Angel tears

まつも☆きらら

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第3話

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ムウはきれいだ。


本当に天使なのかどうか、俺にはわからないけれど―――


白く透けるような肌も、整い過ぎた目鼻立ちも、茶色がかった大きな目も、それを縁取る長い睫毛も―――


溜息が出るほどきれいだと思った。


思わず見惚れて、目をそらすことも忘れてしまう。


俺の用意した紅茶をおいしそうに、でも熱そうにフーフーと冷ましながら飲むムウ。


その様子はなんだか子供のように可愛かった。


「―――ムウ。いつまでここにいるの?」


俺の言葉に、ムウは首を傾げた。


「さぁ・・・・飽きるまで?」


「飽きるまでって・・・・・」


「アキって、毎日何してるの?」


「え・・・俺?」


「うん。何か仕事してるの?」


「仕事・・・・まあ、一応画家だけど・・・・」


「画家・・・・・?」


きょとんとして首を傾げるムウ。


「うん。絵を描く仕事だよ」


「え、そうなの!?」


途端に、ムウが目を輝かせた。


「え~、なんかそれかっこよくない?すごいね、アキ!」


「そ・・・・そお?」


褒められて悪い気はしない。


ましてや、そんなキラキラの笑顔で言われたら・・・・・


「ねーねー、何か描いてよ!」


「へ・・・・今?」


「うん!アキが絵ぇ描いてるとこ、見たい!」


「見たいって言われても・・・・・」


ここのとこ、絵に関しては絶不調だ。


描けと言われても、何を描いたらいいのか・・・・・


そう思って、ムウの顔を見て―――


そのキラキラとはじけるような笑顔に、ふと思いついた。


「―――じゃ、ムウがモデルになってよ」


「え・・・・モデル・・・・?」


「うん。ムウの絵、描くから」


とっさの思いつきだ。


だけど、描いてみたいと思った。


この、まるで絵画から出てきたかのように美しい天使を―――






「ここに座ればいいの?」


ムウが、昨日はベッド代わりにして寝ていたソファーにポンと座った。


「うん。あ、服、それじゃだめだな。何か別のに―――」


「え?これじゃだめなの?」


と、ムウが着ているスウェットを引っ張って首を傾げた。


「ダメだよ、そんなボロ。えーと・・・・」


どうしようかと考えていると―――


ムウが、おもむろにスウェットを脱ぎ始めた。


「え―――ちょ、ちょっと待って、なんで脱ぐの?」


「だって、脱いだ方がよくない?なんだったら羽とか出しとく?」


『出しとく』って・・・・・


いやでも、確かに脱いでた方が・・・・・・


ムウの、服の上からではわからない引き締まったその体を見つめた。


「―――うん、じゃ、それでいこう」


「ねえ下は?下も脱いだ方がいい?」


言いながら、ムウはさっさと下のスウェットも脱ぎはじめる。


「ええ!?ちょ、待てって!下はいいよ!」


「なんで?下だけはいてるとかおかしいじゃん。どうせなら全部脱いで―――」


「うわー!うわー!」


昨日おろしたばかりの新しいパンツまで脱いでしまったムウ。


「ちょ、ちょっと待ってろ!」


俺は、慌ててアトリエを飛び出した。


そりゃあ、昨日は素っ裸で現れたけどさ。


でもやっぱり、その姿でずっといられるのはダメだ!


あんなとんでもなくきれいで、とんでもなく色っぽい体―――ずっと見ていられる自信、ないっつーの!





「―――これ、巻いて」


そう言ってムウに手渡したのは、寝室から持ってきた、まだ袋から出してもいなかった真新しい白いシーツだった。


「これ?巻くの?」


「そう、体を包むみたいに巻いて、ソファーに座って」


「わかった・・・・けど・・・・どうやって・・・・・」


シーツを広げようとして、もたもたとしているムウ。


―――意外と不器用・・・・?


「ほら、貸して。俺がやってやるよ」


ムウの手からシーツを受け取り、その体に巻いていると―――


「あ―――明来ちゃん!?何やってんの!?」


突然声がして驚いてそちらを見ると、アトリエのドアが開き、諒と奈央が顔を覗かせていた―――。


「明来さん!ついにそっちに走ったんですか!?」


奈央が俺とムウの姿を交互に見て、信じられないという顔をする。


「ば―――違うわ!こいつは、その―――絵のモデルだよ!」


「モデル・・・・?確かに、超きれいだけど・・・・」


諒が恐る恐る近づいて来て、シーツを体に巻いたムウの姿を、上から下までじろじろと眺めた。


ムウは恥ずかしがる様子もなく、不思議そうに諒と奈央を見ていた。


「―――アキの友達?」


「うん。奈央と、諒。こっちはムウ」


俺が紹介すると、奈央もムウに近づき、なんとなく胡散臭そうにムウを見つめた。


「ムウ―――くん?明来さんのモデルって、いつから?」


「え・・・・今日?」


「今日・・・・また、ずいぶん急だけど。明来さん、昨日はそんなこと言ってなかったよね?」


「いや・・・・昨日、結局何も描けなかったから・・・・モデルでも呼んだら、描く気になるかと思って・・・・あ、お前らコーヒーでも飲む?紅茶もあるけど?」


少し慌て始めた俺を見て、2人が顔を見合わせる。


「あ、俺、いれよっか?紅茶。さっきアキが淹れてくれるの見てたから、できるよ」


そう言って、ムウがにっこりと笑う。


「あ、じゃあ、頼むよ、ムウ」


ムウが嬉しそうにアトリエを出ていくと、2人が俺に詰め寄る。


「ちょっと明来ちゃん!どういうこと!?」


「あんたまさか、あの子に手ぇ出したんじゃ―――」


「ば―――!出してねえよ!バカ言うなよ!」


「だって、雇ったモデルにしてはずいぶん親しげじゃん!明来ちゃんのこと名前で呼んでたし、明来ちゃんもムウって―――」


「それは―――」


「明来さん、俺たちに隠し事するつもり?」


「そんなこと―――」


2人に凄まれ、俺の背中を冷たい汗が伝っていく。


なんて言い訳をしようか必死に考えていると―――




『キャーーーーーーー!!!』




キッチンの方から、空気を切り裂くような叫び声が響いてきた。


「―――ムウ!!?」


俺は、慌ててアトリエを飛び出した―――
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