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プロローグ

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『死にたい』

誰もがそう思ったことは一度でもあるのではないだろうか。辛い時や苦しい時、恥ずかしい時など思ってしまうこともあるかもしれない。

だが、それがある日、毎日のように死にたいと思うようになってしまった。


それは梅雨の湿気が漂う、昼休憩のこと。


「お前、神無月と仲がいいらしいじゃないか?」


不良の中の不良。学ランの袖をめくり、胸元を開け、髪は金髪に染めて、ピアスをしているクラスで初めて会話をする奴が話しかけてきた。


「い、いや。そんなことはないよ」


俺はまともに目を合わすことさえ出来ず、あたふたしながら返答した。初対面ということもあったが、それよりもこいつの風貌が俺を強張らせた。


「じゃぁー。今後一切神無月とは関わるなよ。俺が狙っているからさ」


ちなみに神無月というのは俺の幼馴染で、良く話したり、毎日一緒に登校したりと仲は良い。
不良は俺を睨みつけるように威圧を放つ。


「そ、それはダメというか、なんというか。無理かなー」


昔から家族ぐるみの付き合いで、すぐに縁を切れなんて言われて、はいそうですかと答えるほど愚かではない。


「は?ふざけんじゃねーぞ!あいつは俺の女だ。そこにお前の付け入る隙はねーんだよ!もう一度聞く、関わらないよな?」


右拳をパチーンと左手の掌に叩きつけ、怒りの形相で俺を睨む。


「何度も言うが、無理かな、ごめん」


つい怖くて謝ってしまった。こういう場合はすぐに謝って逃げるのが吉であるのだが、


「お前らやれ!」


不良の両隣にいた2人が俺の肩を掴み、教室から出そうとする。


「な、何するんだよ!離してくれ!」


ドタバタと足をバタつかせ抗うが、不良達の力が強く抵抗も意味を持たない。


「だ、誰か助けてくれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


クラス中に響き渡る声で叫んだつもりだが、誰一人、こちらを見ようともしない。関わりたくないようだ。
(そうだよな、こんな俺、誰一人助けてくれる人なんか居ないよな)


俺はトイレに連れてこられた。


「今から神無月と今後一切関わらないというまで腹パン食らわすから覚悟しとけよ」


両隣の不良達もニヤリと笑い、拳を構える。

そこからは酷いものだった。

一発一発が力強く全力で、悶えるほど痛かった。
目立つ所には殴らず、腹にだけ集中砲火する。
時には水を掛けられたり、便所に頭を入れられたりと非常に辛いものだった。
この拷問が終わったのは暗くなって最終下校の放送が流れた時だった。約二時間程痛めつけられていたんじゃないだろうか。


「こいつ口割らないぞ。そんな意地意味ないのに」


「はー。もういいや。飽きたし、つまんないし、また明日にするわ」


そういうとトイレから不良達が出て行った。
取り残された俺は十分程待って、トイレから出て行くのだった。


                              2日目

「またこいつ学校へ来やがったぜ」


下駄箱から上履きを取ろうとすると囁き声が聞こえた。下駄箱の中は泥だらけになった上履き。履けるわけもなく、俺は裸足で歩くしかない。廊下の冷たさを感じながら教室へ向かう。

教室では、

机には花瓶が置かれてあり、死ねという文字が刻み込まれてあった。椅子には画鋲が置かれてあって、俺はそれらを拾い捨てるしかない。ただ、愛佳と幼馴染だったから、こんな仕打ちを受けなければいけないのか。そんなの理不尽すぎるじゃないか。

放課後になると昨日と同じように腹パンし続けられた。

それから同じことを毎日のように繰り返され、それで問題が起きたのがいじめから一週間が経った9日目のことだった。 


                              9日目

「龍ちゃん大丈夫?顔色悪いよ?」


俺の幼馴染、神無月愛佳が俺の様子を伺って尋ねてきた。黒髪美女。誰もが見惚れてしまうほど顔立ちが整っていて、ほんのりと甘い香りも漂う。


「全然大丈夫だよ。愛佳には心配かけないから」


「本当?」


「大丈夫だから。気にしなくていいよ」


「わかった。龍ちゃんがそう言うなら心配しない。だけど本当に辛くなった時には私に頼ってよね!」


「ありがとう。その言葉だけで救われる」


「そうだ、昨日のドラ◯もん見た?」


俺を気遣ってか、愛佳が話題を変える。


「見たよ。なんといってものび太がジャイアンを倒しちゃうんだもん。本当神回だったよね!」



と、愛佳と色々な話をしているうちに学校へと着いた。


「あ!風見くんだー!おはよう!」


満面の笑みを浮かべ愛佳は挨拶した人に向かい駆け出す。
だが、その挨拶した人は俺のことをいじめている張本人の風見拓也だった。
何故、愛佳と風見が仲良くしてるの?もしかしてもう二人は付き合っているの?
なんて、そう自暴自棄に陥っていると愛佳はすぐに俺の所へと戻ってきた。


「ごめんね、ちょっと知り合い見つけたから声掛けちゃった」


という割には顔を赤らめて帰ってきた。


「愛佳、あいつとどんな関係なの?」


「どんな関係かー?そうだなー。昨日話しかけられてちょっと話した関係かな」


その言葉を聞いて、俺のモヤモヤは少し和らいだ。


その後の授業中にはシャー芯を飛ばしてきたり、紙を飛行機型に折り、飛ばしてきたりと色々あったが、授業が終わり、放課後へとなった。


終わるとすぐにお決まりのトイレに連れてかれた。


「もうそろそろ約束してくれる気になったか?」


「約束はしない」


「いっっっつ!!!」


腹に衝撃が走った。思わず声が出てしまう。


「はー。もういいや。飽きたし、ネタバラシするか」


そう言うと、不良の風見がトイレから一度出て、2分くらい経った後、風見が戻ってきた。その間、風見の手下達が見張っていて、逃げることは出来なかった。


「では、登場していただきまーす。愛しの愛佳でぇーーーす!!」


風見が言うと、その言葉に反応して、トイレから良く知る人物が登場した。


「こんにちは龍ちゃん!」


「なんで、ここに愛佳が、、、早く、逃げてくれ」


「はっはっはっーー!逃げてくれ?この茶番劇は愛佳が頼んだことだぜ?」


「え?意味がわからない。そんなデタラメ言うんじゃねーよ!」


俺は声を荒げ、叫ぶ。


「拓也の言っていることは本当よ。私が頼んだことなの。やっぱり龍ちゃんはキモいから。早く離れて欲しかったのよね」


「え?」


今、愛佳が言ったのか?今まで汚れのない笑顔を浮かべ、楽しくかった日々も全部嘘なのか?


「それに、今、拓也と付き合っているから、正直龍ちゃんが邪魔なんだよね。毎日一緒に登校とか地獄の極みでしかなかったから。あと、前々から私、龍ちゃんを痛めつけて欲しかったんだよねー。そうしないといつまで経っても私から離れなかったでしょー?」


その答えは俺の恋心を嘲笑っているかのように、愛佳の侮蔑の視線が俺を蔑む。


「嘘だよね愛佳?」


涙を浮かべながら問う。


「愛佳、愛佳、愛佳ってマジキモいから呼ぶんじゃねーよ!このクソ豚野郎が!」


愛佳が切れてる。喧嘩したの時とは明らかに違う。一方的な暴力。拒絶され、今なお受け入れられない。涙が止まらず、下を向くしかない。


「それによくも長い間、耐えてきたね。何でそこまでしたの?マジ意味わからない」


そんなこと、分かっているだろ。辛いいじめに何日も耐え続けているんだ。それが無ければこんなに長い間耐えるなんて考えられない。もう分かっているはずだろ。俺は、俺は、


「俺は愛佳が好きだ。だから耐えてこられた。関係が切れるなんて考えたくなかったから」


「私が好きだったんだー。それは残念だったね。今は拓也しか目に入らないから!!」


あえて聴いているのではないかという口調で愛佳は言う。元からそんなことは知っていたとでも言ってるように聞こえた。


「残念だったなお前!本当哀れだな。好きな奴がいじめの首謀者で、そいつに裏切られたなんて。本当笑えてくる。はっはっはっーー!わ、悪い。笑いが治らねー」


風見が腹を抱えて笑っている。愛佳も手下達も笑っている。蔑む目で俺を見つめている。本当哀れだなと。俺が醜く感じてしまうのは何故だろうか。痛い、胸が痛くてはち切れそうだ。


「じゃあ私たちはこれから遊びに行くから。龍ちゃんはそこで情けなく、落ち込んでいたら?いや、いっそのこと死んだら?」


そう言うと愛佳達はトイレを後にした。
朝までは仲良かった幼馴染が急変して、俺を陥れていたなんて、本当悔しくて、情けない。


「死にたいな」


ボソリと口に出し、俺はその場に倒れるのだった。
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