晩夏休題～もしくは、王国に吸血鬼が隠遁する日常～

首切り伯爵の日常

黒幕

「バカな…」

顔見知りの貴族に呼び出されたフィールは、その言葉が信じられなかった。

「事実だ。
　フィッツ男爵は生きている。」

「教官殿からもらった資料を基に計画を立て、それなりに腕の立つ２０人近くが襲撃して、だ。
　襲撃グループは全員が死亡した模様だ。
　それらしい死体が路地裏で発見されたらしい。」

撃退。
どう考えても貴族の小娘１人でどうにかできるわけがない。
そうなると、家の維持すら危なっかしい貧乏男爵が不相応な警備を常時つけているか。
それとも襲撃計画が事前に漏れて対応されたか。

「情報は間違っていなかったはずだ。
　学院総務部の書類だぞ。」

学院で学ぶ生徒は大半が貴族に連なる者であり、何かあった際の影響が非常に大きい。
そのため、特に学院外に出る場合は様々な届け出を求められる。
例えば王都の邸宅に戻る場合、どういったルートを何時ごろ通るのか、など。
もちろん機密扱いの情報なので学院外の人間にはまず閲覧は不可能だ。

「いずれにせよ再度の襲撃は不可能だ。
　フィッツ男爵が襲撃を届ければ王宮から護衛が派遣される。」

「届けますか？」

自身の力で解決できないと申告するのと同義なので、貴族としては恥。
ただ、既に貴族としての名誉などないフィッツ男爵家に、そんな躊躇があるとも思えない。
そして国軍の護衛兵がつけば襲撃は事実上不可能だ。
国軍を襲えば国家反逆罪となる。

「あれは派閥にも属していないし、死んだところで影響もさほど無い。
　それでいて貴族家の当代。
　これほど都合のいい貴族など他にいるか。」

「確かに、生贄にするには最適だったと思います。
　非常に惜しい。」