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残虐非道なる異世界生活
9 再度、麗しき戦闘狂
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さて、昨日に続いて侯爵様の御屋敷です。待っていたのは、あの『麗しき戦闘狂』レンカ・ストンヒル嬢。彼女が着ているのは、迷彩柄で少し汚れた戦闘衣装。この人、綺麗な服を着てお淑やかにしていれば、超絶美女なのにな…。
奴隷の私にも命令口調で無くて気さくな感じで話しかけてくれるのですから、間違いなく良い人でしょうが…、ハッキリ言って、超『残念さん』です。
そして私は今日も、この残念さんに殺されるんですね。何度も。
今日は御屋敷裏の小さな森での魔法訓練だそうです。
屋外だぞ、逃亡のチャンス?
いやいや、ヘレーナが笑顔で圧力をかけてきます。
逃亡しませんよ。すぐに脳電撃で、殺される以上の痛みを味わうことになりますからね。
私は、森の中で隠れ、ひたすら令嬢から逃げればよい。令嬢はその私を探し、魔法で攻撃してくるのだそうです。
あと、私は生卵を入れた手提げ籠を持たされています。この卵が私の武器。これを令嬢にぶつけることが出来れば、私の勝ちですって。
まあ、勝ったところで、何か褒美があるということじゃありませんがね。
「柚奈。分かっていると思うけど、この森から外には出ちゃダメですからね」
はいはい、ヘレーナ。言われなくても、十分に心得ておりますってば。
だから、その笑顔、怖いから止めてよね。
取り敢えず、1回戦。私が先に森へ入り、隠れます。
森なんて言っても、それ程広くはない。隠れる場所なんて、あまりない。中央部の大きな木の影に…。
笛の音。時間だ。令嬢が探しに来ます。どっちから来るだろう…。
走ってくる足音。
もう来たの? 早いよ。
真っ直ぐこっちへ来る? この場所、目星をつけていたのかも!
ビュッ!と風音。
い、痛い!
左腕の皮膚が大きく裂けて血がタラタラ流れ出ている。右脚も、左脚も、背中も…。これは、鎌鼬みたいなもの? 魔法の攻撃です。
見えない位置から攻撃して来るなんて…。いや、もしかして、魔法で位置特定できるなんてことないよね?! そんなの絶対に勝てないよ!
え~い、破れかぶれだ。ちょっとは反撃したい!
卵を右手に持ち、ぶつけようと、足音のしていた方に向かって木陰から飛び出す。
へ? い、居ない…。
グフッ! グアアアアアア…。
背後から胸を貫かれる衝撃と痛み。剣の切っ先が、前へ突き抜けている。
いつの間に背後に回られた?
こ、こんなの無理。勝てないよ…。
2回戦。またまた森の中央部へ。探知能力があるのならば別ですが、もしもそうでないなら、同じような所に居るとは思わないでしょうという浅知恵。
とはいうモノの、全く同じ場所というのもなんですから、今度は巨樹の隣の草叢に隠れます。
草の隙間から覗き見していると、あ、探してるね。見つかっていない様です。やっぱり、魔法で探知できるということでは無いみたいですよ。そのまま通り過ぎていっちゃった。
オッケー!
暫くここへ隠れていましょう。
うん? あら、小鳥が落ちてる。羽を怪我しているね。
もしかして、1回戦の鎌鼬の巻き添えかも。可哀想に。あなたも私と同じ巻き込まれ者ですか。
このままじゃ、死んじゃうね。治してあげたいけど、私に治癒能力はない。自分の体は意識しなくても治るのにね。
可哀想だけども・・・、どうしようもないね。
いや、もしかして、私の血で治ったり・・・なんて・・・しないかな?
これはホントに思い付きでした。
さっきの攻撃の傷は既に治っていますが、体外へ出た血液はそのままなのです。ベットリ服についている私の血。小鳥の羽の傷にそれをタップリ塗ると…。
へ?
う、うそ…治ってゆく。私、治せるんだ!
凄いよ! これを公表すれば、こんな酷い待遇から解放されるかも!
・・・・。
い、いや、ダメ! 絶対ダメ!
だって、血なのよ。私の血で治るって知られたら、私は毎日、血液をありったけ搾り取られ続けることになる。
それって、どうなの?
私の血って、無限?
いや、無限なんて、あり得ないよね。
死にたいって思うことも有るけど、やっぱり、いざ本当に死ぬかも…と思うと怖い。
それに、切り殺されても生き返ること出来ますけど、その後、ある程度の時間が経つと、異様な疲労感というか脱力感が襲ってくるんです。
毎日大量の血を搾り取られ続けたら、死ななくても、どんなになるか分かんない!
これは絶対に知られちゃダメなヤツだ。
誰にも言わないし、知られないようにしようと決めました。
小鳥の方は、完全復活。私の両手の中で大人しくし、私を見詰めて首を傾げています。
可愛らしい…。
「もう巻き込まれないでね」
放してやると、元気に飛んで行きました。…が、
「みーつけた」
ズブッ!
「グフッ…、ゲホッ……」
背後からの激痛。また心臓を貫かれてしまいました。
その後、あと3回。隠れ場所を変えて時間は少しかせげましたが、卵で反撃する隙はありません。
魔法で体を切りつけられ、剣でとどめを刺されます。
最終回の6回戦。もう、かなりの疲労感がきています。今日は昨日と違い、走り回ってもいますからね。限界近いですよ。私は初回の時と同じ中央の木の影へ。
近づいてきた足音と、鎌鼬の攻撃。どうも、ここに居ると分かっちゃうみたいですね。
でも、せめて最後くらいは…。
一か八かの思い付き。両手に2個ずつ卵を持ち、足音の方へ向かって跳び出しながら、卵は全て一気に背後へ放り投げました。
「きゃー!」
私が向いている方には、やはり誰も居なく、悲鳴が聞こえたのは背後。
振り返ると、顔面に潰れた卵を受けて悲惨なことになっている令嬢…。
私が後ろに投げた卵の一個が上手く令嬢の方に飛び、驚いた令嬢は咄嗟に剣で切ったけど潰れた中身は顔面に…ということだったみたい。
「や、やられたわ~。まさか後ろに投げるなんて…。油断大敵ってことね。参りました」
や、やった! 勝ったよ!
ということで、最終回は殺されずに終了!
…まあ、勝ったと言ったって、それだけ。だからなんだ?ってことですがね・・・。
奴隷の私にも命令口調で無くて気さくな感じで話しかけてくれるのですから、間違いなく良い人でしょうが…、ハッキリ言って、超『残念さん』です。
そして私は今日も、この残念さんに殺されるんですね。何度も。
今日は御屋敷裏の小さな森での魔法訓練だそうです。
屋外だぞ、逃亡のチャンス?
いやいや、ヘレーナが笑顔で圧力をかけてきます。
逃亡しませんよ。すぐに脳電撃で、殺される以上の痛みを味わうことになりますからね。
私は、森の中で隠れ、ひたすら令嬢から逃げればよい。令嬢はその私を探し、魔法で攻撃してくるのだそうです。
あと、私は生卵を入れた手提げ籠を持たされています。この卵が私の武器。これを令嬢にぶつけることが出来れば、私の勝ちですって。
まあ、勝ったところで、何か褒美があるということじゃありませんがね。
「柚奈。分かっていると思うけど、この森から外には出ちゃダメですからね」
はいはい、ヘレーナ。言われなくても、十分に心得ておりますってば。
だから、その笑顔、怖いから止めてよね。
取り敢えず、1回戦。私が先に森へ入り、隠れます。
森なんて言っても、それ程広くはない。隠れる場所なんて、あまりない。中央部の大きな木の影に…。
笛の音。時間だ。令嬢が探しに来ます。どっちから来るだろう…。
走ってくる足音。
もう来たの? 早いよ。
真っ直ぐこっちへ来る? この場所、目星をつけていたのかも!
ビュッ!と風音。
い、痛い!
左腕の皮膚が大きく裂けて血がタラタラ流れ出ている。右脚も、左脚も、背中も…。これは、鎌鼬みたいなもの? 魔法の攻撃です。
見えない位置から攻撃して来るなんて…。いや、もしかして、魔法で位置特定できるなんてことないよね?! そんなの絶対に勝てないよ!
え~い、破れかぶれだ。ちょっとは反撃したい!
卵を右手に持ち、ぶつけようと、足音のしていた方に向かって木陰から飛び出す。
へ? い、居ない…。
グフッ! グアアアアアア…。
背後から胸を貫かれる衝撃と痛み。剣の切っ先が、前へ突き抜けている。
いつの間に背後に回られた?
こ、こんなの無理。勝てないよ…。
2回戦。またまた森の中央部へ。探知能力があるのならば別ですが、もしもそうでないなら、同じような所に居るとは思わないでしょうという浅知恵。
とはいうモノの、全く同じ場所というのもなんですから、今度は巨樹の隣の草叢に隠れます。
草の隙間から覗き見していると、あ、探してるね。見つかっていない様です。やっぱり、魔法で探知できるということでは無いみたいですよ。そのまま通り過ぎていっちゃった。
オッケー!
暫くここへ隠れていましょう。
うん? あら、小鳥が落ちてる。羽を怪我しているね。
もしかして、1回戦の鎌鼬の巻き添えかも。可哀想に。あなたも私と同じ巻き込まれ者ですか。
このままじゃ、死んじゃうね。治してあげたいけど、私に治癒能力はない。自分の体は意識しなくても治るのにね。
可哀想だけども・・・、どうしようもないね。
いや、もしかして、私の血で治ったり・・・なんて・・・しないかな?
これはホントに思い付きでした。
さっきの攻撃の傷は既に治っていますが、体外へ出た血液はそのままなのです。ベットリ服についている私の血。小鳥の羽の傷にそれをタップリ塗ると…。
へ?
う、うそ…治ってゆく。私、治せるんだ!
凄いよ! これを公表すれば、こんな酷い待遇から解放されるかも!
・・・・。
い、いや、ダメ! 絶対ダメ!
だって、血なのよ。私の血で治るって知られたら、私は毎日、血液をありったけ搾り取られ続けることになる。
それって、どうなの?
私の血って、無限?
いや、無限なんて、あり得ないよね。
死にたいって思うことも有るけど、やっぱり、いざ本当に死ぬかも…と思うと怖い。
それに、切り殺されても生き返ること出来ますけど、その後、ある程度の時間が経つと、異様な疲労感というか脱力感が襲ってくるんです。
毎日大量の血を搾り取られ続けたら、死ななくても、どんなになるか分かんない!
これは絶対に知られちゃダメなヤツだ。
誰にも言わないし、知られないようにしようと決めました。
小鳥の方は、完全復活。私の両手の中で大人しくし、私を見詰めて首を傾げています。
可愛らしい…。
「もう巻き込まれないでね」
放してやると、元気に飛んで行きました。…が、
「みーつけた」
ズブッ!
「グフッ…、ゲホッ……」
背後からの激痛。また心臓を貫かれてしまいました。
その後、あと3回。隠れ場所を変えて時間は少しかせげましたが、卵で反撃する隙はありません。
魔法で体を切りつけられ、剣でとどめを刺されます。
最終回の6回戦。もう、かなりの疲労感がきています。今日は昨日と違い、走り回ってもいますからね。限界近いですよ。私は初回の時と同じ中央の木の影へ。
近づいてきた足音と、鎌鼬の攻撃。どうも、ここに居ると分かっちゃうみたいですね。
でも、せめて最後くらいは…。
一か八かの思い付き。両手に2個ずつ卵を持ち、足音の方へ向かって跳び出しながら、卵は全て一気に背後へ放り投げました。
「きゃー!」
私が向いている方には、やはり誰も居なく、悲鳴が聞こえたのは背後。
振り返ると、顔面に潰れた卵を受けて悲惨なことになっている令嬢…。
私が後ろに投げた卵の一個が上手く令嬢の方に飛び、驚いた令嬢は咄嗟に剣で切ったけど潰れた中身は顔面に…ということだったみたい。
「や、やられたわ~。まさか後ろに投げるなんて…。油断大敵ってことね。参りました」
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