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襲撃
135 攫われた環奈2
しおりを挟む「環奈!」
バリーン!
花瓶が割れて、水が飛び散る。入れてあった白百合の花も散らばった。
いきなり叫んだ杏奈の大声に驚いて、舞衣が手に持っていた花瓶を落としてしまったのだ。
「な、なに? どうしたの!」
問われた杏奈は、苦悶の顔で舞衣に取りすがった。
「環奈が、鬼に攫われました!」
別室からの、杏奈の大声と花瓶の割れる音…。恵美も素早く反応した。刀を取り、ダッシュだ! 手にしていた神鏡を持ったまま…。
それを呆然と、アマは見ていた。
(神鏡を奪えなかった…)
が、こうなっては仕方ない。おそらく、テルは拉致を実行した。一度に二人を攫うのは難しい。一旦、逃げなければならない。
庭の異界の門へ行くと、テルが、裸の双子の片割れを抱えて飛び出してきた。
アマは、異界の門を潜る。
テルも続く。
そして、その白く光る門は消えた。
家の中では、杏奈が半狂乱…。割れた花瓶のかけらを踏んで、怪我もしている。
「環奈が!環奈が! なぜ?どうして? 環奈のいるところが分からない!」
杏奈と環奈は異能の力でつながっている。どこにいても、もう片方がどこで何をしているのか分かるのだ。
しかし、それが急に分からなくなったという。
(もしかして殺された?)
杏奈はパニックを起こしていた。
「落ち着け! 鬼に攫われたって言ったよね。間違いない?」
慎也が杏奈の両肩をしっかり持って、訊いた。
「間違いありません!お風呂に入っていたところを、この前の鬼に攫われたの! そして庭まで出て、周りが白くなって、分からなくなっちゃった!」
「庭だ!」
慎也と恵美が飛び出した。が、月が輝くのみで、何もないし、誰も居ない。
恵美の千里眼の能力でも、環奈の居場所は分からない。いや、それ以前に、意識が繋がっているはずの杏奈に分からないのだ。これは、鬼の世界に連れ去られてしまったということだろう。たぶん、異界までは特殊能力も届かないのだ。
「何故こんなことを。鏡は返すのに!」
恵美は手に持っていた鏡を見詰めた。
慎也と恵美が部屋に戻ると、杏奈が舞衣に取りすがって泣いていた。慎也は、そのまま、杏奈の足の怪我を治療する。
大事な妹を攫われてしまった沙織も、沈痛な面持ちだ。だが、今、彼女が環奈の為に出来ることは何もない。目の前の割れた花瓶を、静かに片付け始めた。
娘たちも騒ぎで出てきて、オロオロする。母親が居なくなってしまった環奈の子の咲は、恵美にしがみついて泣き出した。
「大丈夫だよ~。襲ってくるんじゃなく、連れ去ったんだから、人質にする心算でしょ~。きっと、また向こうから接触してくる~」
――月影村――
アマとテルは、拉致してきた環奈を、神子の館の一棟に転がした。
環奈は裸のままだ。金縛りで動けないが、声は出る。
「杏奈……。何で?何でつながらないの? ここどこ?」
窓から差し込む月明かりだけの暗い室内。不安で涙が零れる。
「すまぬな。私もこんなことは、したくないのだ。だが、合議の結論には逆らえぬ。かわいそうだが、其方は生贄とされる。覚悟を決めよ」
アマの、冷たい表情での語り掛け。身動き取れずに横たわっている環奈を見下ろしての…。
環奈は、思い出した。鬼に殺されかけた時の恵美の、あの惨状を。
内臓を引き千切られ、嘔吐し痙攣していた恵美…。
生贄ということは、自分も、あの時の恵美のようになってしまうのか。
腹を裂かれ…、内臓をつかみ出され…、それがブチブチ千切られ……。
「い…、イヤ―!!」
環奈は恐怖のあまり、絶叫した。
しなくてよい想像をしてしまい、耐えきれなくなったのだ。
泣き叫ぶ環奈をそのまま放置し、アマは外へ出て戸を閉めた。先に出ていたテルの隣へ歩いて行く。
「我らも覚悟を決めねばならぬ。短期決戦だ。神鏡を取り返し、もう片方の双子を連れてくる。邪魔するものどもは、全て殺す!」
頷くテルを見て、アマは懐から大婆の神鏡を取り出した。月光を闇に反射させて五芒星を描いた。
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