メクレロ!

ふしかのとう

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第四章 父と母

第13話

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 「次は私の番だから!」


 俺とミコに結婚、そして子作りをするように急かしたオイちゃんは、続けてこう言った。

 「次?俺達が結婚したら、オイちゃんは誰かと結婚するの?」

 「そんなの、別にオリアの気持ちの整理が出来て、誰か良い人が見付かったら、私達のことなんて気にしなくても良いでしょ?」

 「流石にミコちゃんより先にタキちゃんと子供作るのは駄目でしょ。」

 うん?子供作る?

 「誰が?」

 「私が。」

 「誰と?」

 「タキちゃんと。」


 …オイちゃんが馬鹿になった。


 「オリア?あんた馬鹿になっちゃったの?」

 「えぇ!?ミコちゃんこそ、何言ってるの?まさか、私は駄目とか?」

 話が噛み合わないな…母さんが何か言ったのは間違いないんだが。

 「オイちゃん?母さんとは何を話したの?」

 「ん?モーグはタキちゃんになるのと、モーグの守った私の処女はタキちゃんのってとの、ミコちゃんはタキちゃんが他の女の子にもタキちゃんの子供を産ませても良いって思ってるってのと…。」

 何もかも初耳過ぎるんですけど。

 「私はそんなこと言ってないんだけど?」
 
 「あれ?でもザラが、ミコちゃんは人間の女の子とタキちゃんを共有することを許してるって言ってたけど?タキちゃんは魔族だから普通なんだって…。」

 マキちゃんの話だ。でもそれは流れて…。

 「他にも何人かいるから、オリアもとりあえず入れて貰いなさいって。お見合いすると思えば、幼馴染みの方が遥かに良いでしょ?って言うから…でも、違うの?」

 「違うから!マキ…人間の女の子も、最初はそう思ってたんだけど、その子と話し合って、やっぱり無理だねってなったから。」

 「えぇっ!?そうなの!?」

 「そうよ!当たり前じゃない!」

 「でも、ミコちゃんは、タキちゃんをまた別の子にキスさせたこともあるって…。」

 「いやいや!ほっぺた!ほっぺたよ!…もう、お義母様ったら何を考えてるのかしら?」

 「…私の推測だが。」

 「チウン?」



 「ザラ様はタキ君を増やそうとしている。」



 「いやいや全く理解出来ないんですけど。」

 俺を増やすってなんだよ。

 「私はもう関わりたくないくらいに説明に気が乗らないが、魔族の子供は両親どちらかが、また新しく産まれるようなものだ。例えば今私が誰かに子供を産ませると半分の確率で私が産まれる。そして何らかの事故で私が死ぬと、ここにはその新しい私が座る。」

 「でも、それまでの経験や記憶はどうなるんです?そういうのは引き継ぐものでも、交換するものでも無いですよね?」

 「記録係のチウン。それ以外は別に必要無いだろう?」

 「でも、それじゃ周りの人達は戸惑うでしょう?」

 「そんなものは時が経てば慣れる。最初は誰でも初めましてだ。そこからまた新たに関係を築けば良い。そういえば、これはタキ君がやってたことと同じだろう?」

 記憶を無くし、誰かとまた繋がり、また記憶を無くし…。

 「オリアの聞いた、モーグはタキ君になった、というのも、まぁ魔族的にはそれほど不思議じゃない。そして、積極的に色んな女の子にタキ君の子供を作らそうとしてるのは、さっき言った通り、タキ君を増やそうとしてるんだ。」

 「なんで急に…今まではそういったことをしてなかったですよね?」

 「恐らくだが、タキ君に魔族であることがばれた、魔法や呪いのことも知られた、そして…ミコーディアミックが居た。それで、今までみたいなやり方とは違うことを考えたのだろう。」

 魔族だってばらしたのも、魔法や呪いの説明したのもチウンさんだけど。

 「私?でも、それなら私が、その、タキ君との子供を産めば良いのでは?いつかはそういう風になると思うんですけど?」

 「もしかして、母さんはミコに嫌がらせしてるんじゃないですか?ほら、チウンさんも言ってたじゃないですか、殺しちゃうかもとか。」

 「ザラは誰かに嫌がらせするような人じゃないよ?それに、もしそうだったら私だって何かされてた筈だし。」

 「そうだな。私もオリアと同意見だ。」

 「じゃあなんで母さんはこんなことを?」

 「私の推測だがね。魔族の男が妻と決めた女以外の女に子供を産ませるというのはごく当たり前の話…だった。」

 「だった?」

 「これは冒険者と称する者達に殺される魔族が多かった時代の話だ。」

 視点の違い。

 「子供が居ないと殺された時にそいつは途絶えてしまう。でも、冒険者は次々と来る。すると1人の女だけでは到底間に合わないんだな。戦いに出る女も居たし。だから、妻以外でも良いということになった。すると今度は女の数が合わない。なんでか解るか?」

 「…もてるかどうか?」

 「そうだな。中身でも見た目でも金でも、やはり差は出る。するとあぶれるやつが出てきた。そうなるとそいつらは何処かから足りない分を補給しなければならない。さて、何処から補給しようか?」

 「人間?」

 「殺されるのは冒険者のせい。だから、人間達のところに行って女を連れて来るのは当たり前だ…これが、魔族の悪い噂が世界中に広まった原因だ。」

 「…リリーディアやおじいちゃんが冒険者を辞めたのって、そういうのが嫌だったからかしら?」

 「リリーディアさんとガーイースミックは、私を殺そうとしてたんだがね。なんとか見逃してくれて、その後ご飯を食べながらこの話をしたんだ。帰った後に結婚して冒険者を辞めたようだな。」

 「そうだったんだ…チウンさん、祖父母がとんだご迷惑を…。」

 「見逃して貰ったし、お金も貸して貰ったし、助かったのは私の方だ。」

 「なんでリリーディアさん達は見逃してくれたんです?」

 「リリーディアが言ってたわね、ひどいことになったって。あ、タキ君?まさかリリーディアのえっちな話を…。」

 「あ、そうか。いや、それなら別に良いです。」

 ちょっと興味あるけど。

 「そうか。まぁ兎に角、魔族の男にとって妻以外の女に子供を産ませるのはそういった理由だが、いつしかひとつのステイタスにもなっていったんだ。」

 俺はもてるぜ!ってことだもんな。

 「だが、これは冒険者が来なくなってきてから無くなったんだ。殺されないのに増えたのでは困る。そこで我々は一夫多妻を辞めることにしたんだ。」

 「というと、母さんがこんなことをしてるのは昔の慣習で俺に?」

 「恐らくは。だが、ミコーディアミックもだ。」

 「ミコも?」

 「私?」

 「一夫多妻の頃、男が妻以外の数を誇ったように、どれ程もてる夫の妻であるかがステイタスだったからな。だからね?ザラ様はきっと、タキ君とミコーディアミックを精一杯祝いたいんだと思うよ。ついでにタキ君が増えたら幸せだし、みたいな?」

 みたいな?じゃないでしょ!


 「それじゃ、ザラが言ってた、今度返して貰うっていうのは…。」

 「タキ君はモーグであり、モーグはタキ君であり、その子供はモーグでもありタキ君でもある訳だな。」

 もう訳が解らないよ!

 「そっか…。」

 オイちゃんは母さんに父さんの死に際を、借りてた。母さんは返して貰うと言っていた。返し方は、俺との子供を作れ…これ、キッツいな。


 「…ミコちゃん。」

 「駄目!って言いたいところだけど…もし私がオリアの立場だったら、お義母様がしてくれたことがあまりにも有り難過ぎて…。」

 「でも、私はミコちゃんの気持ちも、物凄く解るの。私だったら、そんなこと…だから、ミコちゃんお願い。私と、ザラにどうやって返せば良いか一緒に考えてくれないかな?」

 「オリア…勿論よ。私こそ、良い答えが出た方がすっきりするし、これはオリアとちゃんと話したい。」

 「俺の意見は?」

 「タキ君はえっちだから。」

 「タキちゃんはえっちだから。」

 仕方なくオイちゃんとえっちな事をします、とでも言うと思ってるんだろうか。言うけど。


 「まぁ良いや。兎に角、母さんはミコのことをちゃんと認めてるみたいだし、あとは母さん…あれ?母さん?」

 大変だ。

 「母さんが俺との子供をって話は?」

 「あ。」「あ。」

 「あ、じゃないよ!2人ともなんか良い雰囲気だけど、何2人して母さんに誤魔化されちゃってるんだよ!?そうだ、2人とも母さんに上手いこと誤魔化されちゃってるってことは…。」

 「いや、違うのタキちゃん。あれはミコちゃんがちょろいから…。」

 「なっ!?オリアだってすっかりその気になっちゃってたじゃない!まったくオリアったらえっちなんだから。」

 「なっ!?…決めた。やっぱり私、タキちゃんの子供を産みます。」

 「はぁ!?駄目なんですけど!?あんたにはタキ君の枕貸してあげるから、そっちで宜しくやってなさいよ!」

 「んなっ!?そんなことまで持ち出すとは…あ、そっか。ミコちゃんは怖いんだ。タキちゃんが私の山登りしたら平野になんか下りられなくなっちゃうかもしれないもんね。」

 「…ほう?」

 「…何かしら?」

 「…それじゃ、私はタキ君との間に子供を作りません。」

 「…ふぅん。確かにそれなら私は手出し出来ない。だけど、タキちゃん可哀想。ずっと好きな子とえっち出来ないなんて…。」

 「え、えっちは、します。」

 「あら?あらあら?さっき誰か、私のことをえっちって言った人が居たけど、子供は作りませんけどえっちはします?えっちしたいだけってことかしらねぇ?」


 「あの2人は何やってんですかね?」

 「いや…ミコーディアミックの言う事も間違いではないかもしれんな。」

 「オイちゃんに枕貸すのがですか?」

 「いや、子供を作らない、だよ。我々魔族は、さっきも話したが、子供を作らないといけない時期があった。その時に我々は呪いで子供を作りたい時に作れるようにした。これは、作りたくない時は作れないのだ。爛れた肉欲生活にもってこいだ。」

 なんてこと言うの!?

 ミコと爛れた肉欲生活とか想像出来ないな。

 「爛れた肉欲生活は兎も角、子供を作らないのは何が正解なんですか?」

 「ザラ様だ。ザラ様はタキ君との子供を作るつもりだ。モーグが死んでそこにタキ君が収まった、という言い訳も出来る。だが、ミコーディアミックが居る。ザラ様がミコーディアミックをタキ君の妻と認めたなら、お先に失礼という訳にもいかない。だから、さっさと結婚して子供作れって言うのだろう。」

 「…てことはつまり?」

 「結婚して子供を作ったら、次の日にはタキ君はザラ様に襲われるかもしれん。」

 なんてこった。

 「だから多分だが、ミコーディアミックとの間に子供を作らなければ多分無事多分。」

 「多分が多いんですけど。」

 「自信が無いからだ。」

 「……。」

 「私から言えることは…。」

 「はい…。」

 「ザラ様が来たらさっさと子供を作れ。」

 「え?なんでですか?」

 「タキ君が作りたいと思わなければ出来ない。するときっとザラ様は…出来るまでする。何処かに監禁されて本格的な爛れた肉欲生活を送るだろう。」

 「母さんが怖過ぎるんですけど。」

 「まぁ、今無事ならミコーディアミック優先は間違いないから安心したまえ。私にはそれしか言えない。」



 ーーこんばんは、ととやです、お代は、頂いてますね、それでは、またよろしくお願いします、ありがとうございました……。


 「来た来た。晩飯を食おう。弁当だ。」

 「あれ?1個多くないですか?誰か来るんですか?まさか母さんの…。」

 「いや、モーグの分だよ。」

 「あ……。」


 蓋を開けると、色とりどりのおかずに、米に何か入ってる。

 「今日はね、肉や魚を使わない弁当にして貰った。あと、米はタケノコご飯というものだ。タケノコはタケという、矢鱈と伸びる植物の芽でな。流行りの時期はもう終わりかけだが、モーグに嫌みのつもりだ。」

 「どういうことですか?」

 「タケノコはね、その芽が出る瞬間しか食べられないんだが、伸びが早いせいで、時期を逃すとすぐに食べられなくなってしまうんだ。誰かは食べ頃な時期に食いそびれて死んだが、生きている我々は美味しいタケノコを美味しく頂こうと思ってな。」

 タケノコご飯を食べると優しい香りが口の中に広がって、美味しい。


 チウンさんの横の空いた席に弁当が置いてある。


 父さんも、せめてタケノコご飯くらい食えよな。


 食わないなら俺が食っちゃうぞ?


 オイちゃんも…やっぱ食べたら駄目だろ?


 


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