月の影に隠れしモノは

しんいち

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仙界にて

17 選択の儀 …龍の判定…

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 他の祝部候補二人は、広場の丸い石に坐っていた。一番目の田上が中央、石井は向かって右。
 慎也は、左の石まで歩いて行き、坐った。
 三人の内の二人は龍に喰われることになる。つまり、生贄になるということだが、その際に着物は邪魔だ。だから、三人とも全裸。素っ裸の状態である。
 少しして、部屋から白い着物を着た舞衣が出て来る。祥子に先導され、建物壁の中央、衛士番所のような、張り出しの場所に入る。番所のようと云っても、正面には戸も何も無い。

「そこから出ると、其方そなたも龍に喰われるかもしれんぞ。注意せよ」

 舞衣に言い含め、祥子は、先程の交合部屋の中に入っていった。
 その屋根には、黒龍と白龍が並んで停まっている。全身ウロコで覆われた、真っ黒の龍と真っ白の龍だ。
 二頭の龍が互いに見合い、頷きあった。これは、選択開始ということだろう。

 まず、黒龍が、坐っている三人の男を見渡す。
 視線を一往復させてから右の方を向き、雄叫おたけびを上げた。
 黒龍の首が伸び、あっと言う間に、石井の頭を…。

 喰った!

 その様子を正面から見ることになった、舞衣…。
 龍の首が頭上から伸びたと思ったら、右端に坐って怯えるような顔をしていた石井の頭が消えた。
 その瞬間、首の断面からビュッビュッと勢いよく血が吹き出して、辺りを赤く染めてゆく。…頭を失っても、体は痙攣しながら坐ったままの状態。そして血をまき散らしているのだ。
 あまりの凄惨せいさんな光景に、舞衣は、両手で口を押えて絶句し、立ち尽くしていた。
 石井は、体も喰われる。真っ赤な血が、更に飛び散り、床を赤く染める。
 シャクッという鋭い音がする度に、石井の体は次々小さくなってゆく…。
 舞衣は、しゃがみこんだ。そして、震えながらそれを、ただ見ていた。


 慎也も、横一つ向こうでの、その惨憺さんたんたる様子を見詰めていた。
 石井を喰い終わった黒龍が飛び立ち、強い風圧が来る。
 続いて、残った白龍が慎也の方を向き、雄叫びを上げた。
 慎也は、首から下が動かなくなった。
 何度も動かそうと試みる。
 が、やはり、動かない。
 …金縛り。
 龍は、雄叫びで対象を動けなくし、抵抗できないようにして喰うのだ。
 慎也は覚悟を決めた。たぶん、これは、自分が喰われるということ…。
 隣の田上がニヤリと笑うのが分かった。

 白龍は、真っ直ぐ慎也を見ている。
 口を開けた。
 鋭い歯が並んでいる。
 あの歯で一瞬にして首を噛み切られるのか…。
 自分が喰われた場面を想像する。

 龍の首が伸びてきて自分の頭がザクッと噛み切られる。そのまま頭はゴックンと飲み込まれ、食道を通って龍の胃の中へ転がり落ちる。胃液にまみれ、ドロドロに溶かされてゆく…。頭を無くした体は、坐って痙攣しながら、石井と同じように血をまき散らしてゆく。

 痛いかな…。
 いや、首をかみ切られて即死だから、たぶん、痛いと感じる間も無いだろう。
 だが、やはり、嫌だ。
 まだ死にたくない!

 その時だ。
 …それは、いきなりの行動だった。
 しゃがみ込んでいた舞衣が立ち上がり、外に飛び出した。
 そして、白龍の前に手を広げて立ちはだかったのだ。

「ダメー!」

 響き渡る舞衣の甲高かんだかい声。誰も予想しなかった行動…。慎也と田上の表情から、次に喰われようとしているのが慎也だと舞衣は気付いた。と同時に、体が動いてしまった。
 舞衣は、そのまま慎也の方へ向きを変え、走り寄って慎也をかばう様に抱き着いた。

「何してるんだ、早く戻って! 君まで喰われちゃう!」

 呆然ぼうぜんとしていた慎也は我に返り、舞衣を怒鳴りつけた。首より下は動かないが、話すことは出来たのだ。
 しかし、舞衣は、しっかりと慎也にしがみ付き、離れない。

 白龍がもう一度、雄叫びを上げた。

(動けない。だめだ)

 慎也は、目をつむった。
 風圧が来る。喰われる!
 舞衣の手が、さらに慎也をきつく抱き締める…。

 ・・・・・。

(あれ、なにも来ない?)

 確かに風圧はあった。龍の首が近くまで伸びてきたはずだ。
 なのに、まだ自分は生きている…。
 慎也は、ゆっくり目を開けた。

 目に入ってきたのは、血で真っ赤に染まった舞衣の着物。
 そして、龍が何か咀嚼そしゃくしている。

(高橋さんが、身代わりに喰われた…。俺の代わりに、高橋さんが……)

 一瞬、そう思ったのだが…。
 慎也をしっかり抱き締めている舞衣の手からは、力が抜けていない。

(……い、いや、違う。この血は…)

 ゆっくりと隣を見ると…。
 田上の頭が無くなっていた。
 更に風圧が来て、田上の胴体が半分消え、片方の腕がゴロッと転がった。
 大量の赤い血が飛び散り、慎也たちにザバッと降りかかる。
 慎也にしがみ付いていた舞衣も、体を起こして隣の様子をチラッと確認した。そして、慎也の胸に顔を押し付け、抱き着いたまま声を上げて泣き出した。


 白龍は、田上を全て喰い終えてから、飛び立った。
 二頭の龍は一つの円を描くよう上空を飛んでいる。
 それぞれの口から、赤い光の玉のようなものが吐き出された。
 二つの光の玉が龍と同じように回りながら、ゆっくり、ゆっくり、降りてくる。
 大きさはテニスボールくらい。慎也の周りをくるくる回る。
 そして、いきなり、左右の鼻の穴へ飛び込んできた。
 細く変形しながら、中へ中へと侵入してくる…。

(く、苦しい!鼻から入ってくる。熱い!体が熱い!あ、あれ、俺、光ってる?)

 しがみついていて見ていなかった舞衣も異変に気付き、慎也から離れ、へたり込んで、呆然ぼうぜんとしていた。

 慎也の体は、赤く光っている…。
 が、光は徐々に薄くなってゆく。
 そして、元に戻った。
 …金縛りも解けていた。

 上空の二頭の龍は、悠々と太陽の方角へ飛んで行った。
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