転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

第三十二章 新入生

千百四十六話 ジンさんの威を借りる冒険者

　すると、若者よりも少し年上の少し小太りで頭頂部の薄い男性が、顔見知りの冒険者に食ってかかっていました。
　冒険者ギルド内で揉め事を起こすなんて、いったい何を考えているのでしょうか。
　そんな中、その男性冒険者がジンさんに向かってこんな事を言い放ちました。

「おい、お前。俺の事をジロジロと見るな！　俺は、かの有名なAランク冒険者のジンの関係者だぞ！」
「「「ああ、そういう事……」」」

　この場にいた大声で叫んでいる冒険者以外の人全員が、一瞬で状況を理解しちゃいました。
　というか、殆どの冒険者があちゃーって表情をしていますね。
　勿論、僕とジンさんもこの冒険者はやっちゃったって思いました。
　そして、さっきまで男性に文句を言われていた冒険者が、気まずそうに頭をポリポリとかきながら男性にこう言いました。

「おい、お前この二人を知らないのか？」
「ああ？　知らねーよ！　初めて見たぞ！」
「そっか、そうだったのか……」

　男性以外の冒険者は、こりゃ駄目だって表情に変わりました。
　周りの冒険者のテンションが一斉に低くなったのを見て、騒いでいた冒険者もキョロキョロと周囲を見回していました。
　そして、顔見知りの冒険者が一言。

「えー、こちらの男性がAランク冒険者でクロスロード子爵様のジンだ。隣にいるのが、副宰相閣下のアレクサンダーだ」
「はっ？　へっ？」

　男性は、何が何だか分からない表情で僕たちのことを見ていました。
　そして、段々と汗をダラダラとかきながらヤバいという表情に変わりました。
　しかし、男性の周囲には屈強な冒険者が取り囲んでいて、男性が逃げ出すのは不可能です。
　あと、僕もこの件で言わないといけません。

「あの、ジンさんは現役の宰相補佐で冒険者ギルド担当なので、全く知らない冒険者がジンさんの事を知り合いと言ったら事実関係を調べる為の確認が必要なんです。なので、この後冒険者ギルドの聴取を受けて貰います」
「……はい」

　男性は、ガックリと項垂れながら冒険者に囲まれて個室に連行されました。
　既に騒動を見た受付のお姉さんが動いていて、個室には副ギルドマスターのマリーさんが待ち構えているそうです。
　男性は勝手に僕たちの関係者を名乗ったので、間違いなくマリーさんにコッテリと絞られるはずですね。

「はあ、たまにいるんだよなあ。俺達の関係者を名乗って、威光を傘にしておこぼれを貰おうとする馬鹿が」
「そういえば、この前はアレクの知り合いってのもいたな。アレク達が学園に行っている事すら知らない、どっかの中年男性だったな」

　ジンさんと冒険者達が色々な話をしているけど、僕達もそこそこ有名だから勝手に関係者を名乗る人が出てくるのかもしれないね。
　何にせよ、キッチリと反省して貰いましょう。
　そして、ようやく騒動から解放されたので、僕とジンさんはみんなのいるところに向かいました。

「「「遅いよー！」」」

　ミカエル達が、待ちくたびれたかの様に僕とジンさんに文句を言っていました。
　レイナさん達はジンさんを巡る騒動を見ていたので、疲れた表情のジンさんを見て思わず苦笑していました。
　そんな中、リズ達の所に見知らぬ三人組の男女がキョロキョロとしながら一緒にいました。
　男性一人と女性二人で、僕と同じ位の年齢みたいですね。
　よく分からないので、一番確実に答えてくれそうなサンディに話を聞いてみよう。

「田舎から、冒険者を目指してやって来たそうです。辺境伯領で有名なジン様みたいに、立派な冒険者になろうと思っているみたいです。冒険者登録したばっかりなので、リズ様が冒険者について色々と教えていました」
「ふふーん、なんていってもリズは初心者冒険者の講師もできるもんね！」

　リズが腰に手を当てながらドヤ顔で僕に返事をしていたけど、サンディ曰く教えている内容はキチンとしたものだったらしい。
　そして、ついでだから初心者冒険者三人を薬草採取に誘ったみたいです。
　まあ、この辺りの流れはいつも通りだし、スラちゃんやちびっ子たちも大歓迎しているのを見ると悪い人ではなさそうです。

「じゃあ、時間も押しているしさっさと森に行くか」
「「「おー！」」」

　こうして、ジンさんの掛け声で僕たちは冒険者ギルドから出発しました。
　森に向かいながら、初心者冒険者三人に改めて自己紹介をする事にしました。
　ちなみに、冒険者ギルド前で待っていたポニさん達やドラちゃんも、僕たちに遅いと文句を言っていました。