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第七章 降臨
第16話
しおりを挟むーーメクレロ。
ーーきゃっ…あっ、しまっ…。
ーーそこね?
マキちゃんが見つかった。私に出来る事は捕まるであろうマキちゃんの無事を祈ることと、その隙にこのかくれんぼから抜け出すことだ。
そう、これはかくれんぼ。
鬼は、ザラ。
こんな状況になったのは、ザラにタキちゃんの好きなお酒を飲ませたからだ。誰が飲ませたかとかはもう…。
・・・。
「それでオリアったらタキのこと、弟じゃなくて自分の子供みたいに扱うのよ?何でかは私、もう知ってたけど。」
「ざ、ザラ?その話は止めてよ!」
「あははタッ君のお父さん好きだったからでしょ?か~わい~!」
「うふふ、小さい頃のオリアさんも可愛かったんでしょうね。」
「ちょっとブルちゃん?も、ってことは、まさかこんな大人のオンナを捕まえて、可愛いとか思ってるんじゃないでしょうね?」
「えぇっ!?あ、いやその…。」
「事実じゃない?むしろブルの方がよっぽど大人っぽいし、背高いし、落ち着いてるし。ねぇママ?」
「そうねうふふ。」
「マキちゃん!?ザラまで!?…くぅ~、これが飲まずに…あれ?」
「無くなっちゃった?」
「うん。まだあるのかな?」
「それが、ぶどう酒はそれで最後なんです。あとはタキさんの好きなお酒しか無くて…。」
「あら?タキの好きなお酒があるの?」
「ザラ?流石にあれはきついから止めといた方が良いよ?」
「でも、あなた達は飲めるんでしょう?」
「まぁ…。」
「甘いって話しか知らないの。甘いのは私好きだから、飲んでみたいわ?」
「でもザラはもう結構飲んでない?」
「ザルですもの。」
「オリア?ママも飲んでみたいって話だから、ひと口だけ飲ませてあげれば?あれきついから飲めないかも知れないしさ。オリアの話も盛り上がって来たしさ。」
「マキは良い子ね。あとでちゅうしちゃう。」
「えっへっへ~。」
「ひと口で、駄目だったら止めとくんだよ?お水にするんだよ?あんまり私の話はしないでよ?」
「大丈夫よ?大人ですもの。」
「…はい、ひと口分。」
「うふふ、頂きます…うっ!?」
「ざ、ザラ!?やっぱり無理だったんでしょ!?吐き出して!?」
「うまい。」
「何してんのよ、驚かせないでよね。美味しい?」
「甘くてとっても美味しいわ。すいすい飲めちゃいそう。」
「ママ?そう言ってぐいぐい飲んで潰れる人も多いお酒だから気を付けてね?」
「大丈夫よ?大人ですもの。」
「さっきからそればっかり。まぁ良いけどさ。私にもちょうだい…んっ!甘いきつい!でも飲んじゃう!」
「うふふ、オリアがこんな呑ん兵衛になるとは思わなかったわ?でも私はもうこれで充分。あとはお水にするわね?」
「随分聞き分けが良いじゃない。本当、大人じゃん。」
「だから言ったでしょ?それじゃ、お水を取ってくるわ。」
「ザラさん、私が取って来ますよ?」
「いーのいーの、ブルゼットは座ってて?場所はわかってるのよ?いーのいーの。」
「…ママ大丈夫かな?」
「大丈夫じゃない?別にふらふらしてる訳じゃないし。あとは適当にタキちゃんのベッドで寝かせれば良いよ。マキちゃんはそろそろ帰るんでしょ?」
「もうこんな時間か…そうね、でももう少しママとお話ししてから帰ろうかな?こういう機会無かったから、なんか帰るの勿体無くて。」
「それはそうかも。あんまり会えないもんね。」
「私も、こんな風にお喋り出来て凄く楽しいです。早く大人になって、一緒にお酒飲めるようになりたい!」
「オリア?ブルがお酒飲める頃、あんた30歳ね?」
「う…なんてことなの…。」
「はいはーい、私は何歳に見えますかっと。マスカット。お水、あったわ。また取りに行くのが面倒だから2本持って来ちゃった。鶏肉。」
「…ザラ?これどこから持って来たの?」
「タキの部屋よ?」
「返して来なさい。」
「王妃様?これって何?」
「あ、これはタキさんが作った、女殺し屋でもちょっと触られるだけで気持ち良くなっちゃう薬ですよ…ってザラさん!?飲んじゃ駄目ですよ!?」
「飲みません、混ぜます。」
「あっ、ちょっ、ザラ、えぇっ!?」
「何と混ぜたのかしら?」
「多分ですけど、バキーンと長持ちの…。」
「タッ君のタッ君がダッ君になるの?」
「ダッ君て何ですか…でも、男の人用と女の人用のを混ぜるとどうなるんだろう?」
「ブル?えっちに興味があるのも程々にしとかないと…。」
「ザラ!捨てるから貸して!」
「僅かとは言えタキが記憶を飛ばしてまで作ったお水を捨てるって言うの?」
「ザラが混ぜなかったらちゃんとしかるべき時にしかるべき人が使ってたの!それはもう、よく分からないものになっちゃったんだからしょうがないの!」
「じゃあ、試してみましょう。」
「ためす?まさかザラが飲むんじゃ…どこ行くの?」
「ミコの部屋?」
「びび…。」
「びび?ザラ?」
「扉の前で、どうしたのかしら?」
「やっぱりザラさん、酔っ払ってるんじゃ…。」
「びび…びびでぃ…。」
「ザラさん?」
「でぶ!」
「でぶ?ザラ?どうしちゃ…。」
ーーわん!あんっ!あぁっ!違うよ?犬はわんでしょ?わぁん!あっ!あっ!わぁ!あぁん!すご、わん!
「……わん?」
「……ミコ?」
「……これ、まさか…。」
「ザラ、参る。」
がちゃっ。
「入るんだ…。」
「入っちゃうんだ…。」
「入っちゃいましたね…。」
ーーわぁん!わえ?きゃああああっ!?お、おおおお義母様!?か、母さん!?何してんぐ…ちょっ、母さん!?今何を飲ませ…あぁっ!あっ!あっ!あ……。
「静かになっちゃった。」
「ミコ…。」
「どどどどうしよ?どうしよ?」
ーーふわぁっ!ちょっ!あっ!だめ……あぁっ!タキ、タキ君、とま、あ……ふわぁっ!あっ!あっ!おかあさま、すっちゃ、あ……。
「ミコの声が途切れて聞こえるわね…。」
「気絶と覚醒を繰り返してるじゃん…。」
「怖過ぎるんですけど…。」
ーー御馳走様、あら?わんこちゃんもうおしまい?でも大丈夫、ちょっと待ってて?次は猫ちゃん連れてくるわね?
・・・。
私達はザラが戻ってくる前に慌てて隠れたんだけど、メクレロ?ってザラが言ったらマキちゃんが反応しちゃった。何かされたんだ。
それで、これから捕まるであろうマキちゃんは、猫にされちゃうんだ。とにかく私は息を潜めて、じっと待つしか無い。
ーーママママママ?今日は楽しかった!うん、また今度一緒に飲も?
ーーマキ?私はマキに謝らなくちゃいけないことがあるの。
ーーなにも!なんにも謝ることは無いですから!猫にすることを先に謝るつもりなら、謝るならやらない方が良いって昔から…。
マキちゃんがザラを説得してる。
ーー違うわ?私が謝るのはタキのこと。魔法であなたのことを忘れちゃったのは、私の、私達のせい。
ーーえ?
これは…真面目な話だ。
ーー大怪我をした子の母親の心からの祈りに私達の誰かがちゃんと気付いてあげるべきだった。いえ、気付いていたのに、先にタキに魔法を使わせてしまったの。私達は間に合わなかった。
ーーえっと、それはどういう…。
ーー私達、いえ、少なくとも私はその子の為にも、タキの為にも、そしてあなたの為にも、間に合うべきだったの。心からの祈りや願いは私達の仕事なんだから。
ーーな、なんで脱いでるんですか?
服脱いでるの?
ーーだから、私はあなたにずっと謝りたかったの。ごめんなさいね?
ーーいえ…それよりとりあえず服を…。
ーーだから私はあなたを、なんとかして、やりたいと思ってたの。
やりたい?切り方が変だよザラ。
ーーママ?まっ、ママ!?は、はねが…。
ーーうふふ、可愛がってあげるわ?
ーーいや、ちょっ、えぇっ!?なんではねが…。
はね?なんだろ?ザラが何かの羽根でも持ってるのかな?でも見てみたいけど見つかっちゃう…。
ーーやっんぐ…えぇっ!?ちょっ今何を飲ませ…あっ!やっ!なにこれ、だめ!え?いや今そっち行ったら、あん、これなに、あん、まさかくすり…。
…ぱたん。
ーーはぅっ!た、タッ君まって、あっ!あん!ちょっ、え?に、にゃあ!にゃあん!にゃ!にゃ!駄目!んにゃあ!にゃあん!に、にゃ、なぁ!なああ!なああ!……はぁっ!なぁ!だめにゃ!ザラさ、すっちゃ……にゃあ!……んなあ……。
マキちゃんが猫に…しかも後半は完全に発情期の猫みたいだった。そしてタキちゃんはズッキーニで犬も猫も…あとザラは何を吸ってるんだろう?おっぱい?
ーー……あら?猫ちゃんももうおしまい?それじゃ、次はお馬さんね?
何故馬?
でもこれはきっと、ひひぃんと鳴かされて…そうか。ひひぃんぶるぶるぶるって鳴くから、次はブルちゃんだ。きっとそうだそうであるべきだ。
「オリアさん。」
「ブルちゃん?どうしたの?」
「上手いこと収まってるんですね。」
ソファの背もたれと壁の隙間に入ったら、私の為にあるんじゃないかというくらいぴったりだった。
「そこから動かないですか?」
「ブルちゃん?それはどういうことかな?」
まさか、私の居場所をザラに言うんじゃ…。
「私は、私もだけど、タキさんが好き。だから、今まで黙ってたけど、本当はタキさんとえっちをしたいんです。」
黙ってた?
「だけどそれは、こういう形じゃなくて、2人でお買い物とかお出掛けした流れでとか、2人で旅行をしてとか、そういう風に普通の恋人同士みたいにしたいんです。」
「それは私も一緒だよ。」
「せめて最初くらい普通にしたい。馬になるなんて絶対嫌なんです!」
「それだって私も一緒だよ!?」
「…なんとなく、私達は助からないと思います。絶対に捕まるんじゃないかって。でも、次は馬でも、その次は分からないじゃないですか?だからオリアさん、馬になって貰えませんか?」
「無理。そんなまっすぐお願いされても、無理なものは無理だよ?公平に、隠れて先に見つかった方が馬ってこと。正々堂々、恨みっこ無しで頑張りましょ?」
「…分かりました。オリアさんはソファの裏ですね?」
「…ううん。もう場所を変えるよ。ブルちゃんこそ、どこに隠れるつもり?」
「…トイレです。鍵も掛かるし。」
「なるほどね。それじゃ。」
「ええ、また。」
ブルちゃんはトイレって言ってたけど、多分違う場所だ。私も、別に動かない。動けば何かしらの痕跡を残して、そこから次の場所を推理されてしまう。ここと決めたら動かないのは、かくれんぼの私なりの決め事だ。勝率も悪くないし、そもそもザラにもよく言われたものだ。オリアはかくれんぼが上手ね。
がちゃ。
ーーうまうま…あら?
ザラが来た。
ーーふむふむ。オリアさんはソファの裏…か。
ブルちゃんめ!やりやがったな!
トイレ以外のどこかがわからない以上、ブルちゃんを差し出すことも出来ないし、もはやこれまで。私はこれから馬になる。
ーーここかな?
がちゃ!
ーー居ないわね。こっちかしら?
がちゃ!
ーーここも違うか…。
…なんでだろう?私のところには来ない?嘘だと思ってるのかな?
「…オリア。小さい声で喋るのよ?」
ばれてるし。
「…何?」
「そこで無理矢理連れて行かれる真似して頂戴。上手いこと出来たら、見逃してあげる。」
どういうことだろう?
でも、私に選択肢は無い。
「わかったよ。本当に上手く出来たら…。」
「ええ。あなたの好きにして頂戴。」
「うん。それじゃ…。」
「私からやるから合わせて?」
「うん。」
「うふふのふ!オリアったらこんなところにいたのね!?」
棒読み過ぎるでしょ。
「わわっ!みつかった!あっ!やめて!」
「さあさあ、つぎはオリアのくしざしよ~。」
「あ~れ~。」
ぱたん…と扉を軽く開けてすぐ閉めたらしいザラ。
「完璧よ。見逃してあげる。だけど、私が良いって言うまでまだ動かないでね。」
「わかった。」
…がちゃ。
ーータキ?ミコ?来たよ。
え?誰か来た…こんな時に誰?
ーー…デビイ?
ーーブルゼット?
ーーデビイ!どうしたの!?
ーーザラに呼ばれたの。ブルゼットはどこなの?
ーーその辺にザラさん居る?
ーーザラ?いないよ。
ーーそう、ちょっと待っててね。
ごそごそ。
ーーふぅ…え?
ーーデビイだよ?
ーーな、なんで…。
ーーうふふ、同じ顔なんだから同じ声出るの。似てたでしょ?さ、お馬さんになりましょ?
ーーい、いやです!私、馬なんて…。
ーーそうなの?
ーーはい…私にはまだズッキーニは早いし…。
ーーそうね。それじゃこっちにいらっしゃい?
ーーな、なにを?
ーーいーからいーから。
ーーは、はぁ。
…ぱたん。
ーーえぇっ!?な、な、何で縛って、え?あっ、え?はね?そんな、あっ、え?なんかもどかし…あっ、もう、ひとおもいに、あっ…え?ち、違います!あっ、はねだめ、あっ、えぇっ!?はね!?はねってそういう、ちょっあっ、ざ、ザラさんはねが、はね、あっ…。
ブルちゃんがザラに何かされてるみたい。焦らされてるみたいな。それで、また羽根?羽根でこしょこしょされてるのかな?
ーーざ、ザラさん、あっ、ん…ざ、ザラさま?なんだか切なくて、ひぃ、ザラさまぁひん…焦らさないで下さいぃあっ、ひん…あっ…。
ブルちゃんがおかしくなってる。しかも結局、ちょっと馬みたいになってるし。ひんひん言っててちょっとカワイイ。
・・・。
ブルちゃんの悩ましげな声は終わらない。
まだ、良いって言われて無いけど、今だ。
今のうちに外に出て…。
え?
タキちゃん?
なんなのそれ?
ソテーじゃ食べられないやつじゃん。
煮込みで食べるやつじゃん。
身体が動かない。
あ、捕まっちゃった。
あ、耳…。
本当に恐るべき魔族だ。
力が抜けてもう…。
あ、ザラ!助けて!
見逃してくれるって…。
…ザラに羽が生えてるじゃん…。
なんで…。
「あら?次はうさぎちゃん?」
もう無理。
うさぎの鳴き声って、ぴょんで良いのかな?
0
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