一目惚れしたきみはぼくの生徒だった

まつも☆きらら

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松島の願い

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「お、時田ぁ、また雪村先生に会いに来たのかよ」

冷やかすような声をかけてきたのは、ちょっと年配の国語の教師だ。
その声に、時田はにっこりと笑う。

「はい。あ、先生、あとで国語教えてください」
「おー、いいぞ!」

にやにやと頬を緩める教師。

―――まったくこいつは・・・・

最近、ちょっと時田のことがわかってきた。
こいつは自分が年上にうけるツボを知ってるんだ。
だからこうして職員室に入り浸っていても怒られるようなことは絶対にないし、逆に教師たちにかわいがられているのだ。
そして、最近は視聴覚室ではなく職員室の隅のスペースに机と椅子を置かせてもらい、勉強を教えるようになっていた。
2人きりになるのはまずい、というミヤの意見を聞き俺から提案したのだけれど、時田は何も疑問を口にするでもなく『わかった』と言った。
もしかしたら、時田も同じことを考えていたのだろうか・・・・。

「時田くん、わたしが英語を教えてあげましょうか?苦手だって言ってたでしょ?」

新任の女性教師が時田ににこやかに話しかけた。
若さはもちろん、小柄で可愛らしくいつもニコニコしているので生徒にはとても人気がある教師だった。

「うん、今度教えて。先生の英語の発音、超きれいだから聞きやすい」
「ほんと?時田くんにそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいな」
「ほんとのことだもん。絶対約束ね」
「もちろんよ」

時田のすごいところは、年配の頭の固い教師と若く柔軟な教師に対しての態度が微妙に変わるところ。
言葉遣いがそれで、年配の教師に対しては敬語を崩すことなく使い、若い教師に対してはまるで親しい友達と話すように親しげに話しかける。
どちらにしても相手が気を悪くすることはなく、その笑顔にすっかり気を許してしまうのだ。

「・・・お前、うまいよな」
「ん?何が?」
「いや・・・・どこの世界でもやっていけそうだなと思って」
「んふふ、何それ」
「将来、なりたいものとかあるの?」

俺の言葉に、時田はきょとんとした表情で目を瞬かせた。

「なりたいもの・・・・まだ、わかんない。せんせーは?なんで教師になろうと思ったの?」
「俺?俺は・・・・まぁ、ありきたりだけど高校の時に世話になった先生の影響、かなぁ」
「そうなんだ?」
「結構破天荒な先生だったんだけど、すげえ面白い先生でさ、いい加減そうに見えるのに、俺たちに見えないところで生徒のためにいろんな努力をしてくれてたの。それ、卒業するまで全然知らなくて・・・・副坦に話聞いた時、俺泣いたもん。で、すげえ人だなって。あんな人になりたいって思ったの。まだ、全然追いつかねえけどな」
「・・・・雪村せんせーはすごい人だよ」
「え?」

時田が、俺を見つめてにっこりとほほ笑んだ。

「俺にとってはね」




たとえ、それが『教師』としての俺に言った言葉だったとしても。
あの笑顔で言われたら、破壊力抜群で。
もう、時田のことで頭がいっぱいになってしまう。
これはやばい。
本格的にやばい。
授業中でも、知らずにあいつに視線が行ってしまう。
そんなとき、目が合うとあいつはちょっと恥ずかしそうにはにかむんだ。
そういう表情がまた可愛くて、授業にも集中できなくなってしまう・・・・・

「雪村せんせー!時田のこと好き過ぎ!今授業中だよ!」

1人の生徒が冷やかした。
どっと教室が湧く。
ただ1人、笑っていなかったのは松島光孝だ。
じっと俺を睨みつけ、シャーペンを握っていた手に力を込める。
それはただ、怒っているというよりももっと違う何か・・・・焦りのようなものを感じる視線だった。

松島は明るく優しく、いわゆるクラスのムードメーカー的存在だった。
時田とは親友同士だったけれど、他のクラスメイトや同じバスケ部の連中とも仲が良く、大勢の輪の中心にいつもいるような生徒だった。
いつも笑顔のお調子者。
だけど、今俺を睨みつけている松島はそんないつもの松島とはまるで別人のようだった・・・・・。



「雪村先生、話があります」
「・・・・わかった」

学校を出た俺を待っていたのは松島だった。
今日、時田は俺のところへ来なかった。
それはもうテスト前で、生徒は授業が終わると早々に寮へと帰されるからだった。
俺たち教師はテストの作成に追われ、帰る頃には外は真っ暗になっていた。

俺は松島を寮とは反対側の場所にある、ファミレスへ連れて行った。
寮の傍のファミレスは学校の生徒が多くて見られる心配があるが、こちらは学校からも少し離れていて、寮の反対側にあるので利用する生徒はほとんどいなかった。


「―――蒼ちゃんには、もう近づかないでください!」

席に着くなり、松島はそう言って俺に頭を下げた。

「ちょ・・・・落ち着けよ、まずは何か注文して―――」
「あ・・・・はい、すいません」

松島がちょっと赤くなり、メニューを広げた。
素直なんだよな。
すごくいい子なんだ・・・・・。

「・・・・で、時田に近づくなって?」
「蒼ちゃんが・・・・傷つくのが、いやなんです」
「どうして傷つくって・・・・」
「だって、先生は先生じゃないですか」
「そりゃあ・・・・」
「どんなに蒼ちゃんが先生のことを好きになったって、先生が蒼ちゃんと付き合えるわけないでしょ?俺、バカだけどそれくらいわかるよ。先生は、生徒と付き合うことなんてできない。そんなことがばれたら先生をやめさせられちゃうから。蒼ちゃんのことすごくかわいがってたって・・・結局自分の方が大事なんだよ。先生なんて、みんな同じだもん」

松島の目には、涙が光っていた。
その姿に、俺の方が戸惑う。

「松島・・・・?なんで急にそんなこと言うんだ?時田が・・・・どうかしたのか?」

俺の言葉に、松島は首をぶんぶんと振った。

「蒼ちゃんのことは、俺が守るから!どんなに蒼ちゃんが傷ついても、絶対に俺が蒼ちゃんを守る!だから・・・・まだ、今なら間に合うから・・・・お願いします。蒼ちゃんのことを―――諦めてください」

そう言って松島は、テーブルに頭が着くほど―――
いや、実際にテーブルに頭を打ち付け、ごん!と鈍い音が鳴るほど。
深く深く、頭を下げたのだった・・・・・。
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