一目惚れしたきみはぼくの生徒だった

まつも☆きらら

文字の大きさ
9 / 14

傷跡

しおりを挟む
夢中で唇を奪い、その細い体を抱きしめる。

俺は浩司くんに嫉妬していた。

彼にそんな感情を抱いたことなんてなかった。

自分がこんな気持ちになるなんて・・・・


「ん・・・・っ、は・・・・・」

苦しそうに声を漏らす時田に、俺ははっとして我に帰った。

「あ・・・・悪い」
「・・・・なんで・・・・・?」

壁に体を預け、俯く時田。
目には涙がにじんでいた。

「ごめん、時田、俺は・・・・」
「俺のことなんか・・・・好きじゃないくせに」
「え・・・・」
「先生は・・・・俺のためにって思ってくれたのかもしれないけど・・・・結局自分のためじゃん。自分が先生辞めたくないから・・・・俺の気持ちなんて、何もわかってない!」

時田の目から、涙が零れ落ちる。
俺の胸が、軋むように痛んだ。

「・・・・ごめん。そうだな。俺は、自分のことしか考えてなかった」

俺の言葉に、時田が顔を上げた。
潤んだ瞳が、俺を見つめる。

「お前を苦しめて、おまえに背を向けて・・・・なのにまたこうして、おまえを傷つけて。俺は本当に最低な男だよ」
「先生・・・・?」
「でも・・・・・俺は、おまえが好きなんだよ・・・・」
「・・・・え・・・・・?」
「お前が、好きだ。おまえの言う通り、俺はお前から離れようとした。おまえが俺のために学校へいられなくなるのは、教師として避けなければいけないと思ったからだ。でも・・・・・無理だ。俺は、おまえが好きなんだよ。浩司くん・・・・沢渡先生と2人きりでいたことが我慢できないくらい、おまえのことが好きで好きで仕方ないんだ・・・・」

俺の言葉に、時田の頬が徐々に赤味を帯びていく。
潤んだ瞳が、さらにキラキラと輝きを増していた。

「ほ・・・・んとに・・・・・?せんせー、俺のこと・・・・・」
「あんま、聞くな。恥ずかしくて死にそうだ」

俺の言葉に、時田は一瞬キョトンとし、ぷっと吹き出した。

「死にそうって・・・・んふふ、せんせー、まっか」
「うるせー。お前のせいだからな」
「え、なんで俺――――っ」

時田が頬をふくらませ、何か言う前に、俺は再び時田の唇を塞いだ。
一瞬、こわばる時田の体。
俺はそんな時田の体をかき抱き―――

そのまま、床へと押し倒した。

「ん・・・・ッ、は・・・・・、ま・・・・・って、せん・・・・・」
「・・・・、無理」

今更、待ってなんて―――

俺は、弱々しくも抗おうとする時田の手首を掴むと、床へと張りつけ空いた手でシャツをたくしあげた。

そのまま素肌に手を這わせ、時田の白い肌が露わに・・・・・

「え・・・・・・?」

俺の手が止まった。

時田の腹部には、まるで刃物で傷つけられたような傷跡があったのだった・・・・・・




時田の白い肌に似つかわしくない、大きな傷跡。

もちろん傷はすっかり塞がってはいるものの、あまりにも大きなその傷跡に、俺は思わず息を飲んだ。

「―――驚いた?」

時田の声に、俺ははっと我に返って時田の顔を見た。

「あ、これ・・・・・」
「・・・・昔の、傷。背中も、見る・・・・?」
「え・・・・」

背中・・・・?

時田は起き上がると、シャツを完全に脱いで俺に背中を向けて見せた。
その背中には、痛々しい刺し傷が無数に刻まれていた。

「・・・・・この傷があるから・・・・俺、ずっと体育を休んでるんだ・・・・」
「あ・・・・・」

そうだ。浩司くんが言っていた。
時田はずっと体育を見学していると。

白い綺麗な肌に刻まれたその傷は、あまりにも痛々しくて・・・・

「時田、それは、いつ・・・・?」
「・・・・中学生のころだよ。中学に入ってすぐ・・・・。俺、数学を担当してた新任の男の先生と・・・・付き合ってたんだ」
「は・・・・?」

付き合ってた・・・・・?

「優しくて、かっこよくて・・・・俺、本当に好きだった。先生にキスされたときもまるで夢みたいで・・・・でも・・・・先生は、本気で俺を好きなわけじゃなかったんだ」

時田の体が、小刻みに震えだした。

「時田・・・・?」
「先生にとって、俺は単なる遊び・・・・ただの遊びだったんだ。俺だけが先生を本気で・・・・」

大きく震えだす時田の体。

「おい、とき・・・・」

次の瞬間。

時田の体から突然力が抜けたように、その場に崩れ落ちたのだった。

「時田!」

俺は慌てて駆け寄ると、時田の体を抱き起こした。
目を閉じ、完全に気を失っている時田。
何がどうなっているのか・・・・・

その時、突然部屋の扉がガチャリと開いた。

「―――先生、話は・・・・蒼ちゃん!?」

そっと顔を覗かせた松島が、時田の様子に驚き飛び込んできた。

「蒼ちゃん!!ちょ・・・先生!蒼ちゃんに何したの!?」
「お、俺は何も」
「じゃあなんで蒼ちゃんが裸で倒れてんの?一体どういうこと!?」
「聞きたいのはこっちだよ!いったい・・・・中学時代に何があったんだ?」

俺の言葉に、松島の顔色がさっと変わった。

「先生・・・・聞いたの・・・・?」
「時田が・・・・倒れる前に言ったんだ。この傷は中学の時のもので・・・・中学生の頃、数学教師と付き合ってたって・・・・」

ごくりと、松島が息を飲む。

「教えてくれ、松島。時田に、一体何があったんだ?この傷は・・・・・」

松島はうなだれ、その場にしゃがみこんだ。
そして、大きく溜息をもらしたのだった。

「話すよ・・・・・。でもその前に、蒼ちゃんに服を着せてあげて。そのままじゃ、風邪ひいちゃう。蒼ちゃん、すぐに熱出す子だからさ・・・・」
「・・・・わかった」




「昔から蒼ちゃんは女の子みたいに可愛くて、男にも女の子にももててた。いつもニコニコしてて明るくて優しくて。先生にもいつもかわいがられてた。俺も、蒼ちゃんが大好きだった。誰よりも・・・・・その蒼ちゃんが、中学に入ってすぐに、恋をしたんだ」
「それが・・・・」

松島が、こくりと頷く。

「数学の、岩田先生だった。大学出たばっかりで、かっこよくて優しくておもしろくて。女子からもすごく人気のある先生だったよ。蒼ちゃん、最初はただ憧れてるだけだって言ってた。でも、ある時蒼ちゃんが1人で家に帰る途中、岩田先生に声をかけられたんだ」



岩田に声をかけられた時田は、まだその土地に不慣れだった岩田に図書館の場所を聞かれ、案内したのだという。
図書館まで岩田を案内した松本は一緒に中へ入り、中を案内していた時に突然、岩田にキスをされたのだった。

それから、人目を忍んで図書館で会い続けた2人。
時田は、どんどん岩田にのめり込んでいった。
他のことが何も手につかないほどに。

やがて、図書館で2人が会っているのを目撃するものが現れた。
最初は特に問題にされなかった。
が、頻繁に会っていることが噂になり始め、2人の仲を冷やかす生徒が現れたのだ。

その禁断の関係の噂を耳にした生徒の親が、学校へと通報した。
そして、学校は岩田へ注意を促した。

岩田は、すぐに時田との関係を否定し、もう二度と外で会わないと約束した。
突然、岩田に無視されるようになった時田。

時田は、ただ話をしたくて。
ただ岩田と一緒にいたくて。
ただ岩田に会いたくて―――

人目を避け、岩田が独り暮らしをしていたアパートを何度も訪ねたのだという。

そんな時田を最初は受け入れていたものの、徐々に脅威に感じ始めた岩田。
このままでは、自分の教師としての将来が危ぶまれるのではないか―――
そう感じ始めたのではないかと、松島は言った。

ある日、岩田の住む部屋から時田が出てくるところを、その中学校の生徒とその母親が目撃する。

そして、翌日岩田と時田は校長室へ呼ばれた。

関係を問いただされた時田は、岩田のために自分の気持ちを隠し『授業で分からなかったところを質問しに行っただけ』と言ったのだという。
厳重に注意された2人。

だが岩田は、生徒や先輩教師などから白い目で見られ始め、精神的に追い詰められていたらしい。

その様子に気付いた時田は岩田のために身を引く決意をし、そのことを伝えに岩田の家へ行ったのだ。
疑心暗鬼になっていた岩田を安心させようと。
自分はもう、岩田には近づかないと、ただそれだけを伝えに。

だが、岩田に時田の想いは伝わらなかった。
時田がいる限り、岩田は自分の教師としての将来はないと。
そう思いつめていたのだという。

「さよなら」

そう言って部屋を出ようとした時田。
が、岩田は、時田がこのまま身を引くとは信じることができなかった。

時田を玄関まで送ると、そこで待たせ

台所にあった包丁を手に戻り

驚く時田の腹を思いきり刺した。

そして

咄嗟に逃げようと身をひるがえした時田の背中を、何度も包丁で切りつけたのだ・・・・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

全速力の君と

yoyo
BL
親友への恋心に蓋をするために、離れることを決めたはずなのに

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

処理中です...