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第22話
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「うわぁ、波きた!アキ、波!!」
初めての海にはしゃぐムウは、まるっきり子供のようだった。
波打ち際でキャッキャと騒ぐムウと諒を、俺と奈央は笑いながら見ていた。
「まったく、諒さんまではしゃいじゃって・・・・子供だね」
「何大人ぶってんだよ」
「自分こそ。ムウくんと一緒にはしゃいで来れば?」
奈央がちらりと俺を見る。
「俺はいい。ここで、ムウを見てたい」
無邪気にはしゃぐムウを見ているだけで、俺は幸せを感じてた。
昨日ムウに会う前までは、本当に言いようのない不安に囚われていた。
会ったことのない『リロイ』という存在に、脅威を感じていた。
だけどムウが俺に会うために急いで飛んできたと聞いて―――
そんな不安も恐怖も、いっぺんに吹き飛んでしまった。
―――ただムウが、傍にいてくれればいい。
ムウを抱きしめながら、そう思った。
他には何もいらない。
だから・・・・・
ずっと、傍にいて欲しいと・・・・・・
「・・・・リロイさんのことは、確かめたの?」
「いや・・・・。でも、いいんだ」
「いいって?」
「俺は、ムウの気持ちを、言葉を信じるから。リロイのことは―――考えないようにする」
そう言った俺の顔を、奈央がマジマジと見た。
「ずいぶんあっさり言うね。それは、自分が想われてる自信があるってこと?」
「そんなんじゃないけどさ。会ったこともない男に嫉妬してたってしょうがないなって思ったんだよ。それよりも―――こうしてムウと一緒にいるだけで、俺、幸せだもん」
俺の言葉に、奈央が顔をひきつらせる。
「うっわ、のろけて―――」
そう言いかけた時。
奈央の顔に、ばしゃっと海水がかかった。
「つめてっ!おい、なにすんだよ!」
奈央が頭をぶるぶると振ると、諒がうひゃひゃと笑う。
「そんなとこでぼんやり突っ立ってるからだよ!それ!」
「!!うひゃっ」
今度は俺の顔に思いっきり海水がかかり、その冷たさに思わず変な声が出る。
「ふははっ、アキびしょびしょ!」
ムウが俺を指差して、ゲラゲラと笑う。
無邪気なその姿は普通の人間の男の子で、天使だなんて誰も気づかない。
水晶の涙を流す天使。
自分には何の能力もない、できそこないの天使だとムウは言うけれど―――
それでも、俺にとってはかけがえのない存在だ。
出会って間もないけれど、その気持ちだけは誰にも負けない自信があった。
「てめっ、ちょっと待て!!」
「うひゃっ、やめろよ、奈央!ムウちゃん助けて!」
奈央に逆襲された諒が、バシャバシャと飛沫を上げながらムウのところへ駈けていく。
「うはは、やーだよっ、俺泳げないんだから、やぁめろってぇ」
腕を引っ張られそうになり、笑いながら必死に逃げるムウ。
「ムウ、こっち!」
俺が手を伸ばすと、ムウも俺の手を取ろうとして波に足を取られながらも必死にすがりつこうとする。
「あっ!」
「わっ」
「きゃあっ」
「うわっ!?」
何が何だか―――
奈央が諒の腕を掴もうとしてバランスを崩し、その奈央に押し倒されるように諒が倒れ込み、寸でのところで諒はムウの腰を掴み、そしてムウが俺の首にしがみつこうとして、俺は3人分の体重を支えなければいけなくなり、結果―――
―――バッシャーーーーーン!!!―――
4人仲良く海の中に倒れ込み、頭からずぶ濡れになったのだった・・・・・。
「なんだよも~~~~~!!!」
「うひゃひゃ、超気持ちい~~~~!!」
「しょっぱ!!」
「ふは、飲むなよ、ムウ」
4人で体を支え合いながら海から上がり、笑いながら砂浜を歩く。
ずっとこんな楽しい時間が続けばいいのに。
眩し過ぎる太陽の下、俺はしっかりムウの手を握ったのだった・・・・・。
「すごい、アキ焼けたね」
夜、奈央と諒が寝てしまったあと、俺とムウはバルコニーで2人、星を眺めていた。
「そう?ムウは真っ白だなあ。天使って日焼けしないの?」
相変わらずきれいムウの白い手を握ると、ムウは楽しそうに笑った。
「ふふ、そうみたいだね。でも超楽しかった。―――きっと忘れられなくなるよ」
ふと、ムウが夜空へと視線を向けた。
満天の星の向こう、俺には見えない天国を見つめるように―――
「・・・・リロイには、なんて言ってきたの?」
「ハワイ行ってくるって・・・・お土産持ってくるねって、言って来た。リロイも、ハワイは行ったことないって言ってたから」
「―――じゃあ、リロイも一緒に来たかったんじゃないの?くればよかったのに」
本当はそんなこと思ってもないくせに、俺はそう言っていた。
ムウの表情が、ふっと曇る。
睫毛を伏せ、ムウは俯いた。
「そう・・・・だね。一緒に来られれば・・・・」
辛そうなその声と横顔に、俺の胸がざわつく。
「ムウ・・・・?リロイは、ここには来られないってこと?何か・・・・・事情があるの?」
今にも泣き出しそうなムウの手を握る。
そうしないと、消えてしまいそうに思えた。
ムウは、弱々しく首を横に振った。
「何も、ないよ。リロイは・・・・自分の役目があるから、忙しいんだ。だから、俺みたいにこっちで遊んでられないだけ」
「・・・・そうなの?それならいいけど・・・・」
だったら、どうしてそんな辛そうな顔をする?
どうして、泣きそうな顔をする・・・・・?
「ムウ・・・・・」
俺はムウの腰に手を回すと、その体を引き寄せキスをした。
ムウが目を閉じ、俺の首に腕を絡める。
そのまま深いキスをして・・・・
ムウのくびれた腰に手を這わせると、ムウの体がピクリと震えた。
「ムウ・・・・部屋に行こう」
耳元に囁くと、ムウがこくりと頷いた。
考えないようにしようと決めた。
リロイはムウの兄貴で、優秀な天使で、忙しい。
そして、何よりムウが尊敬している。
それだけなんだ。
ハワイでの1週間は、あっという間に過ぎてしまった。
毎日海で遊び、買い物をして、おいしいものを食べて、星を見て―――
ムウはいつも楽しそうだった。
諒と一緒にはしゃぐ時も、奈央とおしゃべりする時も、俺と手を繋ぐ時も―――
だから、帰るときに来る時と同じように一度天国に寄ってから帰ると言った時も、心配はしなかった。
『リロイにお土産渡してくるね』
そう言ったムウに暗さはなく、またすぐに会えると信じて疑わなかった。
だけどそれから2週間、ムウは帰って来なかったんだ・・・・・。
初めての海にはしゃぐムウは、まるっきり子供のようだった。
波打ち際でキャッキャと騒ぐムウと諒を、俺と奈央は笑いながら見ていた。
「まったく、諒さんまではしゃいじゃって・・・・子供だね」
「何大人ぶってんだよ」
「自分こそ。ムウくんと一緒にはしゃいで来れば?」
奈央がちらりと俺を見る。
「俺はいい。ここで、ムウを見てたい」
無邪気にはしゃぐムウを見ているだけで、俺は幸せを感じてた。
昨日ムウに会う前までは、本当に言いようのない不安に囚われていた。
会ったことのない『リロイ』という存在に、脅威を感じていた。
だけどムウが俺に会うために急いで飛んできたと聞いて―――
そんな不安も恐怖も、いっぺんに吹き飛んでしまった。
―――ただムウが、傍にいてくれればいい。
ムウを抱きしめながら、そう思った。
他には何もいらない。
だから・・・・・
ずっと、傍にいて欲しいと・・・・・・
「・・・・リロイさんのことは、確かめたの?」
「いや・・・・。でも、いいんだ」
「いいって?」
「俺は、ムウの気持ちを、言葉を信じるから。リロイのことは―――考えないようにする」
そう言った俺の顔を、奈央がマジマジと見た。
「ずいぶんあっさり言うね。それは、自分が想われてる自信があるってこと?」
「そんなんじゃないけどさ。会ったこともない男に嫉妬してたってしょうがないなって思ったんだよ。それよりも―――こうしてムウと一緒にいるだけで、俺、幸せだもん」
俺の言葉に、奈央が顔をひきつらせる。
「うっわ、のろけて―――」
そう言いかけた時。
奈央の顔に、ばしゃっと海水がかかった。
「つめてっ!おい、なにすんだよ!」
奈央が頭をぶるぶると振ると、諒がうひゃひゃと笑う。
「そんなとこでぼんやり突っ立ってるからだよ!それ!」
「!!うひゃっ」
今度は俺の顔に思いっきり海水がかかり、その冷たさに思わず変な声が出る。
「ふははっ、アキびしょびしょ!」
ムウが俺を指差して、ゲラゲラと笑う。
無邪気なその姿は普通の人間の男の子で、天使だなんて誰も気づかない。
水晶の涙を流す天使。
自分には何の能力もない、できそこないの天使だとムウは言うけれど―――
それでも、俺にとってはかけがえのない存在だ。
出会って間もないけれど、その気持ちだけは誰にも負けない自信があった。
「てめっ、ちょっと待て!!」
「うひゃっ、やめろよ、奈央!ムウちゃん助けて!」
奈央に逆襲された諒が、バシャバシャと飛沫を上げながらムウのところへ駈けていく。
「うはは、やーだよっ、俺泳げないんだから、やぁめろってぇ」
腕を引っ張られそうになり、笑いながら必死に逃げるムウ。
「ムウ、こっち!」
俺が手を伸ばすと、ムウも俺の手を取ろうとして波に足を取られながらも必死にすがりつこうとする。
「あっ!」
「わっ」
「きゃあっ」
「うわっ!?」
何が何だか―――
奈央が諒の腕を掴もうとしてバランスを崩し、その奈央に押し倒されるように諒が倒れ込み、寸でのところで諒はムウの腰を掴み、そしてムウが俺の首にしがみつこうとして、俺は3人分の体重を支えなければいけなくなり、結果―――
―――バッシャーーーーーン!!!―――
4人仲良く海の中に倒れ込み、頭からずぶ濡れになったのだった・・・・・。
「なんだよも~~~~~!!!」
「うひゃひゃ、超気持ちい~~~~!!」
「しょっぱ!!」
「ふは、飲むなよ、ムウ」
4人で体を支え合いながら海から上がり、笑いながら砂浜を歩く。
ずっとこんな楽しい時間が続けばいいのに。
眩し過ぎる太陽の下、俺はしっかりムウの手を握ったのだった・・・・・。
「すごい、アキ焼けたね」
夜、奈央と諒が寝てしまったあと、俺とムウはバルコニーで2人、星を眺めていた。
「そう?ムウは真っ白だなあ。天使って日焼けしないの?」
相変わらずきれいムウの白い手を握ると、ムウは楽しそうに笑った。
「ふふ、そうみたいだね。でも超楽しかった。―――きっと忘れられなくなるよ」
ふと、ムウが夜空へと視線を向けた。
満天の星の向こう、俺には見えない天国を見つめるように―――
「・・・・リロイには、なんて言ってきたの?」
「ハワイ行ってくるって・・・・お土産持ってくるねって、言って来た。リロイも、ハワイは行ったことないって言ってたから」
「―――じゃあ、リロイも一緒に来たかったんじゃないの?くればよかったのに」
本当はそんなこと思ってもないくせに、俺はそう言っていた。
ムウの表情が、ふっと曇る。
睫毛を伏せ、ムウは俯いた。
「そう・・・・だね。一緒に来られれば・・・・」
辛そうなその声と横顔に、俺の胸がざわつく。
「ムウ・・・・?リロイは、ここには来られないってこと?何か・・・・・事情があるの?」
今にも泣き出しそうなムウの手を握る。
そうしないと、消えてしまいそうに思えた。
ムウは、弱々しく首を横に振った。
「何も、ないよ。リロイは・・・・自分の役目があるから、忙しいんだ。だから、俺みたいにこっちで遊んでられないだけ」
「・・・・そうなの?それならいいけど・・・・」
だったら、どうしてそんな辛そうな顔をする?
どうして、泣きそうな顔をする・・・・・?
「ムウ・・・・・」
俺はムウの腰に手を回すと、その体を引き寄せキスをした。
ムウが目を閉じ、俺の首に腕を絡める。
そのまま深いキスをして・・・・
ムウのくびれた腰に手を這わせると、ムウの体がピクリと震えた。
「ムウ・・・・部屋に行こう」
耳元に囁くと、ムウがこくりと頷いた。
考えないようにしようと決めた。
リロイはムウの兄貴で、優秀な天使で、忙しい。
そして、何よりムウが尊敬している。
それだけなんだ。
ハワイでの1週間は、あっという間に過ぎてしまった。
毎日海で遊び、買い物をして、おいしいものを食べて、星を見て―――
ムウはいつも楽しそうだった。
諒と一緒にはしゃぐ時も、奈央とおしゃべりする時も、俺と手を繋ぐ時も―――
だから、帰るときに来る時と同じように一度天国に寄ってから帰ると言った時も、心配はしなかった。
『リロイにお土産渡してくるね』
そう言ったムウに暗さはなく、またすぐに会えると信じて疑わなかった。
だけどそれから2週間、ムウは帰って来なかったんだ・・・・・。
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