凜恋心

降谷みやび

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battle45…欲望の果て

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「少しは落ち着いたか?」

ベッドの上で泣きじゃくったままの雅を抱き寄せながらも、悟浄は優しく聞いていた。小さく頷く雅をみてゆっくりと頭を撫でる。

「俺、三蔵の所ちょっくら行ってくるわ」
「今三蔵…かなり荒れてるよ…」
「だから行かなきゃいけねえだろうが」
「もう少し……傍にいて…」
「雅…」
「ズルいこと…調子の良いこと言ってるの…解ってる……でも…」
「すぐ戻ってくるから」

珍しく甘えてくる雅に悟浄はグッと息を飲むものの笑顔を取り繕った。

コンコン

「入るぜ?」
「良いと言った覚えはねえよ」
「言われた覚えもねえや…」
「どの面下げてきた。」
「…雅の事さ。」
「なんだ、言い訳にでも来たのか」
「言い訳なんかしねえよ。」

そういうとドアに凭れたまま悟浄は続けた。

「雅が何て言ったか、あの春叡がなんて三蔵に言ったか…俺にゃわかんねえけど?昨日の相談されたことは聞いたんだろ?」
「……あぁ」
「内容が内容だけに雅もなかなか切り出せなかったわけ。廊下だと結構人来たし?」

そう話し続ける悟浄の姿をじっと見つめる三蔵。

「んで、食堂につれてった。俺がな?んでそこで話した。」
「それだけか?」
「まぁ、全く触れなかったってのは無いけどな?変なこと聞いてごめんっていうから気にするなとは言って頭撫でたり?」
「…てめ」
「後は俯いて仕方なかったから顔上げさせる為にほっぺた触ったりとか…?そのくらいはあるだろうよ」
「だったらなんでそれをあいつは言わない」
「言わないんじゃなくて言えねえんだろ」
「訳解らねえな」
「解ってやれって。三蔵の事満足させてやりたかったんだろうよ」
「それを貴様に相談に行くのもムカつくんだよ」
「そりゃ、三蔵より俺のが経験豊富だし?」
「どっちにしろ、あいつが本当の事言わない限り俺は知ったこっちゃねえからな」
「…あーらら」
「話しはそれだけか?」
「あぁ。」
「ならさっさと出ていけ」
「あ、後もうひとつ」
「なんだ」
「三蔵が知らねえって言っちゃうと、雅どこで寝んの?」
「……」
「ま、今は俺の部屋にいるけどな?」
「知るか。」

そういわれながらも悟浄は部屋を後にした。

「どいつもこいつも……ムカつく……」

どさりとベッドに仰向けになると天井をみながら三蔵はポツリと呟いた。

「ムカついてんのは…俺自身か……ちっせえ男だ…くそ…」

そう呟くも、言って、追い出した以上後には引けなかった。
悟浄は約束通りに雅のいる部屋に戻ってくる。帰ってくるとかチャリと鍵を閉めた。

「お待たせ」
「……ッッ…」
「どうした?」
「三蔵……やっぱり怒ってた?」
「怒ってるって言うか…雅が本当の事言わない限りは知ったこっちゃねえ、だとよ」
「……だって…」
「別に良いんじゃねえの?」
「え…?」
「キスしたとかは言わなくて…それかそれも言っちゃう?」
「でも……」
「だけど、俺がシた訳じゃないから、雅が思ってるように前みたいに俺に殴りかかるとかはないと思うぜ?」
「……悟浄…」
「どっちにしても今夜…三蔵の部屋に戻るか、俺とこのまま朝までいるか……どっちかだろ」

そう言われるも、迷いに迷っている雅。三蔵の元に戻りたい…でも、今、あの視線に耐えられそうにもない…ましてや、昨日の行為が嘘を紛らすためのカモフラージュと思われた……全てがぐるぐると回っている。

「悟浄……」
「ん?」
「悟浄の優しさに…甘えてごめんね」
「いい女に甘えられんのは俺、嬉しいけど?」
「……ッッ…」

ぽすっと凭れ、おずっと悟浄の背中に腕を回す雅。服を掴み、腰に巻き付いてくる。

「雅…?」
「悟浄…」
「そんなことされたら流石の俺も我慢できねえかもよ……?」
「…いい…よ」

そう言う雅の返事に悟浄は一瞬耳を疑った。ピタリと抱く腕をほどき、引き寄せてベッドの上に雅の体を転がす。ギシリと音を立てるベッドに乗り、悟浄は上から雅を見下ろした。

「…後悔しても…知らねえよ?」
「……ッッ…」
「逃げるなら…今のうちだけど…?」

そういう悟浄の言葉にギュッと目を閉じ首を小さく左右に振る雅。そんな相手にゆっくりと顔を近付ける。

「……やーめた」

しかし寸での所で悟浄は上体を起こした。

「ごじょ……ぉ」
「三蔵の事忘れようとしても無理だって。それに腕ん中で他の男思い浮かべられたままってのはちょっと傷つくわ」
「……ごめん…」
「焦るなよ…こんな事しても三蔵との溝深まるばっかだろうが」
「……悟浄…」
「キスされんのも、抱かれんのも、全部三蔵がいいって顔してんのに。まぁ、本気で雅が三蔵の事忘れたいって言うなら、俺も一晩かけてじっくりと抱くけど?どうする?」
「……ッッ…」
「答えなんてひとつしかないだろうが…迷うなよ…」
「ご…じょぉ…」
「ほら、三蔵待ってんぞ?」
「……待ってないかも…」
「あーー、クスクス、また追い出されたら俺んとこおいで。いっくらでも雅なら大歓迎だからさ。」

そういって服を整え、雅を送り出した。

「なぁにやってんだか…完全合意で雅の事抱けたんじゃね?今…」

そう呟いていた。
悟浄の部屋から出てきた雅は三蔵の部屋の前で立ち尽くしていた。

「……どぉしよ……」

なかなかノックも出来ない、扉を開けることなんてもっての他と言わんばかりに足がすくんで動けない。両手は緊張から冷えてくる。

もし拒絶されたら…
怒鳴られた方がまだマシって位に冷たかったら…
あきれられたら……

キ ラ ワ レ タ ラ … … ・・・

どれも自分の撒いた事と解っていても三蔵に嫌われたらと考えるだけで身体中の力が抜けていく…感覚が麻痺し、どうして良いのかすらまともに思考が回らない。そんなことを考えていた時だ。

ガチャ…

「え…?!」
「…っと…てか…何やってんだ、人の部屋の前で…」
「あの…三蔵…」
で良いのか?」
「え…?」
「さっさと入れ」

そう言うものの、三蔵は部屋から出ようとする。

「あの…三蔵!」
「話なら後で聞く。トイレ位行かせろ」

そういって出ていった。戻ってこなかったら…そう考えてしまうものの、俯いてその場から動けなくなっていた。時期にガチャリと扉は開く。

「てか、何そんなとこ突っ立ってんだよ、邪魔だ、退け」
「あ…うん……ごめん…」
「…それで?」
「え…」
「話があるんだろ。さっさと話せ」
「……あの…」
「話がないなら出てけ。」
「ある!…話……ある」
「…ならさっさと話せって言ってんだろうが」

そうぶっきらぼうにも取れる三蔵の言葉。カチッとライターを出し、たばこに火を付ける。

「ごめんなさい」
「んな事はどうでもいい」
「…でも…ごめん…」
「何に対して謝ってんだ」
「昨日の事…私…三蔵の事ばっか考えてたのに…悟浄に相談して…ただ独りよがりで…相談した内容で三蔵がどんな気持ちになるかとか…考えれなかった。」

そう話していく雅の言葉を三蔵はじっとただ聞いていた。

「三蔵とくっつく理由がほしかった…三蔵と一緒に居たくて…飽きられたくなくて……どうしたら良いのかなって考えて…」
「…ハァ…バカだろ」
「……バカで…ごめん」
「謝んなって言ってんだろうが。」
「……昨日の夜、食堂で悟浄に話し聞いてもらって…うまく言葉に出来なくて、それでも話し聞いてくれて……自分から話し出したのに、恥ずかしくなって悟浄に凭れたり……その時に肩に手……おいてくれて…慰められたり……それがもしかしたら春叡さんには抱き合ってるって見えちゃったのかなとか…」
「……それで?」
「悟浄も悪くないし……だめ…もう、ごめん、解んない……」
「ハァ……」

ため息が二人の間にこだまする。

…」
「え?」
「今雅があのバカの名前を読んだ回数だ。口開きゃ悟浄、悟浄って…うるせえんだよ」
「…三蔵…」
「何回他の男の所に行ったらまともに俺の所だけにくるんだよ」
「…三蔵…?」
「たく…」

そういうと雅の前まで来ると半ば強引に引っ張り、ベッドの上に転がした三蔵。上に覆い被さるかの様に雅の肩口に手を置き、じっと見つめていた。

「解ってんのか?」
「……三蔵…」
「マジでめんどくせえ…こんなにフラフラするならいっその事、嫌いになれたら楽なのにな」
「…ッッ…」

そういうと三蔵は左手で雅の右手をきゅっと掴み、指を絡める。

「でも言っただろうが…もう離せなくなったって…変わんねえんだよ……ダッセエくらいに溺れてる…」
「さ…んぞ…ぉ?」

理解しようとしても次々と流れ込んでくる三蔵の心に喉は乾き、うまく名前すらも呼べなくなっていた。

「くっつく理由だ?要らねえだろうが…んな理由…それに飽きられないかなんて心配も不要だ。バカか…」
「三蔵……でも」
「まだ俺が喋ってるだろうが。黙ってろ…」
「……」
「どんなことにしろ理由なんかたった一つだ。それも解んねえのか…」
「…一つって…」
「解んねえなら解るまで考えろ。ただし、考えられるかは保証せんがな…」

そういうと雅の返事も待たずに唇を重ねた三蔵。ほのかに雅の髪からはハイライトの香りがする。

「…(ふざけやがって…他の男悟浄の匂いなんて付けられてんじゃねぇよ…)・・クチュ……」
「ン…フゥ…ン……・・」

少し開いた唇の隙間を見逃さなかった三蔵はその隙に舌を割り込ませた。酸素不足になってきた雅は三蔵の舌を追い出そうとするものの、逆に絡め取られ深さを増すばかり。右手は服の裾から滑り込み、胸元へと達する。

「…ン…さん…ンチュ…クチュ…」

互いの唾液が混じり合い、容赦なく雅の口内には三蔵のそれが入ってくる。その度にごくりと喉を鳴らしては飲み込んでいくものの唇が解放されることはなかった。

自分自身にムカついてるのか…それとも悟浄の香りを一瞬でもまとっている雅にムカついてるのか…初めからなのか…もうどれが理由かだなんて三蔵にすら解らなかった。それでも唇を離す事も出来ず、かといって差し込んで胸を揉みしだく手を止めてやれそうにもなかった。

「…ッハ…ァ」
「三…ぞ…ぉ…ハァハァ…」
「今夜は優しくしてやれそうにない…」

そういうと荒っぽくも服をたくしあげ、胸の突起に吸い付いた。揉み出す手もいつもとはほど遠いほどに荒く、本能のままに三蔵は雅を欲していた。いくつも胸元に紅い花を咲かせては、次へ次へと移って行く。

「三蔵…ぉ!…アァ…ン…」
「感じる前に答え探せよ…」
「…そんな……ッッ…無理…」

その答えを聞いても尚、三蔵の愛撫は止められなかった。節の太い、それでいて細く長い三蔵の指を雅の秘部に這わせ、くっと二本射れこんだ。

「や…そんな…ァアン…!ァ…」
「嫌じゃねえだろ…」
「…ン…ァ…!」
「どうする?それとも終わりにするか?」
「…いじ…わる…」
「何か言ったか?」
「……三蔵…ぉ…ンァ…」

雅の右手は三蔵の腕に縋るかの様に掴んでいた。

「その腕離せ…こっちだ」

そういいながらも一旦指を抜き左手に重ね、指を再度絡めた。掻き乱された指の感覚から一瞬解放され、息が上がりかけたのも束の間、再度奥深くへと差し込まれる。

「そんなに指でも締め付ける位イイのか?」
「…そん…な…ぁ…!ン…」

三蔵のやりたい放題に掻き乱す中、ブルッと一瞬震えた雅はそのまま快楽へと一瞬にして解き放たれる。

「まだ終わらせねえよ?」
「…ハァハァ…さん…ぞ…ハァ…」
「…(もっと俺だけしか感じられない位に…おかしくなっちまえ…)」

にっと笑うと三蔵はズボンを下ろしてゴムと付けると馴染ませることもないまま、一気に突き上げた。

「アァ…!!さん…ぞ!……まだ…だめッッ…!!」
「良く言うぜ…ッ…こんだけ締め付けて離さねえくせに……ッッ…」

抜けるギリギリまで抜いては奥まで突き上げる…何度も繰り返してはどんどんと雅の声も甘さと熱を帯びてくる。その声だけでも三蔵自身の起爆剤にもなっていた。
いつもよりも自分本意に動いたせいもあってか、三蔵が果てるまでそれほど時間を用さなかった。

「……ハァハァ…」
「…ッ…三蔵…ぉ」

ピタリと体を重ねたまま、三蔵はどこにも行かせまいと離すことはなかった。

「三蔵…ぉ?」
「…うるせえよ」
「くっつく理由……」
「答え解ったのか?」
「…解んなかった」
「…ッふざけんなよ」
「だって…考えられなかったんだもん…」
「考えることでもねえだろうが…」

三蔵の肩口に手を添えて押し戻そうとする雅に促されるまま三蔵も状態を起こす。

「でも…解ったことはあった…」
「…何だ?」
「どんなでも…三蔵が好き…余裕がなくても、どんなでも…三蔵が好き…」
「人語話せ」
「だって…うまく伝えれない…」
「…ハァ…」

指を絡めたまま、まだ雅の中から抜き出せないで居る三蔵は雅の頬を撫で、そのまま髪を鋤いた。

「言っておくがな、俺は心が広い方じゃねえ。雅が他の男の所に行けばムカつくし、かといって特別優しく何ざねえ。余裕もねえし、ガキ悟空にガキって言われたりもする…それでも一つ解ってるのは…」
「……三蔵?」
「雅だけは…譲れねえんだよ…誰であっても…」
「…ッッ」
「チッ…クソだっせえ…」

指を絡め取られている右手から三蔵の指をほどき、そう伝える三蔵の首に腕を回した雅。

「今…解った気がする…」
「なにがだ」
「三蔵の言ってた理由…」
「……ほぅ」
「…好きって想い…くっつく理由ってそれだけで良いんだよね…」
「…遅せえよ、気付くの」

そう言われながらも雅は嬉しそうに顔をほころばせた。

「気付くの遅くてごめん…」
「…許さねえよ」
「三蔵?」
「最後のチャンスだからな…もう離れようとか考えんな…」
「……離れてないもん…」
「解った。他の男のとこに行こうとするな…」
「…それもない…もん」
「移り香残すくらい近くに行くな」
「……そんな事…ないと思う」
「気付いてねえのは質が悪い…」
「……悟浄の移り香?」
「最後に…俺の腕の中で他の男の名前を呼ぶな」
「…解った」

そうして再度唇を重ねあい、夜の静寂に溶けていった。
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