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第十四章 公国

第二百九十八話 蛇に睨まれた蛙

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「エリザベス様に敬礼!」

 現在、皆で行政府に入る入り口の前にいます。
 行政府の周りは一般市民がごった返していて、エリザベス様コールが鳴り止まない。
 王妃様って、公国ではとんでもない人気があるな。
 そんな中、王妃様は周りに手を振りながら行政府の中に入っていった。
 うん、俺等は完全に王妃様達のお供だな。
 行政府の中に入ると、直ぐに係の者が出迎えてきた。

「エリザベス様、お帰りなさいませ。本日はどの様なご要件でおられますか?」
「大至急、議長と外務大臣に会いたい。エストランド王国より正式な特使として、オリエント公国へ書簡を持参している」
「畏まりました。丁度議会が開かれておりますので、議場にご案内致します」
「うむ、良きに計らえ」

 王妃様は係の者に要件を伝えると、直ぐに係が動いた。
 俺達も、そのまま王妃様の後に続く。
 今日の王妃様に、俺から話をするのは控えよう。
 王妃様は見た目は丁寧に対応していても、怒りのオーラが抑えられていない。
 現に応対した係の者は、王妃様の怒りのオーラをまともに受けて汗びっしょりになっている。
 巻き込んでしまってすみません。

「今こそ、公国が世界の覇者になるべく動くべきです! 其のために公王を廃止すべきです!」

 議場に案内してもらい扉の側にくると、議場の中から威勢の良い声が聞こえてきた。
 うん、どう考えても喋っているのは外務大臣だな。
 とんでもない妄想を語っている。
 この話を聞いた王妃様の怒りのオーラが、ますます激しくなってきた。
 係の人は、顔が真っ青になっているぞ。
 そして、演説が丁度途切れたので、議場に続く扉が開かれた。

「エストランド王国王妃、エリザベス様ご来場です!」

 係のものが扉を開けて、王妃様が来たことを告げた。
 うん、声が少し裏返ってるけど、あれだけの怒りのオーラを浴びながらよく頑張ったと思う。

 議場は突然の王妃の来場にどよめきが起こっている。
 お、演説スペースにいるあの太ったバーコードヘアーの男が外務大臣だな。
 人神教国に関わる人間は、皆メタボリックな体型だな。
 外務大臣は、何でここに王妃がいるのかと驚愕の表情になっている。
 王妃様は、そんな議場のどよめきなどを一切無視して一番高い所に座っている議長の所に歩いていく。
 そして、議長に国王からの書簡を無言で手渡した。
 議長は王妃の怒りのオーラに震えながら、急いで書簡を開いて中身を読み上げた。
 議場内は、水を打ったようにシーンと静まり返った。

「で、ではエストランド王国よりの書簡を読み上げます。えっと、え! エリザベス様、ここに書いてあるのは本当の事ですか?」

 議長は書簡に書いてある内容にビックリしていた。
 思わず王妃様に振り返って確認しているが、王妃様はニコリとしているだけだ。
 議場はどんな内容が書いてあるかと少しざわざわしたが、顔が真っ青になった議長が再び書簡を読み始めると静まり返った。

「では、読み上げます。この度、エストランド王国で以下の事件が起こった。一つは身の危険を感じてオリエント公国より避難してきた、リディア公女への毒殺未遂事件。そして王都で故意に魔物あふれを起こされ、王都を壊滅させようとした事件です」

 議長が読み上げた内容に、議場内が大きくざわめいた。
 想像以上の内容が書かれていたのだ。
 ここで、王妃様がわざと咳払いをした。
 再びシーンと静まり返る。
 
「では続きを読みます。リディア公女は実際に毒を飲まされ危篤となったが、たまたま王城内にいた聖女様により治療を受け危機を脱した。そして、同行していた侍従が犯人と判明し拘束した。王都襲撃事件に関しても、全ての魔物を撃退し犯人を拘束した。取り調べの結果、両事件とも人神教国と手を結んだオリエント公国外務大臣によるものだと判明した」

 再び議場内が大きくざわめいた。
 自国の継承権のある公女の殺害未遂に、他国王都への襲撃事件。
 特に後者は、戦争を仕掛けたと言われても仕方ないだろう。
 外務大臣は、滝のような汗を流して俯いている。
 ここで再び王妃様が、ニッコリ微笑みながら軽く咳き込んだ。
 またまたシーンとなる議場。
 うん、議場全体に王妃様の怒りのオーラが広がっているからな。
 議場にいる人が震えているよ。

「証拠を纏め然るべき関係者に提出し両国の担当者間で細かい所を詰めるとするが、先立ってエストランド王国としてオリエント公国に以下の事を要件する。首謀者である外務大臣及び関係者のエストランド王国への引き渡し、もしくはオリエント公国での正当な裁きの要求。この要求が受け入れない場合、オリエント公国がエストランド王国に敵意があるとみなされる。オリエント公国との国交を断絶し、然るべき対応を取ることとする」

 議長が最後まで読み上げると、再び王妃様がニッコリと微笑んだ。
 外務大臣は、顔面蒼白で何かを言おうとするが舌がまわらず喋れていない。
 ここで、俺の側にいた騎士団長の所に部下が話しかけてきた。
 そして、騎士団長が話し始めた。

「エリザベス様より証拠資料を受領済みである。また、行方不明とされている公王陛下並びに公王太子殿下が外務大臣邸にて囚われていると報告があった。現在外務大臣邸を捜索中である」

 騎士団長の報告により、再び議場が騒がしくなった。
 数日前に行方不明になったと言われていた国家元首が、まさか外務大臣邸にいるとは思ってもいなかったのだろう。
 それとは別に、せわしなく辺りを見回している人物もちらほらいる。
 これは外務大臣と結託しているのだろうな。
 外務大臣は、完全に固まっている。
 うん、微動だにしていない。
 と、ここで別の扉が開き、二人の人物と騎士が入ってきた。
 服装はボロボロだが、オーラがあり、何よりジュリエット様やリディア様と髪色がそっくり。
 間違いなく、公国王と公国王太子だろう。
 議場にいる人が、一斉に立ち上がった。

「皆の者、数日間不在となり申し訳ない。外務大臣の手のものに誘拐され暴行を受け、手足を骨折して動けない状態で監禁されていた。そこを、エリザベス王妃の手のものにより救い出された」

 想像以上の内容が語られ、どよめくもの、慌てふためくものに分かれている。
 ここで、議場に来てから初めて王妃様が話し始めた。

「公王陛下におかれては、ご無事で何よりでございます。ところで、外務大臣と少し会話をしたいのですが宜しいですか。決して危害を加えたりは致しません」
「許可をする。存分に話し合うがよい」
「ご承諾頂き、誠に有難う御座います。では」

 王妃様はそう言うと、議場席の側から演説席にいる外務大臣の側にきた。
 そしてニコリとすると、動こうにも全身が震えて動けないでいる外務大臣の事をムチで縛り上げた。
 そのままズルズルと外務大臣を引きずりながら、議場の外に通じる扉から外に出ていった。
 王妃様の後に、俺以外の女性陣と騎士が二人続いていった。

「うわ!」
「何だこれは?」
「動けないぞ!」

 扉が閉まった瞬間、議場にいた人物の何人かが糸で拘束された。
 実はタラちゃんとフランソワに頼んで、悪と判断された人をいつでも拘束できるように準備をしていた。

「騎士よ、聖女様の従魔により拘束されたものを捕らえよ!」
「「「はっ!」」」

 拘束することは騎士団長にこっそり教えていたので、スムーズに騎士に命令が出された。
 そして拘束されたものが騎士によって連れ出されたのを確認して、公国王が再び話し出した。

「議会は閉会する。拘束されなかったものは、それぞれの控室に移動するように」

 公国王が話し終えると、続々と退場していく。
 公国王と公国王太子も、騎士に付き添われて退場した。

「聖女様、我々も退場しましょう」

 俺も戻ってきたタラちゃんとフランソワを抱きつつ、騎士団長と共に退場した。
 今日俺は、一言も喋らずにニッコリしているだけだった。
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