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2章 友人達とそして義姉と

団体戦! -ぼくだけがいないチーム

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 スタジアムに銃声と、斬撃音と、爆発音と、様々な叫び声と――とにかく色々な音が混ざって響き渡る。

「そこだっ!」
「おーっほっほっほ!頑張ってお避けなさいなァー!」
『“フレイム・ランス”!いけぇ!』
「全員で囲め!あの銃士だけは絶対に倒……ぬわーっ!」
「いいぞいいぞー!やれやれー!」
「Bチームだいぶ劣勢じゃねーかー!そっちに賭けてるんだから頑張れよコラー!」

 ――ええい!そっちの賭けなんぞ知らん!
 そんなデーヴァやプレイヤー達の、そして観客席の声を聞きながら、ナギサとソウハは一人の騎士と戦っていた。刀が相手の剣や盾にぶつかり金属音を上げた。
 そして相手の大振りの攻撃を軽やかに躱す。

「やっぱり素早いな……。中々隙を見せやしねえ」
「そちらもやはり硬いですね……」

 向かい合うは盾を携えた赤髪の騎士、アーメス。
 互いに剣を構えたまま、相手の次の動向を伺う。

(ナギサ君がスキルを使って攻めてきたらこれを――)
(相手はこちらが先に動くのを待っているはずだ。ここは作戦通り――)

 リンク状態にある互いのプレイヤーがスキルカードを眺めながら思考する。お互い身内ということもあって手の内は大体だが知っている。先に動けば思わぬカウンターを食らうことになるだろう。
 タッ、と先にソウハが動いた。だがその方向はアーメスの方ではなく、その後ろ、つまり後退する形で駆け出していた。

『に、逃げたー!?』
「どうするカエデ?追うか?」

 その時、アーメスの背後から一つの影が現れた。くノ一のような姿をしたデーヴァが、一瞬にして忍び寄っていたのだ。
 ソウハが気を引いているうちに、くノ一がスキル”気配遮断”を使って忍び寄り、斬る……そういう作戦だ。

「もらった――!」

 露出している首元に短剣で切りかかるくノ一。突然のことにカエデとアーメスは反応が遅れる。

「しまっ――」
『ニンジャか!流石ニンジャきたな――!』

 だが、そのくノ一の攻撃がアーメスに届くことは無かった。遠く離れた位置から緑色のローブを羽織った弓使いが素早い動作でくノ一の身体を撃ち抜いていた。攻撃がクリティカルにでも入ったのか、くノ一のHPが一瞬にして0となり、光と共に消える。

「すまない、主様……!」
『くっそー、もっと早くにあの遠距離攻撃持ちを倒しといてくれればなぁ……』

 倒れたデーヴァとそのマスターは試合場の外へと弾き出される。弓使いはそれを確認することなく、周囲からの反撃を避けるため即座にその場所から離れた。

『助かったよ!ロビンにもお礼を言っておいて』
『いいよいいよ!この前は負けちゃったけど、今は味方!団体戦は助け合いだもんね!』

 カエデは弓使いのマスターへと通信を送る。その相手の女性はカエデと会話しながらも次の狙撃ポイントを探し、弓使い・ロビンをそこへと誘導する。
 スタジアムの中央と、リンク状態にあるプレイヤーの視界に表示されてある『Bチーム 残り5』と書かれたカウントが一つ減少し、『残り4』へと表示が変わる。
 同じ表示を見ていたナギサの顔には焦りの表情が。

『こっちは4人、あっちは7人……。不味いなぁ』

 アーメスを撒いて弓使い・ロビンを探すナギサとソウハ。精密射撃が得意な彼の攻撃は脅威だ。早めに倒しておかなければこちらが不利のまま。
 だがそんなソウハの行く手をロボットのような灰色の装甲を装備した女戦士が阻む。身の丈よりも大きい大剣による一撃をサイドステップで回避。スタジアムの地面が大きく破壊された。

「あっ!外したっ!?」
「隙ありです!」

 ガラ空きの機械娘の背中をソウハが斬りつける。「きゃあ!」と悲鳴を上げた。
 ここで一人減らしておかないと……!と焦ったナギサは続けてスキルを発動させた。

『“アイアン・ブレイク”!』
「ちょっと!ここで終わりなの――」


 <アイアン・ブレイク>
 レアリティ:R
 チャージ時間:小
 分類:斬撃
 ・機械、鋼系統の相手に対して特攻効果を持つ。


 ガードの硬い敵を想定して装備させていたスキルが役立った。鈍い光を得た刀が続けざまに機械娘の身体を切り裂く。機械娘はこれまでにもダメージを負っていたのか、その一撃でHPが0となり消滅した。『Aチーム 残り7』の表示が『残り6』へと減少。

 敵を倒したはいいが休んではいられない。数の上ではこちらはまだ2人不利なのだ。他のみんなはどうしているだろうか。

『……!ソウハ!前に飛ぶよ!』
「ッ!」

 辺りを見渡していたナギサが右方向からの射撃に偶然気付き、ソウハの身体を操作する。正面へと飛んだソウハの頭の後ろで鋭い音とともに矢が飛んだ。
 ナギサがそちらの方向に改めて視線を向けると、先ほどの弓使いが弓を引き終えた動作が見えた。

 逃がさないぞ――とソウハに彼を追いかけるよう指示を出そうとしたナギサだったが、それは一つの銃撃によって阻止された。ソウハの肌を魔法の銃弾が掠める。

『正確な射撃は苦手だが、こちらにはまだもう一人遠距離タイプがいることを忘れたか?』
『シューマ……!』

 ムカつくくらいに気取った男性の声がソウハに向けられる。少し離れた位置に彼――彼とリンクしたデーヴァが立っていた。
 拳銃を構えた銀髪の女性銃士、シャルディがフフン、と笑う。

「戦う銃刀法違反、白銀の魔弾シャルディがお相手ですわよ、ソウハさん!」
『戦う銃刀法違反……?』
「相変わらずカッコいい……!」
『『いや、カッコよくは無い』』
「なんですとぉ!?」

 相変わらずヘンテコな名乗りを上げて立っているシャルディ。
 そして更にソウハの後ろには身の丈ほどの大きさの斧を構えた、渋い顔をした戦士が立っていた。

「捕まえたぜお嬢ちゃん。さっきからチョロチョロと動き回ってたみたいだがこれでおしまいだ」

 ――しまった。2人に囲まれたか……!
 数の上では相手チームの方が有利。ならば上回っている人数分で一人を相手にするのは当然か……!

 “高速化”で逃げようと思ったが、既に一度使用していて再チャージがまだ完了していない。ここはまだ温存してある"マッハ・レイヴ"を使って守備の低いシャルディを倒し、離脱するか?
 うん、それしかない。ナギサは高速で繰り出す斬撃技、マッハ・レイヴのスキルカードに触れる。

『“マッハ”――』
『そうはいかない!“バインドチェイン”!』

 突如地面から鎖が出現し、スキルの発動と共に駆け出そうとしていたソウハの足首に絡みついた。
 体勢を崩されたため、ビタン、とソウハがずっこける。咄嗟に両手を前に出して受け身をとったため、顔を豪快に床に打ち付けることは無かった。

「痛たた……。ん、これは……!」
『先にスキルを使われたか……!』

 斧の戦士とリンクしていたマスターが妨害用のスキル、“バインドチェイン”を発動させたのだ。見た目に似合わないスキルを使ってきたなぁ……!
 “マッハ・レイヴ”を発動すれば無理矢理にでも引きちぎれるだろうが、発動のために一度態勢を立て直す僅かな時間を――。

「これでフィニッシュですわ。今回は私達の勝ちですわね!」

 目の前で銃を構えた彼女が逃がしてくれるはずがない、か。


 ランクF~E帯のみのプレイヤー20人が2チームに分かれて戦う団体戦において、ナギサの所属するBチームは苦戦を強いられていた。
 よりにもよってナギサの所属するBチームには遠距離攻撃への対抗策を持つ者が少なく、その上Aチームには遠距離攻撃を得意とする者が4名。うち2名は撃破したものの、射撃の正確さと速さに優れた弓使い、ロビンと火力バカのシャルディがほぼ無傷で残っていた。

 その上、防御に秀でたアーメスや他のデーヴァが彼らの援護に回るためにBチームは敵の数を中々減らせない。


『すばしっこさ故に随分と長生きしたらしいが、ここで終わりだソウハ、ナギサ!……さぁ、決めろシャルディ!』
「ここで散れ!ですわ!」

 最早“ですわ”をつける基準も適当になってきたシャルディの銃口が光る――と、その前に。

『“ジェット・ナックル”!』
「――ぶへぇ!?」

 シャルディは突如横方向から飛んできた拳に吹き飛ばされた。人間でいう肝臓の位置に値する部分に直撃を受けたシャルディは豪快なうめき声と共にスタジアムの床を転がる。
 そしてその攻撃の主は即座に姿勢を直して、真っ直ぐに斧使いへと向かい、鋼鉄の拳を叩きつけた。斧使いはその武器の取り回しの悪さ故にガードが間に合わず、拳による一撃を身体で受ける。

「ぐっ……!」
『しまった。もう一人来ちゃった……!』

 斧使いとリンクしている女性プレイヤーが焦りの声を漏らす。
 鋼鉄の身体を持つデーヴァ……マスクドポリス・プロトは首元に巻いたマフラーをなびかせながら、至近距離での連撃を斧使いに叩き込む。

 スキルの持続時間が切れ、ソウハの足元に絡みついていた鎖が崩れ去る。これが好機とばかりにソウハは先ほど吹き飛んだシャルディへと走る。
 シャルディは「いたた……」と呟きながら立ち上がっている最中だった。

『油断したなシューマァ!終わりだ!』
「覚悟!シャルディ!」
『ッ――』
「しまりましたわ!」
『"シールド・ブーメラン"!』

 だがシャルディへと振りかぶられた刀は振り下ろされることは無かった。突如飛んできた盾によって、その攻撃は受け止められる。
 ソウハの一撃を防いだひし形の盾はクルクルと回転しながら宙を駆け、少し遠方に立っている騎士――アーメスの左腕へと装着される。

「待たせたな、シャルディ」
「待ってましたわよメイン盾!」
『待ったかねメイン砲!』
『すまない、助かった。カエデちゃん』

 ――しまった。ナギサさん達がピンチだぞ。

 プロトを戦わせながら、ミナミがシャルディとアーメスと対峙して再び1対2になったソウハを心配そうに眺めた。

『“鋼鉄化”!』

 斧使いのプレイヤーがスキル、“鋼鉄化”を発動させる。プロトの放った拳は斧使いの身体を再びとらえたものの、防御を強化した相手は全く怯まなかった。そしてその間に巨大な斧を振りかぶる。

『いくよ、“ボルト・アックス”!』
「砕けちまいな!」

 巨大な斧に雷が宿る。破壊力を増した斧が迫る前に、ミナミはスキルを発動させた。

『“ライジング・アッパー”!』

 プロトの拳に光が宿り、そしてそれは稲妻が走るが如き勢いで上へと突き上げられた。電気を宿した斧と鋼の拳がぶつかり合い、鈍い破壊音が辺りに響く。

 バキン!と斧使いの斧の先端が割れ、プロトの右の拳も同様に割れる。プロトが小さく苦痛の声を漏らした。

「くっ、ダメージは与えたが、おれの斧が――!」
『武器破壊!?これじゃ残りのスキルが使えない……!』

 まだ発動できるスキルが斧を装備していないと使えないものだったのだろうプレイヤーが焦る。これでトドメだ、とミナミとプロトは同時に己の必殺技を叫んだ。

『「“エクストーム”!」』

 最初の発声と共に少しの溜めから放った左の拳で斧使いを宙に打ち上げる。それから空高く跳躍。
 そして宙を一回転して右足を突き出す。風がプロトの右足を纏うように大きく渦巻く。

『「“インパクトオオオオォ!!”」』
「ぐあああああああ!!」

 風を纏った鋭いキックが斧使いの巨体を蹴りぬいた。空中で斧使いの身体が光と共に消滅し、プレイヤーと共に場外へ弾き出される。これでAチームは残り5人となった。

「一気に決めるとはいえ、全てのスキルを使い切ったか……!右腕は破壊されてしまったし、スキル再使用まで生き延びられるだろうか……」
『弱気になっちゃ駄目だよプロト。次はソウハちゃんを助けに行こう!』
「だな。了解した!」
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