5 / 14
誰のため
しおりを挟む
「時田、もうここへは来るな」
いつものように職員室にやってきた時田に、俺はそう言って背中を向けた。
「え・・・・何で?今日は、テストの復習・・・・」
「自分でやれ。俺は忙しいから・・・もう、お前に教えてやることはできない」
「なんで・・・・急に・・・・・」
「教師には、教師の仕事があるんだ。お前1人にだけ構ってやることはできないんだよ」
「・・・・・・」
背後で、時田が走り出す気配。
やがて足音が遠ざかり・・・・
俺は、後ろを振り返った。
そこに時田はもういなかった。
拳を握りしめ、歯をくいしばるように下を向いた。
松島にもう時田には近づかないでくれと頼まれて数日。
それでも俺は、時田のことを諦めたくはなかった。
なんとかして松島に納得してもらえないものかと思っていた。
その矢先―――
『雪村くん、生徒の1人と交際しているというのは本当か?』
突然、校長に呼び出されそう聞かれたのだった。
『え・・・・そんなことはしていません』
『1年の、時田蒼汰という生徒と親密だという話を聞いたのだが』
『それは・・・・放課後に、時田に勉強を教えていますが、それだけです。交際しているなんていうことは―――』
『それが本当だとしても、そういう噂が立っているということも事実だ。あまり、軽率な行動を取ることは他の生徒への悪影響になる』
『僕は、誤解されるようなことは何も・・・・』
『実は父兄から、そういう抗議の電話があったんだ』
『父兄から?どうして・・・・』
ここは全寮制の学校だ。
どうして父兄が・・・・?
『子供から電話で聞いたそうだ。先生と生徒の中で、異常に仲のいい2人だいると。付き合ってるんじゃないかって生徒たちの間では噂になっていると』
俺と時田が2人で勉強しているのを知っている生徒や教師からからかわれることはあった。
だがそれはあくまでもからかっているだけで本気でそう疑われてるなんて感じたことはなかった。
その電話で話したという生徒も、ただそんな噂があると軽い気持ちで言っただけなのではないか?
俺はそう思ったが―――
『その父兄は、そんな淫らな関係の教師と生徒がいる学校に子供を預けたくないと言ってきたんだ。早急にその2人を別れさせるか、その生徒を退学にしろと―――』
『え・・・・ちょっと待ってください!それなら、僕を辞めさせればいいじゃないですか!どうして時田を―――』
『どうやら・・・・その生徒は、生徒の方が教師を誘惑していると話をしたようだ。時田という生徒はもともと男が好きで、生徒の中には時田と付き合っていた者もいると。そんな生徒がいて、寮で何かあったらどうするのかと』
その時、ふと何かが頭をかすめた。
時田は生徒の中でも人気があると、確か生田が言っていた。
手紙をもらっていたと・・・・
そのときは松島がその手紙を捨てたと時田が言っていたが、手紙をもらったのはその時だけじゃないのだろう。
もし、その手紙の主の中に時田に返事がもらえなかったり、振られたことを逆恨みしていたやつがいたとしたら・・・・
『とにかく、その話が事実ではないとしても不信感を抱いている父兄がいることは事実だ。時田蒼汰を特別扱いしたりするのはやめた方がいいだろう。なるべく会話もしないように。寮内でのことについては寮管に注意して見ているように言っておくから、きみは関わるな。もし何かあれば―――時田を退学にせざるをえなくなる』
寮管というのは、寮の管理をしている職員のことだ。
門限を守らなかったり、夜抜け出そうとしたりする生徒がたまにいるので常時2人の職員が泊まり込んでいる。
もちろん外部の人間―――女の子を連れ込んだりする者がいないよう、防犯カメラや警備システムも厳しく管理されている。
だが、寮内部でのことについては意外にも緩い部分があると聞いていた。
男子校だから当然男子しかいないわけで、仲のいい友達同士、お互いの部屋を行き来したり時にはそのまま自室以外に泊まったりすることもあるのだが、門限である夜の8時の点呼に集まることができれば特に注意されることはないということだった。
もちろん、ケンカやいじめなどがないよう就寝後の見回りなどはしているらしいが・・・・。
『時田は・・・・俺を誘惑したりはしていません。まじめで、勉強熱心ないい子です。退学だなんて、そんなことは・・・』
『だったら、きみの取るべき行動は言わなくともわかるだろう?きみは教師なのだから』
『・・・・・はい』
時田に、不純な気持ちを抱いてはいけない。
そんなことは、最初からわかっていたことだ。
それでも俺は、時田に惹かれてしまった。
こんなにも―――
「あれ、時田・・・くん?何してんの、こんなとこで」
新しいゲームを買おうと近くの商業ビルに来ていた。
目的のものを買い、帰ろうと思った時、その姿が目に入った。
商業ビルの中にあるゲームコーナーに、1人で立っていた時田蒼汰。
色白で、女の子のように華奢なその姿はどこにいても目立つ。
「・・・・宮内先生。ゲーム買いにきたの?」
「あー、よくわかったね」
「雪村せんせーが言ってたよ。あいつはゲームばっかりやってるって」
「なるほど。でももう7時だぞ?帰った方がいいんじゃねえか?」
「・・・わかってるよ。今帰るとこ」
そう言って時田は俺に背を向けて歩き出した。
寮では、毎日5時半から7時半まで食堂で夕食を食べることができる。
門限は8時なので外で食べてくることもできるが、食堂ならお金がかからないので大抵の生徒はそこを利用していた。
「待てって、俺も一緒に行くよ」
「先生たちの寮はこっちじゃないでしょ?大丈夫だよ、ちゃんと寮に戻るから」
「いいから、送らせて」
普通の高校生だったら別にこのくらいの時間に1人で歩いてたってどうってことない。
だが、時田蒼汰という生徒はなんとなく危ない、と思ってしまうのだ。
どこにいても目を引くほど華やかで、そしてどこか儚げで。
1人にさせちゃいけないような気にさせるのだ。
「ふ・・・・変なの。俺、女の子じゃないのに」
そう言って、時田はちょっと笑った。
その笑顔がまたかわいくて、思わず見惚れる。
「女の子より、危ないよ」
「え?なに?先生?」
ぼそっと呟いた声に時田がその大きな目を瞬かせる。
「なんでもないよ。とにかく送っていくから」
「・・・・ありがと」
「飯は食った?今からだと食堂間に合わなくないか?」
「コンビニで買ってくから平気」
「コンビニ?―――ん、ライン?」
松本のポケットから、ラインの着信音が聞こえた。
「ん・・・・あ、みぃ」
「友達?」
「同じクラスの、松島光孝」
「ああ、確か同室だっけ?心配してるんじゃないの?」
「ん・・・・迎えに来るって・・・・今から宮内先生と帰るって送っとく・・・・・あ、ごはんあるって」
「え、何か買っといてくれたってこと?」
「ううん、食堂のおばちゃんが、お弁当作ってくれたんだって。みぃが頼んでくれたみたい」
「・・・いい友達だね」
「うん」
にっこりと笑う時田。
でもその笑顔は、どこか寂しそうだった。
その理由を、俺は知ってる。
だけどどうにもできない。
純さんのためにも、時田のためにも・・・・
俺は、黙って見ているしかない・・・・・
いつものように職員室にやってきた時田に、俺はそう言って背中を向けた。
「え・・・・何で?今日は、テストの復習・・・・」
「自分でやれ。俺は忙しいから・・・もう、お前に教えてやることはできない」
「なんで・・・・急に・・・・・」
「教師には、教師の仕事があるんだ。お前1人にだけ構ってやることはできないんだよ」
「・・・・・・」
背後で、時田が走り出す気配。
やがて足音が遠ざかり・・・・
俺は、後ろを振り返った。
そこに時田はもういなかった。
拳を握りしめ、歯をくいしばるように下を向いた。
松島にもう時田には近づかないでくれと頼まれて数日。
それでも俺は、時田のことを諦めたくはなかった。
なんとかして松島に納得してもらえないものかと思っていた。
その矢先―――
『雪村くん、生徒の1人と交際しているというのは本当か?』
突然、校長に呼び出されそう聞かれたのだった。
『え・・・・そんなことはしていません』
『1年の、時田蒼汰という生徒と親密だという話を聞いたのだが』
『それは・・・・放課後に、時田に勉強を教えていますが、それだけです。交際しているなんていうことは―――』
『それが本当だとしても、そういう噂が立っているということも事実だ。あまり、軽率な行動を取ることは他の生徒への悪影響になる』
『僕は、誤解されるようなことは何も・・・・』
『実は父兄から、そういう抗議の電話があったんだ』
『父兄から?どうして・・・・』
ここは全寮制の学校だ。
どうして父兄が・・・・?
『子供から電話で聞いたそうだ。先生と生徒の中で、異常に仲のいい2人だいると。付き合ってるんじゃないかって生徒たちの間では噂になっていると』
俺と時田が2人で勉強しているのを知っている生徒や教師からからかわれることはあった。
だがそれはあくまでもからかっているだけで本気でそう疑われてるなんて感じたことはなかった。
その電話で話したという生徒も、ただそんな噂があると軽い気持ちで言っただけなのではないか?
俺はそう思ったが―――
『その父兄は、そんな淫らな関係の教師と生徒がいる学校に子供を預けたくないと言ってきたんだ。早急にその2人を別れさせるか、その生徒を退学にしろと―――』
『え・・・・ちょっと待ってください!それなら、僕を辞めさせればいいじゃないですか!どうして時田を―――』
『どうやら・・・・その生徒は、生徒の方が教師を誘惑していると話をしたようだ。時田という生徒はもともと男が好きで、生徒の中には時田と付き合っていた者もいると。そんな生徒がいて、寮で何かあったらどうするのかと』
その時、ふと何かが頭をかすめた。
時田は生徒の中でも人気があると、確か生田が言っていた。
手紙をもらっていたと・・・・
そのときは松島がその手紙を捨てたと時田が言っていたが、手紙をもらったのはその時だけじゃないのだろう。
もし、その手紙の主の中に時田に返事がもらえなかったり、振られたことを逆恨みしていたやつがいたとしたら・・・・
『とにかく、その話が事実ではないとしても不信感を抱いている父兄がいることは事実だ。時田蒼汰を特別扱いしたりするのはやめた方がいいだろう。なるべく会話もしないように。寮内でのことについては寮管に注意して見ているように言っておくから、きみは関わるな。もし何かあれば―――時田を退学にせざるをえなくなる』
寮管というのは、寮の管理をしている職員のことだ。
門限を守らなかったり、夜抜け出そうとしたりする生徒がたまにいるので常時2人の職員が泊まり込んでいる。
もちろん外部の人間―――女の子を連れ込んだりする者がいないよう、防犯カメラや警備システムも厳しく管理されている。
だが、寮内部でのことについては意外にも緩い部分があると聞いていた。
男子校だから当然男子しかいないわけで、仲のいい友達同士、お互いの部屋を行き来したり時にはそのまま自室以外に泊まったりすることもあるのだが、門限である夜の8時の点呼に集まることができれば特に注意されることはないということだった。
もちろん、ケンカやいじめなどがないよう就寝後の見回りなどはしているらしいが・・・・。
『時田は・・・・俺を誘惑したりはしていません。まじめで、勉強熱心ないい子です。退学だなんて、そんなことは・・・』
『だったら、きみの取るべき行動は言わなくともわかるだろう?きみは教師なのだから』
『・・・・・はい』
時田に、不純な気持ちを抱いてはいけない。
そんなことは、最初からわかっていたことだ。
それでも俺は、時田に惹かれてしまった。
こんなにも―――
「あれ、時田・・・くん?何してんの、こんなとこで」
新しいゲームを買おうと近くの商業ビルに来ていた。
目的のものを買い、帰ろうと思った時、その姿が目に入った。
商業ビルの中にあるゲームコーナーに、1人で立っていた時田蒼汰。
色白で、女の子のように華奢なその姿はどこにいても目立つ。
「・・・・宮内先生。ゲーム買いにきたの?」
「あー、よくわかったね」
「雪村せんせーが言ってたよ。あいつはゲームばっかりやってるって」
「なるほど。でももう7時だぞ?帰った方がいいんじゃねえか?」
「・・・わかってるよ。今帰るとこ」
そう言って時田は俺に背を向けて歩き出した。
寮では、毎日5時半から7時半まで食堂で夕食を食べることができる。
門限は8時なので外で食べてくることもできるが、食堂ならお金がかからないので大抵の生徒はそこを利用していた。
「待てって、俺も一緒に行くよ」
「先生たちの寮はこっちじゃないでしょ?大丈夫だよ、ちゃんと寮に戻るから」
「いいから、送らせて」
普通の高校生だったら別にこのくらいの時間に1人で歩いてたってどうってことない。
だが、時田蒼汰という生徒はなんとなく危ない、と思ってしまうのだ。
どこにいても目を引くほど華やかで、そしてどこか儚げで。
1人にさせちゃいけないような気にさせるのだ。
「ふ・・・・変なの。俺、女の子じゃないのに」
そう言って、時田はちょっと笑った。
その笑顔がまたかわいくて、思わず見惚れる。
「女の子より、危ないよ」
「え?なに?先生?」
ぼそっと呟いた声に時田がその大きな目を瞬かせる。
「なんでもないよ。とにかく送っていくから」
「・・・・ありがと」
「飯は食った?今からだと食堂間に合わなくないか?」
「コンビニで買ってくから平気」
「コンビニ?―――ん、ライン?」
松本のポケットから、ラインの着信音が聞こえた。
「ん・・・・あ、みぃ」
「友達?」
「同じクラスの、松島光孝」
「ああ、確か同室だっけ?心配してるんじゃないの?」
「ん・・・・迎えに来るって・・・・今から宮内先生と帰るって送っとく・・・・・あ、ごはんあるって」
「え、何か買っといてくれたってこと?」
「ううん、食堂のおばちゃんが、お弁当作ってくれたんだって。みぃが頼んでくれたみたい」
「・・・いい友達だね」
「うん」
にっこりと笑う時田。
でもその笑顔は、どこか寂しそうだった。
その理由を、俺は知ってる。
だけどどうにもできない。
純さんのためにも、時田のためにも・・・・
俺は、黙って見ているしかない・・・・・
10
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる
雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。
ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。
「フェロモンに振り回されるのは非合理的」
そう思っていたのに――。
新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。
人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。
「先輩って、恋したことないでしょ」
「……必要ないからな」
「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」
余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。
からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。
これは、理屈ではどうにもならない
“ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる