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春の章 王子護衛編
14 主人公登場
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貴賓用応接室で待ち構えていたアルカたちに、扉をノックする音が、待ち人の訪いを告げる。
レグルスの視線に頷いて、アルカは部屋の隅に気配を消して控えた。
「第2王子、セルシアス殿下の御成りです」
「こら!控えろ!殿下は忍んで来ているのだぞ」
やいのやいのと、聞き覚えのある声が耳に入る。それからぞろぞろと、カラフルな集団が現れた。
そうか、ゲームキャラって、現実にするとこんな感じなのか。
雷に撃たれたような衝撃を受けつつ、アルカは微動だにせずに、密かに王子一行を観察する。
金髪に琥珀色の瞳を持つのが、メインヒーローの第2王子のセルシアス。俺様キャラ。全体に金色。
緑の髪の眼鏡が宰相の息子リチャード、冷静頭脳派。全体に緑。
茶髪が王子の専属騎士ロドリック、熱血筋肉。全体に赤い。
赤紫の長髪は宮廷魔術師ケイン、年下可愛い系。全体に紫。
青い髪がメインヒーローの対抗馬、孤高の一匹狼ユセフ。青い。
戦隊ものみたいに推しカラーでまとめ過ぎだと、突っ込みたい気持ちを何とか抑え込む。
「わぁ……!レグルス様だぁ!」
高めの可愛らしい声で無邪気に紡がれた言葉に、凍り付いた。
「レイ、レグルス卿と面識が?」
レイと呼ばれた少年が、慌てたように首と両手を振る。
柔らかなピンクブロンドの髪に、薔薇色の頬と唇。それから溶かした蜂蜜のような飴色の瞳。
誰もが愛さずにはいられないとされている、主人公のレイだ。
「あっ、違います。えと、姿絵を見る機会があって……」
「ふん、レグルス卿は高名な魔術師だからな」
大して面白くも無さそうに、第2王子が頷いた。
「……それは光栄なことで。さて、殿下、今回の各地への慰問ということで、早速話を進めさせていただいても、よろしいでしょうか」
「慰問ではない。我々は救国の旅に出るのだ」
応接の上座に座った第2王子は、不遜に足を組み変えた。
「王族御自ら救国の旅にお出でになるとなれば、人心も平らけくあれません。なればこその、お忍びでの慰問かと」
「卿は相変わらず頭が固いな。私が功績を上げれば、いずれ貴殿のことも出世させてやれるぞ。こんなうだつの上がらない場所で、燻っていてもしょうがあるまい」
王太子は第1王女というのに、こんなところで野心を曝すところが、頭が悪いと言われる所以なんだよなあ。
チラとレグルスの様子を窺うと、見事な貴族の笑顔を貼り付けていた。
「殿下。私などには過分なことでございます。王家の忠実なる臣下として分を弁え、ここに骨を埋め、国の繁栄に邁進していく所存にて」
「王子には僕がいるでしょ~!僕みたいな優秀な王宮魔術師がいれば、こんな人いなくても平気だよ」
タイミング良く年下系魔術師が、勝ち気な発言をしてくれたため、ひりつきかけた空気が治まった。
「ふん、そうだな。俺には、真の友たるお前たちがいればいい」
確か攻略中主人公巡って、そのズッ友たちとめちゃくちゃギスギスすんだよなぁ……。
アルカはつい生温い目で、一行をひっそり観察し続けた。
「はい、それでは本日の説明は以上です。何か御質問は?」
レグルスは好き勝手話す御一行に終始貴族的な対応をし、漸く旅程の提案という名の誘導を終えた。
レグルスが質問をと面子をぐるりと見渡すと、それまで静かだったレイが手を上げた。
「はい!レグルス様も、旅に一緒に行きませんかぁ?」
その場に居た全員の時が止まった。
本人だけは身を乗り出して、うりゅっとした瞳でレグルスを上目遣いに見つめている。
レグルスの笑みが一層深くなった。だが、この場でアルカだけが、正しくその意味を理解していた。
「それは光栄なお誘いですが、何分私が未熟なため仕事が立て込んでおり、お供出来かねます。申し訳ございません」
レグルスが恭しく、さりとて何の感情も読み取れない笑顔で頭を下げた。
「あっ、ですよね~。やっぱ無理か~。でもまた明日、来ますねっ」
「レイ、……お前、何を言っている?」
「なんでもないですよっ、殿下。それより、今日はこれで終わりって言っていたし、街を案内してくれませんか?皆でカフェでお茶なんて、良くないですか?」
レイはあっけらかんと、第2王子の腕を取って立ち上がる。
入って来た時と同じく、カラフルな集団は喧しく退出していった。
嵐が去って一気に静かになった室内に、レグルスの重い溜息が響いた。
ソファに頭を預けて身を伸ばし、きちんと着込んだ制服の上着の詰襟を外す。
ギルド職員は公式の場以外は、制服の上着だけは羽織らなくても良い。
そのため皆、普段は殆ど着ないのだが、今日はアルカもレグルスも情報局用の制服をかっちり着込んでいる。
慣れない窮屈な制服からの疲労だけではあるまい。レグルスは無言で天井を見上げている。
「ごめん、アルカ君。悪いんですけど、コーヒーか何かもらえます?」
承諾の意で頭を下げて退室して、少し考えてから同じフロアのカフェまで足を延ばす。
レグルスは恐らく1人になりたいはずだ。アルカは直感的に確信した。
多分さっき、レグルスは本気で怒った。しかも根源的な感情から沸いた怒りだ。
稀に戦闘中なんかに、上司として叱責することはあるが、レグルスは感情に任せて怒ったことは1度も無い。
いつも理知的に説明して反省は促せど、あんな風に拒絶に似た怒りを出したことなんて、ただの1度も無いのだ。
カフェでデカフェのカフェオレを2つもらって、両方に砂糖を多めにぶち込む。
それにしても言いたい放題言ってくれたなと、アルカも苛々していた。
おまけに内容が何と言うか痛々しいというか、完全なる厨二感で共感性羞恥だろうか、聞いていてすごく疲れた。
何よりレイだ。すごく違和感がある。
シナリオに書かれていなかっただけかも知れないが、何故だろう、レグルスへの執着があるような気がした。
空気を読まない頓珍漢、もとい無邪気野郎だが、見た目は誰でも虜にする美少年という設定だ。
レグルスをじっと上目遣いで見上げる姿も、あれをやれば大抵の人は落ちる雰囲気だった。
いや、既に王子たちへの実績がある。
今日、怒りを発露させられたレグルスだって、あの美貌に魅了され、いつどこで『ふっ、おもしれーやつ』が発動しないとも限らないのだ。
正直モヤッとした。こちとら前世分と併せて、何年推してるんだと思ってんだ。
推しは皆で愛でるものだが、レイとだけは同担拒否だ。
だってレグルスを傷付けた。
多分あれはそうだ。防衛反応で怒ったのだ。何か柔らかいところを、土足で踏み荒らして傷付けた。
傷付いたのはレグルスなのに、アルカの胸がぎゅっと痛んで、足早に応接室に戻った。
「ワァ……!甘ーい……!」
カフェオレを一口飲んで飛び上がったレグルスは、喜んでいるのか嫌がってるのか、よく分からないリアクションをした。
「ちょっと糖分が必要で」
自分の分も目玉が飛び出る甘さになっていたので、渋い顔で啜る。
「……ふふ、そうだね。染みるね。ていうかアルカ君、ヤバい顔になってるよ」
「レグルス様も」
2人でカフェオレを飲む度に渋い顔になるのが可笑しくて、漸く気を抜いて笑い合った。
その日を皮切りに、レイは攻略対象と共に何度もギルドを訪れるようになった。そして、その度にレグルスを旅に誘う。
対応するレグルスも、傍で控えるアルカのストレスも天井突破しそうだ。
じりじりとした気持ちで、冒険指南は数日かけて終わった。
これで明日から、好感度調整に入ると見て良い。旅は7日後から始まることになっている。
さすがに明日からのフリー行動選択では、あの攻略対象と仲を深めてくれるだろう。
ギルドの選択肢もあるが、レイは王子と一匹狼にご執心に見えた。
だからもう2度と、ギルドに来ないで欲しい。
国を上げて、旅だって接待してやるんだ。内輪で楽しくやってくれ。
疲れた顔のレグルスを見ながら、そう祈った。
しかし祈り虚しく、翌日にレイはギルドに現れた。
世の中、本当にクソである。
レグルスの視線に頷いて、アルカは部屋の隅に気配を消して控えた。
「第2王子、セルシアス殿下の御成りです」
「こら!控えろ!殿下は忍んで来ているのだぞ」
やいのやいのと、聞き覚えのある声が耳に入る。それからぞろぞろと、カラフルな集団が現れた。
そうか、ゲームキャラって、現実にするとこんな感じなのか。
雷に撃たれたような衝撃を受けつつ、アルカは微動だにせずに、密かに王子一行を観察する。
金髪に琥珀色の瞳を持つのが、メインヒーローの第2王子のセルシアス。俺様キャラ。全体に金色。
緑の髪の眼鏡が宰相の息子リチャード、冷静頭脳派。全体に緑。
茶髪が王子の専属騎士ロドリック、熱血筋肉。全体に赤い。
赤紫の長髪は宮廷魔術師ケイン、年下可愛い系。全体に紫。
青い髪がメインヒーローの対抗馬、孤高の一匹狼ユセフ。青い。
戦隊ものみたいに推しカラーでまとめ過ぎだと、突っ込みたい気持ちを何とか抑え込む。
「わぁ……!レグルス様だぁ!」
高めの可愛らしい声で無邪気に紡がれた言葉に、凍り付いた。
「レイ、レグルス卿と面識が?」
レイと呼ばれた少年が、慌てたように首と両手を振る。
柔らかなピンクブロンドの髪に、薔薇色の頬と唇。それから溶かした蜂蜜のような飴色の瞳。
誰もが愛さずにはいられないとされている、主人公のレイだ。
「あっ、違います。えと、姿絵を見る機会があって……」
「ふん、レグルス卿は高名な魔術師だからな」
大して面白くも無さそうに、第2王子が頷いた。
「……それは光栄なことで。さて、殿下、今回の各地への慰問ということで、早速話を進めさせていただいても、よろしいでしょうか」
「慰問ではない。我々は救国の旅に出るのだ」
応接の上座に座った第2王子は、不遜に足を組み変えた。
「王族御自ら救国の旅にお出でになるとなれば、人心も平らけくあれません。なればこその、お忍びでの慰問かと」
「卿は相変わらず頭が固いな。私が功績を上げれば、いずれ貴殿のことも出世させてやれるぞ。こんなうだつの上がらない場所で、燻っていてもしょうがあるまい」
王太子は第1王女というのに、こんなところで野心を曝すところが、頭が悪いと言われる所以なんだよなあ。
チラとレグルスの様子を窺うと、見事な貴族の笑顔を貼り付けていた。
「殿下。私などには過分なことでございます。王家の忠実なる臣下として分を弁え、ここに骨を埋め、国の繁栄に邁進していく所存にて」
「王子には僕がいるでしょ~!僕みたいな優秀な王宮魔術師がいれば、こんな人いなくても平気だよ」
タイミング良く年下系魔術師が、勝ち気な発言をしてくれたため、ひりつきかけた空気が治まった。
「ふん、そうだな。俺には、真の友たるお前たちがいればいい」
確か攻略中主人公巡って、そのズッ友たちとめちゃくちゃギスギスすんだよなぁ……。
アルカはつい生温い目で、一行をひっそり観察し続けた。
「はい、それでは本日の説明は以上です。何か御質問は?」
レグルスは好き勝手話す御一行に終始貴族的な対応をし、漸く旅程の提案という名の誘導を終えた。
レグルスが質問をと面子をぐるりと見渡すと、それまで静かだったレイが手を上げた。
「はい!レグルス様も、旅に一緒に行きませんかぁ?」
その場に居た全員の時が止まった。
本人だけは身を乗り出して、うりゅっとした瞳でレグルスを上目遣いに見つめている。
レグルスの笑みが一層深くなった。だが、この場でアルカだけが、正しくその意味を理解していた。
「それは光栄なお誘いですが、何分私が未熟なため仕事が立て込んでおり、お供出来かねます。申し訳ございません」
レグルスが恭しく、さりとて何の感情も読み取れない笑顔で頭を下げた。
「あっ、ですよね~。やっぱ無理か~。でもまた明日、来ますねっ」
「レイ、……お前、何を言っている?」
「なんでもないですよっ、殿下。それより、今日はこれで終わりって言っていたし、街を案内してくれませんか?皆でカフェでお茶なんて、良くないですか?」
レイはあっけらかんと、第2王子の腕を取って立ち上がる。
入って来た時と同じく、カラフルな集団は喧しく退出していった。
嵐が去って一気に静かになった室内に、レグルスの重い溜息が響いた。
ソファに頭を預けて身を伸ばし、きちんと着込んだ制服の上着の詰襟を外す。
ギルド職員は公式の場以外は、制服の上着だけは羽織らなくても良い。
そのため皆、普段は殆ど着ないのだが、今日はアルカもレグルスも情報局用の制服をかっちり着込んでいる。
慣れない窮屈な制服からの疲労だけではあるまい。レグルスは無言で天井を見上げている。
「ごめん、アルカ君。悪いんですけど、コーヒーか何かもらえます?」
承諾の意で頭を下げて退室して、少し考えてから同じフロアのカフェまで足を延ばす。
レグルスは恐らく1人になりたいはずだ。アルカは直感的に確信した。
多分さっき、レグルスは本気で怒った。しかも根源的な感情から沸いた怒りだ。
稀に戦闘中なんかに、上司として叱責することはあるが、レグルスは感情に任せて怒ったことは1度も無い。
いつも理知的に説明して反省は促せど、あんな風に拒絶に似た怒りを出したことなんて、ただの1度も無いのだ。
カフェでデカフェのカフェオレを2つもらって、両方に砂糖を多めにぶち込む。
それにしても言いたい放題言ってくれたなと、アルカも苛々していた。
おまけに内容が何と言うか痛々しいというか、完全なる厨二感で共感性羞恥だろうか、聞いていてすごく疲れた。
何よりレイだ。すごく違和感がある。
シナリオに書かれていなかっただけかも知れないが、何故だろう、レグルスへの執着があるような気がした。
空気を読まない頓珍漢、もとい無邪気野郎だが、見た目は誰でも虜にする美少年という設定だ。
レグルスをじっと上目遣いで見上げる姿も、あれをやれば大抵の人は落ちる雰囲気だった。
いや、既に王子たちへの実績がある。
今日、怒りを発露させられたレグルスだって、あの美貌に魅了され、いつどこで『ふっ、おもしれーやつ』が発動しないとも限らないのだ。
正直モヤッとした。こちとら前世分と併せて、何年推してるんだと思ってんだ。
推しは皆で愛でるものだが、レイとだけは同担拒否だ。
だってレグルスを傷付けた。
多分あれはそうだ。防衛反応で怒ったのだ。何か柔らかいところを、土足で踏み荒らして傷付けた。
傷付いたのはレグルスなのに、アルカの胸がぎゅっと痛んで、足早に応接室に戻った。
「ワァ……!甘ーい……!」
カフェオレを一口飲んで飛び上がったレグルスは、喜んでいるのか嫌がってるのか、よく分からないリアクションをした。
「ちょっと糖分が必要で」
自分の分も目玉が飛び出る甘さになっていたので、渋い顔で啜る。
「……ふふ、そうだね。染みるね。ていうかアルカ君、ヤバい顔になってるよ」
「レグルス様も」
2人でカフェオレを飲む度に渋い顔になるのが可笑しくて、漸く気を抜いて笑い合った。
その日を皮切りに、レイは攻略対象と共に何度もギルドを訪れるようになった。そして、その度にレグルスを旅に誘う。
対応するレグルスも、傍で控えるアルカのストレスも天井突破しそうだ。
じりじりとした気持ちで、冒険指南は数日かけて終わった。
これで明日から、好感度調整に入ると見て良い。旅は7日後から始まることになっている。
さすがに明日からのフリー行動選択では、あの攻略対象と仲を深めてくれるだろう。
ギルドの選択肢もあるが、レイは王子と一匹狼にご執心に見えた。
だからもう2度と、ギルドに来ないで欲しい。
国を上げて、旅だって接待してやるんだ。内輪で楽しくやってくれ。
疲れた顔のレグルスを見ながら、そう祈った。
しかし祈り虚しく、翌日にレイはギルドに現れた。
世の中、本当にクソである。
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