月の影に隠れしモノは

しんいち

文字の大きさ
上 下
84 / 167
帰還、そして出産

84 伊勢へ2

しおりを挟む
 桑名東インターから、東名阪高速道路に入る。高速に入ったところで、車内での朝食になった。祥子が作ってきた、おにぎりだ。
 運転手の真奈美は、危ないから後でと、お預け状態。それを気遣ってなのか、恵美からサービスエリアに寄ってほしいというリクエストがあった。
 途中休憩ということで、御在所サービスエリアへ入り、やっと、真奈美は朝食にありつけた。が、他の皆がトイレへ行く中、恵美だけ、真っ先に売店の方へ走っていった。
 恵美のリクエストは真奈美を気遣ってでは無く、欲しい物があったようだ。

 トイレの後、皆が売店をのぞいたりし、そろったところで出発。
 車が動き出したところで、恵美は手に持っていた、買ってきたばかりの物を、後ろの沙織に差し出した。

「何? 恵美…」

 沙織が受け取ったのは、一冊の週刊誌。
 沙織は、もう週刊誌が嫌いになっている。が、恵美が何かたくらんでいるようだったことを思い出した。
 トップ記事に、「高橋舞衣」の名前が…。
 両脇の杏奈・環奈ものぞき込んで、三人でしばらく読んでいた。そして、後ろにいる舞衣に話しかけた。

「舞衣さ~ん。また、恵美がやらかしちゃいましたよ~。お仕置きが必要ですね~」

 まるで、いつもの恵美のような口調。

「祥子さんも、からんでますよね~」

 指摘された祥子は、明後日の方を見て、とぼける。
 舞衣の眉が、ピクッピクッとり上がった。
 舞衣は、沙織が差し出した雑誌を奪うようにとった。
 慎也は、隣の祥子を肩でつついた。

「何やらかしたの……」

「な、何も別に…。恵美に言われるまま、取材を受けただけじゃが……」

 り上がっていた舞衣の眉が、徐々に下がっていく……。
 慎也は不審げにのぞき込み、記事を読んだ。


 …その雑誌は、誹謗中傷を受けた雑誌とは別の、「週刊未来」。
 そして、そこに書かれていたのは、
『第二婦人・第三婦人独占インタビュー。高橋舞衣の夫、重婚の真実』
 恵美と祥子の、巫女姿の写真がアップで出ている。

 内容は……。

 舞衣の夫=慎也には四人の妻がいる(杏奈・環奈は伏せられている)が、正式な婚姻関係は舞衣とだけであり、あとの三人は内縁の関係で重婚ではない。
(重婚に関しての法的な説明も添えられている)

 正妻の舞衣はもちろん、他の三人も皆同意の上、一つ屋根の下で同居している。

 皆、仲良しであり、得意分野で役割分担している。
 それぞれの役割は、第二夫人(=祥子)が食事担当。
 第三婦人(=恵美)が渉外担当。
 第四夫人(=沙織)が、食事以外の家事全般。…食事は第二婦人を補佐。
 そして、正妻の舞衣が、その統括。

 舞衣は温かく皆を包んでくれる存在で、例えるなら天照あまてらす大御神のような存在という、前に話題になった話も出ている。
 さらに、第二夫人が食事神の豊受とようけ大神というところから、慎也は妻がたくさんいたという大国主おおくにぬし神。渉外担当の第三夫人は武御雷たけみかづち神(国譲り神話の交渉役の神)と、話が発展している。
 隠れてする不倫関係ではなく、神代の昔に神様もしていたという堂々とした一夫多妻(ただし入籍は一妻)の関係であると解説されていた。
 (沙織についての記述が少ないのは、主に取材を受けた恵美の意向か…)

 江戸時代の将軍家や大名の側室制度にも触れられ、こちらの主張に沿う形で、さらにおおむね好意的に書かれている。

「私たちは、全く平等に愛してもらっています。夜も一晩一人じゃ、あとの三人はお預け状態になります。だから、毎晩四人一緒。乱交じゃありませんよ。夫は一人ですから。同じ部屋で行儀よく順番にイタシテますよ。そして、みんな十分満足させてもらっています」

 恵美の言葉を忠実(いや、一部、表現に好意的修正があったのかも…)に載せた後の、記者のコメントは…。

 ………
 一晩に四人と、毎晩SEX。しかも、四人全員を十分満足させる。
 皆さん、出来ますか? 一人でも満足させられるかどうか…。
 これが出来なければ、こういう関係は無理でしょう。
 逆に、出来るのなら、そして当人たちがそれで納得し幸せなら、他人がどうこう言うことでも無いのかもしれません。
 最後に、先週の週刊文冬について、第三夫人から一言。
 …「悪意と歪曲わいきょくはなはだしい。モテない男のひがみでしかないわ。キモイ奴。神罰がくだるわよ!」
 ………

 舞衣と慎也は読み終えて、途中だった祥子へ雑誌を渡した。
 舞衣は少し大きめの声で、しかも、普段の恵美調の話し方で言った。

「そうね~。これは~、おっ仕置きが必要ですね~」

 一呼吸置き、隣の慎也を見てニヤッと笑った。

「では今晩、恵美さんは、慎也さんのフィンガーアタックを受けてもらいましょう!」

「はあ! な、なんで!」

 驚いて、後ろを振り返る恵美。
 皆、笑いに包まれた。

「あんた変わったわね。何もかも無関心って感じだったけど。安心したよ。幸せそうで」

「ウルサイ~! 運転に集中しなさい!」

 恵美は口を尖らせた。
 真奈美は嬉しそうに笑った。が、

「ところでさ、フィンガーアタックって何?」

 運転中で、前を向いたままの真奈美の質問に、皆、一瞬固まった。
 隣に坐っている、恵美の顔が徐々に赤くなっていく。

「母様は知らなくていい……」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

魔術師セナリアンの憂いごと

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,912pt お気に入り:949

聖なる☆契約結婚

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:9,275pt お気に入り:833

身を引いても円満解決しませんでした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:2,378

【BL】欠陥Ωのマタニティストーリー

BL / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:1,095

少し冷めた村人少年の冒険記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:2,188

【R18】お嬢様は“いけないコト”がしたい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:576pt お気に入り:52

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:623

堂崎くんの由利さんデータ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:210

悪魔との100日ー淫獄の果てにー

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:439

処理中です...