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本編(ざまぁ)
国王陛下
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「ん…気づいた。」
どれくらい眠っていたのだろう。
気が付くと、私は再びアーシュさんの館の、あの客間に寝かされていた。
数日前、確かに帰ったはずなのに。
目の前にはキャティさんと、パティさん。
「ご自宅とはいえ、縛られて納屋の中で飲まず食わず。
死にかけていらっしゃいましたので、僭越ながらお連れ申し上げました。」
「汗と小水の臭いが酷かったので、消しました。」
キャティさんは微笑みながら、パティさんは無表情のまま、とんでもないことを口にする。
「あ、あの…」
「お嬢様がお待ちです。
寝起きで恐縮ですが、飛びます。」
「では深呼吸して、『転移』」
「来たの。」
言葉を失うとか、言葉が出てこないとかいうのは、こういうことなのだろう。
「こ、こ…こ…」
「何じゃ、ニワトリの真似か?」
首を振る。
アーシュさんの後ろに立つ御方。
その御尊顔、少なくとも貴族社会において知らない者は存在しない。
「こ、国王陛下!」
膝をつき頭を下げる。
何で国王陛下の御前にいるのか理解できない。
パティさんは何でこんな所に飛んだの?
そして、何でアーシュさんは平然としているの?
というか、陛下の後ろで跪いていたのって、王妃陛下に王太子夫妻殿下に近衛師団に…
「その方がフィッツ男爵の?」
「ちょ、長女スーでございます!
国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく恐悦至極に存じます!
すみません、いきなり飛び込みまして!
不敬は重々承知しておりますが、死刑だけは何卒!」
「死刑と言うてもな、そなたはもう死ねんが。」
膝をついたまま、茫然と見上げる。
「…へ?」
「覚えておらぬか?
そなたは我に吸われて従者となったのじゃぞ。」
そういえば、そんな夢を見たような…
「…ではお嬢様、行ってまいります。」
「うむ。」
パティさんは一瞬で姿が掻き消える。
”転移”って、傍からだとこう見えるのか。
「というかアーシュさん、説明してください!
何で国王陛下の御前なのですか!?」
「簡単じゃ。
此度の不始末、当方にも非があるが王国にも責はある。
であれば、そこな童が負うのは当然じゃろ。」
わ、童!?
国王陛下に向かって、何を言ったのこの人!?
「アーシュ殿…さすがに余を童呼ばわりは…」
「たかだか60年程度しか生きておらぬのに、童でよかろう。
我のパティですら600年生きておるというのに。」
「吸血鬼の従者様と人間を同列にされても、困りますが。」
国王陛下がただただ苦笑している。
「ま、待ってください!
アーシュさんは陛下とお知り合いなのですか!?」
「知り合いというほどでもないが、代替わりの際に挨拶くらいは交わしておる。
なので前に会うてから…もう40年ほどになるかの。」
「余の祖先が建国した際、アーシュ殿の森をも含め領土とした。
その際に相互不可侵を約束したのだ。」
「我はただ平穏に暮らしたいだけじゃからの。
結界があるので当方へ来ることは叶わぬから、森を普段使いする分には問題ない。
じゃが何かの理由で焼き払われたりすると、さすがに少々面倒なのじゃよ。
あの結界を設計した者たちはもうおらぬからな。」
そのままアーシュさんはソファに身を委ねる。
「と、ところで…
何で王妃陛下や王太子殿下が跪いているのですか…」
「我のことを知っているのは童のみじゃからな。
狼藉者だの不審者だの五月蠅かったから、黙らせた。」
パティさんが誘拐犯を殺した、あの言霊とかいうやつだろうか。
「とはいえ、さすがに疲れたであろう。
『自由にして良い』ぞ。
ただし騒いだら、今度は部屋からたたき出す。」
アーシュさんの言葉に、部屋にいた皆様がゆっくりと立ち上がる。
ただ、声を上げるものは一人もいない。
揃って茫然と。
「にしても、客人に茶も出ぬのか?
おい、そこの。」
「は、はい!」
指名されたメイドが声を上げる。
「そう怯えずとも、別段取って食わぬ。
茶を淹れてくれまいかの。」
「は、はい。」
メイドは部屋を出ていくと、すぐにワゴンにティーセットを用意して戻ってきた。
可哀そうに、恐怖と緊張で震えているのがここからでも分かる。
必死の形相だが、ティースプーンが小刻みに音を立てている。
「無礼を承知で申し上げます、代わりましょう。
その震えではカップに紅茶を注ぐのも不可能です。」
キャティさんが一礼すると、メイドからワゴンを預かる。
その所作は、国王陛下に対してさえ失礼にならないほど優雅で。
「ほう…さすがに良い茶葉を使っておるの。
ここの産地のセカンドフラッシュは好きだよ。」
「お褒め頂き恐縮ですな。
ところで、そちらの従者殿は我が国の貴族かと存ずるが。」
「それについては、我が従者が戻ったら説明しよう。
というか、スーよ…
いつまで這いつくばっておるのじゃ、カエルじゃあるまいに。
立ってよいぞ。」
恐れ多くて無理です!
どれくらい眠っていたのだろう。
気が付くと、私は再びアーシュさんの館の、あの客間に寝かされていた。
数日前、確かに帰ったはずなのに。
目の前にはキャティさんと、パティさん。
「ご自宅とはいえ、縛られて納屋の中で飲まず食わず。
死にかけていらっしゃいましたので、僭越ながらお連れ申し上げました。」
「汗と小水の臭いが酷かったので、消しました。」
キャティさんは微笑みながら、パティさんは無表情のまま、とんでもないことを口にする。
「あ、あの…」
「お嬢様がお待ちです。
寝起きで恐縮ですが、飛びます。」
「では深呼吸して、『転移』」
「来たの。」
言葉を失うとか、言葉が出てこないとかいうのは、こういうことなのだろう。
「こ、こ…こ…」
「何じゃ、ニワトリの真似か?」
首を振る。
アーシュさんの後ろに立つ御方。
その御尊顔、少なくとも貴族社会において知らない者は存在しない。
「こ、国王陛下!」
膝をつき頭を下げる。
何で国王陛下の御前にいるのか理解できない。
パティさんは何でこんな所に飛んだの?
そして、何でアーシュさんは平然としているの?
というか、陛下の後ろで跪いていたのって、王妃陛下に王太子夫妻殿下に近衛師団に…
「その方がフィッツ男爵の?」
「ちょ、長女スーでございます!
国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく恐悦至極に存じます!
すみません、いきなり飛び込みまして!
不敬は重々承知しておりますが、死刑だけは何卒!」
「死刑と言うてもな、そなたはもう死ねんが。」
膝をついたまま、茫然と見上げる。
「…へ?」
「覚えておらぬか?
そなたは我に吸われて従者となったのじゃぞ。」
そういえば、そんな夢を見たような…
「…ではお嬢様、行ってまいります。」
「うむ。」
パティさんは一瞬で姿が掻き消える。
”転移”って、傍からだとこう見えるのか。
「というかアーシュさん、説明してください!
何で国王陛下の御前なのですか!?」
「簡単じゃ。
此度の不始末、当方にも非があるが王国にも責はある。
であれば、そこな童が負うのは当然じゃろ。」
わ、童!?
国王陛下に向かって、何を言ったのこの人!?
「アーシュ殿…さすがに余を童呼ばわりは…」
「たかだか60年程度しか生きておらぬのに、童でよかろう。
我のパティですら600年生きておるというのに。」
「吸血鬼の従者様と人間を同列にされても、困りますが。」
国王陛下がただただ苦笑している。
「ま、待ってください!
アーシュさんは陛下とお知り合いなのですか!?」
「知り合いというほどでもないが、代替わりの際に挨拶くらいは交わしておる。
なので前に会うてから…もう40年ほどになるかの。」
「余の祖先が建国した際、アーシュ殿の森をも含め領土とした。
その際に相互不可侵を約束したのだ。」
「我はただ平穏に暮らしたいだけじゃからの。
結界があるので当方へ来ることは叶わぬから、森を普段使いする分には問題ない。
じゃが何かの理由で焼き払われたりすると、さすがに少々面倒なのじゃよ。
あの結界を設計した者たちはもうおらぬからな。」
そのままアーシュさんはソファに身を委ねる。
「と、ところで…
何で王妃陛下や王太子殿下が跪いているのですか…」
「我のことを知っているのは童のみじゃからな。
狼藉者だの不審者だの五月蠅かったから、黙らせた。」
パティさんが誘拐犯を殺した、あの言霊とかいうやつだろうか。
「とはいえ、さすがに疲れたであろう。
『自由にして良い』ぞ。
ただし騒いだら、今度は部屋からたたき出す。」
アーシュさんの言葉に、部屋にいた皆様がゆっくりと立ち上がる。
ただ、声を上げるものは一人もいない。
揃って茫然と。
「にしても、客人に茶も出ぬのか?
おい、そこの。」
「は、はい!」
指名されたメイドが声を上げる。
「そう怯えずとも、別段取って食わぬ。
茶を淹れてくれまいかの。」
「は、はい。」
メイドは部屋を出ていくと、すぐにワゴンにティーセットを用意して戻ってきた。
可哀そうに、恐怖と緊張で震えているのがここからでも分かる。
必死の形相だが、ティースプーンが小刻みに音を立てている。
「無礼を承知で申し上げます、代わりましょう。
その震えではカップに紅茶を注ぐのも不可能です。」
キャティさんが一礼すると、メイドからワゴンを預かる。
その所作は、国王陛下に対してさえ失礼にならないほど優雅で。
「ほう…さすがに良い茶葉を使っておるの。
ここの産地のセカンドフラッシュは好きだよ。」
「お褒め頂き恐縮ですな。
ところで、そちらの従者殿は我が国の貴族かと存ずるが。」
「それについては、我が従者が戻ったら説明しよう。
というか、スーよ…
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立ってよいぞ。」
恐れ多くて無理です!
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