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第四章 父と母
第8話
しおりを挟むおっぱいと共に歩んできた。
俺のそんな幼少期を語るオイちゃんは、酒の力も手伝って全然止まる様子が無い。
「…それで、タキちゃんが3歳位の頃、私はちょっとだけおっぱいが出てきたの。それに気付いたタキちゃんがザラに、ママ!大変大変!オイタンにおっぱいがチタ!って大騒ぎしてさ。」
「ほ…。」
ミコはうっとりとした顔で、時折溜め息をつきながら耳を傾けている。
「ママ!チイテ?タチ君が最初に見付けたんだよ!とか、もうとんでもない大発見したみたいに興奮しちゃってさ。それで、最初に見付けたのタチ君だからタチ君のだよ!でもママは触っても良いよ?ってね。あはは、何であんたのなの?って。」
「カワイイ…タキ君はちっちゃい頃からおっぱい大好きなのねぇ。」
ちっちゃい頃からって、俺は今そんなにミコにおっぱいなんて…ブルゼットはどこまで話したんだ?
「そう!ホントに好きだったみたいで、ある日ザラがおやつにね、肉まん出してくれたんだけどね…。」
ん?肉まん?
「ザラが両手に持った肉まんを胸のところにやって、おっぱい、って言ったらタキちゃんに大受けでね。」
あれ?
「それからタキちゃんは肉まんのこと大好きになって、おっぱいって呼ぶようになって、ことあるごとにおっぱい食べるおっぱい食べるって言ってたの。」
なんか…。
「うふふ、肉まんがおっぱいですって。タキ君も肉まん…あれ?」
「ん?ミコちゃん、どうしたの?」
「タキ君、肉まん好きよね?」
「…うん。それに、俺は前に、なんでかシンに、肉まんっておっぱいじゃね?って話をしたことがあるんだけど…。」
「なんて下らない…でも、ちょっと気になるわね。」
「ん?タキちゃんは今でも肉まんが好きなの?」
「ロクラーンに居た時、朝昼晩肉まんとかやってた。気付いたらやってたんだけど…覚えてたのかな?」
「まぁタキちゃん、おっぱい好きだったから。」
そういうことなの?
「記憶は消えた筈…なのに覚えてることがあるのかしら?」
「それこそ、根っこの部分で俺はおっぱいを好きだったとか?」
言いながら、ついオイちゃんの胸に目が行ってしまった。まずい!やっぱでかい!
「いやん、タキちゃんたら。」
「タキ君?」
ミコが凄い顔してる。可愛いより怖い。
「違うんです。決して見ようとかそういうつもりでは、決して!」
「見てた。えっちな目してた。」
「見られた。えっちな目してた。」
「ああ!この目が!目が勝手にやったんです!」
「次見たらその勝手な目…突くわよ。」
溜めないで。
「もしかして、他にも今好きなもので実は昔も、みたいなのがあったりするのかしら?」
「今好きなもの?ミコかな?」
「…急に言われると。」
「あの、私もいるんですけど。」
照れるミコは久々に見た気がする。
やっぱり可愛い。
「いやでも、他に思いつかないもん。実は俺が赤ちゃんの時にミコに会ってるとか?」
「それは無いわね。タキ君は産まれた時からドワーフの村でしょ?私がドワーフの村に行く事なんて無いし、その頃はロクラーンにもう居たかも。」
「やっぱり偶々なのかもよ?肉まん美味しいし。」
「うーん、なんかしっくり来ないけどね。なんとなくだけど。」
ミコの言う通り、なんかしっくり来ないけど、じゃあ何なのかと言われると困る。今ここで話してても…お、そうだ。
「ミコ、今度またチウンさんとこ行ってみない?」
「チウンさんか。あんまり気は進まないけど…素敵な方だけど。」
保険を掛けとくミコ。
「あれ?タキちゃん達はチウンに会ったことあるんだ?」
「うん。ひどいことになったけど。」
「あなたはなってないでしょうが!」
「あー、まぁしょうがないよね。」
「オイちゃんも知ってるんだ?」
「知ってるも何も、ここにタキちゃんが居るって教えてくれたのはチウンよ?」
「え?そうなの?」
「昨日モーグのところに来て、タキ君がここにいるって住所を書いた紙をくれたの。」
「こないだ会った時、俺達には父さんのことも、病気のことも教えてくれなかったのに…。」
「でもあの時チウンさん、もうじき会える、みたいなこと言ってなかった?」
「…確かに。それじゃ、チウンさんは病気のこと知ってたんだ。なんだよ、あの時言ってくれれば…。」
もっと早くに知れてれば、助かったのかはわからないけど、何か出来た気がする。
「タキちゃん?チウンを悪く思わないで?チウンはね、記録するだけなの。ただ、世界中全ての人達のことを記録するだけ。もしそこでチウンが記録を参考にして手を出したら、やろうと思えば世界を動かすことだって出来ちゃうでしょ?だからチウンは、手を出さないっていう決まりを作ってるの。」
「それはそうだろうけど…。」
「チウンはちょっと前に買い物に来た筈なのに、わざわざまた来てタキちゃんの居場所を教えてくれたのは、その決まりを破るぎりぎり、もしかしたら破っているのかもしれない。それでも来てくれたんだから、悪く思っちゃ駄目だよ。」
「そっか…今度会ったら謝っておくよ。」
「お礼を言ってあげて。チウンとモーグはタキちゃんが産まれる全然前から友達だったから、死ぬのは仕方ないにしても、死ぬ前くらい何かしてあげたかったんだと思うな。」
「そっか。それじゃお礼にしとく…それにしても、オイちゃんがチウンさんと知り合いだったとは。」
「チウンは、というか魔族は何か作って欲しいものがある時、よくドワーフのところに来るの。その時チウンは必ずモーグのところに寄るからね。」
「そうなんだ。」
「…ふうん。」
「ん?ミコ?どうしたの?」
何か、妙に納得したような顔してるミコ。なんだろ?チウンさんと父さんが友達なことで何かあるのか…。
「ううん、別に。ただ、親子かもって。さっ、そろそろ寝ましょうか?」
「親子?」
ミコは何言ってるんだろう?
「タキちゃんの話はもう良いの?まだあと100個くらいあるけど?」
早く寝ろ!
「いやいや、明日は早いんだし、山登るんでしょ?寝よう!つうか俺は寝る!」
「良いの良いの。オリア、続きは私の部屋で聞かせて、ね?それじゃタキ君、おやすみなさい。」
ミコはこれ以上、俺のどんな話を聞こうってんだ?
「タキちゃんおやすみ!」
「うん、ふたりともおやすみ。俺は少し片付けてから寝るわ。」
「ありがと。大好き。」
「うん、俺も大好き。」
「あの…。」
肉まんか…お土産にオズの家の肉まんでも持ってくか。シンに挨拶もしとかなきゃならんし。
・・・・・。
「駄目ね。」
「駄目ね。」
駄目だそうで。
もしかしたら父さんの気が変わって、やっぱり治してくれなんて言うかも知れないし、場合によっちゃ勝手に治すことだって考えてたし、それにはミコも賛成してくれるって思ってた。
…んだけども。
「タキ君?あなた、肉まんついでにシン君に別れの挨拶するつもりでしょ?」
「ミコちゃん凄い!話してた通りだね!」
「話してた通り?」
「昨日ミコちゃんが、タキちゃんは病気を治す覚悟でシン君に別れの挨拶しに行こうとするけど、そう言わずにお土産とか買って行こうって言うって。」
「何故ばれたし…。」
「え?え、えっと、あ、愛のやっぱ無理!」
「愛の力?」
「うぅ…。」
「もう!ミコちゃんが照れてどうすんの?作戦失敗じゃん!」
「作戦?」
「タキちゃんにやられっぱなしは駄目だから作戦練ったんだよ。名付けて、タキちゃんを不意打ちで照れさせよう作戦。」
大して変わってねぇじゃん。
「昨日、タキちゃんがなんで解ったの?って聞いてきたらこう返そうとか決めてたのに、ミコちゃんが先に照れちゃってさ。まぁ良いけど。」
「2人で何話してたのよ…でもそこまで解ってて、ミコも反対するの?」
ミコなら解ってくれると思ってたんだけど。
…解った上でそう言ってるなら、昨日オイちゃんと話してて何か考えが変わったのか。
「そうね。寝ながらオリアと話して、ちょっとね。」
「ふぅん。なら良いや。」
「…随分あっさりね。」
「なんで?」
「その、お父様の病気を治すなら仕方ないだろ、とか言うのかなって。そしたら、喧嘩みたいになるんじゃないかって、ちょっと思ってた。」
「うーん、ミコがそう言うならその方が良いんでしょ?なら、仕方ないかなって。」
「ふぅん。タキちゃんはミコちゃんのこと、信じてるんだね。」
「愛してるからね。」
「……。」
「…こりゃミコちゃんじゃ勝てんわ。」
・・・。
オイちゃん凄いな。あんなちっちゃい身体で、なんでこんなキツい山道登れるんだよ?おっぱいに山登り用の体力が詰まってるのか?確かにミコは俺より辛そうだ。
…俺が言ってたって言っちゃ駄目だぞ?
「オイちゃん?少し休憩しない?」
「え?ああ、ごめんごめん。そだね、キツいかも。ミコちゃんは…ミコちゃんもキツそうね。」
汗で髪が張り付いている。ちょっと色っぽい。
「私は狩りなんかしなかったからね。山もちっちゃい頃に遊んだくらいだし、大人になってからは本読んだりしてるだけだったから…運動不足を痛感するわね。」
「ふぅん。本読んでって、ミコちゃんは何勉強してたの?」
「ロクラーンで魔法の研究してたの。ほら、ロクラーンって魔法が消えちゃったでしょ?それに、私もあんまり魔法が得意じゃなかったから、誰でも魔法を使えるようにって。」
「ロクラーン?今は辞めちゃったの?」
「うん、まぁ色々あってね。」
「結婚するから?」
「うん、まぁ。」
「なんでタキ君が答えるのよ!?それに違うでしょ!?」
「まぁでも、俺と一緒にこっち来て、俺と一緒に住んで、いずれ俺と結婚するんだから、あながち間違いでもないでしょ?」
「まぁ、そうだけど…。」
「あれ?タキちゃんもロクラーンに居たの?」
「うん。学校でミコの研究室に入ったんだ。色々あって辞めちゃったけど。」
「ふぅん。それじゃ2人はそこで出会ったのか。魔法がきっかけで恋って、なんかロマンチックだね!」
ロマンチック魔法だからな。てか、昨日ミコの部屋でそういう話はしなかったのかな?
「オイちゃんは恋人とか居ないの?」
「んぐ…。」
んぐ?
「今居ないんだって。昨日聞いてみたのに、つまんないの。」
「ふぅん。オイちゃん可愛いのに、勿体無い。」
おっぱい大きいし。
「うっわ~、出た!口説き魔だ!タキちゃん本当に気を付けなよ?ミコちゃんに怒られるんだからね?」
「そんなところも親子なのよ。」
「なんなの親子って。オイちゃんには悪いけど、ミコは可愛さのレベルが違うから。」
今日のミコは一本の三つ編みにしてる。言うまでもなく可愛い。
「タキちゃんたら、隙を見付けるとすぐ惚気るんだから、ミコちゃんも堪んないわね。さっ、タキちゃんの惚気聞いてたら日が暮れちゃうから、そろそろ行きましょ。モーグの前で一杯惚気てあげて。」
「ちょっ!そんなの止めてよ恥ずかしい…。」
流石に俺も恥ずかしいわ。
…でも。
俺が覚えてないとは言え、父親だ。ミコを見て、ちょっとでも安心してくれたら良いな。
・・・。
かたん、きぃぃぃ…。
「モーグ?オリアよ?」
ーーオリア?…。
この人が、俺の父さん…。
背は俺と殆ど同じだが、山での生活のせいか、他のドワーフと同じように身体はがっしりしている。濃い茶色の髪の毛は後ろに撫で付けてある。鼻は高く、つぶらな瞳は如何にも優しそうだ。病気で死にそうという割には元気そうだが、俺に心配かけないようにという空元気なのかもしれないから、注意深く見ておかないといけないだろう。
「ニル!モーグはどう?」
父さんじゃないらしい。
父さん!って抱き付かなくて、本当に良かった。
ーーモーグは…ん?タキか?来てくれたんだな、驚いたなモーグにそっくりだ、会ってやってくれ、モーグなら昨晩真ん中に移した。俺はこれから準備しておくから何かあったら知らせてくれ……。
「そんな、昨日朝出る時はまだ大丈夫そうだったのに、真ん中…。」
「オイちゃん?真ん中って?」
「最期の挨拶に来る人達が顔を見易いように、ベッドを真ん中に移すの。モーグはタタミにしてるからベッドじゃないけど。」
「もう長くないってことか…ま、生きてるうちで良かった。それで、父さんは何処に?」
「こっちよ。」
オイちゃんの後に着いていくと、チウンさんの居た部屋と同じような造りになってる部屋があり、その部屋の真ん中に寝床が敷いてあり…。
「おかえり、オリア…タキ?」
俺が老けたらこうなるんだろうな、というくらいに俺にそっくりな男が居て、父さんだとか本当に病気なんだとかより驚きが先に来た。
今度こそ、父さん!って言って抱き付いても間違いじゃないが、よく見ると大分細いので、そんなことをしたら冗談抜きで死んでしまいそうだ。
「ただいま…父さん。」
……。
…。
何話せば良いの?
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