17 / 80
美雪と早紀
16 結婚許可2
しおりを挟む「私と同じ体・・・」
早紀が、小さな声で呟いた。
裸に服を羽織っただけで坐っているスミレが話し出す。
「そうです。総司さんは、襲われてこの体の写真を撮られてしまった私を助けてくれました。
画像データが出回らないように知り合いの探偵さんに依頼して、手を打ってくれました。その後、美月さんの死を聞いてショックで引きこもり状態になってしまった私に、根気よく付き合ってくれました。
総司さんが居なかったら、私はとっくに死を選んでいました。
体の関係は、私から求めたのです。二年前のことです。総司さんは三年もの間、同じ部屋にいながら、自分からは絶対手を出さなかった…。
私が悪いんです!総司さんは悪くありません。
ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!・・・」
スミレは、涙を流して泣き出した。「ゴメンナサイ」と何度も繰り返しながら……。
早紀は、机に顔を伏せた。
が、すぐに、ガバッと顔を起こした。
「あ~! もうやめてよ! 私が虐めてるみたいじゃない!
事情は分かりました。結婚でも、何でもしてください!」
「さ、早紀、じゃあ、許してくれるんだね」
総司は体を前に乗り出すようにして、自分の娘に確認した。
「バカね。許すも許さないもないでしょ。もう妊娠させておいて!
でも、あの体でも妊娠できるんだ…。じゃあ、私も、大丈夫なのかな・・・」
早紀は半眼で父親を睨み乍ら言い放ち、最後は独り言のように呟いた。
「そうだよ、早紀。お前もきっと大丈夫だよ。
それに、この近くに、こういう特殊な妊娠の専門医がいるって、紹介されたんだ。この後、そこへ診察してもらいに行くことになっているんだよ。スミレちゃんが大丈夫なら、お前にも十分可能性があるんだよ!
……ところで、お前の方の結婚相手というのは?」
総司の畳み掛けと、最後の一言に、早紀はハッとした。父の相手に驚くあまり、自分の方のことを、すっかり、全く、綺麗さっぱり、完全に、忘れていたのだ。
「あ、あ~、え~と・・・。
それに関してなんですけど~。自分と同年の母親が出来ることに、私は承諾したわけでありまして~、こっちの方も無条件で認めて欲しいかな~なんて、思うんですけど~。
如何なものでありましょうか・・・」
急に、早紀の歯切れが悪くなった。
「いや、だから、その相手というのは・・・」
早紀に似合わず、少しモジモジするが……、
「この人!」
早紀は、隣の慎也の肩に手をポンと置いた。
それを受けて、慎也が上座二人に頭を下げた。
「御挨拶が遅れました。川村慎也と申します。奈来早神社の宮司をしています」
「「えっ!」」
上座二人が同時に声を上げた。
スミレは、見開いた目で慎也の隣に坐っている舞衣に視線を送る。
「え~と、私の旦那です・・・」
舞衣の一言。スミレと総司は返す言葉も無く、固まっている。
早紀が斜め後ろに居る祥子に右手を翳す。
「こちらが、第二夫人の祥子さん」
「よろしゅう」
祥子が頭を下げる。
「で、第三夫人は武者修行中。第四夫人から第六夫人までは、家庭の事情で、暫く留守です。
あと、こちらの隣が私の親友で、今回一緒にお世話になることになりました美雪。第七夫人です。ですから、私は第八夫人になります」
早紀の言った第三夫人の「武者修行中」というのは、鬼の里へ行っているなどと公言出来ない為、とりあえず訊かれたら、そう言うように恵美に指示されていたことだ。しかし、そんなことは、総司にとってはどうでも良い。それよりも、娘が妾になりたいと宣言したのだ。
それも、第八夫人……。
「さ、早紀~。いくらなんでも、それは無いだろう・・・」
総司は、机に崩れ落ちるよう顔を伏せた。
「何よう。駄目って言うなら、こっちも同年の母親なんて、認めませんからね! さっきの承諾は、撤回します!」
「そ、そんな・・・」
顔を上げ、絶句する総司。
「ま、舞衣さん・・・」
再び困り顔になって、舞衣に助けを求めるような声を出すスミレ…。
しかし舞衣も、どう釈明したものか困窮する。こういう時に、恵美や沙織が居ないのは痛い…。だが、居ない者は、居ないのだ。仕方なく、いつもの決まり文句を口にする。
「え~とですね…。もちろん、世間一般に認められる関係ではありません。正妻は私のみ。他の子は、皆、内縁関係になります。でも、決して粗末に扱うようなことはしません。主人は、私も含めて平等に扱ってくれます」
慎也も続ける。
「必ず、早紀さんを幸せにします。とんでもないことをお願いしている自覚はあります。ですが、お許しください」
「慎也さん…、でしたね。娘の体のことも御存じの上でなんですね」
「もちろんです」
「それでも、受け入れてくださると・・・」
「はい。必ず、幸せにします」
「早紀も、本当に良いんだね」
「はい。ここ以外に、私の幸せはありません!」
「分かった。お前が、それを幸せだと思うのなら、それでいいんだ。幸せなんて、人それぞれだからね。特にお前の場合は、こういう関係も合っているかもしれない。分かったよ。了解だ」
「じゃあ、お互いに、お互いの結婚を了承し合うということで、取引成立ね!」
「おいおい、そういう言い方すると、何か、腹黒いぞ……」
ニヤッと笑った早紀に、総司も笑みを返した。どうなることかと思ってはいたが、美雪同様に上手く収まったようだ。
皆、笑顔(苦笑?)になった。
「ところで、一つ疑問に思うたのじゃが…」
スミレが服を着直したのを見計らい、祥子が口を挿んだ。
「特殊な妊娠の専門医というのは、もしかして…」
「はい、住所は岐阜市ですが、距離的には、ここから近くみたいですね。野村医療研究所というところです」
「あ・・・」
下座五人が脱力した。亜希子の研究所のことだ。
「え? どうしたんですか?」
スミレの問いに、舞衣が答える。
「そこ、身内です。つくづく、腐れ縁のようね、スミレちゃん・・・」
特殊な妊娠の専門医…。正確には、分娩の専門医…。いや、亜希子も徹も、産科の専門ではない。それをしているのは、慎也なのだ。
慎也の能力、手を翳して念じるだけで、痛みも無くあっという間に産ませてしまう力…。難産の恐れがある妊婦が来るたびに、慎也が呼ばれて産ませていたのだ。つまり、慎也のアルバイト……。
だが、慎也に医療の資格はない。よって、亜希子が担当して産ませたことになっている。それが評判を呼んでいたのだった。
まあ、資格も何も、慎也は手を翳しているだけ。その後の出産処置は全て亜希子がしているのであるから、これに関しては、何も問題は無い。
ついでに…。外科手術でも、亜希子は有名になっていた。大怪我の重症患者も傷跡一つ残さず治療してしまう、奇跡の医者と…。
これも、勿論、慎也の仕業。ただ、こちらは、あまり大ごとになっては困るので、出来る限り控えるように頼んでいる。
それに、慎也の能力は万能ではない。治癒の力は、怪我・骨折限定の力なのだ。ウイルス・細菌が原因の病気は治療できない。癌の治療も不可能だと判明した。進行を止める、もしくは遅らせるということは出来るが、癌を消滅させることは出来なかった。
もっとも、癌に関しては、患部を切除してその後の傷を治癒させるという方法がある。初期の癌に関しては、この力で即座に治すことは可能だった。
遅ればせながらお茶も出して暫く歓談した後、予約の時間が近づいているということで、総司とスミレは、亜希子の研究所に向かうことになった。
そして、皆も、これに同行することにした。
同類の体の二人なのだ。早紀の診察も一緒にしてもらえば手間が省ける。
また、スミレも、舞衣たちが来てくれた方が心強い。
実際に産ませるのは慎也だということは、総司とスミレには、まだ話していない。が、その前に、やはり特殊な体なのだ。一応、スミレも診察してもらっておいた方が、良いに決まっている。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる