凜恋心 ♢ 転生編 ♢

降谷みやび

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scene11…癒し

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とある日……バタバタと雅は走っている。

バンッッ!!

「菩薩!!」
「…ケホ…うるせえよ騒ぐな…」
「…大丈夫?」
「あぁ。大したことねえ…」
「何が大したこと無い、ですか…熱で思いきりぶっ倒れたじゃないですか…」
「…うるせえよ、二郎神…」
「……菩薩でも風邪引くんだね…」
「どういう意味だ…ケホ…」
「別に…でも、大丈夫?」
「だぁから…大したことねえっていってんだろ…」
「これ…リンゴ…食べる?」
「今…いらねえ」
「そっか…おいとくからね!食べたくなったら言って?」
「…あぁ」
「二郎神…?」
「なんだ?」
「菩薩の付き添い変わろうか?」
「…しかし」
「大丈夫…!私じゃ菩薩の仕事変われないし…二郎神なら出来るでしょ?」
「それはもちろん…」
「だから…交代するよ…」
「解った」

そういって二郎神は腰をあげ、雅と交代した。扉を静かに閉めると額に乗るタオルを水に浸して交換する。

「…雅、お前も出てろ…」
「やだ」
「…風邪…移すと不味いだろうが」
「やだ」
「…強情だな…」
「傍にいたいから……菩薩の傍にいたい…ダメ?」
「…好きにしろ、移しても知らねえからな。…文句言うなよ?」

そう言われながらも嬉しそうに目を細める雅。なかなか熱も収まらない…

「…むぅぅ……」
「…ハァ…ハァ……」
「三十九度八分……熱…下がらない……」

そう、高熱も高熱…たかが風邪と言うにも高すぎるほどだ。

「……菩薩…ごめんね?」

そう言うと服を脱ぎ、雅は菩薩のベッドに潜り込む。

「…菩薩…許してね?」
「……」

返事の無い相手の胸元に顔を埋めながらきゅっと抱き締めた。熱い体…少しでも良くなるようにと祈りながらも少し上に上体を上げると額に唇を寄せる。

「……ン…」

その後にはそっと唇を重ね、ふぅっと息を吹き込んだ。大分治癒能力も力を増してきていた為、めまいを起こすことも無かった。

「……大丈夫かな…」

そのまま再度抱いて菩薩の体から熱を吸い上げるかのように祈り続けた雅。
ベッドに入ってから二時間ほどした時だ。菩薩は目を覚ました。

「…ン……雅…か?」
「…あ…菩薩、起きた?」
「…なんだ…これ…」
「怒るのなしね?」
「…ちょっと待て…もしかして…」
「ん、熱下げるだけ…ね?」
「……」
「ずいぶん前なのか…ちょっと前なのか……にもこうして癒した事あって……あ、熱…測ってみて?」

そう言うと体温計を渡す。直に鳴ると平熱までは行かなくとも平熱に近い微熱程に下がっていた。

「良かった…熱下がってる…」
「おい…」
「…ん?なに?」
「ありがとうな」
「……ん、お薬飲んでも下がらないし…菩薩しんどそうだし……」
「お陰で動けるようになったわ」
「…そう?ならよか…ッ」

ベッドの縁に座る雅を後ろから腰を抱いて離そうとしなかった菩薩。

「菩薩?まだ気分悪い?」
「悪いわけねえだろ…雅が全身使ってくれてんだ…」
「そう?…あの…着替えなきゃ…」
「少しだけこうしてろ…」
「え…っと」

そうするとぽぅ…っと腹部がポカポカしてくるのが解った雅。その直後に腕を離す。

「だめ!菩薩!!」
「うるせえよ、少し返すだけだ…」
「でも…熱下がったばっかりで…」
「十分すぎるほど貰いすぎだ。送る加減を覚えろよ」
「…だって…夢中だったし…」
「ま、俺的にはこのまま抱けるくらいには戻ってるけどな?」
「ダメです!」
「…フ…クスクス…ほら、少しは体も楽だろ」
「……ありがと…」
「いいえ☆」

そしてベッドから降りる雅は服を着だした。着終えるのとほぼ同時に扉をノックする音がする。

「入れよ、二郎神だろ?」
「体調はどうです……かって…菩薩…?」
「あぁ、すこぶる調子、いいぜ?雅のお陰でな…」
「…雅のって……」
「ちょこっと移しかえただけ…だよ」
「……で良かった……」
「え?二郎神?」
「タイミング間違えたら大変なことだったじゃないか…」
「まぁ……恥ずかしい…かも」
「……雅の治癒はチョー気持ちいいぜ?」
「…そう言うの止めて…?」
「でも、二郎神にはすんなよ?」
「しません!」
「……クス…だそうだ」
「え…っと……そうじゃなくて…!菩薩セクハラ!!」
「…どの口が言ってんだ?」
「少し熱でうなされてるくらいのが良かったかも知れない…」
「そういうなって…」

そんな和やかな空気の中、三人は菩薩の回復を嬉しそうに笑っていたのだった。
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