凜恋心

降谷みやび

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battle29…揺れる心(中編)

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教えてもらった大木までは少し時間がかかった。それでも傘を差さずに八戒はただ急いだ。

「雅…何があったんですか…」

そう呟きながらもとにかくその元へと急ぎ足になっていく。

「……!!雅!」

その姿を捉えた時に、一緒にいた紅孩児を見つけて八戒は一瞬足が止まった。

「何、しているんですか?」
「…何がだ」
「雅を返していただきます」
「返すも何も、こいつが帰らないだけだ」
「……どう言うことですか?」

少し俯き加減に雅は紅孩児の後ろに隠れてしまう。

「……雅?」
「おい、どうするんだ」
「……ッッ」

しかし紅孩児の後ろから動けないでいる雅をみて八戒は困惑している。

「雅、帰りましょう?」
「……フルル…」

首を小さく横に振る雅をみて八戒は困り顔になる。

「紅孩児さん?」
「なんだ」
「……僕は一旦帰ります」
「……」

そう言うなり八戒はにこりと雅に笑いかけて背中を向けた。雅の耳元に見慣れないピアスがはまっていることにも気づいていたが、今の自分ではどうにもできないと悟ったのだった。

「おい、どうするんだ」
「……」
「取り敢えず、名前だ。俺は紅孩児。お前は…?」
「…雅」
「雅、か」

そう名前を呼ぶと小さく震える手を握り、紅孩児はフワッと妖力で吠登城ほうとうじょうに一旦連れ帰ることにした。

「ただいま戻りました。」
「早かったな」
「……三蔵」
「なんだ」
「雅を見つけた、はいいんですが」
「どうした」
「紅孩児さんと一緒でした。」
「どう言うことだ」
「それが…僕にもよく解らなくて…」
「で?何で雅はいない」
「……帰ってくるのを…拒まれました。」

それを聞いた三蔵は一気に不満を爆発させた。

「どう言うことだ」
「僕にも解りませんよ」
「心当たりは…」
「いえ……昼間から少し様子はおかしかったのですが…」
「何かあったのか」
「いえ…、僕と一緒に買い物をして、買い忘れたものがあったのを雅が買いにいってくれて…その間に何かあったのかもしれないんですけど、別行動でしたので…その後合流して…」

そう話しているときだ。どんどん雨足は強くなり、悟空と悟浄も帰ってきた。

「雅いねぇよ!」
「八戒が見つけた。」
「……そか!!……で?その雅は?」
「紅孩児に連れていかれたらしい」
「な……にやってんだよ!!」
「すみません。」
「それで?まだ話しは終わっちゃいねえよ」
「その後に、僕の事を知りたいといわれ、少し僕について話をした、ってくらいなんですが…」
「なぁなぁ!なんで雅アイツと一緒に居たの?」
「そうだよな」
「帰ってくるのを拒まれたそうだ。」
「……え?」
「拒まれた……?」
「はい…」

そうどうしていいか解らないでいる八戒。

「あぁもう!訳わかんねぇよ!!」
「……どうする、三蔵」
「どうもこうもねえよ…」
「三蔵?」
「んなシケた顔するな。あいつが決めたんだろうが」
「……本当にそうなんでしょうか…」
「ほう?」
「雅の耳に、黒いピアスが付いていました。夕飯に出る前までは付いていなかったはずです。」
「気付いてたか?」
「いや」
「それに、あれは雅の趣味、と言うには少し不格好です。」
「そんな事はどうでもいい。」
「どうでもいいって…三蔵」
「明日にはここを出る」
「……正気ですか?!」
「正気も何も、本来ならいないはずだろうが」
「今では掛け替え無いですよ?」
「…知るか」

そう呟いた三蔵。誰よりも納得はしていなかった。それでも何があったのか、知りたくとも帰ってくるのを拒んでいる以上どうにもならない。

「……さっさと寝ろ」
「三蔵!」
「出ていけ」

そう言って悟浄と悟空を払う。しかし八戒はその場に残った。

「出ていけと言っているのが聞こえなかったか」
「いいえ?聞こえています。」
「だったら…とっとと出ていけ」
「後悔、しますよ?」
「…うるせえ」
「雅が戻るまで、ここにいませんか?」
「却下」
「……三蔵…」
「お前が居たんだろう?それでもあいつは来なかった。だとしたら、があいつの答えなんだろう?」

空を見上げる三蔵。しかし月は雲に隠れ、明るさなんて何処にもなかった。

その頃の吠登城…紅孩児が『誰か』を連れてきたと言うことはすぐに独角兕や八百鼡の耳に入った。

「紅、一体……!!」
「独角…八百鼡は?」
「ここに」
「ちょうどいい、こいつに服、ひとつ見繕ってやってくれ」
「え……紅孩児様?」
「玉面公主には黙っていてくれ」
「それはいいが……どうしたんだ…一体。」
「ちょっと…な」

そう言いながらも八百鼡に雅を託した紅孩児。独角兕と二人になると、色々と聞かれていた。

「おい、紅、一体…」
「おんやぁ?皇子サマ☆」
「……また貴様か…」
「そう連れないこと言わないで欲しいなあ。ちゃんと子猫ちゃん、拾えたみたいだね」
「おい、紅」
「良い子だ。」
「これが一体何になる」
「さぁ?ボクはただ何かのきっかけになるかなぁって思っただけだよ?」
「貴様!!話が違うぞ!」
「何の事かなぁ、最近物忘れがひどくてねえ」

そう言いながらもウサギのぬいぐるみで遊びながら你は歩きだした。

「そうそう、」
「……なんだ」
「目、離しちゃダメだよ?」
「……なんだと?」
「うっかり離して、が取れたら、子猫ちゃん、壊れちゃうかも知れないからね?」

ふふふっと意味ありげな笑いを残して你は去っていった。

「紅、どう言うことだ」
「……何を考えてるのか解らんが…あの娘、何かしらの力を持っている。」
「力だと?」
「あぁ。一瞬…感じたんだ。妖力でもない、術でもない…なにかを…」

そう言って紅孩児は手のひらを見つめた。

言っていた通りに翌日の朝には三蔵は出立すると言い出した。

「本当に良いんですか?」
「構わん」
「三蔵の鬼!ハゲ!ろくでなし!」
「後悔すんぞ?」
「うるせえ」
「……三蔵…」
「さっさと出せ」

そういう三蔵の横顔は今までみたことの無い顔だった。いつもよりも広い後部座席。しかし、静かすぎるほどの旅の始まりだった。

「……なんか狭い」
「なに言ってんだ」
「……だって!!すっげぇ……なんかこう……」
「下らねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「…三蔵…」
「うるさい」
「………三蔵!!」
「うるせぇよ」

そう言いながらもハリセンはいつも通りに飛んでくることはなかった。

「三蔵…」
「……なんだ」
「雅…待たなくていいのか?」
「待つも何も、ここに帰ることを拒んでるなら仕方ねぇだろうが…」
「……それって…」

しかしそれ以上は突っ込んでいけないでいる悟空を横目で見ながらもいつもよりも風通りの良い左右それぞれの肩に違和感すら感じていた。

「始めはこうだったんだけどさ…」
「それ以上言うな、猿」

そう悟浄に突っ込まれながらも俯いてしまった。

「俺…ちゃんと話してねぇんだよ」
「…それがなんだ」
「……皆さん?話してる余裕無いみたいですよ?」

そう八戒に言われると同時に妖怪達が襲ってくる。

「ケケケケ!三蔵一行!見つけた『ガウンッ!!』………ひ…怯むな!!」

誰よりも早く三蔵が昇霊銃を撃ち放っていた。

「うぜぇんだよ」
「あらーーー……三蔵サマ…超不機嫌?ってか激おこ…?」
「まぁ、普通の事ですね…雅が連れていかれ、その下の方々が来られたんじゃ…」
「くっちゃべってねぇでさっさと殺れ」
「にしても、お怒りにも程ねぇか?」
「まぁまぁ」

そう八戒に宥められながらもどんどんと殺る一行。しかし、最後の数匹になった時だ。

「おい」

そう言いながらも三蔵は昇霊銃を懐にしまうと近づいた。

「ヒィィィ!」
「騒ぐな。聞きたいことがある。」
「……な…!なんだ!」
「お前らの上司、紅孩児が昨日女を連れて帰らなかったか?」
「し……知らねぇし、知っていたとしても誰が教えるか…!バカ『パンッ』………」

最後まで言い分を聞こうとせずに三蔵は妖怪を一打ちした。

「雑魚には話されてないってことか?」
「知られてない、知らせていないと言うのが正しいのかも知れません。」
「……チッ」

ジープに乗り込むと不機嫌そうに腕を組んでイライラを隠しきれずに居た。その日、走れるところまで走ると野宿となる。眠れそうに無い三蔵。しかし、それは三蔵だけでは無かった。

「……ちょっとお便所…」

そういって悟浄は茂みの中に入っていく。そんな時、ガサッと枯れ葉を踏む音がした。

「誰だ…」
「悟浄…悟浄か?」

そうして現れたのは独角兕だった。

「独角…!!」
「悟浄、聞きたいことがある。」
「なに…俺もだ!」
「落ち着け、お前ら一行と一緒にいた女、雅だったな。あの女、昨日様子がおかしかったとか無かったか?」
「様子がおかしい…てのは…」
「そうか、」
「でも独角!お前んとこのが連れて帰ったって…」
「あぁ。確かに紅が連れてきたが…何か様子がおかしいんだ。」
「様子がって…」
「あの女、かなんか持ってるか?」
「んぁ?…あぁ、まぁ。でも攻撃タイプじゃねぇからな」
「攻撃じゃない?そんな筈は…!」
「あぁん?間違いねぇぞ?それより無事なんだろうな!」
「無事ではある。ただ、紅と八百鼡が匿ってる。」
「そうか…」

そう会話をすると独角兕は夜中に悪かったと、去っていく。

「どうなってんだ…?」

少し不審に思いながらも悟浄は戻っていった。翌日の朝、皆起きた時に昨夜の独角兕との会話を話した悟浄。

「おかしいですね。」
「だろ?」
「三蔵、どう思います?」
「知らん」
「少しは考えてください。振りでも良いですから。」
「それに何の意味がある」
「三蔵…」
「雅は攻撃にゃ向いてないんだろ?」
「えぇ。父親を昔に殺してしまったとはいえそれは力の暴発みたいなものですから、コントロールができている現状では考えられないことです。」
「そうも言い切れんだろうが。」
「三蔵?」
「何かの拍子で心が壊れかけたらそんなコントロール何ざ出来ねぇよ。悟空の金環だったり、八戒の制御装置が付いてるわけでもねぇ。」
「……雅のあのピアス…なんでしょうか…」
「あぁ、言ってた黒いのってやつか?」
「えぇ。」
「なぁなぁ、雅って紅孩児と一緒にいるんだろ?だったら会いに来てもらったら良くねぇ?」
「あ、なーる!」
「要らん」

そうやっと口を開いた三蔵は一喝して拒否をする。

あいつの事は諦めろ」
「なんだよ!三蔵が一番諦めらんねぇ顔してんじゃん!」
「うるせぇって言ってんだろうが!」
「…なんでたよ。」
「ぁん?」
「なんでそんなに平気なフリ、すんの?良いじゃん!寂しいって言ったって!奪われて悔しいって!それ言ってもカッコ悪くねぇじゃん!嘘吐くなよ!」
「……ツツ」
「悟空の言う通りですね」
「たく、猿にしちゃ正論だな」

そう悟浄に頭をガシガシと撫でられた悟空と何も反論出来ずにいた三蔵だった。
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