月の影に隠れしモノは

しんいち

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仙界にて

26 首を切られた鳥

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 四月二十二日。慎也と舞衣がここへ来て三日目。

 祥子が作った朝食を、三人揃って食べる。
 食材も調味料も限られているのに、最高に美味しい。彼女の料理の腕は、超一流だった。
 まあ、千年も毎日調理しているのだし、食べる以外にこれといった楽しみが無いとなれば、腕が上がるのは当然といえば当然なのかもしれない…。

 今日は、森へ果物を取りに行くという。
 慎也と舞衣も手伝うように言われ、大きなかごを背負わされた。勿論、この籠も祥子の手製である。
 祥子は籠を持たず、弓矢を持っていた。

 森へ入って少し行くと、握りこぶし大の赤い実を付けた木があった。食べられるというが、結構な高木で、実まで手が届かない。
 ここは祥子の能力の出番。念力でもいで、舞衣の籠へ入れて行く。一度に取ると鮮度が落ちるので、十個ほど。
 祥子はその内の一個を取り、皮付きのまま、刃物で四つに割った。そして慎也と舞衣に勧める。
 かじってみると、シャクッとした歯ごたえと甘酸っぱい味。リンゴに近いかもしれない。

 次は、木に絡まったつるに着いた実。紫色で房になり、ブドウに似ている。甘酸っぱくて味は良いらしいが、皮が剥き難いとのこと。酒にするのだそうだ。
 次々と祥子の念力でちぎり取られ、慎也の籠に入れられてゆく。こちらは目いっぱい収穫するので、ずっしりと重くなった。先に赤い実を舞衣の籠に入れたのは、こういうことか…。

 急に、祥子は矢を取り、弓につがえて引いて放った。
 ビュッと鋭く真っ直ぐ飛んで行く矢。そして、鳥が落ちてきた。…かもだ。飛んでいたのを、木の枝の隙間を縫って射落としたらしい。

「鳥も、あちらの世と同じものでな。空にもつながる穴があるのかもしれぬのう」

 しかし、結構な距離もあったのに、凄い腕前。慎也は驚嘆するしかない。

「よく当てましたね」

「ああ、弓矢の腕には自信あるぞよ。外したことはない。念力は、あまり離れすぎた物や、速く動くものはとらえにくいが、これがあれば、遠くのモノでも仕留められる」

 もはや、神の領域と言ってよい。何をやっても、この人には全くもって勝てる気がしない。
 慎也は、舞衣を見た。舞衣も苦笑している。同じ思いなのだろう。

 祥子は鴨を拾い、矢を抜いた。そして刃物を出し、サクッと鴨の首を切り落とす。
 手慣れた、流れるような動作。慎也は、これも感心しきりで見ていた。が、舞衣は口に手をあてて、後ずさった。
 祥子は鴨の脚を持ち、頭の無くなった首を下にする。赤い血が地面にボタボタこぼれる…。

「なんじゃ、舞衣? 血抜きじゃぞ。これをしないと、肉が生臭くなる。さ、持て」

 自分の前に差し出された、血を流す首なし鴨。舞衣は驚愕の顔で、った。

「祥子様、舞衣さんには刺激が強すぎますよ。俺が持ちますから」

 慎也がそれを奪うように持ち。舞衣から遠ざける。

「何じゃ。なかなか手に入らぬ御馳走ごちそうじゃぞ。もっと喜べ」

 祥子は不満げである。
 慎也は苦笑した。彼は、鶏を飼っていて、めるのを何度も経験している。しかし、一般の現代人は、こんなことは未経験である。

「スーパーでは切り身になった肉でしか売られてないもんね。でも、肉を食べるって、こういうことだよ。昨日の魚も同じ。植物だって生きている。生きていく、食べるッてことは、他の命を奪う、命を頂くってことだよ」

 舞衣は、慎也の言葉を項垂うなだれながら聞いた。
 そして、おずおずと慎也の方へ手を差し出した。

「私、持ちます。慎也さん、背中の荷物、重いでしょ」

 慎也は少し迷ったが、舞衣に鴨を渡した。

「温かい…。まだ、さっきまで生きてたのよね。命を頂くか……」

 舞衣は、鴨を持ちながら、慎也の言葉をかみしめる。

「そう、命を頂くから、食べる前に『頂きます』なんだよ」

 うなずく舞衣。そして、それを、ニヤニヤしながら見守る祥子。

「な、なんですか?」

 慎也は怪訝な顔をして祥子に尋ねた。

「いやいや、さすが神主殿じゃ」

 なんだか嬉しそう答え、先を歩き出す祥子。もう帰るようだ。
 まあ、そうだろう。折角の貴重な得物なのだ。血抜きは五分もすればよい。その後すぐ、湯通しして、羽をむしってという処理をしなければならない。舞衣に見せると、食べられなくなってしまうかもしれないが…。
 慎也の心配を察してか、後の処理は祥子一人で行われた。
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