月の影に隠れしモノは

しんいち

文字の大きさ
55 / 167
帰還、そして出産

55 大忙し!

しおりを挟む
 五月二十日。大安。快晴。

 慎也と舞衣は、無事入籍した。

 証人には、田中総代夫妻になってもらった。
 昨日に続いて午前のみの授業だった田中の孫=美雪も、学校から神社に直行してきた。昨日は寄り道していて帰宅が遅くなり、神社に来ることが出来なかったのだ。
 美雪は舞衣にサインをもらい、握手してもらって大感激。ただ、祥子を見ると睨んでいた。舞衣のライバルと思っているようだ。
 舞衣が誤解を解こうとするが、まさか仙界での話をすることもできず、いくら仲良しと話しても、美雪は不審げだ。

 その後、午後からではあるが、神社の社務を再開した。といっても、もともと、ほとんど参拝者のいない神社。掃除くらいしかすることが無い。はずだったが…。
 なぜか、今日は人が多い……。
 掃除をしている慎也を、みんな遠くから見て、ヒソヒソ話をしている。非常に居心地悪い。
 仕方なく、早々に切り上げて社務所に戻った。

 社務所内では舞衣と祥子が拭き掃除をしている。溜息ためいきをつく慎也に、舞衣が首をかしげた。

「どうしました?」

「いや、居心地が悪くて……。なんか、やたら人が多い。でも、遠くから見てるだけで、こっちには来ないし……」

 舞衣が外の様子を見ようと社務所の受付口から顔を出すと、その瞬間、キャーという歓声が上がった。
 そして、五人の女子高生が走り寄ってきた。

「私たち、ファンなんです!」

 舞衣も対応に困る。もうアイドルを引退した身だ。ファンと言われても……。

「え~と。どうしたものかな……」

 慎也を見ても、困惑顔。祥子は知らん顔だ。

「芸能界は引退しまして、ここの神社に嫁いできました。だから、もう高橋舞衣じゃなくて、川村舞衣になりました。これからもお参りに来てね」

 ニコッと笑う。…その破壊力抜群の笑顔に、五人の目は一気にハートマークとなった。

「はい、来ます! あ、あの、お守り頂けますか?」

「私も!」
「私も!」……。

 今までほとんど出なかったお守りが売れた。
 そして、どんどん人が集まってくる。次々お守りが出て行く。

(い、いかん。売り切れてしまう)

 …通常、お守りは専門の業者に発注して作ってもらうことが多い。
 しかし、この神社では年に十数体しか出ない。…正月を含めて。 
 業者に発注するには、百体とか二百体とかいった、ある程度まとまった数からでないといけない。このため、慎也はお守りも自分で作っていたのだ。
 彼は手先が器用で、そういったことをするのに苦労は無かった…。

 幸い、お守りの材料は、まとめて買ってあった。

「祥子さん、手伝って!」

「よ、よしきた」

 あわてて二人で作り出した。
 祥子も器用である。千年間、糸つむぎから機織り、籠造りに建物修築まで、全て一人でやってきた鉄人だ。
 しかし、外にはどんどん人が集まってくる。お守りは次々出ていく。
 出来たお守りは、拝殿でお祓いもしなければならない。
 大パニックだ。
 異変に気付いた田中総代も慌てて駆け込んできて、手伝った。孫の美雪も加わる。

「宮司さんよ。これは、業者に頼まんと、もたんぞ」

 だが、発注してもすぐには納品されない。しばらく大変なことになりそうだ。


 午後六時。通常の二時間遅れで、社務所を閉めた。
 どっと疲れが出て、皆へたり込んでしまった。
 これから毎日こんな状態になるのか? とても、身が持たない。
 とりあえず、神社用品を扱う会社の「授与品カタログ」を出してきて、どんなお守りを注文するか五人で協議した。
 錦のお守り、交通安全、神札…。
 美雪は、縁結びを提案。舞衣と祥子は安産守り。…これらは、自分たちが欲しいのか…?
 とにかく、何種か選び、すぐに発注した。
 あと、舞衣が受付に坐っていると人だかりになる。よって、舞衣の坐る時間を限定することにした。

 皆疲れているだろうからと、田中夫人が、肉ジャガや野菜炒め、味噌汁を作って持ってきてくれた。
 社務所でも簡単な調理は出来るようになっている。晩年の先代は、ここで寝起きしていたからだ。ご飯を炊き、味噌汁を温め直し、田中夫妻に孫の美雪も加わって夕食会になった。
 もちろん神社でのこと。お神酒もある。慎也が、お世話になった田中にお酌する。

 美雪は、舞衣の隣に坐れてご満悦の表情。但し、本心は少し複雑だった。
 実を言うと、美雪は、慎也に対してほのかな恋心を抱いていた。それで、よく神社に来ていたのだった…。
 その慎也がいきなり結婚というのは、大いにショック。
 ところが、相手は、彼女が大ファンの高橋舞衣というので、ビックリ仰天!
 今、隣には、そのあこがれの舞衣が坐っている。
 舞衣と、こんなお近づきになってしまうなんて、想像もしていなかった。
 慎也のことは、自分が舞衣にかなうはずもなく、あきらめる以外に無い。
 失恋といえば失恋であるが…。
(これはこれで、幸運かな?…)

 祥子が田中に、続けて酒を注ぐ。美人にお酌されて、田中の鼻の下が伸びている。

(後で奥様に叱られても知らないぞ)

 慎也の心配の中、祥子自身も、田中に注いでもらって飲んでいる。千年ぶりの日本酒だ。…いや、もしかすると、帰ってきた日に飲んでいたのかもしれない。スルメを肴に…。しかし、

(あれ?ちょっと待て、妊娠中じゃないか!)

 慌てて慎也は、祥子から酒を取り上げた。
 入籍日でもあり、披露宴替わりの楽しい夕食会になった。



 田中夫妻と美雪は帰り、三人だけになった。
 自宅に戻るのも面倒なので、今日は社務所に泊まることにした。
 幸い、潔斎所けっさいしょもある。
 潔斎というのは、体を清めるということ。本来は水を被るのだろうが、実際のところ、潔斎所というのは、お風呂だ。が、狭いので、一緒に入ることは出来ず、順番に入った。
 押し入れには、丁度布団ふとんが三組あった。
 並べて敷いて。就寝。
 昨日も一部屋で布団を並べて寝た。皆疲れていて、何もせずに寝てしまった。
 今日も疲れている。お酒も入っている。このまま寝ようと思った。慎也は…。
 しかし、真ん中で寝ている慎也の右手を舞衣が引っ張った。同時に、左手を祥子が引っ張った。

「慎也さん。今日は入籍日ですよ。そ、その、結婚初夜みたいなものだから…」

「ワラワも、相手してもらいたいぞよ」

 両方からせがまれて、どうすればよいのか……。
 仙界でも三人一緒だった。だから、彼女らはそれが普通になってしまっている。
 とりあえず祥子を待たせ、舞衣を引き寄せた。
 唇を重ねる。この世界に戻ってきての初めての交わり。
 二人はつながった。
 そして舞衣の中に、慎也の精がタップリと注がれた。
 彼女を十分満足させつつ……。

 続いて、左側の祥子だ。
 唇を重ねる。舌をからませる。
 そして、彼女ともつながり、彼女の中にも精を注いだ。
 やはり、十分満足させつつ……。

 三人は手をつないで、そのまま眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

処理中です...