転生治癒師の恋物語 〜聖女様と王子様の仲を取り持ったら、別の王子様に気に入られました〜

藤なごみ

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第七十六話 名誉男爵と貴族の身分

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「続いて、直轄領防衛に関する表彰を行う」

 あれ?
 確か、今日はあの四家の処分に関する通知だけって聞いていた。
 しかも、一瞬陛下が私のことを見たぞ。
 嫌な予感しかしない。
 しかし、この場でどうこうできることなんて、私にはできない。
 私は、このまま流れに身を任せることにした。

「皆も知っていると思うが、先日王国直轄領に向かっていたルーカス率いる部隊がオークキングを伴う魔物溢れに遭遇した。ルーカスは部隊を指揮して奮戦したが、劣勢なのは明らかだった。そこに、フェンリルに跨った一人の少女が王都から単身駆けつけ、見事オークキングを含む魔物たちを打ち破ったのだ。仮に魔物が直轄領を襲った場合、どれほどの被害がでたのか想像すらできないレベルだろう」

 陛下が私の功績を説明する度に、集まった貴族から感嘆の声が上がった。
 チラリと王族を見るが、うんうんと満足そうに頷いていた。
 私は、ルーカス様のところに駆けつけた時はかなり必死だったから、功績とかそんなことは全く考えていなかった。

「更にその少女はその場で負傷した兵の治療も行い、オークキング率いるオークの群れと遭遇しながら一人の死者も出すことはなかった。この事も特筆すべき事だろう。治療した兵は全員原隊へ復帰しており、通常の活動を行っている。国防の意味でも非常に重要だ」

 陛下が治療の件を言うと、集まった貴族は更に盛り上がっている。
 一部の貴族は悔しそうな表情を見せているが、この盛り上がりに反論するのはほぼ不可能だろう。
 その盛り上がりは私のことを指しているのだから、正直こそばゆい気持ちだ。

「もちろん直轄領を守ったルーカス率いる部隊にも恩賞を与える。しかし、このものの功績は非常に大きい。フェンリル連れの治癒師リン」
「はい」

 私は陛下に呼ばれて、前へと進み出た。
 周囲にいる貴族から称賛や妬みなどの様々な視線を一身に浴びながら、私は臣下の礼をとった。

「リン、面をあげよ。此度の活躍は、まさに王国史に残るものだ。それに、二回もオークキングを討伐したのだ。相応の褒美を与えないとならない」
「過分なご配慮、恐れ入ります」

 またもや謁見の間に集まっている貴族が静まり返り、私と陛下に注目していた。
 そして、陛下は驚くべき発言をしたのだ。

「オークキングを討伐せしリンに、名誉男爵と貴族の身分を与える」
「「「おおー」」」

 またもや多くの貴族から感嘆の声が上がった。
 というか、とんでもない褒美な気がするのは気のせいではないはず。
 現に、私のことを睨んでいる貴族からの怨念の視線が一層増していた。
 しかし、私に拒否権はないだろう。
 なんせ、相手はこの国のトップなのだから。

「謹んでお受けいたし……」
「陛下、お待ち下さいませ!」

 おお、まさかのちょっと待ったコールだ。
 声をした方を振り返ると、かなりの肥満体型な上にもの凄く豪華な貴族服を着ている貴族が、まるでドシンドシンという足音を立てるような歩き方で私の横に座った。
 そして、私を思いっきり睨みつけてから陛下に進言したのだ。

「恐れながら、陛下に申し上げます。このものの打ち立てた功績は確かに比類なきものですが、女性に名誉爵位を与えるなんてありませません。きっと、オークキングが現れたのも、このものが仕込んだ……」
「黙れ!」
「ヒィ……」

 おお、いつもは温厚な感じなのに珍しく陛下が激怒したよ。
 王家の面々も殺気を垂れ流しているのは、きっと気のせいではないだろう。
 どうやらこのでっぷりと太った貴族は、ドラゴンの尻尾を踏み抜いてしまったようだ。

「リンに名誉爵位を授ける決定は、閣議で決定している。そもそも女性にも名誉爵位を授けられることは法にも明記しており、貴様の発言は国の根幹たる法を害するものだ。直轄領でルーカスが魔物溢れに遭遇した際、リンは母上を含む王家の面々とお茶をしていた。貴様の発言は、王家のものを軽視するものだ」
「そ、それは……」

 でっぷりと太った貴族は、顔を真っ青にして汗をダラダラとかきながらチラチラと私を見ていた。
 なんで罵倒した私に助けを求めるのだろうか。
 あまりにも無計画すぎるぞ。

「そもそも、余は貴様に発言を許可しておらん。貴様が許可なく色々なことを喋ったまでだ」
「あっ……」

 これは、痛恨のエラーだ。
 何かをする時は許可を得ることなど、基本中の基本だと思うが。
 でっぷり太った貴族は、驚愕の表情のまま固まってしまった。

「このものを連行せよ。この場に相応しくない」
「「「はっ」」」
「……」

 でっぷりと太った貴族は真っ白に燃え尽きており、無抵抗で近衛騎士にドナドナされて行った。
 同時に、私に怨念の視線を向けていた貴族も急速に縮こまった。
 そりゃ、目の前で身内が盛大に自爆したのだから、大人しくしないと飛び火すると考えただろう。

「では、改めてリンに名誉男爵と貴族の身分を与える」
「謹んでお受けいたします」
「うむ。これからも研鑽に励むように」

 邪魔者がいなくなったので、その後の流れは非常にスムーズだった。
 こうして、私は名誉貴族となってしまった。
 うん、完全に予想外だよ。
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