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ワカレ

ばっかだなぁ…本当に… そう言われながらもむけられる笑みに陵透は少し心が落ち着いた。

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時間は少し戻って18時を少し回った頃。陵透は凛音に電話をしていた。

『もしもし?』
「凛音か?」
『そりゃ俺のケータイなら俺だわな…どうした?』
「…バレた」
『は?ちょ…まて…何が?誰に!!』
「学園に『透』の存在が。それに桜と付き合ってるのも…」
『……どうしたよ、陵透らしくねぇな…』
「僕らしいとか関係ないって…ごめん。迷惑かけるかも知れない…」
『今日オーナーくるし、話、するか?』
「あぁ…できれば…」

そうして通話を切った。その3~4分ほどした時だった。電話が鳴る。

「もしもし。」
『お疲れさん、成瀬だが』
「お疲れ様です。」
『バレたってな。凛音からさっき聞いたが。』
「申し訳ありません…」
『そんな事は大した事は無い。それよりも自分の事。そして大切にしたいという彼女の事…考えてやればいい…』

そういって電話は切れた…そんな一言二言に陵透の心が救われた事は言うまでもなかった…

「本当…凛音じゃねぇけど…だっせぇわ…桜の事守るとか守らねぇとかって問題じゃねぇじゃん…」

そう呟いていた。そんな中、凛音からラインが入ってくる。

『今からちょっと付き合え』

凛音が何を考えているか解らない。それでも今の陵透には気が紛れる所だった。

『いいけどどこ行く?先に言っとくけど僕あんまり目立つ所行けない』
『解ってる。俺が運転するし、お前は俺に着いてきてくれりゃそれでいい』
『相変わらずだな』
『30分後にはそっち行けるから』

そうしてラインは途絶えた。と言っても支度をする気力も起きなかった。桜からのラインの返事はもちろんない。それどころか自身の不甲斐無さに呆れていた。
教師をクビになり、きっとホストも干されるだろう。講師・教師系にはきっと戻れ無いそれよりなにより、自身の手で一番泣かせたくない女性を泣かせてしまった。それが何よりも陵透の中で痛手になっていた。

ピンポーン…ピポピポピンポーン!!!

何度も繰り返し鳴るチャイムの音。それを止めるべく気持ちの乗らない重い体を起こした。

「はい?」
『あーけーてー!!』

そう、さっき電話して30分程で着くと言っていた凛音が来ていた。

「もうそんな時間か?」
「あぁ、そうだけど?それでいく?」
「そのつもり…出かけたまま着替えてないだけだから問題ない。」
「じゃぁ行くか」

そう話しながら、貴重品を持って凛音の後を追う様に家を出ると、鍵をかい車に向かった。

「どこ行くの?てか凛、仕事は?」
「まぁ何とかなるっしょ。上客も来る予定ないし?」
「突然来るかも知れなくね?」
「俺はお休みでーす!風邪ひいたって事になってる。」

そう言って笑いながらも凛音は車のエンジンをかけた。漆黒に塗られたBMWが唸りを上げて発進する。どこへ行くかも告げられる事が無いまま、マリン系の香りの車内から、陵透は流れゆく外の風景を眺めていた。
2人の間に沈黙が流れる。その沈黙の中には洋楽が小さく鳴っていた。

「…それで?」
「ん?」
「これから先、陵透教師出来なくなんの?」
「多分ね。」
「俺の方は問題ない。オーナーも解った上で受け入れてる。辞める事はするもしないも陵透に任せるって言ってた。」
「……そっか」
「だけど、何でバレた訳?」
「ホストの件はわかんねぇ。だけど桜と付き合ってるのは疑惑。でもまぁ、教師と生徒で複数枚も違う私服で?モールで会うなんて偶然そうそう続かないだろうし?」
「モールって、そんなとこでデートしてたの?」
「いや、撮られた写真の中で実際にデートしてたのは2件だ。とか言っても全部で3枚の内の2枚だから…偶然も何もないか…」
「いや、そこじゃない。何でモールなんかで会ってたってところだろう?」
「だからって近場じゃない。車で走った所のだ」
「言い訳だな」
「……今となってはね」
「たく…バカだよな陵透…結構肝心そうなところで抜けてる…」

返事をする事もないまま、ただひと言『…そうだな』と呟いた陵透。そんな時だ。着いたぞ?と車を停めた凛音。

「…ここか…」
「まぁね、ここなら誰も来る事ないでしょ、こんな時間」

そう、着いたのは海が見える展望台だった。車を停め、車内で話をし出す。

「好きなんだろ?」
「クハ…突然だな」
「相手の事、桜ちゃんだっけ?その子は大丈夫か?」
「今日桜の母親にも話してきた。父親は仕事でいなくて帰りも解らないって言ってたから。」
「今両親の事は聞いてねぇ。大丈夫かって聞いてんの」
「泣かれたよ。」
「そりゃそうだ。……別れて…は無いよな?」
「……」
「陵透?…お前まさか…」
「あぁ、別れた。正確には少し距離を置こうって…」
「どうして…」
「来年は受験の年にもなる。それにこれからも桜の横に僕が居たら桜の進む道の妨げになるだろう?」
「だからって、支えにもなるだろう」
「支え以上に負担が大きくなる。僕の存在が桜の枷になってしまうくらいなら離れた方がいい」

そう話す陵透。しかし、その表情から本人の本意ではない事は凛音も解っていた。

「…たく、不器用だな、相変わらず」
「うるさいよ…」
「離れる事で守れるものもあれば、障害があっても近くだからこそ出来る事もあるだろうに…」
「今の僕には近くから見出せるものは一切ない」
「何で?」
「何でって…」
「抱き締めてやれるでしょ。どんだけ恨まれようと、人として、男として愛を伝え続けてやる事は出来るでしょ。それって近くだから出来る事じゃね?たかが文字の羅列で見るよりも、陵透の声で、言葉で伝えられた方が100倍も何万倍も嬉しいし、本当なんだって思えるだろ」
「…そうはいっても…」
「何でそういう時にいつもの『透』が出ないんだろうな。よっぽどか透のが器用じゃん」
「そうかも知れない…」
「陵透の中で、『陵透』も『透』も同じだろ?偽りはない…そうだろ?」
「…確かにな」
「だったらなんで本当に1番愛してる子に対して不器用になんだよ…」
「…愛してるから…」

そう答えた陵透。シートを少し倒して低い天井を見上げながらもう一度ゆっくりと発した。

「こんな気持ちになるなんて思ってなかった。本気で愛してる…桜の事…だからカナ…怖ぇんだよ…をしたら桜が壊れるんじゃないか…したら桜が離れるんじゃないか…そう考えただけでいつもの調子なんてでなくなる…」
「…バカだなぁ…陵透は…」

そう答えると凛音は肩をコツリと1回たたいた。

「それを伝えたらいいんだろうが…簡単な事だ…」
「でも既読は付いても返事が来ない…」
「結局伝えたん?」
「愛してる…とだけは…」
「それじゃぁ伝わんねぇよ…クスクス」

小さく笑いながらも凛音は携帯にかかってくる着信に嫌気がさしてようやく出た。ホストクラブからの着信が山のように来ていた。折り返すと心配する声だけだった。それに加え、『透さん大丈夫ですか!?』なんて声も騒がれた。良い所で凛音は電話を切り透に向かった。

「どうやら透が辞めるっていう事になってるぞ?」
「そう?」
「ま、お前次第だな。さっきも言ったけどさ?ホストを続けるか、ホストも辞めるか…それは陵透の人生だから俺やオーナーが口出すところじゃないから。ただ、サポートは全力でする。心配するな」
「…ありがとう…」

そうひと言返事を返すとようやく小さくも陵透の顔に笑みが少し戻ったのだった。

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