凜恋心 ♢ 転生編 ♢

降谷みやび

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battle16…鍵の在処

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今日は仕事がない雅。買い出しに行こうと街に出てきていた。

「あ!雅?」
「ふぇ?」

不意に呼ばれた雅は、キョロキョロと辺りを見渡す。

「こっちこっち!」

そう言って満面の笑みを浮かべた悟空は走りよってきた。

「良かった!会えて!」
「どうしたんですか?」
「そぉんな堅苦しい話し方抜きにしね?」
「悟浄さん…あ、」
「ん?」
「この間はごめんなさい…急に帰ったりして…」
「いや、良いんだけどさ。ちょっと聞きたいことあんのよ」
「えと、何ですか?」
「雅ってさ、ずっとこの街に居たんじゃないんだろ?」
「うん、一ヶ月くらいかな、前からここに来てね」
「なるほどねぇ」

そう言う悟空の後ろから悟浄は呼び出した。

「あのさ、今夜少し来れねぇ?」
「行くって…」
「んー、宿屋?」
「でも…」
「皆一部屋ずつだし、一つに集まると結構一杯になるだろうから宿屋の中の広間で集まったら?」
「あ、ホール?」
「…なの?まぁ、何でも良いけど」
「解った、何時に行ったら良い?」

そうして時間を決める。夕飯も終えた後の時間にしようと決めた。
宿に戻った二人は待っていた八戒と三蔵に話し始める。

「…で、雅来るから」
「来る、は良いんですが…」
「何聞くんだ。」
「だって!皆気になってるだろ!あの力!雅なのに…」
「雅なのに、って言うのは少し語弊があるとも思いますが…まぁそうですね。それに話したら何か手掛かりとかになるかもしれないですし。」
「記憶を取り戻すってのか?」
「そうだよ、記憶思い出したらまた一緒に行けるかも知れないじゃん!」
「それをあいつが望んでるのか?」

その一言で言葉を一斉に飲み込んだ。

「でも、それも解らないじゃないですか。思い出したいのか、思い出したくないのか…それを聞くのにも良い機会だと思いますよ?」
「…たく」
「お節介かも知れねぇけど…だとしたらさ、何で三蔵、こんなに長期滞在してんだよ」
「……ッッ」

そう。着いてから四日、まだ出発しようという内容にもならない。

「どっちにしても部屋じゃ狭いからってこの宿屋にあるホールで待ち合わせしたから。」

そうして話し終えた。
それから時間も経ち、待ち合わせの時間五分ほど前になった。

「あ、居た…」

そうして雅はホールの中に入っていく。

「ごめんなさい、お待たせしちゃって…」
「でも時間前だしな」
「あれ、悟空さんは?」
「トイレだと」
「そっか」

そうして話を始めた。

「あの、それで聞きたいことって…」
「あー、えっと」
「雅…さ、あの力って…」
「あ…あれ?ずいぶん昔に使えるようになって…それからずいぶん長い事練習して…この半年位でから修行みたいなの受けて…」
「それで…」
「ん。初めはね…こんな力要らないって思ってたんだけど…」
「けど?」
「いつだったか…誰だったかな…それも個性だって言ってくれて…それも良く覚えてないんだけどね」
「…へぇ」
「今ではこの力、持てることがすごく嬉しいの。他の人にしてみたら奇異なものかもしれないんだけど…普通の人間だし」
「普通の人間、か」
「でも皆さんもすごく強くて……ビックリしちゃったんです。でも旅してるなら回りの妖怪にも立ち向かわなくちゃいけないですし…」
「まぁ、そうなんですけど…」
「てか俺たち妖怪だけ『このバカ!』……バカっていうなよな!エロ河童!」
「妖怪…?」
「…つか、何を隠す必要がある」
「三蔵さん?」
「悟空と八戒は妖怪。悟浄は半妖、俺はただの人間。そりゃあんだけ殺れるだろ」
「…えっと……半妖…って」
「あーー、人間と妖怪のハーフなんです。悟浄」
「そっか、だからあんなに強いんだ…」
「……驚かないんですね…」
「…あ」

今更ながら驚いていない自分に驚いている雅。

「バカだろ…」
「…ム…」
「全く…」
「あの……!」
「はい?」
「いえ…八戒さんじゃなくて…!」

その視線はまっすぐに三蔵をとらえていた。

「さっきからバカバカって……まだ会って数日の人捕まえてそんなに連呼しなくても良いじゃないですか!」
「バカにバカと言って何が悪い」
「そりゃ三蔵法師様にしてみたら同じ人でもバカかも知れませんけど!だからって言って良いこと悪いことありますよ?!」
「妖怪だ人間だ…それに何の価値がある」
「…そりゃ無いですけど…」
「価値がねえのか」
「そう言う意味じゃない!……ッ…とにかく!ばかばかいうのやめてください!」
「お前なぁ…」
「それに!私お前じゃありません!雅って名前があるんです!!」

そう。初めて出会った時の様な口喧嘩…ガタンと立ち上がると三蔵は『戻る』といい部屋を後にした。

「……クスクス…」
「八戒、そんなに笑ったら悪いって…!」
「いや…てか……」
「前にも似た様な事無かったっけ?」
「なぁにやってんだかなぁ。」

むぅっと膨れている雅。嬉しそうに笑う三人。そうこうしつつも八戒は話し出す。

「雅さん?」
「はい…?」
「あなたのその曖昧になってる記憶の一部、取り戻したいと思いますか?」
「…ん、でもそれってすごく難しいから…」
「知ってるんですか?方法」
「ん……」

そう言うと俯いてしまう雅。そんな雅に悟空は声をかける。

「なぁ、それってどうやんの?」
「え…?」
「だから。すっげぇ難しいって言ってもだから難しいんじゃなくて?」
「……そうなんだよ…たった一人……何だって…」
「え?」
「私が記憶をなくす直前に想った人に、私が伝えたかったことを言ってもらう…それだけみたいなんだけど…」
「…それって……」
「ん。八戒さんの想ってるのと同じだと想う。少しのブレも許されなくて…ね、難しいでしょ?」

そう言うと少し寂しそうに笑っていた。

「難しいのか?それ…」
「悟空さん?」
「だって…『少しは黙ってろって…』……なんだよ!」
「すごく難しいよ…私は誰を想い描いたのか解らないし…その時何を想ったのか解らない。例えば八戒さん相手だとしても、私が好きだなって想ってたとしても八戒さんが私の事好きと思っていなければその言葉は聞けないし。例えば、悟浄さんに好きだって想ってもらえてても、私が苦手だと想ってたとしたら食い違うでしょ…?」
「おいおい……」
「その人が誰かも解らないし、もしかしてもう会ってるかも知れなくても、記憶が無い以上飽きられちゃってるのかも知れない。」
「雅……」
「だから、もしかしたらもう二度と記憶の蓋、開かないかも知れない…でもね、もしかして、開くことがあったら…もう一回、想うだけじゃなくてちゃんとその人に伝えたい…そう思うの…」

そう自身の思いを伝えた雅。

「あ、ごめんなさい…私話しすぎて……」
「良いんですよ…それで…あなたのさっき言ってた鍵……なんで知ってるんですか?」
「あ……それは…」
「…それは?」
「……秘密」
「ま、言えない事もあるよな」

ふっと笑う雅それから少し話をしてその夜はお開きになった。
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