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第4話
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「ムウ!?」
キッチンへ飛び込んだ俺に、ムウが勢いよく飛び付いて来て―――
体に巻いていたシーツがふわりと床に落ちた。
「ム、ムウ?」
ぎゅっと抱きついて来たムウの体を支えきれず、俺はその場にしりもちをついたけれど、ムウは俺から離れようとしない。
程よく筋肉のついた、柔らかい体に心臓が跳ねる。
白く、滑らかな肌の感触に、顔が熱くなるのを感じる。
「変なのがいる!変なのがいる!」
俺にしがみつきながら、ムウが上ずった声で叫ぶ。
「は?変なの?」
「黒いの!カサカサって!あれ何!」
「え―――」
俺はキッチンの中に視線を走らせて―――
「あ―――あれ、ゴキブリじゃん」
「何それ!?怖い!気持ち悪い!」
「ゴキブリ、知らないの?ムウ」
「知らないよ!そんなの、天国にはいないもん!!」
震えながらしがみつくムウ。
その時―――
「天国って、どういうこと?」
突然頭上から奈央の声がして、驚いて顔を上げる。
「うわ、ちょっと裸のまま何やってんの?」
奈央の後ろから諒も顔を出し、俺は慌てて落ちていたシーツを拾い上げ、ムウの体にかけようとしたけれど―――
カサカサッと、足元を黒いモノが動き―――
「イヤーーーーーーー!!!」
再びムウが俺の首に腕を絡め―――
「ムウ、苦し―――」
「アキ、怖い~~~」
ムウの目から、キラキラと光るものが零れ落ちた。
『カシャンカシャンカシャン―――』
「な―――何これ?ガラス?」
諒の驚いた声に、俺ははっとする。
「それは―――」
「いや、これは―――水晶・・・・・?」
奈央が床に落ちた水晶を拾い上げ、目の前にかざした。
「アキ~~~」
俺に抱きついたまま涙を流すムウの足元には、あっという間に水晶が溜まっていった。
「明来さん、これどういうこと?」
―――あ~あ・・・・・
俺はゴキブリに怯えるムウを支えながらも、深い溜め息をついたのだった・・・・・。
「―――つまり、ムウくんは本物の天使ってこと?」
奈央の言葉に、俺はコクコクと頷いた。
ムウはシーツを体に巻き付けたまま、俺にぴったりとくっつき時折不安そうに入口をチラチラと見ていた。
アトリエのソファーの上で寄り添っている俺たちを、訝しげに見る2人。
奈央は、キッチンの床から集めてテーブルの上に並べた水晶を手に取り見つめながら、口を開いた。
「まぁ・・・・天使かどうかはともかくとして、これを見たら普通の人間じゃないってことはわかるけど」
その言葉に諒も頷いた。
「だよね~。でもすごいね、超キレイ!」
諒の言葉に、ムウがピクリと反応し、諒を見つめて目を瞬かせた。
「呑気だね、あんたは。でも確かに、これだけ混ざりもののない純度の高そうな水晶ってなかなかないし、売ったらいい金に―――」
「奈央!変なこと言うなよ」
俺が慌てて止めようとすると、ムウはきょとんとしながら、口を開いた。
「それ、お金になるの?」
「え?まぁ・・・売れれば、なると思うけど」
「へぇ・・・俺の涙が・・・?」
不思議そうに、でもどこか嬉しそうに呟き、微笑むムウ。
そんなムウを、奈央もまた不思議そうに見つめていた。
「アキ、絵、描かないの?じゃあ俺、服着るね」
そう言って、ムウは服を着るために一度アトリエを出て行った。
「―――で、あの天使はいつまでここにいるつもりなの?」
まだ疑っている眼差しで、奈央は俺を見た。
「飽きるまでって、ムウは言ってたけど」
「飽きるまで?何に?」
諒が首を傾げる。
「この・・・・世界に?天国は、退屈だって言ってたから」
「退屈・・・・ね。だからって、そんな簡単に下界に降りて来れるもんなの?天使って」
「それは・・・・俺にもわからないけどさ。ただ、何か悪巧みしてるってわけでもなさそうだし―――」
そう俺が言うと、奈央の眉毛がピクリとつり上がった。
「何でそんなことわかんの?出会ったばっかりなのに」
「それは―――」
「新手の詐欺かもしれないじゃん。新進気鋭の画家に目ぇつけて、お金を騙し取る気なのかも―――」
「そんなこと!奈央だって見ただろ?あの涙!普通人間が、水晶の涙なんか流さねえよ。それに、俺はあいつの羽も頭のわっかも見てる。あいつは―――」
「だから、それだって何か仕掛けがあるかもしれないじゃん!さっきは俺もああ言ったけどさ、やっぱり天使なんているわけないじゃん!マジックかなんかで水晶が目から出てきたみたいに見せかけて―――」
「違う!ムウは、そんなやつじゃない!」
思わず立ち上がって叫んだ俺を、奈央と諒は驚いた顔で見つめた。
俺自身も、びっくりしていた。
奈央の言う通り、俺はムウと出会ったばかりで、ムウのことなんて何も知らない。
天使だっていうのも本人が言ってるだけだし、水晶の涙だって、現実のことだなんてこうして目の前にしたって信じられないくらいだ。
でも―――
ムウのあの無邪気な笑顔が、人をだますための笑顔だなんて思えなかった。
子供みたいに俺にしがみつくあのムウが、人をだますなんて―――
あの水晶の涙が、偽物だなんて―――
「俺は・・・・ムウを信じたい・・・・・」
気付けば俺は、2人に向かってそう言っていた・・・・・。
「―――なら、勝手にどうぞ。俺は帰ります」
奈央が立ち上がった。
「え?奈央、帰るの?今日は明来ちゃんも誘って遊びに行こうって―――」
諒も慌てて立ち上がる。
「明来さんは、ムウくんと一緒にいる方がいいんでしょ。諒さんがいたいならいれば?俺は帰る」
「ええ?ちょっと、奈央―――」
奈央がアトリエの扉に手を伸ばした時―――
扉が、ガチャリと音をたてて開いた。
「―――あれ、どっか行くの?」
入ってきたのはムウだった。
「―――お邪魔しました」
奈央がぺこりと頭を下げ、出て行こうとする。
「あ、待って」
ムウが、奈央の手首を掴んだ。
「―――え?」
奈央が驚いてムウを見る。
「ナオ、あの水晶の使い道、わかるんでしょ?」
ムウが、テーブルの上の水晶を見た。
「あれを、お金に変える方法―――教えてくれる?」
キッチンへ飛び込んだ俺に、ムウが勢いよく飛び付いて来て―――
体に巻いていたシーツがふわりと床に落ちた。
「ム、ムウ?」
ぎゅっと抱きついて来たムウの体を支えきれず、俺はその場にしりもちをついたけれど、ムウは俺から離れようとしない。
程よく筋肉のついた、柔らかい体に心臓が跳ねる。
白く、滑らかな肌の感触に、顔が熱くなるのを感じる。
「変なのがいる!変なのがいる!」
俺にしがみつきながら、ムウが上ずった声で叫ぶ。
「は?変なの?」
「黒いの!カサカサって!あれ何!」
「え―――」
俺はキッチンの中に視線を走らせて―――
「あ―――あれ、ゴキブリじゃん」
「何それ!?怖い!気持ち悪い!」
「ゴキブリ、知らないの?ムウ」
「知らないよ!そんなの、天国にはいないもん!!」
震えながらしがみつくムウ。
その時―――
「天国って、どういうこと?」
突然頭上から奈央の声がして、驚いて顔を上げる。
「うわ、ちょっと裸のまま何やってんの?」
奈央の後ろから諒も顔を出し、俺は慌てて落ちていたシーツを拾い上げ、ムウの体にかけようとしたけれど―――
カサカサッと、足元を黒いモノが動き―――
「イヤーーーーーーー!!!」
再びムウが俺の首に腕を絡め―――
「ムウ、苦し―――」
「アキ、怖い~~~」
ムウの目から、キラキラと光るものが零れ落ちた。
『カシャンカシャンカシャン―――』
「な―――何これ?ガラス?」
諒の驚いた声に、俺ははっとする。
「それは―――」
「いや、これは―――水晶・・・・・?」
奈央が床に落ちた水晶を拾い上げ、目の前にかざした。
「アキ~~~」
俺に抱きついたまま涙を流すムウの足元には、あっという間に水晶が溜まっていった。
「明来さん、これどういうこと?」
―――あ~あ・・・・・
俺はゴキブリに怯えるムウを支えながらも、深い溜め息をついたのだった・・・・・。
「―――つまり、ムウくんは本物の天使ってこと?」
奈央の言葉に、俺はコクコクと頷いた。
ムウはシーツを体に巻き付けたまま、俺にぴったりとくっつき時折不安そうに入口をチラチラと見ていた。
アトリエのソファーの上で寄り添っている俺たちを、訝しげに見る2人。
奈央は、キッチンの床から集めてテーブルの上に並べた水晶を手に取り見つめながら、口を開いた。
「まぁ・・・・天使かどうかはともかくとして、これを見たら普通の人間じゃないってことはわかるけど」
その言葉に諒も頷いた。
「だよね~。でもすごいね、超キレイ!」
諒の言葉に、ムウがピクリと反応し、諒を見つめて目を瞬かせた。
「呑気だね、あんたは。でも確かに、これだけ混ざりもののない純度の高そうな水晶ってなかなかないし、売ったらいい金に―――」
「奈央!変なこと言うなよ」
俺が慌てて止めようとすると、ムウはきょとんとしながら、口を開いた。
「それ、お金になるの?」
「え?まぁ・・・売れれば、なると思うけど」
「へぇ・・・俺の涙が・・・?」
不思議そうに、でもどこか嬉しそうに呟き、微笑むムウ。
そんなムウを、奈央もまた不思議そうに見つめていた。
「アキ、絵、描かないの?じゃあ俺、服着るね」
そう言って、ムウは服を着るために一度アトリエを出て行った。
「―――で、あの天使はいつまでここにいるつもりなの?」
まだ疑っている眼差しで、奈央は俺を見た。
「飽きるまでって、ムウは言ってたけど」
「飽きるまで?何に?」
諒が首を傾げる。
「この・・・・世界に?天国は、退屈だって言ってたから」
「退屈・・・・ね。だからって、そんな簡単に下界に降りて来れるもんなの?天使って」
「それは・・・・俺にもわからないけどさ。ただ、何か悪巧みしてるってわけでもなさそうだし―――」
そう俺が言うと、奈央の眉毛がピクリとつり上がった。
「何でそんなことわかんの?出会ったばっかりなのに」
「それは―――」
「新手の詐欺かもしれないじゃん。新進気鋭の画家に目ぇつけて、お金を騙し取る気なのかも―――」
「そんなこと!奈央だって見ただろ?あの涙!普通人間が、水晶の涙なんか流さねえよ。それに、俺はあいつの羽も頭のわっかも見てる。あいつは―――」
「だから、それだって何か仕掛けがあるかもしれないじゃん!さっきは俺もああ言ったけどさ、やっぱり天使なんているわけないじゃん!マジックかなんかで水晶が目から出てきたみたいに見せかけて―――」
「違う!ムウは、そんなやつじゃない!」
思わず立ち上がって叫んだ俺を、奈央と諒は驚いた顔で見つめた。
俺自身も、びっくりしていた。
奈央の言う通り、俺はムウと出会ったばかりで、ムウのことなんて何も知らない。
天使だっていうのも本人が言ってるだけだし、水晶の涙だって、現実のことだなんてこうして目の前にしたって信じられないくらいだ。
でも―――
ムウのあの無邪気な笑顔が、人をだますための笑顔だなんて思えなかった。
子供みたいに俺にしがみつくあのムウが、人をだますなんて―――
あの水晶の涙が、偽物だなんて―――
「俺は・・・・ムウを信じたい・・・・・」
気付けば俺は、2人に向かってそう言っていた・・・・・。
「―――なら、勝手にどうぞ。俺は帰ります」
奈央が立ち上がった。
「え?奈央、帰るの?今日は明来ちゃんも誘って遊びに行こうって―――」
諒も慌てて立ち上がる。
「明来さんは、ムウくんと一緒にいる方がいいんでしょ。諒さんがいたいならいれば?俺は帰る」
「ええ?ちょっと、奈央―――」
奈央がアトリエの扉に手を伸ばした時―――
扉が、ガチャリと音をたてて開いた。
「―――あれ、どっか行くの?」
入ってきたのはムウだった。
「―――お邪魔しました」
奈央がぺこりと頭を下げ、出て行こうとする。
「あ、待って」
ムウが、奈央の手首を掴んだ。
「―――え?」
奈央が驚いてムウを見る。
「ナオ、あの水晶の使い道、わかるんでしょ?」
ムウが、テーブルの上の水晶を見た。
「あれを、お金に変える方法―――教えてくれる?」
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