凜恋心

降谷みやび

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battle55…埋める穴、そしてキス

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それから出発の予定日、午前中に三蔵は私服のまま出掛けていった。

「……おかしい……」
「どうかしましたか?」
「三蔵……今日ここ出るんだよね?」
「えぇ、そういってましたが…」
「なんで法衣…着ないで出掛けたの?」
「そうなんですか?」
「うん……やっぱり……変なバイトしてるのかな…… 」
「ば……いと…ですか?」
「うん……そう思う」
「どうしてそんな考えに至るんですか」
「悟空と悟浄に聞いたの…」
「何かいってたんですか?」
「三蔵…私服が増えたのもイメクラバイトしてるからだって……」
「あの…雅?イメクラって解ってますか?」
「……解んない…だから変なバイトなのかなって……」

ため息を吐く八戒。

「あのですね、雅?イメクラ、まぁ、イメージクラブの略なんですけど…風俗の女性がいろんなコスプレして性的サービスを提供する場、の事ですよ?」

それを聞いた雅はカシャン…と持っていたマグカップを落とした。

「……ハァァ…」
「だって……」
「なんです?」
「悟浄!!そんなこと……」
「言わないでしょうねぇ……」

色々な考えが頭をめぐる。なにも言わない三蔵と突如八戒に聞かされた悟浄から聞いた場所の意味。しかしそれが本当かは三蔵に確認していたわけでも無い…

「……三蔵に聞いてみる…」
「はい?」
「帰ってきたら!!三蔵に問い詰める!!」

そう意気込んでいた。

その頃の三蔵は、きれいに仕上がったリングに満足げだった。

「釜の都合でギリギリになってしまってすみませんでした。」
「いや、無理を言ってすまなかったな」
「いえ!そんなこと…」
「…助かる」
「クス…」
「なんだ」
「もしかして渡す相手って一緒に旅してらっしゃる女性の方ですか?」
「……ッッ…」
「可愛らしい方ですよね」
「どこかで会ったのか?」
「えぇ。片眼鏡をかけられた男性と一緒に歩いてるところを」
「……チッ…」
「でも、気に入ってもらえるといいですね」
「それは解らんが……」

そういって支払いを済ませて三蔵はリングケースにいれてもらい宿に戻っていった。

「!!三蔵!!」
「なんだいったい…騒がしい」
「ちょっと来て!!」

そういい宿に戻ったばかりの三蔵を引っ張り部屋に連れていくとベッドにぼすっと座らせた。

「何の真似だ、雅」
「イメクラしてたの?」
「……なに言ってんだ」
「だって…悟浄にも聞いて…三蔵がずっといないのは変なバイトしてるからで、」
「それがイメクラだってのか?馬鹿馬鹿しい」
「…それでイメクラの意味!八戒に聞いたの!!」
「……ほぅ?」
「私……必要ない?」
「……おい、バカ猫」
「……」
「てめえの事だ、雅!」
「…私猫じゃない……」
「あぁ、猫以下か?」
「なんでそうなるの?!」
「何勝手に俺がイメクラでのバイトで収まってんだよ、バカか」
「……だって…私着いて行けなくて……それに私服も増えて……だから…のバイト…」
「つか、なんで俺が他の女相手にしながら金稼がないかんのだ」
「……でも…じゃぁ、何してたの?」
「……言えねえ」
「ほら!」
「あのなぁ、何も言えないからってそっちばかり連想してんな!飢えてんのかてめえは」
「……だって……三蔵足りなかった……」
「……ッッ」
「三蔵不足だもん!!悪いですか!!」
「…何怒ってんだよ……」

そう言うとため息を吐きながらポケットから一つの包みを取り出した。

「……ほら」
「え……何…これ」
「……今渡したら、誕生日ねえからな」
「…さんぞ…?」
「なんだよ。知りたかったんだろ…俺がいなかった理由」

そう言うと無造作に手の中に入れるとベッドから立ち上がり着替えを始めた。

「…ねえこれ……」
「要らねえなら捨てろ」
「……そうじゃなくて……」
「なんだ」
「買ってくれたの?」
「……ちげえよ」
「…でも……」

手早く着替えた三蔵は脱いだ服を荷物にまとめる。

「ねぇ三蔵!」
「うるせえよ……少しおかしくても怒るなよ?」
「…え」
「俺が作った。」

しかし、雅の手の中にあるものはリングではなく、透明な樹脂の中に小さな花が入ったヘアゴムだった。そう、リングのカモフラージュに、ともう一つ作っておいたのだ。

「だって……三蔵が…作ったの?」
「これだけでかい街なら何かあるとは思っていたが。ここを逃したら誕生日までにこれだけの街に行けるか解らねえからな。まさか作る、とは俺もおもわなか…ッッ」

背中に巻き付いた雅。ぎゅっと腰に巻き付き、その手にはもらったばかりのヘアゴムが握りしめられていた。

「おい……」
「ありがと……私…何も知らないのに……こんな……」
「泣いてんのか?」
「泣いてない…ッッ」
「ハァ…ま、雅にはイメクラみたいなもんかも知れねえが?」
「そんなこと無い!」
「だってあっちもこっちも女だらけだ…本当にあんな空間は金輪際ごめんだな…」
「…三蔵…ありがと……」
「…あぁ」

そういうものの巻き付いた腕を一向に離そうとしない雅。

「おい、いい加減に離れろ」
「…まだだめ」
「…なんだ」
「三蔵の事チャージ中だから」
「ナメてんのか」
「なめてないしふざけてない…」

腕を半ば強引にほどくと、体の向きを変えて三蔵は雅の顎を持ち上げた。

「……ン」

ゆっくりと離れるとにっと笑う三蔵。

「チャージならこっちのが手っ取り早い」
「……もぉ…」
「文句あるか?」
「……無い…でも…」
「ん?なんだ」
「…もぉ一回…して?」

そうねだる雅の唇にふわりとキスは重なった。それから急いで支度をし、宿を出ることにした。

「おんや?雅、そんなの持ってたっけ?」
「へへへ……」
「気持ちわりいな…おい」
「三蔵にもらった!」
「は?なんでまた…」
「それより!悟浄のバカ!」
「は?何、いきなり、俺なんかしたか?」
「イメクラとか嘘ばっかり!!」
「……あーー、それ?」
「もう……でもいいや、許しちゃう」
「…なんか後が怖えぇんだけど?」
「だって、三蔵これ作ってくれるのにずっと出掛けてたって……教えてくれたんだもん」
「……はい?」
「少し早い誕生日だって!プレゼントもらっちゃった!」

うきうきしながらも街の外れに向かう雅と悟空。その後を着いていく三蔵。悟浄は八戒に問いかけた。

「いつからリングがあれになったんだ?」
「いえ、リングなのは間違いないです。今日の午前中に釜入れで仕上げるって聞いてますし」
「…てか、お前の情報量どこからくんのよ…」
「まぁ、一つ考えるとすれば、リングのカモフラージュにあれを一緒に用意したってところでしょうか…雅なら確実に聞いてくると踏んで……」
「…ありえそうだわ…」
「でも、これで本当にリングがヘアゴムに化けたとしても、雅は嬉しそうですから良しとします?」
「いや…リング持ち歩いてるとかおもしれえから是非作っていただきたいわ。」
「間違いなく仕上がってると思いますけど…」
「……っと、猿が呼んでる」
「急ぎましょう?」

そうして八戒の読み通りとはこの時は誰も思わずに急いで三人の後を二人はおっていくのだった。
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