【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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冬の章 新年祭編

114 宣言

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 魔力を使えば、レグルスがすっ飛んで来るのは分かっているため、アルカは少し赤くなった頬のまま、早足で1階のサロンへ向かった。

 サロンではレグルスを囲んで、両親と妹が何やら話し込んでいた。

「ああ、アルカ、ダヴィードはどうした?」

 実に6年振りに会った両親の挨拶がこれである。あまりに変わらな過ぎて、逆にホッとした。

 レグルスの隣に座っていた少女が、ぴょんと立ち上がって小走りに寄って来る。

「ちい兄様!お久しぶりだわ!あんまり帰って来ないものだから、リベリカのこと、忘れてしまったかと思ってたの!」

 ふわりと羽が舞うように、すっかり淑女になった妹が抱き着いて首を引き寄せる。相変わらず天使のような可愛らしさだ。

「素敵なお土産、ありがとうね」

 アルカだけにニッと笑んで、リベリカはレグルスの隣に戻った。

「リベリカ、何か勘違いしているようだけど、お前にお土産なんて何1つ無いよ」
「まあ、ちい兄様、酷いこと言わないで」

 じっと自分だけを見つめているレグルスに頷くと、直ぐに立ち上がった。

「父上、お父様、俺はこのレグルス・マクファーレンと入籍します。今後はマクファーレン家の者として生きますので、メイヤー家とはここまでのご縁とさせていただきます。これまでお世話になりました」

 隣に来たレグルスに肩を抱かれて宣言する。

「待ちなさい。今、リベリカの話をしているところだ。平凡なお前より、リベリカの方がマクファーレン様に相応しい」

 メイヤー家直系の父、レイバンが首を振った。隣の配偶者である、イフタハも同調して頷く。

「そうだぞ。リベリカみたいに天使のように愛らしく、心根の優しい子の方が、マクファーレン様を癒して差し上げられる」
「お父様たち……」

 当然と言わんばかりの表情で、リベリカが嬉しそうに微笑んだ。
 一生やってろと口を開きかけて、肩に置かれたレグルスの指に力が籠もる。

「我が伴侶は、終生アルカ1人のみ。貴殿らも我が伴侶の親族ということで大目に見てやっていたが、そろそろ分を弁えよ」

 大貴族の威厳を纏い、レグルスが冷たく3人へ言い渡す。

「既に現当主とは話がついている。今後、我が家門へ一切関わるな。破った場合には、我が家門へ敵対の意思有りと見なす。良いな」

 3人はレグルスから放たれる威圧に、さっと顔を青褪めて震え出した。
 大貴族の脅しに、国1番の魔術師の威圧である。これでもう、余計なことは言わないだろう。

「追って証書を届けさせる。当主に伝えておけ」

 威圧を解かぬまま、レグルスはアルカの肩を抱いてサロンを出た。

 腰を抜かした家令も追って来ることはなく、2人で玄関ホールを抜けて城を出る。辺りはすっかり日が暮れていた。

「頬、赤くなってる。何された?」

 レグルスの憎悪に満ちた瞳が、前を見据えている。

「寒暖差で赤くなっただけだよ。それより、たくさん嫌な思いさせてごめんな」

 腕にぎゅっと抱き着いて身を寄せると、レグルスは気を落ち着かせるように長い息を吐いた。

「俺は別に何も無かったよ。辛かったのはアルカの方だ」
「大丈夫。想定内だったし、逆に上手く行き過ぎて楽だったくらいだ」

 痛そうに眉を顰めたレグルスの手を握る。吐く息が白く、夜の冷気が満ちている。

「家に帰ろっか」

 レグルスを覗き込むと、少し視線を彷徨わせた。

「レグ?」
「……もし、アルカが良いなら、街を見ていっても良い?」

「平民街の方?何にもないよ、本当に」
「うん、でも見たい」

 漸く柔らかに微笑んだレグルスに、アルカも微笑んで頷いた。


 新年祭で休業が多い中、開いていた居酒屋で食事を取り、平民街をぶらつく。

 かつてアルカに、王立学園へ進学するよう勧めてくれた治療士がいた、小さな治療院は営業時間外で真っ暗だった。
 あの治療士はアルカの在学中に、天寿を全うしている。

 悪ガキどもとした悪戯の話をしている内に、如何わしい通りに入り込み、アルカは少し慌てて回れ右をした。

「アンタ、ルカ坊じゃない?」

 ルカと呼ばれて、ぎくりとして振り向く。
 アルカがメイヤー家の次男だと知らぬ者は居ないが、表向きはルカと名乗って平民に混ざっていたし、皆暗黙の了解で接してくれた。

「……シャロン姐さん?」
「そうだよ、やっぱアンタ、ルカ坊だね?偉い別嬪さんになっちまって」

 娼館の戸口に立っていた、女盛りの女性が寄って来る。アルカに色々手解きしてくれた内の1人だ。
 シャロンはたわわな胸を強調したドレスを着ていて、美しい顔が人気の娼婦だった。

「姐さん、久し振り。まだここに居たの?年季明けたんじゃないの?」
「はは、あれよあれよと言う間に今じゃアタシが女衒だよ。世の中分からないモンだね」

 当時を懐かしんでいると、シャロンがにやりと笑った。

「ところでルカ坊、この色男はなんだい?新年早々、お友達と買いに来たのかい?だったら負けとくよ。新年で暇だから良い子が揃ってるんだ。ウチにおいで」

 レグルスと見比べて、シャロンはにやにやと腕を肘で突いて来た。

「はは、違うよ。この人は俺の旦那で、ちょっと観光してただけ」
「……アンタ、結婚出来たのかい!?……そりゃあ良かった!そう、本当に良かったね……!」

 シャロンは目を丸くした後、少し涙ぐんだ。

「姐さん、世話になったね」
「良いんだよ。……てことは、挨拶かなんかに来たのかい?」
「うん、まあ、最後の挨拶、終わってきたところ」

 メイヤー家の次男が放置されていたのは周知の事実だ。そこから察してくれた大人たちに、何くれと随分助けられた。

「そうかい。……待ちな、アンタら宿は取ってるのかい?」
「あ、えぇと、適当に」

 流石、花街1番の人気娼婦だっただけあって、状況把握が早い。
 しかし違法緊急転移陣で帰るとは言えずに、アルカは適当に濁した。

「新年休暇で、宿なんか開いてないよ?ギルドだって、この時間じゃ閉まってるし。結婚祝いで安く負けとくから、ウチに泊まりな」

「流石に悪いよ。ここ連れ込みじゃないじゃん」
「今日は部屋空いてんだよ。フフ、1番良い部屋貸してやる」

 チラリとレグルスを見ると頷いた。下町の人情は有り難いが、レグルスを連れて行くような場所ではないので困惑する。

「盛り上がるの置いてるよ、ご祝儀だ」
「姐さん……。分かったよ、部屋だけ借りていい?」
「ふふ、そう来なくちゃ!毎度ありぃ~」

 シャロンは上機嫌に笑って、アルカたちを娼館へ導いた。
 久し振りに踏み入れた娼館は、変わらずに甘ったるい香がしていた。

 建物は記憶より少し古くなっているが、昔より清潔なくらいだ。
 シャロンが良く手入れしているのが分かる。紅い絨毯が敷かれた階段を上がり、最奥の部屋に通される。

 特注の丸いベッドと、ガラス張りのジャグジーバス、部屋の中央にはピンク色の怪しい明かりを灯すシャンデリア。いかにもな部屋だ。

「じゃ、全部揃ってるから、ごゆっくり~」

 シャロンがウィンクして部屋を閉める。カチンと音がして、朝まで開かない鍵が閉まった。

「……ごめん、こんなことになるとは」

 ちょっとバツが悪い思いでレグルスを見上げると、何だか複雑な表情をしていた。

「泊まるのは別に全然構わないけど、あの人って……」

 その辺りの記憶も視られているから、これは嫉妬なんだろう。
 確かにレグルスは娼婦を買ったことも無いし、この文化に慣れていないのだ。

「レグ、何ていうか仕事の延長なんだよ。あの人たちはプロだから。だから、その、お前たちとは、体の扱い方の感覚が違うだけで。なんならそう、研修って言うか……!」

 重ねる毎にしどろもどろになる言葉に、レグルスは少しじとっとした瞳になる。

「別に気にしてないよ。必要なことだったんだろうし」

「レ、レグ~、ごめんて。お前だけなの、俺。今も昔も、心からちゃんとしたいのは、レグだけ。ここの人たちにだって、抱かれてはいないからね」

「……いいよ、分かってる」

 胸元に縋り付いて瞳を見上げると、レグルスは眉間の力を緩めた。
 これ以上続けると要らぬボロが出そうなため、アルカはレグルスをベッドに引っ張った。
 
「ね、アルカ、この臭い……」
「あ!ヤバい、ちょっと吸うな!」

 アルカは慌てて、ベッド裏の香を消した。娼館の部屋には全て、催淫効果のある香を焚きしめている。

「ごめん、俺はある程度耐性あるから忘れてた……!大丈夫?」
「う、ん……、どうだろ……」

 またレグルスの下に戻り、様子を確かめる。少し赤らんだ頬に手を当てると、びくりと震えた。

「遅かったか……」

 視線を下げると、そこに確かな膨らみを見つけた。

「ちょっと待って、初めての感覚過ぎて、少し落ち着かせて」

 レグルスが一歩下がって、顔を片手で覆う。初心な反応に眉を下げて跪く。

「馬鹿。媚薬なんて落ち着かせる方法、1つしか無いよ」

 アルカは笑って、レグルスのベルトに手を掛けた。
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