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第34話
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「じゃ、飲みに行くか、直ちゃんとこに」
渉くんが言った。
ここは部長室。
得意先から帰ってきた渉くんに今日の出来事を話そうと、イチが俺と悠太を引き連れやってきたのだ。
もうとっくに定時を過ぎ、他の社員たちはいなくなっていた。
イチの話を黙って聞いていた渉くん。
そして、話を聞き終わると渉くんはそう言ったのだった。
「え・・・・飲みに行くの?みんなで?」
悠太が不思議そうに首を傾げた。
「そ。そういう話は飲みながらしたいじゃん」
てっきり怒るだろうと思っていたのに、渉くんは特に不機嫌にもならずいつものようにふにゃふにゃと笑っていた。
「それに、直ちゃんだって話聞きたいだろうし、たぶん言いたいこともあるんじゃねえ?」
渉くんがにやりと笑う。
―――この人・・・・悪魔か・・・・
俺は自分の顔が引きつるのを感じていた。
横にいたイチが、ツンと俺の袖を引っ張る。
「龍也くん、渉くんを怒らせたね」
悠太に聞こえないくらいの小さな声。
「・・・・やっぱりそう思う?」
「にこやかな時が一番怖いんだよ、おじさんは」
―――俺も、それは知っている・・・・。
「じゃ、直くんに連絡しとくね。今日は月曜日だし、店もそんなに混んでないだろうから直くんも一緒に飲めるかな」
俺たちの不穏な空気に全く気付いてない様子の悠太が楽しそうにスマホを取り出す。
「悠太くんは・・・・天使に見える小悪魔かもね」
イチの言葉に。
俺も黙って頷いたのだった・・・・。
「ずるい!たっちゃんずるいよ!抜け駆けして告白するなんて!」
幸か不幸か直の居酒屋は今日は暇なようで、店にはカウンター席に座る常連客2人とテーブル席に座るこれまた常連らしいカップルが一組いるだけだったため、直の兄が1人でも回せるということだった。
ビールジョッキ片手に俺たちのテーブルに着いた直は、イチから事の次第を聞くとそう言って俺を睨んだ。
「直くん、なんでそんなに怒るの」
悠太が不思議そうに直を見る。
「え・・・悠太、気付いてなかったの?」
思わずそう言って、俺は悠太を見た。
悠太がきょとんとして俺を見る。
「え?何が?」
「・・・・龍也くん、悠太くんはそういう子ですよ。忘れたの?」
イチがちょっと同情するような目で直を見た。
「ああ・・・けど、2人幼馴染なんでしょ?何年の付き合い?」
「小学校のころからだから・・・・もう17、8年になるんじゃない?ね、直くん」
「そうだね。俺も一途だと思うよ、ほんと」
「すげえな、17年て」
渉くんも感心したように笑った。
「けど、直ちゃんってもてそうじゃん。今まで彼女とか作ったことないの?」
渉くんの言葉に、イチがちょっと笑った。
「確かに、高校のころもててたね。けど坂井はいつも断ってたよね。好きな子がいるから~って」
「イチ!ばらすな!」
「いいじゃん」
「え、直くん好きな子いたの?俺知らなかった」
驚いてそう言う悠太に、みんなが笑うのをやめ、一斉に視線を向ける。
「・・・・かわいそうに、坂井」
「ええ?何?どういうことだよ?イチ」
「・・・・ほんと、俺かわいそう」
「直くん?」
「俺の好きな子、誰か聞きたい?悠太」
「え?う、うん。聞きたい」
「・・・・悠太だよ」
「―――え?」
「俺が好きなのは、ずっと前から悠太だよ」
いつになく真剣なまなざしの直。
その直の視線に、悠太はただただ戸惑っていた・・・・。
渉くんが言った。
ここは部長室。
得意先から帰ってきた渉くんに今日の出来事を話そうと、イチが俺と悠太を引き連れやってきたのだ。
もうとっくに定時を過ぎ、他の社員たちはいなくなっていた。
イチの話を黙って聞いていた渉くん。
そして、話を聞き終わると渉くんはそう言ったのだった。
「え・・・・飲みに行くの?みんなで?」
悠太が不思議そうに首を傾げた。
「そ。そういう話は飲みながらしたいじゃん」
てっきり怒るだろうと思っていたのに、渉くんは特に不機嫌にもならずいつものようにふにゃふにゃと笑っていた。
「それに、直ちゃんだって話聞きたいだろうし、たぶん言いたいこともあるんじゃねえ?」
渉くんがにやりと笑う。
―――この人・・・・悪魔か・・・・
俺は自分の顔が引きつるのを感じていた。
横にいたイチが、ツンと俺の袖を引っ張る。
「龍也くん、渉くんを怒らせたね」
悠太に聞こえないくらいの小さな声。
「・・・・やっぱりそう思う?」
「にこやかな時が一番怖いんだよ、おじさんは」
―――俺も、それは知っている・・・・。
「じゃ、直くんに連絡しとくね。今日は月曜日だし、店もそんなに混んでないだろうから直くんも一緒に飲めるかな」
俺たちの不穏な空気に全く気付いてない様子の悠太が楽しそうにスマホを取り出す。
「悠太くんは・・・・天使に見える小悪魔かもね」
イチの言葉に。
俺も黙って頷いたのだった・・・・。
「ずるい!たっちゃんずるいよ!抜け駆けして告白するなんて!」
幸か不幸か直の居酒屋は今日は暇なようで、店にはカウンター席に座る常連客2人とテーブル席に座るこれまた常連らしいカップルが一組いるだけだったため、直の兄が1人でも回せるということだった。
ビールジョッキ片手に俺たちのテーブルに着いた直は、イチから事の次第を聞くとそう言って俺を睨んだ。
「直くん、なんでそんなに怒るの」
悠太が不思議そうに直を見る。
「え・・・悠太、気付いてなかったの?」
思わずそう言って、俺は悠太を見た。
悠太がきょとんとして俺を見る。
「え?何が?」
「・・・・龍也くん、悠太くんはそういう子ですよ。忘れたの?」
イチがちょっと同情するような目で直を見た。
「ああ・・・けど、2人幼馴染なんでしょ?何年の付き合い?」
「小学校のころからだから・・・・もう17、8年になるんじゃない?ね、直くん」
「そうだね。俺も一途だと思うよ、ほんと」
「すげえな、17年て」
渉くんも感心したように笑った。
「けど、直ちゃんってもてそうじゃん。今まで彼女とか作ったことないの?」
渉くんの言葉に、イチがちょっと笑った。
「確かに、高校のころもててたね。けど坂井はいつも断ってたよね。好きな子がいるから~って」
「イチ!ばらすな!」
「いいじゃん」
「え、直くん好きな子いたの?俺知らなかった」
驚いてそう言う悠太に、みんなが笑うのをやめ、一斉に視線を向ける。
「・・・・かわいそうに、坂井」
「ええ?何?どういうことだよ?イチ」
「・・・・ほんと、俺かわいそう」
「直くん?」
「俺の好きな子、誰か聞きたい?悠太」
「え?う、うん。聞きたい」
「・・・・悠太だよ」
「―――え?」
「俺が好きなのは、ずっと前から悠太だよ」
いつになく真剣なまなざしの直。
その直の視線に、悠太はただただ戸惑っていた・・・・。
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