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第35話
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「・・・・すっきりした顔しちゃって」
朝、俺の顔を見るなり海斗がそう言った。
「そうか?」
俺は一応とぼけてみたが。
そんなことはお見通しだろう。
「ま、うまくいったみたいでよかったよ。あの日俺が通報せずに手当てしてやろうって言ったのも無駄じゃなかったね」
にやりと笑う海斗に、俺も苦笑する。
「調子のいいやつだな。まあ・・・・今となっては良かったけど」
「でしょ?で、瑞希はもう出たの?」
「ああ。今日が初日だからな」
「そういえば、あいつこれが終わったらすぐにアメリカに行くって言ってたけど舞台はいつまでなんだ?」
「今回は2週間だって」
「2週間はここにいるってこと?」
「いや・・・・あいつが舞台に立つのは今日だけ」
「は?どういうこと?」
「俺も知らなかったんだけど・・・・あいつの友達の宮下っていう奴が明日からはその役をやることになってるらしい」
「そうなの?」
「ああ。最初、瑞希がずっとやるはずだったんだけどオーディションの準備のために早めにアメリカに来てほしいってエージェンシーから連絡があったらしくて、急遽そういうことになったって。もともと瑞希の役はその宮下くんと2人でダブルキャストって話もあったから問題ないって言われたらしいよ」
「じゃあ・・・・本当にすぐアメリカに行くんだな」
「そういうこと」
「にしては冷静だね、兄ちゃん」
「・・・・まあな。なあお前、一人で劇場まで行ける?」
「は?まぁ・・・・場所はわかるけど。なんで?」
「俺、ちょっと行くところがあるんだ。開演には間に合うと思うけど・・・・」
「ふーん?わかった」
首を傾げながらもそれ以上は聞かない海斗。
なんとなく察してくれる。
それは兄弟ならではなのかもしれない。
俺は朝食を食べると家を出てある場所に向かった。
会える保証はない。
相手は大物だ。
だけど、どうしても直接伝えたいことがあった。
今日じゃなければ駄目なこと。
俺が瑞希のためにできること。
それは―――
「こんにちは」
都内のあるビルの駐車場で、俺は車から降りてきた鮎原冴子に頭を下げた。
「―――あなた、田村・・・・優斗さんの方かしら?お兄さんの方?」
「そうです。俺のこと、ご存じなんですね」
「息子がお世話になっているそうね」
「社長、お時間が―――」
冴子の隣にいた眼鏡をかけた紺色のスーツの女性がそう言うと、冴子が頷いた。
「申し訳ないけど時間がないの。話なら今度アポを取ってくださる?」
「あなたの、息子さんのことです」
俺に背を向けようとした冴子に、俺はひるまず声をかけた。
冴子の足がぴたりと止まる。
「今日、瑞希は舞台に立ちます。そして、それが終わったらアメリカに立ちます」
「―――知ってるわ」
「瑞希の芝居を―――観てやってくれませんか」
「見る必要はないわ。わたしは忙しいの。じゃ―――」
「待ってください!」
そのまま行ってしまおうとする冴子。
俺は慌てて駆け出し、冴子の前に立ちはだかった。
「ちょっとあなた!警察を呼びますよ!」
スーツの女性が冴子と俺の間に入った。
車の運転手らしき男も出てきて俺の前に立った。
「瑞希は!あなたに芝居を観てほしくて―――認めてほしくて、今日舞台に立つんです!」
「今、警察を―――」
女性が携帯を出す。
が、その手を冴子が止めた。
「瑞希は―――言ってました。あなたに認めてほしいと。あなたの息子だというだけで仕事はいくらでもあるけど、自分の実力で役を勝ち取りたいと」
「・・・・それは知ってるわ。そのためにアメリカへ行くんでしょう?アメリカで役を勝ち取れるならすごいことよ。だから私もアメリカ行きを許したの。別にあんな小さな劇団の舞台なんて出なくても―――」
「だからこそです。アメリカへ行く前にあなたに芝居を観てもらい、認めてもらってからアメリカへ行きたいと瑞希は思ってるんです。あなたに認めてもらうことが、あいつの自信になるんです。あなたの力ではなく、自分の力で勝ち取った今日の役で認めてもらうことが、大事なんです」
「・・・・自分の力・・・・・」
「お願いします!あいつの芝居を観てやってください!あいつは本当に芝居が好きで―――自分の力で俳優になりたいと心から思ってるんです。その気持ちをわかってやってください!」
俺は、深く頭を下げた―――。
朝、俺の顔を見るなり海斗がそう言った。
「そうか?」
俺は一応とぼけてみたが。
そんなことはお見通しだろう。
「ま、うまくいったみたいでよかったよ。あの日俺が通報せずに手当てしてやろうって言ったのも無駄じゃなかったね」
にやりと笑う海斗に、俺も苦笑する。
「調子のいいやつだな。まあ・・・・今となっては良かったけど」
「でしょ?で、瑞希はもう出たの?」
「ああ。今日が初日だからな」
「そういえば、あいつこれが終わったらすぐにアメリカに行くって言ってたけど舞台はいつまでなんだ?」
「今回は2週間だって」
「2週間はここにいるってこと?」
「いや・・・・あいつが舞台に立つのは今日だけ」
「は?どういうこと?」
「俺も知らなかったんだけど・・・・あいつの友達の宮下っていう奴が明日からはその役をやることになってるらしい」
「そうなの?」
「ああ。最初、瑞希がずっとやるはずだったんだけどオーディションの準備のために早めにアメリカに来てほしいってエージェンシーから連絡があったらしくて、急遽そういうことになったって。もともと瑞希の役はその宮下くんと2人でダブルキャストって話もあったから問題ないって言われたらしいよ」
「じゃあ・・・・本当にすぐアメリカに行くんだな」
「そういうこと」
「にしては冷静だね、兄ちゃん」
「・・・・まあな。なあお前、一人で劇場まで行ける?」
「は?まぁ・・・・場所はわかるけど。なんで?」
「俺、ちょっと行くところがあるんだ。開演には間に合うと思うけど・・・・」
「ふーん?わかった」
首を傾げながらもそれ以上は聞かない海斗。
なんとなく察してくれる。
それは兄弟ならではなのかもしれない。
俺は朝食を食べると家を出てある場所に向かった。
会える保証はない。
相手は大物だ。
だけど、どうしても直接伝えたいことがあった。
今日じゃなければ駄目なこと。
俺が瑞希のためにできること。
それは―――
「こんにちは」
都内のあるビルの駐車場で、俺は車から降りてきた鮎原冴子に頭を下げた。
「―――あなた、田村・・・・優斗さんの方かしら?お兄さんの方?」
「そうです。俺のこと、ご存じなんですね」
「息子がお世話になっているそうね」
「社長、お時間が―――」
冴子の隣にいた眼鏡をかけた紺色のスーツの女性がそう言うと、冴子が頷いた。
「申し訳ないけど時間がないの。話なら今度アポを取ってくださる?」
「あなたの、息子さんのことです」
俺に背を向けようとした冴子に、俺はひるまず声をかけた。
冴子の足がぴたりと止まる。
「今日、瑞希は舞台に立ちます。そして、それが終わったらアメリカに立ちます」
「―――知ってるわ」
「瑞希の芝居を―――観てやってくれませんか」
「見る必要はないわ。わたしは忙しいの。じゃ―――」
「待ってください!」
そのまま行ってしまおうとする冴子。
俺は慌てて駆け出し、冴子の前に立ちはだかった。
「ちょっとあなた!警察を呼びますよ!」
スーツの女性が冴子と俺の間に入った。
車の運転手らしき男も出てきて俺の前に立った。
「瑞希は!あなたに芝居を観てほしくて―――認めてほしくて、今日舞台に立つんです!」
「今、警察を―――」
女性が携帯を出す。
が、その手を冴子が止めた。
「瑞希は―――言ってました。あなたに認めてほしいと。あなたの息子だというだけで仕事はいくらでもあるけど、自分の実力で役を勝ち取りたいと」
「・・・・それは知ってるわ。そのためにアメリカへ行くんでしょう?アメリカで役を勝ち取れるならすごいことよ。だから私もアメリカ行きを許したの。別にあんな小さな劇団の舞台なんて出なくても―――」
「だからこそです。アメリカへ行く前にあなたに芝居を観てもらい、認めてもらってからアメリカへ行きたいと瑞希は思ってるんです。あなたに認めてもらうことが、あいつの自信になるんです。あなたの力ではなく、自分の力で勝ち取った今日の役で認めてもらうことが、大事なんです」
「・・・・自分の力・・・・・」
「お願いします!あいつの芝居を観てやってください!あいつは本当に芝居が好きで―――自分の力で俳優になりたいと心から思ってるんです。その気持ちをわかってやってください!」
俺は、深く頭を下げた―――。
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