時は満ちた... 〜厨二病少年が英雄になるまで〜

あぷ

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1章

13話 打ち鳴らせ

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「急に復活したと思ったら何を訳の分からないこと言ってんだお前ぇ。」

大男は、柊に殴られた頬を伝う血の跡を拭い、少しばかりふらつきながらも、何とか立ち上がった。

「気になるか?これは僕の尊敬するふるる先生の名著『不恰好なヒーロー』に登場する主人公、ジグリット師匠の言葉だ。」

柊は未知の生物によって、肉体改造をされた弱気な少年であるジグリットが、様々な困難を乗り越えながらも、成長していく物語が大好きだった。
そして、柊は思った。俺は今ジグリット師匠と同じ境遇にあるのだと。だからこそ、彼が作中に放った言葉が、今の自分に矢のように突き刺さる。

「一瞬の安寧は終わりなき後悔への門口である。」

この言葉も、読者の中で人気なジグリット語集の内の一つだ。
その言葉に勇気と熱情を貰った俺は、体の中に注ぎ込まれたコンクリートが融解するように、さっきまで地獄のような負の感情に苛まれていたのが嘘みたいに、どこまでも駆け上がっていけそうな、そんな気分になった。

「つまりまだ楽しめるってことだよなぁ!」

狂気。この一言では言い表せないくらいの譫妄せんもうさが、この男の中に激情として巻き起こっている。
左肩と右横腹、二つの銃弾を受けたはずだが、そんなことなど露ほども感じさせない。

───ただただ楽しんでいる。

こちらに近づいてくるその姿は空気を震わせ、俺たちの心を揺さぶる。まさに異物。
しかし、先程までの恐怖はもう感じない。
今、柊の中に溢れる熱情はそれに勝るとも劣らない。

跳んだ。一瞬の爆発力による接近。そして相手の二箇所の傷を執拗に狙う。どれだけ卑怯と言われても構わない。
それでこいつに勝ち、美心を守れるならばそれで構わない。後悔はしたくないから。

「柊!あなたがさっき攻撃を避けられなかったのは、彼があなたの足場を英呪で崩したからよ!」

美心は英精の使いすぎによって殆ど身体が動かない。しかし、手足が使えないならせめて口だけでも動かそうと、必死に柊に訴えかける。

「ちっ。余計なこと言うんじゃねぇよ」

美心からありがたい忠告を受け取った俺は、相手からの攻撃だけでなく、足元にも意識を向けることになった。

激しい攻防の中、何度も足元を崩されたが先程のようなミスはしない。崩された瞬間にすぐに安全な所に退避。
このヒットアンドアウェイに、執拗な傷口への攻撃。この身体にまとわりつくような、陰湿な攻め方に痺れを切らした大男は、拳を固く握りしめ、身体を思い切り捻る。そこから放たれる一撃を食らったら今度こそ終わりだろう。
しかし、持ち前の動体視力と反射神経の良さを余すことなく使い、ギリギリで回避をする。あれだけ大きく振りかぶったため、その後の隙が大きい。
そこを柊は見逃さなかった。思い切り振り抜いたその右足は、決して無視のできない衝撃を相手に与えた。大男は何とか腕でガードをしたが、思った以上の威力だったのか、衝撃を完全に受け止めることは出来なかった。

「うっ、、、おいおい。威力上がってねぇか?」

先程までの攻撃とは一線を画すその威力に、大男は身体から吹き出す液体の正体が自分の脂汗とも気づかなかった。
その動揺を否定するかのように、大男はその圧倒的な膂力を用いて、技なんて何も無い、圧倒的な暴力をお見舞した。
その姿に、さっきまでとはまるで違う様子を察知した柊は、この攻撃をもらうことは絶対に避けなければならない、と本能的に悟った。
しかし、柊も戦闘経験がある訳では無い。これまでは動体視力と反射神経の良さ、そしてこの身体能力に頼る戦闘だった。
だからこそ気付かなかった。
この攻撃がブラフであると。

「柊!後ろ!!」

美心が力の限り叫んだが、その時にはもう遅かった。

「がっ───!!」

首の後ろを鈍器で殴られたような、そんな衝撃が電流のように身体全身を駆け回った。

「そりゃ、こっちを警戒したくなるよなぁ!」

相手は見た目に反して冷静だったらしい。自分に注目を集めることによって、柊の後ろから襲う、大男が遠隔操作をしていた土塊を撃ち当てる。
前方に倒れかけた柊は、深い闇の海に溺れかけた意識を無理やり上から引っ張りあげて、片足を前に突き出すことによって何とか堪えた。
しかし第一波を凌いだと思ったら第二波。大男が、この土塊で仕留めるつもりだったからこそのブラフ。そのアテが外れた以上、こっちが本命になった大男は今度こそ、この一撃で仕留めるべく必殺の一撃を放った。

「死ねぇぇぇぇぇぇえええ!!!土塊つちくれ金剛力こんごうりき!!!」

大男はその拳を土の塊で覆い、その迫力はまるで地球に襲いかかる隕石のようであった。その拳は俺という人間に引っ張られるように吸い込まれていき、避けきれないと踏んだ俺は、両腕を十字に組むことによって、身体への直接的な衝撃を避けた。

──────ゴォォオオオン。

(くっそ痛てぇぇぇええ!!・・・でも、耐えられないほどじゃない。)

20メートルほど吹っ飛ばされた俺は、攻撃を食らう直前に身体を後ろに引っ張ることによって衝撃を緩和することに成功していた。
しかし、もう体力も殆ど底をついていた。

(はぁはぁ。体力的にも次で決めるしかない。)

俺は自分の体力の限界を見極め、次の一撃で決めることを覚悟した。

(ぶっつけ本番だけど、、、あれ・・をやるしかないな。美心にはちょっと無理させることになるけど。。。)

俺の、この光り輝く焔の瞳は、大男によって踏み潰されたいくつもの可能性の中に、一つの希望の道筋を見据えた。


□      □      □      □      □      □      □      



大男は焦っていた。最初は少し遊んでやるつもりだった。子供がアリの行列の往来を踏み潰すように、そんな軽い気持ちだった。
しかし、何だこの状況は。アリだと思っていた相手が命を賭して食らいついてくる。

(ふざけんな!どんだけしつこいんだよ!多分、今のでもまだ倒れねぇ。)

目線の先には、こちらに敵意を剥き出しにした赤い瞳を向けながら走ってくる柊の姿が目に入った。
俺はあの小僧の英呪をまだ見ていないため、もはや迂闊に手を出すことが出来ない。
相手の出方を伺っていたら、こっちに向かって来たはずの小僧が、女のガキの方に向かい、耳打ちをしているのを確認した。

(まだなんかあるのか?しかし、あの女はもう英精が尽きているはず。。。)

そんなことを考えているうちに、小僧がこちらに向かって走り出した。この永遠とも思える一瞬の間、小僧が更にスピードを上げて俺の懐に飛び込んできた。

(───ッッッ!!馬鹿め!)

柊が拳を振りかぶり、それを大男に打ちつけようとした瞬間を狙って反撃を繰り出そうとした。しかし、柊の選んだ行動は大男の予想を超えるものだった。


───柊が殴ったのは大男ではなく、その直下にある地面だった。

砕け散り、弾け飛ぶ地面。辺りは砂塵に覆われ、さっきまで良好だった視界は一気に不明瞭になった。そんな、砂嵐に覆われた中で、五つの明るい球が光り輝くのを確認した。

(火系統か?はは!こっちには見え見えなんだよ!!)

相手がこの砂塵に紛れて、あの火の玉を当ててくると予想した俺は、その動きに意識を集中させた。

───そう、させてしまった。

俺は気づかなかった。英精が尽きても尚、抗おうとするあの少女の存在を。


「いっけぇぇぇええええ!!」


殆ど尽きていた英精の残りカスをかき集め、砂塵が舞う瞬間、男の姿が見えなくなる直前に打ち込んだ、全てをかけた一発の水の銃弾。


「嘘、でしょ。。。」


大男が振るったその丸太のように太い腕が、悠々とその場を漂っていた砂塵を吹き飛ばすと、そこには銃弾を受けた様子がない、不敵な笑みを浮かべた大男がそこには立っていた。


(ははっ!勝ったぜ!あいつの火の玉はブラフでこっちが本命だったわけだ!)


ギリギリ身体を捻ることによって、その銃弾を回避した大男は勝利を確信した。
しかし何故だろう。心の中で何かが蠢く。この言いようのないような気持ち悪さの正体に気付いた時にはもう遅かった。

(───ッッ!あの小僧はどこにいった!!!)

「こっちだよ。」

俺は声のした方に首を傾けると、そこには腰を深く落とし、黄金色に耀かがよう拳を握りしめた少年が、こちらを罠にかかった獲物を見るような表情で見つめていた。

「ま、まっ────」

「遅せぇよ。」

大男が気づいた時にはもう何もかも手遅れだった。


「焼き鳴らせ!!赫焉鳴鐘かくえんめいしょう!!!」

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