焼け石に無知

keye

文字の大きさ
1 / 3

自業自得な嫌われ者

しおりを挟む
ラミ・レイドリッヒに大切な人はいない。

目が覚め、金を稼ぎ、眠り、目が覚め、金を稼ぎ、眠り、目が覚め、金を稼いで───それを繰り返して生きてきた。
朝目が覚めるのは自分以外の人がいない屋敷。人から恨まれる方法で金を稼ぐ。夜は冷たい屋敷の中で1人眠る。

ラミ・レイドリッヒは嫌われ者だ。
そしてそれは自業自得である。

貴族であるラミ・レイドリッヒは自分に擦り寄ってくる人間が大嫌いだ。
貶められる言葉を聞き、赤い顔で体をブルブル震わせるが貴族の矜恃とやらで拳を我慢する姿を見ることのみを楽しみに夜会に出ていたが、いつからか招待状は来なくなった。
人との繋がりは、もう消えた。
何を悲しむことがある?むしろせいせいすると嗤い、ラミ・レイドリッヒは日常を繰り返す。

ラミ・レイドリッヒは日常を繰り返している。

ラミ・レイドリッヒはそうやって生きてきた。
だから、それは完全に気まぐれで、非日常で、非合理的だった。しかしラミ・レイドリッヒはそれを選んだ。気まぐれだった。


───道路に落ちていた人間を拾った。


ーーーーー

その男の名はアラン。
拾ったところ名前が無いと言うから名付けた。

どろどろのぐしゃぐしゃを屋敷に入れさせるなんて、昨日の自分が見たら激しく詰られることは間違いない。自分でもなぜこんなことをしてるのか謎だが仕方ないのだ。


ラミ・レイドリッヒは運が良い。

こうするべきではないのかという考えが突発的に浮かぶ。その考えは馬鹿げている時が多い。けれどそれに従うと巡り巡って大金になる。

アランもそうだった。
拾った方がいい───馬鹿げている。なぜ貴族の自分が、こんな行き倒れているスラム出身であろう成人男性を拾わなくてはならない。
別にその浮かんだ考えを無視してもいい。今まで無視したことも何回かある。臨時の大収入が消えるだけだ、なんの支障もない。

だから気まぐれだ。
金になるかもしれない行き倒れを拾った。ただの気まぐれ。嫌になったら捨てればいい。


「なぜ、おれを拾ったんだ」

「金になるからだ」

「おれを売り飛ばすってことか?」

「知るか」

まずは体にこびりついた泥をなくさなくてはと、断腸の思いで風呂へと案内した。屋敷全体が汚くなるよりも風呂だけ汚くなるぐらいがマシだ。
シャワーなんて使ったことがないと言うのでイライラしながらアランの髪を洗う。こびりついたものが水によってどろどろになり、手にくっついてくるのが気持ち悪くて仕方がない。
さすがに1度見ればシャワーぐらい使えるだろう。体を洗うのなんてさすがに気持ちが悪すぎる。吐き気がする。汚いところを全てなくして、タオルで拭いて服を着て出るようにと伝えて、風呂の扉を閉めて俺は外に出た。


すでに元いた場所に戻したい。
野良猫や野良犬なら愛嬌がある分同じくらいどろどろでもまだ許せるが、相手は身長が同じくらいのガリガリの強面の成人男性だ。可愛げなどない。顔のパーツは洗ったら案外整っていることが分かったが、それぐらいだ。


資金面では何の問題もない。1人どころか10人いたって養えるだろう。そんな気持ちにはさらさらならないが。同じ屋根の下に他人がいるという状況が気持ち悪い。


「終わったぞ」

「そうか、じゃあついてこい」

あちこち怪我をしているのか、よたよたと後ろをついてくる。エリクサーぐらい使っても余裕があるが、あれは貴族のためのものだ。汚い庶民には釣り合わない。


「お前の部屋だ。まだ何も無いけどな」

「は?おれの…?」

「お前の使い道が分かるまではこの部屋にいるように。1歩も部屋の外に出るなよ」

「………分かった」

訝しげに眺めてくるアランを、何も言わずに部屋に押し込んだ。自分が1番分かっていない。
行き倒れの人間を拾って、洗って、部屋まで与えるだなんて、聖人か悪党しかやらないだろう。なら自分はどちらなのか。聖人でないことだけは確かだが、今のところ奴隷にする気もないので悪党でもない。


「何をしているんだ俺は」

本当に何をしているんだという話だ。
いつもの栄養になればそれでいい食事を2人分用意する。2人分とも持ってアランの部屋へと向かう。
面倒だ。1人ならいつ飯を食べてもいいのに。とはいえあの飢えた人間をそのままにしておいては餓死するだろう。屋敷で死人が出るなどごめんだ。死ぬなら外で死ね。

「おい、アラン入るぞ」

「な、なんだ」

「食事だ。見て分からないのか。……お前はなぜそこにいるんだ」

誰一人来たことがない客室は、最初に整えた時からそのままだ。自動で清浄する魔法が屋敷全体にかかっているから、ホコリやゴミはない。綺麗な状態なのだからベッドにでも座ればいいのに、アランは部屋の隅にいた。

「売り飛ばさないなら……武器の性能の確かめでもするのか」

「物騒だな、屋敷を汚すわけがないだろう」

「ならなんだ、人肉でも食べるのか」

「人聞きの悪い」

「じゃあ、………お前はおれに何をさせたいんだ」

「知るか」

ベッドの方に来るように指図し、浅く座ったのを見て飯を渡す。じゃあ、と言ってから言葉に詰まったのは、『性奴隷』か、と聞きかけたのだろう。それこそ1番ありえない話だ。人肉でも食べる方がマシだ。


恐る恐る渡したパンにかじりつき、目だけは警戒のこもった状態でじっと俺のことを見てくる。


面倒くさい、きっと金になる。いつもの自分なら面倒くさいをとるだろう。今の俺だってそうする。本当になぜ拾ってしまったんだ。

「昼は俺は出かけている。朝食と一緒に昼食も渡すからな。それと、絶対に部屋から出るな」

「わかった」

ほんの数分でアランは完食した。
次はもう少し増やしてもってくるとしよう。

アランがどのような形で金になるのかまだ分からない。これで大工なんぞの肉体労働系の才能なら肥えさせたほうがいいだろう。頭を使えるなら勉強させるべきか。
───面倒くさいな。

もう成り行きに任せることにした。思いついたことをやらせればいい。急いでもいないのだからいつでも構わない。

「ラミ………さん」

「様にしておけ」

「………ラミ様、おれは何をすればいいんだ」

「明日文字を覚えさせる。お前は寝てればいい」

訝しむ目は続く。俺がアランの立場ならこんな怪しいところからは逃げ出す。

ベッドに入らせる。せっかくの3人くらい乗っても広いベッドなのに、足をぎゅっと丸め込んでいる。
少し怯えが混ざった瞳が、ドアによって見えなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...