってきてるし。皆さんいるなら大丈夫かね」
「すみません。ありがとうございます、ご主人」
そうお礼を言って八戒は教えてもらった大木の元へと向かっていった。
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