恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

文字の大きさ
36 / 39

第36話

しおりを挟む
朝起きたら、咲也がいなかった。

「買い物にでも行ってるんじゃないですか?」

タクがあくびをしながらそう言った。

「こんな朝早く?」

まだ朝の8時前だ。

「朝食作るのに何か足りなかったとかで、コンビニでも行ってるんでしょ。夜ならともかく、朝ならそう心配することもないんじゃないですか?」

「そうだけど―――」

「あれ、2人とも早いね」

突然後ろから咲也の声がして、俺は飛び上るほど驚いた。

「咲也!どこ行ってたの?てか、どっから来たの?」

確かにさっきまで家のどこにもいなかったはずなのに、咲也が今出てきたのはキッチンだ・・・・・。

「あー・・・・下見、してたんだ?」

タクが驚きもせずにそう言った。

―――下見?

「うん。1年間使ってないと、ときどき変なのが住みついてたりするから」

―――住みつく?

「あの・・・・なんの話?」

俺の言葉に、タクが苦笑した。

「この人、さっきからずっとさっくん探してたんだよ。いきなり人のこと叩き起こして、『咲也が消えた!』って―――」

「だ、だってさ―――」

「ふはは、ごめん。まだ2人とも寝てると思ったから・・・・あ、朝ご飯作るから、座っててよ」

「はーい。ほら、真田さん、馬鹿みたいに口開けてないで行きますよ」

「バカってゆーな!てか、咲也、どこに―――」

「いいからいいから」

ぐいぐいと背中を押され、俺は結局咲也に真相を聞けないままリビングのソファーで朝食ができるのを待つことになったのだった・・・・・。




「―――あ、やべ、もうこんな時間か」

時計を見ると、もうすぐ9時になるところだった。

咲也の作ってくれた朝食を食べ終え、俺はガタガタと席を立った。

「柊真、今日も出かけるの?」

「うん。花火大会までには戻るから」

「時間、覚えてる?」

「7時だろ?覚えてるよ。絶対遅れないから」

「絶対ね」

じっと俺を見つめる咲也の瞳が、少し不安に揺れているように見えた。

「絶対、約束する。―――信じて」

咲也の手を握ってそう言うと、ようやく少し安心したように咲也が笑った。

「ん・・・・信じてるよ」

「じゃ、行ってくる―――と、タク、お前いつまでいるの?」

「・・・・すっかり忘れ去られてると思いましたよ。心配しなくても、真田さんが帰ってくる頃にはいなくなってますよ」

そう言ってタクがにやりと笑った。

―――何となく不安が残るけど・・・・でも、ゆっくりしてる余裕はないんだった。

「―――行ってきます」

「「行ってらっしゃ~い」」

仲良く手を振る2人を後に、俺は出かけたのだった・・・・・。



「―――しかし、ここんとこ急に忙しそうだよねえ、真田さんは」

俺が呟くと、さっくんがきょとんと首を傾げた。

「個展の準備だからでしょ?」

「個展って、3ヶ月後なんだよね?今からそんなに忙しいもの?」

「いや、俺にはよくわからないけど―――違うの?」

「さあ、ね。さてと、俺もそろそろ帰ろうかな」

「え、もう?」

驚くさっくんに、俺はふっと笑った。

「だって、これ以上いたら帰りたくなくなっちゃうじゃない」

会おうと思えばいつでも会える。

だけど今日は、きっとこれ以上いたらさっくんと離れるのが辛くなると思うから―――

「今日はあのカフェに行って、ふてくされてる幹ちゃんと圭ちゃんの見学でもしてくるよ」

「ふふ、見学って・・・・え、でも何であの2人がふてくされてるの?」

「なんでって・・・・・あ、ほら、花火大会なのに2人とも仕事じゃないですか」

―――ホントは違うけどね。

「あー・・・・そうだよね、俺が休みもらっちゃったから・・・・悪いことしちゃったね」

「あ、気にすることないよ。どうせ休みがあったところで、あの2人には一緒に見る恋人もいないんだから」

俺の言葉に、さっくんは苦笑した。

「そういえばそうだね。なんでだろうね。あの2人ならもてそうなのに」

「さあ・・・・・なんでだろうね~・・・・・」

まぁ、いずれは真相を知る日が来るかもしれないけれど・・・・・

きっとさっくんが自分で気付くことはないだろうなと思うと、ちょっと2人が不憫にも思えてきた・・・・・。

「真田さん、間に合うといいね」

「うん・・・・でも、前に絵を描いてると時間を忘れるって言ってたから・・・・・ちょっと心配なんだよね」

「ふーん・・・・・本当に絵を描いてんのかね・・・・・」

「え?なんで?」

さっくんが不思議そうに目を瞬かせる。

「いや、なんか真田さん見てると・・・・」

―――なんか、企んでそうなんだよな・・・・・。

「なんだよう?気になるじゃん、柊真が何してるっていうの?」

口を尖らせるさっくん。

あ、やばい、可愛い。

ダメだな、これ以上ここにいるのは―――

「なんでもない、なんでもない。きっと俺の勘違いだよ。さっくんは真田さんのことを信じて待ってれば大丈夫だから!」

「―――なんか急にいいやつになったな」

「何それ、俺はいつでもいいやつだって」

さっくんのためなら何でもしちゃうんだから、こんないいやついないでしょう!

さっくんのためならたとえ火の中水の中―――ってね。

「―――いい日になるといいね」

「―――うん」

極上のさっくんの笑顔に見送られ、俺はさっくんの家を出たのだった・・・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

愛などもう求めない

一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...