凜恋心

降谷みやび

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battle60…悟空の求めるもの

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「なぁ、夕飯どうする?」
「三蔵にカードは返してないので行けますが……」
「三蔵と雅、行かねえのかな…」
「まぁーー、あれだ、悟空。たまには二人きりでもいいんじゃねえか?」

そう言いながらも一応…と八戒は三蔵の部屋の前に立った。

コンコン

思った通り返事は無い。そっとノブレバーに触れるも直ぐに鍵がかかってる事に気付いた。

「三蔵?雅?夕飯どうされますか?」

一応声をかけてみるもののその反応すら無い。

「……仕方ないですね…」

そう呟いてそれ以上深追いはせずに八戒は部屋の前から立ち去った。

「どうだった?」
「部屋に鍵もかけて……返事はありませんでした。」
「ま、仕方ねえな。三人で行くか…」
「うん……」
「なに、猿、寂しいのか?」
「…なんか……変な感じだ…」
「変…ですか?」
「三蔵と雅がいない飯ってのも……」
「まぁ、五人でって言うのが常でしたからね」
「ま、男と女ってことだな…」

そう言いながらも三人で夕飯に向かっていった。

「おじちゃん!!あと炒飯と餃子!春巻きも追加ね!!」
「……って、あのしんみりした空気はどこ行ったんだ?」
「でも悟空らしいです」
「まぁなぁ……」
「だって、よく考えたら二人とも怪我とかじゃねえんだろ?だったら腹減ったらなんか食いに来るだろうし!」
「能天気というか……」
「ま、ある意味正論ですがね…」

そう話していた時だ。悟空はいきなり真面目な顔をして悟浄と八戒に聞いた。

「俺さ……」
「はい?どうしました?」
「……最近変なんだ。」
「どうしたよ、猿」
「…少し前に…雅と三蔵が…抱き合ってるの見て……すげえきれいだって思ったんだ……」
「お…おい…悟空…」
「俺さ…三蔵も雅も好きなんだけど…きっと三蔵が雅を好きってのと雅が三蔵を好きってのと……どっちとも俺が思ってる好きとはちがくて……」

食事もそこそこで悟空が珍しく話に集中していた。

「だから、どっちかが取られるとか…そう言うんじゃねえんだと思う…でも…なんか…なんかわかんねえんだけど…ずっと雅の事しっかり見れねえんだよ…頭に残っててさ…」
「見たのか…」
「見たんですね…」
「なんか…すげえ触れたくなって……」
「悟空?それ、三蔵には言わないであげてくださいね?」
「言わねえよ?…言わねえけど……」
「まぁ、悟空にとっては初めてだったんだろ、見たの…」
「そうかも知れませんが…」
「俺…どうしたらいいと思う?」
「どうって…言われても……」
「そうですね…三蔵に黙って何かを起こせばそれこそ波乱に巻き込まれますし…」
「三蔵に話してみたらいいかな…」
「や、それはそれで即却下だろ…」
「だったら俺ずっとこのまま悶々してなきゃいけねえの?」

デリケートな問題、且つ、悟空には初めての感覚だったためだろう。本気で悩んでいたのだ…

「じゃぁ、まず三蔵に今の状況を話してみるってのはいかがですか?」
「…状況?」
「はい。」
「おい八戒……大丈夫か…?んな事言って…」
「まぁ、話して見なけりゃ悟空も収まらないでしょうし…」
「…解った…話して見る。夕飯から帰ったら!」
「あ、それは止めた方がいいと思います。」
「……なんで?」
「ほら、今誰でも彼でも立ち入り禁止タイムだ…」
「…そうなのか?」
「恐らくは…」
「じゃぁいつ話すんだよ!」
「明日の朝とか…三蔵や雅が部屋から出てきたときでも遅くないと思いますが…」
「……そっかぁ…解った。」

そうして話しは一段落した。しかしながらも悟浄は少し複雑な気持ちになっていた。

「あ、俺少しあっちの屋台見てきていい?」
「じゃぁ僕たちこの辺りで待ってますからね?」
「おう!!ちょっと行ってくる!!」

そうして離れたときだ。

「おい八戒?」
「はい」
「あの三蔵相手に『雅に触れさせてくれ』なんてあり得ねえ相談だろうが。」
「そうですね」
「それ解ってて悟空に言ったのか?」
「そうでも言わなくちゃ悟空の気も収まらないでしょうし。それに…」
「それに?」
「あなたでなく、悟空に言われたときの三蔵の顔が見てみたいんですよ。僕的に」
「…ぅわ……」
「なんですか?その『うわ』…って。」
「だってよ……」
「あの純粋満点の悟空に言われたら三蔵もどう反応するのか、ちょっと楽しみです。」
「俺は不純ってか?」
「解ってるじゃないですか」

そう話していたのだ。
それから宿に戻ってもやはり部屋から出てきている様子は無かった。そっと八戒がノブに手を置いても鍵はかかったまま。

「ダメですね…やはりまだ鍵かかってます。」
「夕飯も食わねえで大丈夫なのかな…三蔵と雅…」
「恐らく、行為の真っ最中には空腹なんて感じないんだと思いますよ?」
「…そうなの?!」
「お互いの存在しか見えないでしょうし…」
「そっか……でも…」
「でも?」
「俺今雅にあったら…それこそ見れねえかも知れない…」
「どうして?」
「だって……三蔵とエロい事した後って事だろ?」
「まぁ、そうですね。言い方はともあれ…」
「…・・ーーあぁぁぁ!!やっぱ…触りてえ!!」
「…おい、大丈夫か?この猿……」
「発情期ってわけでも無さそうですが……」

それから一時間、二時間とした時だ。コンコンとノックの音がした。

「はい?」
「あ、悟浄、八戒いる?」
「おーい、八戒?雅呼んでんぞ?」
「入って貰ったらどうですか?」
「だとよ」
「ごめんね?夜遅くに。」
「いえ、それで?どうかしたんですか?」
「ちょっと前にお夕飯お誘いしてくれたのに……ごめんね?」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりなにか食べなくて大丈夫ですか?」
「うん、今のところは……三蔵も起きてるし…」
「や、答えになってるか?」
「なってるよ?なにかおかしい?」
「いんや……」
「雅?」
「ん、何?」
「三蔵、起きてるって言いましたよね?」
「ん、コーヒー飲んでると思う…けど?」
「ちょっと話して来てもいいですか?」
「ん、大丈夫だと思うけど…」
「ほら、悟空、行きますよ?」
「え…!!今?!」
「ちょうどいいじゃないですか。今程気分も良い三蔵はいないと思いますけど?」
「……あ…あぁ…」

そういって雅と悟浄を残して八戒と悟空は三蔵の部屋に向かっていった。

「…ねえ?悟浄?」
「んー?」
「悟空…なにかしたの?」
「…まぁ、したんじゃなくて、これからしでかすんだろうな…」
「…んー、よく解んないけど……」
「それより雅?」
「なに?」
「ほんっと、三蔵の事好きね」
「…え?何いきなり…」
「気付いてねえかも知れねえけど…」
「何々?」
「三蔵の移り香しかしねえわ」
「……?!?!」
「…プ…クスクス…」
「い…意地悪!」
「何が意地悪だ…、そのスカートも、ワンピも、三蔵の為のだろうから良いんだけど…ほんとかわいいよなぁ…」
「…もう…」
「ほーんと、あの生臭坊主のどこが良いんだろうね…」
「ほんとにね…」

そう話していた。
その頃、悟空と八戒は三蔵の部屋に着き中に入っていた。

「なんだ、どうかしたのか?」
「今回僕は付き添いです」
「…なんだ」
「ちょっと!八戒!!」
「なんですか?言いたい事は自分で言ってください、悟空」
「…なんだ?」
「…あ…あのさ、三蔵。」
「あぁ」
「……雅に触れて良いか?!」
「……なんの話だ、八戒」
「それをなんで僕に聞くんですか」
「こいつの話だと解らねえ」
「あのさ!三蔵…!」
「ぁん?」
「俺……俺さ、最近変なんだ…雅と三蔵が…その……エロい事してる時にちょっと見えちゃってから……雅の事まともに見れなくて…」
「…何言ってやがる…てめえは…」
「それで…!それでさ。雅に触れた『却下』…ぃ…ってまだ最後まで言ってねえよ?」
「聞くまでもねえな」
「……ちょっとで良いんだよ!三蔵が触ってたみたいにとかは言わねえから……ほんの少し…!」
「ダメだ」
「…どうしても?」
「…ハァ…あのな、悟空。雅は俺の女だ。」
「解ってるよ…だからこうして三蔵に頼みに来てるんじゃん」
「…おい、八戒」
「だから言ったじゃないですか…悟空。却下されるかも知れないと」
「『されるかも』じゃねえじゃん…速攻じゃん…」
「理由はどうであれ、人のもんに手ぇ出すんじゃねえよ」
「…三蔵…」
「俺!……このままじゃ雅の事悶々したままになっちゃうよ!」
「なるな」
「なぁ三蔵!」
「じゃぁ聞くが、触れたいって何をどう触れたいんだよ。」
「…へ?」
「雅にどう触れたいんだって聞いてんだよ」
「それは…どう…触れたいんだ?俺」
「知るか。俺が聞いてんだよ」

そのやり取りを聞いていた八戒は嬉しそうに見ていた。

「どう…」
「それも解らねぇなら話しになんねぇよ」
「でも…俺さ…この間見ちゃった様な…」
「ふざけるな」
「ふざけてねぇよ!」
「…話にならんな。おい八戒」
「はい?」
「雅連れてこい」
「えっ…ちょっと!三蔵!?」
「良いんですか?」
「連れてこいって言ってるんだ。」
「解りました。」

そうして八戒は元居た部屋に戻り、雅に三蔵が呼んでる旨を伝え、一緒に来るように話した。

「俺も行こ」

そうして三蔵の部屋に一同が揃った。

「三蔵?入るよー?」
「来たか」
「み…やび……ッッ」
「本人に聞いてみたらどうだ」
「え?本人って…」
「おい八戒!どぉなってんだよ」
「んー……」
「あ…今?皆いるのに?!」
「問題あるのか。」
「…それは…じゃぁ……雅!」
「へ?私?何、どうかした?」
「俺…その…」
「何?」
「み…雅に触りたいんだ!その…触って良い?」
「え、別に良いけど?」

意味が解らず、しかし雅はあっけらかんと返事をして悟空に近付く。

「おい悟空」
「…何?」
「それだけで済まして良いと思ってるんじゃねえだろうな」
「…あの…三蔵?どう言うこと?」
「あ…のさ、雅…」
「ん?何?」
「俺……その…胸とか触ったり……抱き締めたりとか…したい」
「え……っと…悟空?」
「ダメかな…?」
「いや、アウトだろ…それ…」
「まぁまぁ悟浄…」
「胸は……その…さすがにアウト……ですけど……」
「けど?」
「……抱き締めるくらいなら……いいの…かな?」
「マジで?」
「チッ……」
「いや、キレる寸前だろ…」
「てかキレてますね…」
「あの……でもなんで…急に?」
「俺…ずっとモヤモヤしてて……」
「おい、猿」
「なんだよ、三蔵。」
「言っとくが、雅が良いと言っても俺は許可してねえからな?」
「言いましたね」
「言ったな」
「だったら何のために言わせたんだよ!」
「ただの確認だ」
「私は何のために呼ばれた……?」
「それも確認だ。」
「……」

三蔵は雅の返事でイラつきを隠しきれず、それを言い出した悟空への思いと、一緒に居る、事前に知ってたであろう二人への感情が入り乱れていた。

「一回で良いんだよ…ちょっとだけ!」
「ふざけんな…!」
「何がどうなってるわけ?」
「雅は黙ってろ…」
「なぁ!三蔵!!」
「却下」
「…もぉ…!」

そういうと雅は他の面々も居る前で悟空を抱き締めた。

「よく解んないけど…これでいいの?」
「おい…」
「だって…何か理由があるんでしょ?それにみんな居るし……」
「そういう問題じゃねえ」
「んーー……やっぱ…何もわかんねえや…」

そういうとゆっくりと悟空は離れた。

「ごめんな?雅。急に変なこと言って」
「それは良いんだけど……」
「三蔵も、わりぃ……」
「フン…」
「なんでこうなったの?」
「なんか…すっげえ触れたくなって……そう思ったら悶々して……」
「悶々って……」
「三蔵に言ったら雅は俺の女だからダメだっていうし、それでもどうしてもって言ったら雅にいえって言うし。」
「いや、アレまた言ったんか?」
「言ったんです。」
「んーー、でも納得した?」
「まだ、なんか良くわかんねぇけど、触れてみたら別に普通だった。」
「そっか、…納得出来たならよかったけど…」
「でも、なんか…ごめんな?変なこと言って」
「もう良いだろうが、てめぇらさっさと自分の部屋戻りやがれ!」
「へーへー」
「ほら、悟空も行きますよ?」
「あぁ」
「じゃぁ、おやすみ」

そうして出ていった三人。

「…おい」
「へ?三蔵、どうかした?」
「お前は…まだわかんねぇのかよ。」
「えと…悟空を抱き締めたこと?」
「それも堂々と目の前で…」
「目の前だからだよ?やましい気持ち無いし」
「そういう問題かよ」
「悟空だし。」
「意味わからねぇよ!」
「弟…みたいな感じ。」
「…んぁ?」

そういうと雅は三蔵に巻き付いた。

「誰彼構わず抱き締めたりすることはないから安心して?」
「ふざけるな」
「あってもあの三人だけだよ?」
「悟浄も入るのか」
「クスクス…そりゃ、まぁ?」
「…なんかムカつくな…」
「でも、ドキドキはしないから、するのは三蔵とだけだよ?」
「……ま、仕方ねぇから…多少は譲歩してやるよ」

そう言って夜も更けていくのだった。
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