拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜

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第1章 転生編

第9話 今回の親ガチャは当たりかもしれん

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 俺はユリアとメイドを送った後、家に戻る。

 帰ってきた俺の顔を見るなり、父さんがニヤリと笑う。

「お?まさかフラれたのか?」

「いや、そもそも告ってすらいないんですけど」

「はん、冗談だよ」

 他愛もない会話をした後、父さんは自分の部屋へと戻り、ガサゴソと何か取り出す。

「ほらよ」

 父さんから予備の中古の剣を手渡される。

「え?あ、ありがとうございます」

「期待してるぞ?」

やめろ変なプレッシャーかけんな……俺は自分の部屋に戻って、再び魔法剣の錬成に取り掛かかった。

 先程と同じように、火魔法と錬成を駆使して、今度は剣先の方に杖を内蔵し、魔素を放出するための微細な穴を先端に加工した。

「よし、できた」

 この作業は火を使うから、暑くなる。額に汗を流しながらも、俺は完成した魔法剣を持ち、玄関の扉を開けて、外に出た。

 外はまだ明るく、錬成の熱気を逃がすように、ひんやりとしたそよ風が肌を撫でる。

 というわけで考える。さすがに最初はファイヤボールじゃなくて、水を生み出すだけにしよう。水ならまあ、爆発みたいなことにはならないだろう。ならないよな?

 水魔法が成功して大丈夫そうなら、もう一回ファイヤボールでリベンジしてみよう。

 俺は初級の水魔法で剣を介し、水を生み出す詠唱をした。体を通じて魔素が剣の内部に伝わっていくのを、手にじわじわと感じていく。

 すると、剣先から水がふわりと生み出された。……成功だ。

 素手で詠唱するよりも大きい気がする。そのまま大木に向けて発射の詠唱をした。水の塊はひゅんっとビームのように直線的に飛んでいき、木に衝突して水がピチャンと弾けた。

 よし、これなら今度こそファイヤボールを生成できるかもしれん。

 俺はすぐにファイヤボールの詠唱を始める。火の塊をイメージして、詠唱が完了させる。

 そのまま剣を軽く振った。詠唱完了と同時に、剣先にボワッと火の塊が現れ、一瞬熱気が肌を刺激する。剣も爆発していない……成功だ!

 素手の詠唱よりもやはり大きい。初級とは言え、これを食らえばやけどは不可避だな。

 とりあえず、火の玉をぶっ飛ばして火事にするわけにもいかないので、ひとまず左手で水の塊を出し、宙に浮いているファイヤボールにぶっかけた。

 火の玉は無残にジュワーと音を立てて消えた。

 俺はワクワクしていた。魔法を駆使して戦う剣士、異世界っぽくて良くないか?興奮して、胸が高鳴っている感じがした。

 すると、後ろから父の声が聞こえた。

「す、すげえな、やるじゃんか!」

「いや、別に……その、魔法くらい誰でも……」

「そうじゃなくてだな、そもそもそんな剣に杖を埋め込むなんて考えに至ったのが改めてすげえと思ったんだよ。ちゃんと実現までしてよ」

 父はうんうんと頷きながら感心していた。

 前も思ったけど、これくらいの思いつきなんて誰でも思いつくだろ。

 俺がうつむいて考えている様子を見て、父さんは少し呆れて肩をすくめた。

「褒めてるのに何でそんな暗い顔をするんだ……。俺はお前がよくわからん。自信が無さそうだから誉めて伸ばそうと頑張ってるんだが」

「なんかすいません」

 少しどんよりとした重たく気まずい空気が二人の間に流れた。

 俺はもともとチー牛だから、どうしても自分がすごいって思えないんだよ。

 褒められたことがほとんどなかったからな。

 本気で褒めてんのか、もしくは、お世辞で「すごいね~」ってやっときゃ子供は喜ぶだろ、的なテンプレ対応か。

「とりあえず、飯できてるから、戻るぞ」

「あ、はい」

 なんか、気まずい空気になるのが嫌だから、できる限り、父さんの前だけでは自信を持つように振る舞おう。

 俺と父さんは、身体こそ“親子っぽい”けど、中身は別世界の住人だ。

 地球の底辺チー牛高校生と、異世界の剣聖という成功者じゃ、価値観なんて合うわけねぇ。いつの間にか、夕方になっていて、家の屋根をオレンジ色に明るく照らしていた。


 ------



 その日の夜、俺は部屋で布団に寝っ転がってダラダラとしていると、コンコンと控えめなノック音が聞こえた。俺は警戒しながら恐る恐る扉を開けると、そこにはなにやら袋を抱えた母さんが立っていた。

「チー、ちょっといい?」

「はい?え、いや……はい」

 個人的に苦手意識の高い母さんに対し、俺は目を逸らす。

「う~ん、やっぱり嫌われてるのかな……お父さんには普通に話してるのになあ」

 母さんは少し苦笑しながら、俺の部屋に入ってくる。

 ああ、母さんは苦手だが、嫌いというわけではない。前世からの毒母親の苦手意識が拭えないだけだ。ヒスの起こさない優しい母親は、逆に怖くて疑ってしまう。

「さて、さっそくだけど、チーは魔法を習ってみたい、とか思わない?」

「え?あ、えっと……まあ、はい」

 母さんは何を企んでいるのか。確かに魔法は楽しい。魔法など存在しなかった地球人からしたら、珍しくて不思議で、面白いからな。二次元に憧れていたし、俺に限らず、魔法使えたらなあ、なんて誰もが思っていたんじゃないか?

 習えるものなら習ってみたい。俺はもっと詳しい魔法教本とかくれたり、家庭教師でも雇うのかと思っていたが……。

「ほんと?じゃあ私が教えてあげるね!」

 だと思った。母さんはすぐに嬉しそうに頬を緩め、後ろの袋から魔法教本とか色々出してきた。初めから教える気満々だったね。

 でも、苦手意識や不安は消えない。母さんは他人と比べてくるかもしれない。母という生き物はやたらと他人と比べたがる。前世の母がそうだった。俺が出来なければ「〇〇君はできるのになんであんたは」と。ほかの家庭やママ友に自分の息子の優秀さみたいなもので競争したり、マウントをとっているのだろう。

 ちなみに、ゲームやスマホを買ってくれないことに関して、「よそはよそ、うちはうち」と言う癖に、勉強やら他のことにはやたら他人との評価を気にするダブスタぶりにもイライラはしていたな。

 みんな遺伝子も才能も環境も違うのだから、皆能力が違って当然なんだ。もし、母さんがそういう考えなら、俺はすぐに教えを乞うのをやめるつもりでいた。



 ------



 1週間が経った。

 ……おかしい。この一週間、母さんは特に俺を怒ることも、他人と比べることも何もないのだ。ただ、楽しそうに魔法を教えてくれる。ただ、俺と一緒にいるのが楽しいというように。魔法の詠唱の距離や威力の細かい設定や、中級魔法の発動のコツなど、丁寧に論理的に教えてくれる。

 俺が魔法の発動に失敗しても、「もう一回やってみようか」とか「じゃあ次はここを意識してみようか」って言って、俺を怒ることがない。

 なんか、言葉にできないような、変な感じがする。俺は我慢できずに、母さんに聞いてみた。

「あの」

「なに?」

「怒らないんですか?俺を他人と比べたりもしないんですか?内心、失敗するたびにイライラしてないんですか?」

 ……って言っても、口では「そんなことないよ」って言うに決まってるか。

 すると、笑顔だった母さんは急に真顔になる。その目には光がともっていないように見えた。

「どういうこと?誰かに比べられたの?お父さんとの稽古?ギーったら、チーをそうやって指導してたの?ちょっと言ってくる」

「待ってください違いますから」

 母さんは勝手に、俺が父さんの稽古で他人と比べられたり、怒られたと勘違いしてたっぽいので、俺は必死に止めた。

 父さんも母さんと同じような教え方だ。決して怒ったりはしなかった。

 とは言え、前世の母がそうだった、なんて言えないしな。もし言ったら、転生者だっていうようなもんだし。母さんは振り返って俺を見る。俺は目を逸らしつつ、弁明した。

「いや、えっと、ただ気になっただけです。父さんも母さんも、怒らないし、比べたりしないので」

「……そうだったの」

 母さんは俺の隣に座って、何かを思い出したかのように、優しく語り始めた。

「お母さんはね、よく小さい頃に落ちこぼれだって怒られてた。全然魔法もできなくて。魔法貴族の生まれでね、私だけが上手く魔法を使えなくて、兄妹と比べられて、それが嫌だったの。それが腹立って、独学で魔法を必死に勉強して、学園でもトップの成績を取ったの。

 お母さんは親を反面教師として見ただけ。チーには、もっとのびのびと成長してほしいから。怒ってほしいなら怒るけど、どうする?まあ、チーは優秀だから、怒ることも少ないけど。その歳でそこまで魔法を覚えられるなんて普通じゃないんだからね?」

 母さんは優しく目を細めてまっすぐ俺を見つめている。……嘘をついているようには見えない。

 俺は、前世の母親は毒という固定概念を意識しすぎていただけなのかもしれん。でも、人間だから必ず裏はあると思う。だからこそ、疑うことは続ける。いつかひょっこり本性を現すかもしれんしな。

「いえ、すみません。怒らないでください。怖いんで」

「素直だねえ。じゃあいつも通り再開しよっか」

 母さんは再び笑顔に戻って、楽しそうに俺に魔法を教え始めた。



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