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帰還、そして出産
79 インフルエンザに週刊誌2
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雑誌が慎也に届けられるのに先立ってのことであるが…。
『天の岩戸隠れ』を決め込んだ舞衣を除き、田中を交えた四人で協議がなされた。
とりあえず、これでは、まともな参拝者は望めなく、悪意あるものしか来ない恐れがある。
この為、神社社務所は当分閉める。ただ、記事を認めたと取られてはいけないので、理由は、宮司がインフルエンザに感染したこと(事実である)とし、雑誌の記事内容は全くのデマであることも書き添えて、社務所に貼り紙する。田中は、異状無いか時々神社を見回る。…ということとなった。
併せて、恵美が、このままでは終わらせない宣言をした。不敵な笑みを浮かべて…。
恵美が口に出すということは、絶対に何かヤラカス…。あまり関わりたくない沙織はスルーして、会議を終了に導いた。
田中は、
「宮司さんに、お大事にと伝えといて」
と言って出て行った。
この場合の「お大事に」は、インフルエンザのことだけでは無いだろう。記事のことも含めての意味である。
書道も得意な沙織が、貼り紙を毛筆で書く。後で祥子が貼ってきてくれる手筈となっている。
その祥子は、取り敢えず会議の報告と慰めに、舞衣のところへ向かった。
恵美は、一人で何やら『工作』を始めた模様だ。どこかへ電話している。
沙織は、書き上げた貼り紙を、舞衣の部屋から出てきた祥子へ渡して、杏奈・環奈にも事情を話しておこうと二人のところへ行った。その後に、雑誌を慎也に届けたということだ。
祥子が舞衣の部屋へ報告に来た時。舞衣はクッションを顔の下に敷き、突っ伏していた。手にはスマホを持っている。
祥子の呼びかけに顔を上げた舞衣の目は、真っ赤に腫れていた。
「酷い顔をしておるのう。大丈夫かえ?」
「う、酷い顔で悪かったですね! あの写真と同じでしょ!」
口を尖らせて答える舞衣…。
雑誌の写真は怒り顔。今の舞衣は泣き腫れた顔。全く違うが、酷いという点では同じである。
返答に困って祥子は一瞬斜め上を見るが、すぐ切り替え、会議の結論を伝えた。
「分かりました。それに私も同意です」
舞衣は体を起こし、坐って聞いたのち、きっぱり言ったのだった。
ただ、祥子は恵美の宣言のことは伝えなかった。沙織のあの反応、恵美が何をしでかすか分からないが、黙っておいた方が良い気がした。
…もっとも、祥子自身は、すぐに恵美の方から聴かされて、協力させられることになるが…
「ところで、正妻殿。どこかへ電話しておったのか?」
祥子は、舞衣の手のスマホが気になった。
「ええ、美月から電話が無いから、こちらから掛けてるの。でも、何度掛けても繋がらないのよね…」
「単に泣いておったのではないのか…」
「当たり前ですよ。泣いてるだけじゃ、しょうがないでしょ。これでも元アイドルですよ。アイドルは打たれ強いんです!」
「そういうものかの…。しかしじゃな~。そなたは、やはり抜けておる」
「何ですか、失礼な…」
呆れ顔をして言う祥子に対して、再び口を尖らせる舞衣…。
「電話などせずとも、そなたには思念伝達の力があるではないか。よく見知っておる美月になら造作もないことじゃろ」
「あ……。 忘れてました…」
自分の間抜けを指摘されて項垂れる舞衣を尻目に、美月との話の邪魔をしてはいけないと、祥子は笑いながら出て行った。
舞衣は「への字口」をして祥子を見送った後、早速、気を落ち着かせて美月の姿を思い浮かべ、美月の心に思念を送った。
…『美月、美月!』
…『へ、な、何?舞衣さん? どこ? どういうこと?』
美月は、いきなり割り込んできた舞衣の思念に混乱した。当然である。…が、すぐに立ち直った。
…『テレパシー? あの舞衣さんなら、何でもありだ。やりかねない』
…『そうですよ。この舞衣さんは、何でもありです。やらかしてしまいました』
…『……』
…『呆れないでよ…。美月、なんで電話出ないの?』
…『……』
美月は、既に退院していた。
知られたくなかった両親に、妊娠のことが知られてしまった。警察を通して。
彼女は現在、実家の方で、軽い軟禁状態中だ。
抜け出そうとすれば、抜け出せなくはない。しかし、美月には、両親の意向に逆らってまで積極的になる気力がなかった。
舞衣のところには行きたい。この思いは間違いない。あの温かい皆との生活にも憧れる。だが、自分のお腹の子は流れてしまった。
(みんなとは、もう違う。あそこへ行く権利が、自分には、もう無い)
と思っていた。
美月には、こんなことを舞衣に詳しく話すつもりは無かった。しかし、思念で繋がっている状態であり、この思いは、舞衣に筒抜けとなってしまった。
…『…美月…。ごめんね。私はね。美月には来てもらいたいの!
美月と一緒に暮らしたい!
権利が無いなんてこと、絶対無い!
あなたも、あの仙界に行って帰ってきた仲間よ。これは、みんなも同じ思いのはず。
あなたにも、権利はあるの!
でも、でもね。これは権利であって義務では無い。
今ここで一緒に暮らしているみんなは、権利であると同時に、半分義務でもある。
子供が産まれるまで、そして大きくなるまでの義務。
あなたには、義務は無くなった。
だから、強制は出来ない。ましてや、私は婚姻関係だから良いとして、あとの人は全て内縁関係。
ありえないよね、普通…。 強制なんか、出来るわけがない。
良い人を見つけて、普通に結婚して、幸せな家庭を持ってもらうのが一番に決まってる。
週刊誌、見たでしょ。あれが世間一般の目よ。
あなたのことを本当に思ったら、もうここに近寄っちゃダメっていうのが正しい。
あなたの両親が正しいの。
だから、卑怯かもしれないけど。どうするか決めるのは、あなたよ。
あなたが決めて!
私は、あなたの判断を尊重します』
舞衣は、思念の繋がりを切断した。
『天の岩戸隠れ』を決め込んだ舞衣を除き、田中を交えた四人で協議がなされた。
とりあえず、これでは、まともな参拝者は望めなく、悪意あるものしか来ない恐れがある。
この為、神社社務所は当分閉める。ただ、記事を認めたと取られてはいけないので、理由は、宮司がインフルエンザに感染したこと(事実である)とし、雑誌の記事内容は全くのデマであることも書き添えて、社務所に貼り紙する。田中は、異状無いか時々神社を見回る。…ということとなった。
併せて、恵美が、このままでは終わらせない宣言をした。不敵な笑みを浮かべて…。
恵美が口に出すということは、絶対に何かヤラカス…。あまり関わりたくない沙織はスルーして、会議を終了に導いた。
田中は、
「宮司さんに、お大事にと伝えといて」
と言って出て行った。
この場合の「お大事に」は、インフルエンザのことだけでは無いだろう。記事のことも含めての意味である。
書道も得意な沙織が、貼り紙を毛筆で書く。後で祥子が貼ってきてくれる手筈となっている。
その祥子は、取り敢えず会議の報告と慰めに、舞衣のところへ向かった。
恵美は、一人で何やら『工作』を始めた模様だ。どこかへ電話している。
沙織は、書き上げた貼り紙を、舞衣の部屋から出てきた祥子へ渡して、杏奈・環奈にも事情を話しておこうと二人のところへ行った。その後に、雑誌を慎也に届けたということだ。
祥子が舞衣の部屋へ報告に来た時。舞衣はクッションを顔の下に敷き、突っ伏していた。手にはスマホを持っている。
祥子の呼びかけに顔を上げた舞衣の目は、真っ赤に腫れていた。
「酷い顔をしておるのう。大丈夫かえ?」
「う、酷い顔で悪かったですね! あの写真と同じでしょ!」
口を尖らせて答える舞衣…。
雑誌の写真は怒り顔。今の舞衣は泣き腫れた顔。全く違うが、酷いという点では同じである。
返答に困って祥子は一瞬斜め上を見るが、すぐ切り替え、会議の結論を伝えた。
「分かりました。それに私も同意です」
舞衣は体を起こし、坐って聞いたのち、きっぱり言ったのだった。
ただ、祥子は恵美の宣言のことは伝えなかった。沙織のあの反応、恵美が何をしでかすか分からないが、黙っておいた方が良い気がした。
…もっとも、祥子自身は、すぐに恵美の方から聴かされて、協力させられることになるが…
「ところで、正妻殿。どこかへ電話しておったのか?」
祥子は、舞衣の手のスマホが気になった。
「ええ、美月から電話が無いから、こちらから掛けてるの。でも、何度掛けても繋がらないのよね…」
「単に泣いておったのではないのか…」
「当たり前ですよ。泣いてるだけじゃ、しょうがないでしょ。これでも元アイドルですよ。アイドルは打たれ強いんです!」
「そういうものかの…。しかしじゃな~。そなたは、やはり抜けておる」
「何ですか、失礼な…」
呆れ顔をして言う祥子に対して、再び口を尖らせる舞衣…。
「電話などせずとも、そなたには思念伝達の力があるではないか。よく見知っておる美月になら造作もないことじゃろ」
「あ……。 忘れてました…」
自分の間抜けを指摘されて項垂れる舞衣を尻目に、美月との話の邪魔をしてはいけないと、祥子は笑いながら出て行った。
舞衣は「への字口」をして祥子を見送った後、早速、気を落ち着かせて美月の姿を思い浮かべ、美月の心に思念を送った。
…『美月、美月!』
…『へ、な、何?舞衣さん? どこ? どういうこと?』
美月は、いきなり割り込んできた舞衣の思念に混乱した。当然である。…が、すぐに立ち直った。
…『テレパシー? あの舞衣さんなら、何でもありだ。やりかねない』
…『そうですよ。この舞衣さんは、何でもありです。やらかしてしまいました』
…『……』
…『呆れないでよ…。美月、なんで電話出ないの?』
…『……』
美月は、既に退院していた。
知られたくなかった両親に、妊娠のことが知られてしまった。警察を通して。
彼女は現在、実家の方で、軽い軟禁状態中だ。
抜け出そうとすれば、抜け出せなくはない。しかし、美月には、両親の意向に逆らってまで積極的になる気力がなかった。
舞衣のところには行きたい。この思いは間違いない。あの温かい皆との生活にも憧れる。だが、自分のお腹の子は流れてしまった。
(みんなとは、もう違う。あそこへ行く権利が、自分には、もう無い)
と思っていた。
美月には、こんなことを舞衣に詳しく話すつもりは無かった。しかし、思念で繋がっている状態であり、この思いは、舞衣に筒抜けとなってしまった。
…『…美月…。ごめんね。私はね。美月には来てもらいたいの!
美月と一緒に暮らしたい!
権利が無いなんてこと、絶対無い!
あなたも、あの仙界に行って帰ってきた仲間よ。これは、みんなも同じ思いのはず。
あなたにも、権利はあるの!
でも、でもね。これは権利であって義務では無い。
今ここで一緒に暮らしているみんなは、権利であると同時に、半分義務でもある。
子供が産まれるまで、そして大きくなるまでの義務。
あなたには、義務は無くなった。
だから、強制は出来ない。ましてや、私は婚姻関係だから良いとして、あとの人は全て内縁関係。
ありえないよね、普通…。 強制なんか、出来るわけがない。
良い人を見つけて、普通に結婚して、幸せな家庭を持ってもらうのが一番に決まってる。
週刊誌、見たでしょ。あれが世間一般の目よ。
あなたのことを本当に思ったら、もうここに近寄っちゃダメっていうのが正しい。
あなたの両親が正しいの。
だから、卑怯かもしれないけど。どうするか決めるのは、あなたよ。
あなたが決めて!
私は、あなたの判断を尊重します』
舞衣は、思念の繋がりを切断した。
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