誰からも見捨てられたこの場所で

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鬼が笑う理由は

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「…鬼」

「ん?いきなりどーした?」

「いえ…何でもないですよ」


鬼。
そう言われ続けたのは、とても最近であり、とても昔である。
自分にとってはかなり最近だけれども、人間にとってはとてもとても、遠い過去。

銀髪に青眼。
死ぬはずの傷を受けてなお、笑っている。
人を殺すことを、なんとも思っていない。
その姿は、まさしく『鬼』………


(なのに、どうしてコイツは…私なんかと一緒にいてくれるのでしょうか。いつまで一緒にいてくれるのでしょうか)


黒髪に黒目。
ここらでは見ない色をした彼は、いきなり現れては…いつの間にか自分の中で大切な存在になってしまっていた。

そんな人を作ってはいけないと、分かっているのに。
自分はいくら人のふりをしようと紛れもない鬼で、彼のような人と関わってはいけないのに。

それでも彼と一緒にいたいと思ってしまうのは。


(依存…でしょうか。すっかり絆されてしまったようです)


もしも彼が本当に自殺をしたら、きっと自分を責めて…国一つぐらい歩くだけで壊してしまうだろう。
彼がいないと、おそらく自分はまた『鬼』になってしまうのだろう。
それぐらい依存して、誰かに取られたくなくて、こんな所に、誰からも見捨てられたこの場所にいさせて。

ーーー彼に、呪いをかけた。
普通の人のように、死なない呪い。
自分が彼を失うのが怖いという身勝手な理由で、彼は呪いをかけられた。


彼は、死ねない。
ひたすら生き続けて、永久のときを、生きるのは苦痛なのに。それを知っているのは自分なのに。


ニイムラ・ライ。
異国の響きをもつ名前の、彼のことが。
とても大切で仕方なくなってしまっていたのは、一体全体いつからだったのだろう。

優しい感情を、初めて持たせてくれたことに彼は気づいているのだろうか。
不老不死にしたことに、気づいてしまったら。…彼は怒るだろうか。彼が最初の頃したがっていた自殺が出来なくなると知ったら、彼は…


「ライ」

「なんだよ」

「…いつもありがとう、ごさいます」

「?俺、お前に感謝されるようなことしたか?」

「えっと…はは」

「ちゃんと思い出してから言おうな!?ったく、このアホ」

「私の名前はアホでもお前でもありませんよ」

「感謝した理由を忘れたやつに言われたくねえ!」


生きていてくれて。
私に生きる意味をくれて。
隣にいてくれて。
唯一『鬼』と呼ばなくて。


(本当に、ありがとう)


『鬼』は大事な大事な人に向かって、…微笑む。
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