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ep6
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「はぁ!?冗談だろ!?」
目の前で起こった現象にヘルメットの一人が声を上げた。
SFチックで俊敏かつ現実離れな動きを現存する生身の人間がやってのけたのだ、無理も無い。
どこか背中や腰辺りにワイヤーが繋がっているのではと僕も目を疑うばかりである。
文字通り瞬殺……いや、見たところ胸の当たりが上下に動いているので息はあるようだが、痛そうを通り越して、うん、――痛そうだ。
僕は蹲っている男を見て、視覚から何ともいえない痛みを胸の辺りに感じた。
想像しただけで鳥肌が立ったりするのと同じアノ症状である。
鳩尾に思いっきり拳を入れられるなんて想像したくないよね。
勢いに乗って一人を倒し、ゆらりと他の残党に目を向ける桜子と呼ばれた執事は、次の標的を絞っているのだろうか、心なしか眼光が鋭く見える。
残党は4人。
先ほどの圧倒的な戦闘力を目の当たりにした僕は、「これはいけるんじゃないか」「無事に帰れるな」とまるで肩の荷が降りたかの様に不思議と幾分か気持ちが楽になっていた。
アクション映画よろしくといったところだろうか。
「おい!てめぇら、相手は一人だ。びびってんじゃねぇ!!」
「う、ウッス!!」
受付近くの男が声を荒げて士気を上げ、それに返事を返し三人の男が一斉に執事に向かって飛び出した。
それ、大体負けるやつだよね。死亡フラグっていうか、お約束というか。
段々と恐怖心から茶番へと移り変わろうとしているこの状況に変な違和感を覚える。
「掛かってくるがいい、何人たりともお嬢様に触れさせはしないがな」
もうなんだろう。なんだこの人、無駄にカッコイイ。
もうね、ついでとばかりに右手で掛かって来いとクイクイしちゃう辺りがカッコイイ。
その主、腕を組みながらどやっている遠藤さんもなんだか今日出会ったばかりの冷めた印象とは打って変わって、まるで怪獣の入ったボールを投げるトレーナーさながらである。
随分と顔が生き生きしているというか、自分の部下?執事?が下手をすれば怪我どころでは済まないというのに嬉嬉としているではないか。
ひょっとして二人して戦闘狂というやつなのか?女性がいつも守られる側ではいられないということだね。彼女達は、ここにいる僕も含めてどこの男性よりも勇敢かつ無謀である。
その後、数分の間であるが幾多もの突き・振り下ろし・横殴りと三方向から来るありとあらゆる攻撃パターンを女執事は全て回避し、まるで子供と戯れているように飄々としていた。
端から見ても戦況は余裕、いわば楽勝快勝である。
しかし一撃でも貰おうものなら、例えば「くっ、膝に…」なんてダメージ、普通は動けるようなものではないからね。
例えば脛をぶつけただけでも僕だったらしばらくその場にしゃがみこんで硬直することだろう。
「クソッ!!当たんねぇ……ッ!!」
「どうした?藤堂家の回し者というのはこんな腑ふ抜け共しか雇えないのか?」
どこからどうみても人間業じゃない光景から僕達、一般客ギャラリーは歓声を上げることなく目を奪われていた。
舞踏会で演技をする演者の様に舞う執事は顔色一つ変えずに敵を煽りに煽る。
そして常に優位に立っていることで自信を持っているのか、女執事は気が付いていない。
だけれど、僕は気が付いた。
肩で息をしながら三人の男は顔を上げるが、三人ともヘルメットの奥でおそらくにやけ面になっているだろうことに。
そうだ。一人は倒れこんでおり、現在対峙しているのは三人。
つまり四人は足止めが出来ていると思っていいし、この見解にこれに間違いはない。
だがこの場には五人のヘルメット男がいたはずなのである。
簡単なことなのに、誰もが視線を女執事に奪われていたことで誰も気が付かなかった。
だけれど、僕は気が付いたのだ。
じりじりと隠れながらこちらへ近づいて来る、当初は受付付近にいたはずの残りの一人に。
標的となっている遠藤さんも自分の執事の活躍に目を奪われ、自身が置かれている状況をイマイチ把握していなさそうだ。
健気にも自分の執事を応援しているではないか。
「実は、アホの子だったのか」と、失礼ながらもそう思わざるを得ない。
現状況を簡単にまとめるとするならば、三人を囮にして秘密裏に行動、そして奇襲を仕掛けていたのである。
先ほどの様に、分かっていて何もしないで不甲斐無い思いをしたくない気持ちからか不自然にならないよう、遠藤さんの横へと僕は移動した。
だけれど、正直やらなければ良かったと"後悔"している。
遠藤さんからは変な目で見られるし、近づいてくる男はヘルメットで表情は分からないがきっとイラついているに違いない。
遠藤さんには「え、なに?あんたもそういう口?私とお近づきになろうっていうの?」といった視線を向けられるし、ヘルメット男からはバットのグリップを握る右手にギュッと力が入り、音まで聞こえてきそうなんだもの。
要君や、君のお友達が勇敢な行動をしたけれど何故かタブルピンチに陥っているよ。
いつまでそんな怠け面をしているつもりだい、早く助けておくれ。
しかしそんな僕の気持ちを察することもなく、女執事に目を輝かせている要。
戦隊物の特撮を見ている子供達の様に、目が輝いているではないか。
どうやら想いは常に一方通行のようだ。
普段から鈍感だと思っていたけれど、あぁ、思っていたともさ。
君に期待した時は大概アテにならないことくらい、この2年間の付き合いの中で十二分に体感してきたさ。
刻一刻と僕の運命の時間は迫ってくる。
正直心臓がコレほどまでに脈を打つ経験など生まれてこの方およそ20年。
テニスの大会だろうと、水泳の試合だろうとここまで上がる事はなかった。
物語の主人公というのはこんな状況をいつも解決しているのか。
いやそういえば今、目の前でまさに御伽噺のような馬鹿げた女性の執事がいたなぁと脳裏を過ぎる。
"「なんで僕がこんな役割を担わねばならぬのだ。」「別に僕でなくても良かっただろう。」"
"精々脇役なんだから無駄な事はやめておけ"
脇役……、そう村人である僕に魔王・・を打つ力は無いのである。
いよいよ男が勢いを付けて手を伸ばしならが遠藤さんを目掛けて動き出した。
「おぉおおおおお!!」
低い重低音な声を響かせながら遠藤さんの首を掴もうと手を伸ばす。
「えっ……!?いやっ、きゃぁっ!?」
男の手が間近に迫ってきて初めて遠藤さんは気が付いたのか短く悲鳴を上げた。
「お嬢様!?」
疲労困憊としている悪党三人を締め上げていた女執事は、主の悲鳴を聞いて慌てて振り返るが既に魔の手は伸びており己の強靭な足を持ってしても届かない。
ここまでかと思われた雰囲気の中、無意識に僕の腕だけは動いていた。
あと一秒……、一秒遅ければ遠藤さんは人質として最悪な道を辿っていたのかもしれない。
感謝して頂きたいものだ、僕の腕にね。
僕の腕が遠藤さんの目の前で止まり、男の伸ばした腕を止めていたのである。
何が起こったのか理解が追いつかないのだろうか、しばらく男は僕に掴まれた腕を見ながら硬直していた。
大丈夫、僕もとんでもないことをしているんだと未だに脳が理解しきっていないのだからお互い様である。
腕にはしっかりと力が入っているのに足はガクガクと震えており、武者震いだと言い訳できるような震え方ではなかった。
ゆっくりとヘルメットがこちらを向き更に不気味さが増して、「やっぱり柄にもないことしちゃったな」と脳内会議での否定派意見を思い返す。
「なんだてめぇ……」
「あー……、えっとー……女の子に手を上げるのはさすがに良くないかなーと思ったりしましてですね、その」
僕は言葉を濁しながら何とか返事をする。
別にコミュ障とかじゃないんだからね?普段はこんなにどもったりしないんだからね?
もうね、死にたい。
「えぇ?女にカッコいいところ見せたいってか?はっ、笑えるぜこりゃ!!がはははっ」
そんな僕の内心ビビリまくっている気持ちなんてお構い無しに、腕を掴まれたままの男は僕が起こした行動に笑い
「――そこをどけ、クソガキ」
間をおいてから、僕対して凄い威圧を掛けてきた。
二つ返事で今すぐにでも後ろに下がりたかったけど、僕の右腕さんがなかなか男の腕を離さない。
どうしたんだい僕の右腕さん。いつから君はそんなに勇敢な戦士になってしまったんだい。
僕のことなのに僕が一番理解できない。
"この手は離しちゃダメだ"と脳内会議の賛成派が意見を上げている。
「……離したいけど、なんか離しちゃ駄目な気がするんで、すみません」
「殺すぞ?」
「いやぁ、それはちょっと……嫌ですね」
本当に嫌だというより、おそらく僕の表情は面倒くさいに近い表情をしていたに違いない。
こういう時、どんな表情をすればいいのか分からない。
怒られてるのに笑ってしまう人の気持ちが今なら分かる気がする。
「やっぱナメてんだろてめぇ!?いいぜ先にお前から殺してやるよ!!」
僕の態度に痺れを切らしてしまったのか、ぶるんっと大きく掴まれている腕を薙ぎ払い、掴んでいた手は簡単に離されてしまった。
やぁやぁ僕の右腕さん、君の力はそんなものだったのかい。もう少し粘れるのかと思ったけれど、無理だったのかい。
君が離してしまったせいで今度こそ打つ手なしです。
意図せず動いた右腕には再び力が戻ることなく足と動揺に震えている。
男はバットを両手持ちにして横振りをしようと、所謂野球でのスイングをしようと大きく振りかぶった。
あっ、無理無理。
これ頭とか当たったらきっと逝っちゃうよね!
咄嗟に…、本能的に危険を感じたのか僕の足が素早く動き、バックステップで男のスイングを回避する。
ブンッ!!間近で風を切る音がした。
うひぃ……死ねるッ、あぁ、ありがとう僕の両足さん、良く反応してくれたよ。
君がいなければ僕はここに立ってはいないだろう。
僕の体の一部に感謝である。
目の前で起こった現象にヘルメットの一人が声を上げた。
SFチックで俊敏かつ現実離れな動きを現存する生身の人間がやってのけたのだ、無理も無い。
どこか背中や腰辺りにワイヤーが繋がっているのではと僕も目を疑うばかりである。
文字通り瞬殺……いや、見たところ胸の当たりが上下に動いているので息はあるようだが、痛そうを通り越して、うん、――痛そうだ。
僕は蹲っている男を見て、視覚から何ともいえない痛みを胸の辺りに感じた。
想像しただけで鳥肌が立ったりするのと同じアノ症状である。
鳩尾に思いっきり拳を入れられるなんて想像したくないよね。
勢いに乗って一人を倒し、ゆらりと他の残党に目を向ける桜子と呼ばれた執事は、次の標的を絞っているのだろうか、心なしか眼光が鋭く見える。
残党は4人。
先ほどの圧倒的な戦闘力を目の当たりにした僕は、「これはいけるんじゃないか」「無事に帰れるな」とまるで肩の荷が降りたかの様に不思議と幾分か気持ちが楽になっていた。
アクション映画よろしくといったところだろうか。
「おい!てめぇら、相手は一人だ。びびってんじゃねぇ!!」
「う、ウッス!!」
受付近くの男が声を荒げて士気を上げ、それに返事を返し三人の男が一斉に執事に向かって飛び出した。
それ、大体負けるやつだよね。死亡フラグっていうか、お約束というか。
段々と恐怖心から茶番へと移り変わろうとしているこの状況に変な違和感を覚える。
「掛かってくるがいい、何人たりともお嬢様に触れさせはしないがな」
もうなんだろう。なんだこの人、無駄にカッコイイ。
もうね、ついでとばかりに右手で掛かって来いとクイクイしちゃう辺りがカッコイイ。
その主、腕を組みながらどやっている遠藤さんもなんだか今日出会ったばかりの冷めた印象とは打って変わって、まるで怪獣の入ったボールを投げるトレーナーさながらである。
随分と顔が生き生きしているというか、自分の部下?執事?が下手をすれば怪我どころでは済まないというのに嬉嬉としているではないか。
ひょっとして二人して戦闘狂というやつなのか?女性がいつも守られる側ではいられないということだね。彼女達は、ここにいる僕も含めてどこの男性よりも勇敢かつ無謀である。
その後、数分の間であるが幾多もの突き・振り下ろし・横殴りと三方向から来るありとあらゆる攻撃パターンを女執事は全て回避し、まるで子供と戯れているように飄々としていた。
端から見ても戦況は余裕、いわば楽勝快勝である。
しかし一撃でも貰おうものなら、例えば「くっ、膝に…」なんてダメージ、普通は動けるようなものではないからね。
例えば脛をぶつけただけでも僕だったらしばらくその場にしゃがみこんで硬直することだろう。
「クソッ!!当たんねぇ……ッ!!」
「どうした?藤堂家の回し者というのはこんな腑ふ抜け共しか雇えないのか?」
どこからどうみても人間業じゃない光景から僕達、一般客ギャラリーは歓声を上げることなく目を奪われていた。
舞踏会で演技をする演者の様に舞う執事は顔色一つ変えずに敵を煽りに煽る。
そして常に優位に立っていることで自信を持っているのか、女執事は気が付いていない。
だけれど、僕は気が付いた。
肩で息をしながら三人の男は顔を上げるが、三人ともヘルメットの奥でおそらくにやけ面になっているだろうことに。
そうだ。一人は倒れこんでおり、現在対峙しているのは三人。
つまり四人は足止めが出来ていると思っていいし、この見解にこれに間違いはない。
だがこの場には五人のヘルメット男がいたはずなのである。
簡単なことなのに、誰もが視線を女執事に奪われていたことで誰も気が付かなかった。
だけれど、僕は気が付いたのだ。
じりじりと隠れながらこちらへ近づいて来る、当初は受付付近にいたはずの残りの一人に。
標的となっている遠藤さんも自分の執事の活躍に目を奪われ、自身が置かれている状況をイマイチ把握していなさそうだ。
健気にも自分の執事を応援しているではないか。
「実は、アホの子だったのか」と、失礼ながらもそう思わざるを得ない。
現状況を簡単にまとめるとするならば、三人を囮にして秘密裏に行動、そして奇襲を仕掛けていたのである。
先ほどの様に、分かっていて何もしないで不甲斐無い思いをしたくない気持ちからか不自然にならないよう、遠藤さんの横へと僕は移動した。
だけれど、正直やらなければ良かったと"後悔"している。
遠藤さんからは変な目で見られるし、近づいてくる男はヘルメットで表情は分からないがきっとイラついているに違いない。
遠藤さんには「え、なに?あんたもそういう口?私とお近づきになろうっていうの?」といった視線を向けられるし、ヘルメット男からはバットのグリップを握る右手にギュッと力が入り、音まで聞こえてきそうなんだもの。
要君や、君のお友達が勇敢な行動をしたけれど何故かタブルピンチに陥っているよ。
いつまでそんな怠け面をしているつもりだい、早く助けておくれ。
しかしそんな僕の気持ちを察することもなく、女執事に目を輝かせている要。
戦隊物の特撮を見ている子供達の様に、目が輝いているではないか。
どうやら想いは常に一方通行のようだ。
普段から鈍感だと思っていたけれど、あぁ、思っていたともさ。
君に期待した時は大概アテにならないことくらい、この2年間の付き合いの中で十二分に体感してきたさ。
刻一刻と僕の運命の時間は迫ってくる。
正直心臓がコレほどまでに脈を打つ経験など生まれてこの方およそ20年。
テニスの大会だろうと、水泳の試合だろうとここまで上がる事はなかった。
物語の主人公というのはこんな状況をいつも解決しているのか。
いやそういえば今、目の前でまさに御伽噺のような馬鹿げた女性の執事がいたなぁと脳裏を過ぎる。
"「なんで僕がこんな役割を担わねばならぬのだ。」「別に僕でなくても良かっただろう。」"
"精々脇役なんだから無駄な事はやめておけ"
脇役……、そう村人である僕に魔王・・を打つ力は無いのである。
いよいよ男が勢いを付けて手を伸ばしならが遠藤さんを目掛けて動き出した。
「おぉおおおおお!!」
低い重低音な声を響かせながら遠藤さんの首を掴もうと手を伸ばす。
「えっ……!?いやっ、きゃぁっ!?」
男の手が間近に迫ってきて初めて遠藤さんは気が付いたのか短く悲鳴を上げた。
「お嬢様!?」
疲労困憊としている悪党三人を締め上げていた女執事は、主の悲鳴を聞いて慌てて振り返るが既に魔の手は伸びており己の強靭な足を持ってしても届かない。
ここまでかと思われた雰囲気の中、無意識に僕の腕だけは動いていた。
あと一秒……、一秒遅ければ遠藤さんは人質として最悪な道を辿っていたのかもしれない。
感謝して頂きたいものだ、僕の腕にね。
僕の腕が遠藤さんの目の前で止まり、男の伸ばした腕を止めていたのである。
何が起こったのか理解が追いつかないのだろうか、しばらく男は僕に掴まれた腕を見ながら硬直していた。
大丈夫、僕もとんでもないことをしているんだと未だに脳が理解しきっていないのだからお互い様である。
腕にはしっかりと力が入っているのに足はガクガクと震えており、武者震いだと言い訳できるような震え方ではなかった。
ゆっくりとヘルメットがこちらを向き更に不気味さが増して、「やっぱり柄にもないことしちゃったな」と脳内会議での否定派意見を思い返す。
「なんだてめぇ……」
「あー……、えっとー……女の子に手を上げるのはさすがに良くないかなーと思ったりしましてですね、その」
僕は言葉を濁しながら何とか返事をする。
別にコミュ障とかじゃないんだからね?普段はこんなにどもったりしないんだからね?
もうね、死にたい。
「えぇ?女にカッコいいところ見せたいってか?はっ、笑えるぜこりゃ!!がはははっ」
そんな僕の内心ビビリまくっている気持ちなんてお構い無しに、腕を掴まれたままの男は僕が起こした行動に笑い
「――そこをどけ、クソガキ」
間をおいてから、僕対して凄い威圧を掛けてきた。
二つ返事で今すぐにでも後ろに下がりたかったけど、僕の右腕さんがなかなか男の腕を離さない。
どうしたんだい僕の右腕さん。いつから君はそんなに勇敢な戦士になってしまったんだい。
僕のことなのに僕が一番理解できない。
"この手は離しちゃダメだ"と脳内会議の賛成派が意見を上げている。
「……離したいけど、なんか離しちゃ駄目な気がするんで、すみません」
「殺すぞ?」
「いやぁ、それはちょっと……嫌ですね」
本当に嫌だというより、おそらく僕の表情は面倒くさいに近い表情をしていたに違いない。
こういう時、どんな表情をすればいいのか分からない。
怒られてるのに笑ってしまう人の気持ちが今なら分かる気がする。
「やっぱナメてんだろてめぇ!?いいぜ先にお前から殺してやるよ!!」
僕の態度に痺れを切らしてしまったのか、ぶるんっと大きく掴まれている腕を薙ぎ払い、掴んでいた手は簡単に離されてしまった。
やぁやぁ僕の右腕さん、君の力はそんなものだったのかい。もう少し粘れるのかと思ったけれど、無理だったのかい。
君が離してしまったせいで今度こそ打つ手なしです。
意図せず動いた右腕には再び力が戻ることなく足と動揺に震えている。
男はバットを両手持ちにして横振りをしようと、所謂野球でのスイングをしようと大きく振りかぶった。
あっ、無理無理。
これ頭とか当たったらきっと逝っちゃうよね!
咄嗟に…、本能的に危険を感じたのか僕の足が素早く動き、バックステップで男のスイングを回避する。
ブンッ!!間近で風を切る音がした。
うひぃ……死ねるッ、あぁ、ありがとう僕の両足さん、良く反応してくれたよ。
君がいなければ僕はここに立ってはいないだろう。
僕の体の一部に感謝である。
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