【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

文字の大きさ
122 / 168
冬の章 新年祭編

113 蔵書室

「お前に、私のスペア以外の価値は無い」

 そう言って兄はいつも、この暗い蔵書室にアルカを突き入れた。

「それなのにお前は、平民風情と何をやっているのだ」
「兄様、彼らは友達で……」

 無様に冷たい石の床に座り込んだアルカを、ダヴィードは再び蹴り飛ばす。

「お前には、私以外のものなど要らない。お前は私のスペアなのだから、私のために産まれたのだ。お前の存在意義なんて、それ以外に無い。いいか、お前は私の為にだけ、生かされている」

 幼心にずっと、その理不尽な言葉に反感を持っていた。

「生意気な目だな」

 だが少しでも翻意を出せば容赦無く頬を打たれるため、アルカはじっと耐えるしか無かった。

「私の為だけに生きているなら、お前は私のものだな?」
「……はい」

 頷かねばその後が酷くなるため、納得しなくても頷く必要がある。

「そうだ。だから私は、お前に何をしても良いんだ」

 床に付いていた手を踵で踏まれる。

「自力で治せるんだから、本当に使い勝手の良いスペアだな、お前は」
「……はい」

 いつからこうだったかと言うと、思い出せる記憶は全てこうなので、恐らく産まれた時から兄の玩具だったのだろうと思う。

 過度な両親の期待と溺愛。高い知能に合わせて2歳から始まった英才教育と、置き去りにされた情操教育。
 その結果がこれだ。兄ダヴィードは完璧な外面の下に抑え込んだストレスを、放置されているアルカに全てぶつけていた。

 アルカが物心付いた頃には、影でつねられる、怖がるものを泣き叫んでも押し付けられる、外に置き去りにされる、閉じ込められるなどをしょっちゅうされていた。

 川が氾濫した日に家に帰れなくなったのも、元はと言えば兄のせいだ。

 両親はダヴィードの残忍さより、美しい見た目と頭脳だけに目を向け、アルカへの異常性については見ないふりをしていた。

 ダヴィードは中等部までは、王都から招いた家庭教師が付いており、中等部からは隣の領の直ぐ近くの学園に通ったため、ずっと家に居た。

 後継を遠方へ手放したくない地方貴族にはよくあることだが、そのためにアルカには、逃れる場所が平民街しかなかった。

 兄の異常な支配欲と暴力は、アルカが家を出るまで延々と続いた。
 

 よく折檻に使われていた蔵書室に閉じ込められ、昔の記憶が沸々と蘇ってくる。
 あの当時から兄は後継者ということで、指輪を好きに使っていた。兄にはひたすらに甘い両親だ。

 アルカは頭を振って、目的の蔵書を探し出した。
 さっさと探し出さないと、また碌でもないことになりそうだ。

 当代メイヤー家の血縁では、アルカを除いて闇属性を持つ者がいない。
 だが、確か5代前の先祖に、闇属性が居たような気がしたのだ。

 幼い頃1度だけ読んだその手記に、闇と影の記述があったと朧気な記憶がある。
 その書を探しに来たのだ。ジークの治療方法の助けを探しに。

 特に整理はしていないのを知っているため、記憶を頼りにそれらしき古い書物を漁っていく。

 暫く探して漸く引き当てた、古く傷んだ手記を見つける。
 100年以上前の書物だが、触っていないのと日が当たらないためか、ちゃんと読める状態だ。
 古典的な文字と言い回しを、解読しながら読み進める。

 5代前の先祖は、闇属性についてかなり研究した魔術師だったようだ。
 闇属性の取得可能な魔法、固有魔法、特性が詳細に書いてある。

 当時は子供過ぎて解らなかったが、かなり貴重な資料だ。
 光属性は王家で研究しているが、比べると闇属性の研究は保持者も少なく遅れている。

 知らなかった情報が多数あり、目を引く。
 闇属性に惹かれる人たちの特徴、反対に闇属性が惹かれるものにも言及がある。

 闇は光を求め、光は闇を求めるという供述がある。
 光と闇は表裏一体のため、足りない反対の成分を取り込みたくなるという。

 そのため、闇属性は基本的に善行に惹かれやすく、光属性は悪行に惹かれやすいという考察が記載されていた。

 更に読み進めると、影使いの供述があった。
 どうやら先祖も影使いだったらしい。驚愕しながらページを捲る。

 ―……影というのは、その者の魂に通じているもの。

 影使いは影に触るのではなく、本質的には魂に触っている。そのため、魔術回路や魔力を縛ることも可能。

 熟練した影使いの目には、残留思念や魂の形までも全て映る。闇属性と影使いスキルを持つ者は、優れた治療士になれる。
 
 潜影の危険性。無機物であろうが影には全て潜ることが可能。
 但し人の影に潜るのには、注意が必要。前述の通り、影は魂の反映のため、影の持ち主の過去が一時に情報として見える。

 また持ち主の記憶の、感情そのものが直接的に感じられるため、脳の処理が許容を超える。

 発狂する可能性が高く、潜影を使う者には強靭な精神力が求められる。
 何人か政敵を廃人にしたが、影の中で耐えられた者はいない。

 影の中では襲って来る情報に、魂の形があやふやになるのだ。当然だろう。

 その影の持ち主より、良くも悪くも強い体験をしていれば耐えられるため、影使いには様々な精神的経験が必要だ。

 だが、潜影は常に危険を孕んでいることを、忘れてはいけない……―

 有益な情報かは分からないが、アルカは出来る限り正確に本の内容を暗記した。

 本当なら持ち出してイザベラに相談したいところだが、許されないだろう。
 一刻もすれば、また扉が開かれる筈だ。それまでアルカは繰り返し、書物を読み続けた。

 それから暫く、装置の起動の気配がして、アルカは顔を上げた。
 また扉が開いた先に立っていたのは、兄1人だった。

「……副代表は」
「リベリカが気に入ったみたいでね。彼のこと離さないんだよ」

 最後に会った際、妹のリベリカは初等部に上る前だったが、顔だけは天使のように愛らしい我儘姫になっていた。

 メイヤー家は全員、顔だけは他者より抜きん出て良い。
 だが、何故かアルカだけは、彼らには見劣りして地味な顔のため、リベリカはいつも見下して来ていた。

「私としても、丁度良いと思っている。お前の代わりにリベリカが公爵家に嫁げば、父上たちの目的も達成されるし、お前はここに戻れるだろう?」

「……何故、それを」

 兄は笑みを深めて、蔵書室へ足を踏み入れた。扉がすっと閉まる。

「アルカ」

 兄はゆったりと近付いてくる。アルカは逃げられぬまま、本を書架へ戻した。

「侯爵の次は、公爵か?あれ程、余計なことをするなと言ったのに、お前の耳は節穴だったのか?」
「……っ」

 ユアンの暴行事件で、被害者の保護者が学園に呼ばれた際、現れたのはダヴィードだった。
 両親より先んじて学園よりの使者に会い、彼が独断で慰謝料などの取り決めを代行したのだ。

 もし両親があの事件を知れば、無理やりユアンに嫁がされる可能性もあったため、その点は利害が一致していて助かった。

「そんなに権力者を誑かしてまで、この兄から逃げたいのか?」

 がっと手が伸び、前髪ごと頭を掴まれる。頭皮が引き攣れて、痛みに眉を顰めた。

「あの男、お前に首ったけじゃないか。どんな手を使った?お前を買い取ると、アダマンタイト鉱山の権利まで差し出したぞ」
「な……!?」

 ぐいっと引き寄せられて、頬を張られる。

「また体を使ったんだろう。嘆かわしい。だからお前はあの娼婦どもと同じなのだ」

 もう非力な子供では無い。頬を張られても、揺るがない程鍛えたのだ。黙って瞳を睨み返す。

「お前は私のものだと言った筈だ。逃げるなんて、許さない」
「もう兄上には、義姉上やお子様たちがいらっしゃるでしょう。何故、そうも俺に執着するのですか」

 ダヴィードの執拗な視線が、体に纏わりつき気持ちが悪い。その視線は、年々強くなっている。
 17歳の夏に帰省に向かう途中で逃げしたのも、元々の家族の確執に加えて、それが止めになった。

 最後に帰った時、兄の結婚式の時もそうだった。
 あの時は間一髪逃げ切ったが、それ以来アルカは完全に帰省を止めた。
 
「お前が私のものだからだ」
「俺は1度でも、あんたのものだったことはない」
「アルカ、お前はそんなに物分かりが悪かったか?」

 今度は逆の頬を張られた。

「お前なんかに価値は無い。黙って、ただのスペアに戻りなさい」
 
 今ならもうこの男を殺せる。そう息を吸い込む。

「少なくとも俺は、アダマンタイト鉱山くらいの価値があるそうですね?」

 ぴきりと、ダヴィードのこめかみに青筋が浮かんだ。

「受け取ったのでしょう?ならもう、俺はレグルス・マクファーレンのものだし、最後にスペアとしてお役に立ちましたよ?」

 それが証拠に、頬を打つ力は加減されていた。

「まだ締結はされていない」

 憎悪で燃える、青灰の瞳が睨む。

「……もう貴方とは、他人だ。2度とお会いすることはない。メイヤー伯爵」
「アルカ……!」
「ここを開けてください。伯爵」

 真っ直ぐに睨むと、ダヴィードは歯軋りをした。

「誰かにやるくらいなら、お前を処分する」
「……分かりました」

 アルカはあの日のように、ダヴィードに睡眠魔法を付与した。
 公爵家の名目の下、もう2度と関わらないのだから報復は恐れない。

「アル……カ……!」

 魔術師としても、もう自分の方が上なのだ。倒れた兄の指から指輪を抜き取り、扉を開けて外に出る。

 少し悩んだが扉が再び閉まる前に、指輪を蔵書室に放り投げた。
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。