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貧乏神に取り憑かれました

11 ビンちゃん1

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 と、兎に角です。今は夜。夜は寝るもの。
私がフカフカ布団で、神様が部屋の隅でって……んな訳には行かない。

「あ、あの、ビ、ビンちゃん。どうぞ、布団を使って下さい」

 恐る恐る勧めますが、

「要らん。私にはそんな物は不要だ。というか、私には意味をなさん」

 貧乏神様ビンちゃんは布団に手をつきますが、その手はスッと布団を突き抜けてしまいます。

「こういうことだ。肉体が無いのだからな。お前には見えて声も聞こえているようだが、他の者は私を見ることも、声を聞くことも、出来ない。ましてや触ることなど、論外だ」

 なるほど、そういうことですか…。
 床に立っているように見えても、立っているのではなくて、床の高さに合わせて浮遊しているだけ。
物も何も通過してしまう……。

 しかし、だからといって、神様を放っておいて布団で寝るなど、出来ようはずがありません。
 布団に入ろうとしない私を見たビンちゃん…。

「なんじゃ。寝ぬのか?」

「い、いえ、その…。私だけ寝るのも、恐れ多くて……」

「クドイぞ! 気にするなと言うたであろう! とっとと、寝よ!!」

「は、はい~!!」

 お子ちゃま容姿の神様につ叱りけられ、私は布団に潜り込みました。

 どうしよう…。
 明日から、どうしよう……。

 貧乏…。
 い、イヤだよう……。

 ………。



 気が付くと……。
 朝。

 私は、あのまま寝てしまったのでしょうか。
 あ、いや、昨晩の出来事は、夢……?

 うん、そう!! あれは夢!!!

 ・・・だったら、良かったんですけどね。

 部屋の隅にうずくまっていらっしゃるのは、おかっぱ・赤の短和服・幼女姿の、貧乏神様…。
 見た目は超可愛らしい女の子なのに、貧乏神のエース……。

 私の人生、終わった。
これから、どん底真っ逆さま。
 ラッキーガール、卒業致しました。私は、やっぱり、「かわいそうな女」……。



 朝食。御主人が気を使ってくれたのか、私だけ個室で用意してもらえました。
貧乏神様、あ、いえ、ビンちゃんがいますので、この方が有難い。
 うん? でもまあ、周りの人には見えないから、どっちでも良いのか……。

 御主人は既に神社に行っているみたいで、食事部屋へ案内してくれたのは女将おかみさん。奥様…かな?
 後で神社に、もう一回御礼に行こう。
ついでに思兼ジジイに文句も!!

 で、その朝食なんですが、これがまた、美味しい!

 美味しい!

 ・・・美味しい。

 ・・・・美味しいのですが…。

 た、食べにくい……。

 ビンちゃんが私の真正面から、ジッと見ているのです。

「あ、あの…。食べます?」

 勧めてみますが……。

「阿呆! まだ理解できぬのか。私は、そのような物は食せぬ」

「そ、そうですよね……」

 じゃあ、なぜ私の正面からジッと見てるのよ……。

「なんじゃ?」

「い、いえ…。そ、その食べにくいな~と思ったりなんかして……」

「私は邪魔だと言う気か?」

「い、いえ、滅相も無い!!」

 ゴメンナサイ。私、嘘つきました。
ハッキリ言って邪魔です。せめて、部屋の隅に居てください。
 ……な~んて、口には出来ませんが…。

「フン! そうか…。 ……ん? フフン、そうだな……」

 い、いや、ナニ?
 何、一人で納得してるんですか?
 それに、その後の怪しい含み笑いはナニ?

「まあよい。ちょっと出て来る。一人で味わって喰え」

 ビンちゃんは、フッと消えてしまいました。

 え~と…。このまま、いなくなってしまうということは……。
ないよね。たぶん……。

 まあ、神様の心遣い。感謝して、美味しくいただきます。
で、卵焼きを箸でつまんで、あ~んしたところへ…。

「ハ・ル・カ……。タ・キ・ハ・ル・カ……」

 低い、不気味な声…。
 私の真後ろから……。

 振り返ると、モヤッとした黒い影が私に覆いかぶさろうとしている!!

「キャー」

 思わず上げた叫び声。卵焼きは机の上にボタッと落ちる。
 大慌てで女将さんが駆けつけてきました。

「どうしました!」

 どうしましたって、いるでしょ、そこに。黒いモノ!

 あ、い、いや…。
 見えてないんだ……。

 私に覆いかぶさろうとしていた黒い影は、向きを変えてゆっくり女将さんに近づいてゆきます。
 危ない!
 でも、どうすれば…。女将さんには見えていない!

「ご、ごめんなさい! 大丈夫です。ちょっと粗相しまして頭のコブをぶつけてしまっただけです。大声出してごめんなさい! 本当に大丈夫ですから!」

 兎に角このままでは、女将さんが危ない。追い立てる様に部屋の外に出します。

 扉が閉まって、これでよし。大丈夫~。
で、部屋の中に残ったのは、私と黒い影。

 ・・・。

 ありゃ、まあ…。これマズいんじゃあないですか?
大丈夫~じゃないですよ。こんどは、私が危ないですよ。
 いや、最初からそうでしたよね……。

 黒い影はゆっくり、近づいてきます。
「ハ・ル・カ…」と、私の名を呼びながら……。

 なんで、こいつ、私の名前知ってんの?!

 壁に追い詰められる……。

 だ、ダメだ!!
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