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第十七章 教皇国編

三百三十三話 ジンさんの二つ名

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 聖騎士が改めて馬の調子をみて問題ないと判断したので、僕達は皇都に向けて出発します。
 王国の国境からだと、四日目に皇都に着く予定です。
 僕とリズとティナおばあさまにジンさん。
 サイファ枢機卿も一緒です。
 御者役も含めて近衛騎士が八人いて、更には聖騎士も十人つきます。
 うーん、中々の大人数だな。

「何で俺が馬車に乗っているんだ?」
「ジン殿も教皇国からの来賓になりますので、アレク殿下やリズ殿下と同じ扱いになります。ティナ殿下はお二人の保護者となられます」
「俺、御者で良いんだけど……」

 馬車に乗る事に居心地が悪いのかジンさんはサイファ枢機卿に質問していたが、サイファ枢機卿はジンさんは馬車に乗って当然だと言い切っている。
 そして、リズよ。
 スラちゃんとプリンと一緒に自分も外に出るとアピールしないの。

 ガラガラと僕達を乗せた馬車は、教皇国の街道を進んで行きます。
 今朝の聖騎士の馬に対する事を考えると、きっと何処かで懐古派が何かを仕掛けてくるはず。
 皆で周囲を警戒している。

「ウルフが集団で現れたぞ!」
「迎撃しろ!」

 僕達の馬車の前に現れたのはウルフの集団。
 でも集団とはいえ、二十頭位だ。
 馬車の窓からスラちゃんとプリンがぴょんと飛び降りて、近衛騎士と聖騎士と共にあっという間にウルフを倒した。
 うーん、このウルフは普通に街道近くの森から現れたっぽいなあ。
 スラちゃんとプリンも、全く手応えがなくてつまらない様だ。

「また、ウルフが現れたぞ」
「直ぐに倒すぞ」

 その後も何回かウルフの集団が僕達の乗った馬車を襲ってきたけど、辺境伯領の森に現れるウルフよりも弱い。
 終いには手ごたえがないとスラちゃんとプリンも討伐に出る事がなくなり、血抜きだけ手伝っていた。
 そして、あっという間に今日僕達が宿泊する街に到着。
 
「うーん、結局襲撃はなかったですね」
「まだ、何かあると行けないから、警戒はするぞ」

 呆気なく街に着いたけど、ジンさんの一言で僕達は気を引き締めます。
 先ずはこの街の教会に向かいます。
 ここも教会関係者がトップを務めているそうです。
 案内されたのは普通の教会だけど、教会の中に入ったら度肝を抜かれた。

「きゃー、双翼の天使様よ」
「とっても可愛いわ」
「となると、あの方が華の騎士様ね」
「もう一人の方が導く者なのですね」
「「わわ!」」

 教会の中にはシスターに加えて街の人も沢山いて、僕達はあっという間に囲まれてしまった。
 でも、僕とリズの双翼の天使とティナおばあさまの華の騎士という二つ名は分かるけど、導く者って一体誰の事だ?
 すると、教会の偉い人っぽい老人が、サイファ枢機卿に話をしてきた。

「ほほほ。サイファ枢機卿、これは凄い人気ですな」
「これはこれはアベイル司祭。皆様にはオーラがありますから、市民の方にただ者ではないと直ぐ分かりましょう」

 どう見てもヨボヨボの白髪のお爺さんだけど、この人が司祭様か。
 先ずは挨拶をしないと。

「司祭様、初めてお目にかかります。ブンデスランド王国のアレクサンダーと申します。どうぞアレクとお呼びください。本日は皇都への旅に際し、宿泊場所を提供頂き感謝申し上げます」
「おお、幼いのにその様な立派な口上を述べられるとは。儂は深く感動しております。この街の司祭をしておりますアベイルと申します。皆様に、神のご加護があります様に」
「「「素晴らしい、流石は双翼の天使様だ」」」
「あの、皆さん立ち上がって下さい。膝をつかないで下さい!」

 僕が挨拶をしたら、アベイル司祭だけでなく教会内にいた人も僕達を取り囲んで膝をつきながら手を組んで祈り始めた。
 流石にこういうのは精神的にきついので、やめてもらわないと。
 お願いして何とか立ち上がったアベイル司祭に、さっき街の人が話をしていた導く者について聞いてみた。

「アベイル司祭様、先程街の方が言っていた導く者とは一体誰の事ですか?」
「そちらにおられますジン殿の事になります。双翼の天使様に次期ブンデスランド国王陛下を導き聖女様をお救いになられましたので、導く者という二つ名が付けられました」
「え!」

 アベイル司祭の言う事に間違いはない。
 確かにジンさんは僕とリズの冒険者の師匠だし、ルーカスお兄様にも指示ができる。
 よく考えると、一冒険者なのにこれって凄い事だよね。

「ジン、良かったじゃない。Aランク冒険者なのに、ジンに二つ名がないのが気になっていたんだよね」
「ティナ様、勘弁して下さい。俺にそんな大層な二つ名はダメですよ」

 あ、ティナおばあさまがジンさんの事をからかっている。
 でも、ジンさんは凄い冒険者だったのに、二つ名がなかったのは不思議だよね。
 そして、こういった事に食いつきそうなリズとスラちゃんとプリンはというと、

「はい、これで大丈夫だよ!」
「おお、ありがとうございます」

 教会内でいつの間にか怪我人や病気の治療を始めていた。
 治療を受けた人々は、リズとスラちゃんにとても感謝していた。
 悪い事をしているわけではないし、好きにやらせておこう。

「ははは、中々の二つ名だ。ジンにピッタリではないか」
「陛下、勘弁して下さいよ」
「良いではないか。二つ名の由来に間違ってはおらぬ」

 教会での色々な事があって後、宿に入って夕食を食べてから王城で今日の道中の報告を行った。
 朝の聖騎士の乗る馬の件は教皇国内で対応してもらう事で収まったが、ジンさんの二つ名の事で盛り上がった。
 ジンさんは、がっくりと項垂れていたけど。

「ははは、凄い二つ名だな!」
「間違ってはないけど、ははは!」

 そして僕の屋敷に戻ってレイナさんとカミラさんにもジンさんの話をしたら、話を聞いたレイナさんとカミラさんは大笑いしていた。
 陛下といいレイナさんとカミラさんといい、反応が凄いなあ。
 そしてジンさんの二つ名の件は、レイナさんとカミラさんを通じて辺境伯領に一気に広まったのだった。
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