凜恋心

降谷みやび

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battle35…眠れぬ夜

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それぞれが眠りに着いて、少しした時だ。雅はふと目が覚める。…と言うよりも眠れずに居たのだ。しっかりと寝入っている悟空を横に見ながら、雅はそっとベッドを抜け出すようにゆっくりと後にした。外に出ると小さな庭にあるベンチに座る。フッと吹いた風に誘われる様に夜空を見上げた雅。

「……ハァ…」

小さくため息を着いた。そのままどうするでも無く、ただ夜空を見上げている。

「……何してんだ」
「…え?……」

そう声をかけられて横を向く雅は、ふっと目を細めた。

「三蔵…」
「またどこかに行く気か?」
「…違うよ?なんか…眠れなくて…」
「そうか…」

そう答えると雅の横に腰をゆっくりと下ろした三蔵。カチッと火を付け、たばこを吸い出す。

「……三蔵も?眠れないの?」
「まぁな」
「そっか……」
「お前は……眠れないだけか?」

そう意味ありげに三蔵は雅に聞いた。

「…なんか…いつも三蔵と一緒の部屋だったから……」
「……フゥゥ」
「あ……ごめん…なんでもない…」
「いいんじゃねぇの?」

そう答える三蔵。何も無いかの様に三蔵はたばこを吹かしている。そんな三蔵をじっと見ている雅の視線を感じ、三蔵は声をかけた。

「……なんだ、」
「え…っと……なんでも」
「なんでもないのに見るか?そんなに」
「……だって…今夜はもう会えないかなって思ってたから…」
「たった一晩だろうが」
「…そうなんだけど…それに悟空と一緒の部屋がいやだって訳じゃないし…悟空と久しぶりに二人きりで話せたし……」

そういうと俯いてしまった雅。

「そういえば、悟空にね?聞かれたんだ」
「何をだ…」
「三蔵の事、本当に好きなんだなって」
「……それがなんだ」
「ん、好きだなって…悟空が何であんな事聞いたのかってことも少し解ったし…話してる内に、悟空の事も羨ましくなった。三蔵の事一番よく解ってるから。それ言ったら悟空にね、これからたくさん知ること出きるから!って…」
「……フン…」
「もっと三蔵の事知りたいって思って…そうしたらなんか会いたくなって、外に来ちゃった」
「どういう関係があるんだ」
「お月様が…すごくきれいだったから」

そういうとまた雅は見上げた。

「ごめんね?なんかずっと話してて…」
「いや、構わん」
「…ありがと」

そう答える雅と、灰を落とす三蔵。ふぅっと煙を吐き出すと、三蔵は月を見上げながらそっと口を開いた。

「俺には師が居る。光明三蔵といってな。とても穏やかな人だった。」
「…三蔵?」
江流こうりゅう…これが俺の幼名だ。赤ん坊の時、楊子江に捨てられていたのを見つけてくれた師匠がずっと育ててくれていた。この名前も師匠が付けてくれたらしい。それから、十三の時に聖天経文と摩天経文を受け継いだ。だけど、聖天経文は俺の目の前で師匠が殺された時に妖怪に奪われた。その時に、師匠が死に際にくれたのが、この玄奘三蔵と言う名だ。その時に初めて俺は自分自身の弱さを知ったんだ…」

そう話してくれているのは紛れも無く三蔵の過去だった。

「三蔵……」
「黙って聞け」

そういうと思い出すかの様に一つずつ言葉を紡いでいく。

「長安に慶雲院があってな。そこの大僧正に色々と教えてもらった。それから旅に出てどれくらいか…すげぇうるせえ声がしたんだ。その声の主が、五行山で幽閉されている悟空だよ。それまでは俺もずっと一人だったからな。それからは悟空が一緒だった。それから奪われた聖天経文を探しても見つからねぇからってしびれきらした三仏神が行方を探す代わりにって、悟浄と八戒まで寄越して来た。雑務こなせってな。」
「そっか…」

その内容は、悟空がつい先ほど話してくれた内容と全く同じものだった。

「それで、いきなり次の指令が来たと思えば、桃源郷の異変を止めろって言って西に向かっている。その途中でお前と出会った。以上だ」
「…三蔵…」

気付けば雅の目からは涙が溢れていた。

「なんで泣いてやがる。」
「……解んない…」
「意味も無く泣くわけねえだろう」
「だって……知らない事もあったけど……それでも…なんか解んないんだけど…」
「バカが…俺の話だろうが、泣くんじゃねぇよ」
「……ヒック……エック…」
「何で泣いてるかは知らねぇが…泣かせるつもりはなかった。」
「……フルル…」

首を左右に振る雅。はぁっとため息を吐く三蔵の手をそっと包み込むように握りしめた雅。

「心配するな。確かに悟空の事は目が離せねぇけど…俺がどうこうって事無くても不自由はない。嫌いかどうかなんて聞かれたらそんなことはねぇんだろうけど。」
「三蔵…」
「あぁ、クソ…解らねぇな。」

慣れないことをしたと言わんばかりに月を見上げた三蔵。しかしその夜空は時期に首に巻き付いた雅で消された。

「おい…」
「ごめんね……」
「何謝ってんだ。」
「だって…慣れない事だろうし…それに、お師匠様…光明さんの事も……話したくなかったかも知れないのに…」
「いつだったか言ったろうが…そのうち話すと」
「……ッ、この事だったんだ…」
「他に何がある…」
「だって…解らなかったから…」
「あの時には話してなかったから当然だろうが」
「三蔵……」
「なんだ」
「ありがとう…」
「俺が話したかったから話しただけだ。」

そう言うと、そっと肩を押し戻す三蔵。

「泣くんじゃねぇよ」
「だって……」
「そんなお涙頂戴的な話じゃねぇだろうが。」
「そんなこと無い…!!」

思っていたよりも大きな声が出てしまった雅。

「でけぇよ!バカ」
「……ごめんなさい…」
「でも、悟空でも知らない一面、お前は知ってるはずだがな」
「……そんな事…ある?」
「まぁ、解らないならいい」
「え…!教えて?」
「断る。自分で見つけろ」
「もう…意地悪……」

そう話していた。


その頃の悟浄と八戒……

「なぁ八戒?」
「なんでしょう?」
「三蔵、出ていったな」
「出ていきましたね。」
「三蔵…雅と猿にはくっそ甘いよな…」
「クスクス…特に雅には。でも本人にその自覚が無いのがどうかと思いますが…?」
「あぁあ……いちゃついてるぜ?恐らく」
「そうでしょうか?悟空が居ますよ?それに寝ている雅、起こしてまでやりますでしょうか?」
「…まぁ、雅が起きてたら話は別じゃねぇの?」
「そうかも知れませんが…」
「ずっと三蔵が一緒に寝てたんだろ?あんの寂しがりの甘えたな雅が一人で寝れるかね?」
「……言われてみれば……でも、何度も言いますが…悟空も居ますよ?」
「…クハ…猿だろ?さすがに恋人三蔵には敵わねぇだろ…」
「……それもそうですね…でも悟浄?」
「んぁ?」
「自身の気持ちの整理、着きましたか?」
「…さぁな。」

そんな事を話して居た。


翌日……

悟空よりも早くに目を冷ました雅は先に支度をしていた。

「……ン…あれ…雅……」
「おはよ!悟空!!」
「早いのな……」
「なんか目が覚めちゃって!」
「そっか……飯の時間かな…」
「どうだろうね!起きて支度して隣の部屋行ってみる?」
「そうだな!!」

目覚め良く起きた悟空も、一緒に支度を始めて隣の三人の居る部屋へと向かっていった。

「おはよーーーー!!!!」
「うるせぇよ!このバカ猿!」
「朝からご機嫌ナナメだねぇ、三蔵サマ☆」
「朝からそんなに怒るなよな!三蔵の怒りんぼ!!」
「なんとでも言え…こっちはせめて朝位静かに過ごしてぇんだよ!」
「お爺ちゃんだから、まったりと過ごしてぇんだと!察してやれ、悟空!」
「なにか言ったか、赤毛のアン」
「誰がアンだ!!!」
「まぁまぁ、朝御飯に行きましょう?」

そういって八戒が間に入り、ひとまず落ち着いた三人を連れて、朝食へと向かっていった。

「雅?」
「何?八戒」
「昨日は眠れましたか?」
「ん!!眠れたよ?」
「そうでしたか。」
「どうしたの?」
「いえ、別に?」
「……おかしな八戒」

そう呟いて悟空と悟浄の後をおっていった。
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