凜恋心

降谷みやび

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battle53…疑惑

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その日の午前中、珍しく三蔵は『少し出る』といって一人宿を後にした。

「…三蔵が珍しいね…」
「で?雅は一緒に行かなかった訳?」
「だって、行きたいって言ったら着いてくるなって言われた……」
「あーー、それで俺んとこにいるわけね?」
「うん」

そう。何故か三蔵に一刀両断に着いていくことを拒まれた雅。そういったことは珍しかった。大抵はどこに行くにも三蔵が出るといい、雅が行きたいと言えば『好きにしろ』と言われることが多かった中でしょんぼりしていた。しかも、ではなかったのだ。

「それって……浮気か?」
「悟浄と一緒にしないで」
「たまぁに雅グサッと言うよな」
「三蔵浮気…しないもん…」
「へーへー」

しかしなんとも言えない顔をしたまま雅はしょんぼりとしていた。

「なら、俺と出掛ける?」
「……八戒と服買いに行く」
「そういう八戒もなんか出てったぞ?」
「……嘘吐きぃぃぃ……もういいや…悟浄でいい…」
「ひっでぇなぁ。じゃぁ俺もきれいな女の子のトコ……」

そういいかけた時、きゅっと雅は腕をつかんだ。

「雅?」
「…ごめん…悟浄でいい何て言って……」
「…冗談だよ。行くぞ?」

そういって二人は出掛けた。

一方その頃…

「でも珍しいですね、三蔵が僕を連れ出すなんて…」
「道を聞きたいだけだ。」
「それで?どこまでの道ですか?」
「この街に彫金場があると聞いてな。」
「彫金…ですか?」
「…おかしいか?」
「いえ……」

思いがけない返事に八戒は少し驚いていた。それでもあっちこっちと探しつつも無事にたどり着いた。

「じゃぁ、僕はここで…」
「あぁ、助かった。」

そうして別れていく。外から若干中が見えるとはいえ、少しみていると女性が三蔵を迎え出る。

「僕案内したの…ここ……彫金場…ですよね?」

看板を二度見し、うんうん頷いて戻っていった。
そんな中、雅は悟浄と出掛けようとしたときだ。

「あっれ?二人ともどこか行くの?」
「うん。悟空は?」
「俺はぁぁぁ白竜と遊んでる!」
「そっか……!じゃぁ、行ってくるね?」
「おう!」

そうして二人で出掛けた。クスクスと笑いながら雅は少しはにかみながら悟浄を見上げた。

「どうした?」
「ううん?こぉんなイケメンと最近良く二人ででかけるなぁって思って」
「何、三蔵から俺にするか?」
「夢は寝てからのがいい夢見られるよ?悟浄」
「そういうとこ三蔵にほんっっと良く似てきたな」
「…そう?」
「照れんな、褒めてねえよ」
「むぅ……」
「クスクス…で?どこか行きたいとこあんの?」
「明日八戒と服買いに行く時にすぐ行けるように…下見?」
「はいはい」

そうして二人は色々な店を見ていった。そんなときだ。

「あれ?雅、悟浄も…」
「八戒?あれ……三蔵は?」
「いえね?道を聞かれ連れて行っただけなので…」
「そっか…」
「二人ともどうしたんですか?」
「八戒に約束ブッチされたから悟浄と見に来た。」
「人聞きの悪い…」
「だって……服見に行こうって言ったのに三蔵に着いてっちゃうから…」
「僕も予想外だったんですよ。」
「どうする?八戒と行くか?」
「どうせなら三人で行こうよ。」
「悟空は?」
「宿で珍しく白竜と遊んでるって…」
「それは……珍しいですね…」
「だろ?あの猿が、だぜ?」

そうして三人で服屋を転々として回った。たまにはスカートも……と悟浄が選んだり、ワンピースは?と八戒が手に取ったり…それを試着しながらも選んでいった。雅が試着している時に悟浄は八戒に訪ねた。

「で?三蔵はどこ行ったんよ」
「彫金場、なんですけど…」
「けど?」
「女性と一緒……?」
「……は?!?!」
「ちょっと!!悟浄、叫ばないで?」
「あ…雅」
「どう?」
「似合います。」
「そっかな、どうしようかな……ワンピースも一枚あったら……いいよね……」
「何にいいんだって…」
「三蔵とデート!」
「…いいきったな…」
「言い切りましたね」
「着替えよっと!」

そうして再度シャッとカーテンを閉める。

「…で?女と一緒?」
「えぇ。僕が連れていったのは間違いなく彫金場なんですが…」
「そこで女と待ち合わせってか?」
「いえ、まだ待ち合わせと決まったわけでは…」
「誰が待ち合わせ??」

シャッとカーテンが開く。

「待ち合わせしてる?」
「いえ、その服着て三蔵と待ち合わせとかしたら三蔵きっと飛んできますねって…」
「飛んでは来ないと思うよ?それに意外と無反応だったりするかも」
「さすがにそれはねえだろ」
「だった浴衣着たときもそんなに……反応薄かったし……」
「俺見てねえわぁ」
「悟浄は他の女性ヒト抱いてたから」
「あーー、耳いてえ…」
「そう思うなら女遊び少しは控えたら?」
「おま…!!ナンパは命がけだぜ?」
「はいはい。」

そう言って雅は嬉しそうにレジに向かっていた。

「あ……八戒!!」
「はい?」
「ごめん…私先にいっちゃって……お金」
「あーー、はい済みません。これ」

そういってクレジットを出した。支払いを済ませると、ありがとうといって店を出る。

「八戒、ありがとう!悟浄も!!」
「いえ、支払いは三仏神だからな」
「…一回挨拶した方のがいいのかな…」
「そうは言っても、三蔵しか謁見許されないですし…」
「そうなんだ…」
「でも、菩薩が知ってんならいいんじゃね?」
「まぁ、そうですね…」

そう話していた。
宿に着くと、悟空は少しむくれた顔をして出迎えた。

「はらへったぁ!!」
「…あぁ、すっかり悟空の事忘れてましたね…」
「ごめんね?」
「いいんだけどさ…てかみんなで行くんなら俺も行けば良かった…」
「いつもの悟空だ…」
「だな」
「すぐにご飯作りましょうか。」
「私も手伝う」
「てか、三蔵は?」
「まだ帰ってない?」
「あぁ。ぜーんぜん」
「珍しいね」

そういいながらも雅は八戒の手伝いに調理場に向かっていった。その日の夕方になるとようやく三蔵は戻ってくる。

「夕飯までには帰れたんですね…」
「あぁ。」
「どこ行ってたんだよ、三蔵」
「誰が言うか」
「…まさか三蔵?浮気か?」
「殺すぞ」
「まぁまぁ、さ、お夕飯にしましょう?」
「やったぁ!」

そうして三蔵がどこで、何をしていたのかは誰も知ること無く、その日は過ぎていく。しかし、夕飯の時に三蔵は思いがけないことを口にした。

「この街にあと三日はいるからな」
「え?三日……ですか?」
「あぁ。それと、俺は日中いねえから。飯食いに行くでも、なんでも好きにしてろ」
「……三蔵は?」
「俺は出掛ける…」
「…そうなんだ…」

きゅっと手を握りしめた雅。もしかしたら悟浄と乗った観覧車も三蔵と乗れるかも知れないと思っていた。少しだけミニ丈のワンピースも、そのためにと言っていいくらいの勢いだったのだ。

「ねえ、三蔵?」
「なんだ」
「…最後の日とか……」
「最終日は十三時には出る。それまで俺は外にいる。」
「……そか、うん。解った。」

そういうと雅はカチャ…と箸を置いた。

「雅?」
「ごめん……部屋…戻る…」
「雅…」

そう言って雅は片付けると洗い物をして部屋に戻っていった。

「三蔵、お前、少し位は雅に付き合ってやってもいいんじゃねえ?」
「うるせえ」
「あ、今日雅服買ったんですよ?」
「そうか、それは良かったな」
「なぁなぁ、なんで三蔵、雅と一緒にいねえの?」
「俺には俺の用事があるんだよ」
「……」

三人は少し不思議に思いもしたものの、これ以上は三蔵からはなにも聞けないと踏んでいた。食事を終えて部屋に戻るとやはり雅の姿はない。

「自分の部屋か…」

ドサッと無造作に置いた紙袋。なかには服が入っている。雅の、というわけではなく三蔵自身の服だった。

「俺だって好き好んで離れてる訳じゃねえよ…」

そう呟くものの、やろうと決めたことを今さら曲げるわけにも行かなかった。しかしその理由は今はまだ誰も知らなかった。
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