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2章 友人達とそして義姉と

団体戦! -モトカズさんとカオルコ

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 ――ああ、畜生。なんでこんなことになったんだ。
 モトカズはリンクしているカオルコを操作して逃げ回りながらそんなことを思っていた。

 団体戦なら逃げ回って最後に生き延びてるだけでコインと経験値が貰えると思ったのだが、試合開始前半で味方の半分近くが脱落。

 試合時間は大体残り5分くらいといったところだが、自分の所属するBチームは相手に比べて生存人数が一人少ない。
 残っている味方の体力もそこまで余裕があるわけではなさそうで、状況的にはかなり不利だ。

『……くそっ、楽して勝てると思ったのによ……』

 どこからともなく飛んでくる矢などの遠距離攻撃と、自分を狙う敵チームのデーヴァを上手いこと躱し、他人に押し付け逃げ回る……それで最後まで生き延びればいいと思っていたのに。
 楽して勝ちたいのに……。くそっ、なんでこうも上手くいかない。

「モ、モトカズさん……。もう逃げるのは辞めましょう。戦いに行きましょうよ……。一人でも相手の数を減らさないと最後に生き残っていても判定で負けちゃいます……」
『うっせえよ。どうせ……。どうせ、まともに戦っても勝てねえだろ』

 相手は5人。こちらは4人。
 見るとこちらのチームの青い剣士――以前初心者狩りを吹っ掛けたが返り討ちに遭った――ソウハは一人で二人を相手にしていた。

 その後すぐに味方チームにいる鋼鉄の戦士・プロトが加勢したが、彼は右腕を失っており、その身体にもかなりのダメージを負っていた。

 残り3人。うち一人は相変わらず逃げ回って、どこからともなく狙撃してくるロビンだ。こうして逃げている途中にも何発か攻撃をくらっていた。うざったいことこの上無い。

 ――まだ誰もアイツを処分してないのかよ。とっとと倒してくれよ。厄介なんだから。

 苛立っているモトカズ。そんな彼とリンクしているカオルコが、小さく声を漏らす。

「あっ……」
『どうしたよカオルコ。……あ』

 行く手を巨大な一つ目の機械兵に阻まれていた。相手チームのデーヴァだ。
 2m以上はあるんじゃないかといった金属の巨体が、カオルコの3倍ほどの太さを持つ巨大な腕を広げ、待ったをかける。

『さっきからチョロチョロ逃げ回ってるみたいだけど、もうおしまいですよ!“バルカン・ショット”!』
「モクヒョウカクニン。ハイジョ、スル」

 機械音声で喋るロボットのデーヴァはバルカン砲のような形になっている右腕を突き出した。
 ダダダダン!と耳をつんざくような砲撃音と共に弾丸がいくつも発射される。カオルコはそれを必死に回避するも、2,3発が彼女の胴体を捉えた。

「きゃっ――!」

 装備していた胸当てのおかげで直撃は免れたものの、装備が破壊され、その衝撃でカオルコは床へと転がる。
 ロボットが倒れたカオルコに向かって銃口を向ける。これでトドメだと言わんばかりに。

 そして更に、もう一体のデーヴァがその場に現れた。味方ではない。Aチームにいる敵のデーヴァだ。
 ゴスロリの様な衣装を着た、ロングヘアーの少女型デーヴァだ。その手に握られている丸い小さな武器は…………ヨーヨーだ。ヨーヨー武器なんてあるのかよこのゲーム、とモトカズは少し驚く。

 少女がヨーヨーを構えると、シャキン!とそのボディからカッターのような刃物が現れる。

「これでまた一人、減る……」

 少女は静かな声でそう言った。彼女の中ではこちらの脱落はもう決定したらしい。

 ――ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。

 なんで楽して勝たせてくれない。楽しなきゃ、こいつが傷付くんだよ。

「モトカズさん、諦めないでください。せめて、せめて戦わなきゃ……!スキルの発動を、お、お願いします!」
『……無理だろ。何使っても負けるに決まってる。2体1だぞ?』

 ――ああ、なんでそんな声で俺に語り掛けてくる。

 なんで俺に戦えって、諦めるなって言ってくる?
 他の奴に任せればいいだろうが。


 ――カズ君はさ、そうやってなんでも私に……他人に押し付けるんだよね。楽したいから?
 ――あなたといるの、息苦しいよ。さよなら。


 あぁ、嫌なことを思い出してしまう。カオルコの顔が、声が、あいつに似ているからか。

 カオルコを作り出したのは自分だ。あいつを忘れたくないという自分の女々しさが生み出した。

 性格はアイツにちっとも似なかったが……変なところで似てくるな。

「――モトカズさん!」
『あぁ、もう!うっせ――』

 その時、視界に表示された『Aチーム 残り5』の表示が『残り4』へと変わった。
 それは目の前の2人のデーヴァのプレイヤーも確認したらしく、一瞬動きが止まる。
 他の2人はBチームのソウハ、プロトと交戦中だ。ならば……ついにロビンがやられた?

『助かったよ。君たちがやたらと1対多数に拘るおかげで動きやすかった』

 全デーヴァのプレイヤーに対してそんな通信が入った。
 十代中頃といったところの、まだ変声期を迎えたばかりのような、若干高めの落ち着いた少年の声だ。

 その通信が入る少しだけ前のこと。
 スタジアム端で、緑のローブを羽織ったロビンが、一体のデーヴァの腕に腹部を貫かれていた。他の面々は自分自身の戦いに集中していたため、倒された彼の姿を見た者はスタジアムの観客しかいない。

 ヴァンパイアを思わせるような赤と黒を基調とした衣服を羽織り、スパッツを履いた下半身からスラリと伸びる脚は綺麗な曲線を描いていたが、どこか筋肉質でもあった。
 濃い目のピンク色をした髪は左目が隠れそうなくらいだが、後ろは肩に付かないくらいのショート。そして右向きのサイドテール。

 しかし何といっても目を引くのはそのデーヴァの武器だ。一本一本が小さな斧のような形をした、真っ黒な爪が右腕に装着……いいや、右腕の手首から先がそのような形に変化していた。

「馬鹿なっ……。急に、現れた、ぞ……!?」

 貫かれた胸を抑え、光となって消滅するロビンが息も絶え絶えにそう呟く。
 ジャケットの爪使いは幼い顔立ちの口元をニッと、つり上げ、八重歯をのぞかせながら笑った。

「“気配遮断”のスキルでなるべく気配を消して近付いたのさ。キミ達、随分と狙撃にばかり集中していたから近付くのは簡単だったぜ?」
『あれ、お、男の子だったの……?』

 その声は先ほどのプレイヤーと同じような少年の声で、ロビンとそのプレイヤーは初めて自分を葬った者が女性ではなく男性であることに気が付いた。
 リンクしている少年は感情を読み取らせないような落ち着いた声で言った。

『これで邪魔なスナイパーは倒せた。次はあっちだ。1対2で完全に油断してる。行くよレウル。“エア・ウォーク”』
「りょーかい。へへっ、さぁ、次の戦いだ!」

 少年が“エア・ウォーク”というスキルを発動させると、ジャケットのデーヴァは地を蹴り跳躍し、まるで空中に見えない足場を作っているかのようにステップで空中を移動し始めた。ステージの端から端まで軽やかな足取りで移動する。
 目指すは1体のロボットと1人のゴスロリ少女の前に屈しているケモミミの槍使いの場所だ。

『――上を飛んでるアイツを撃ち落とせるか、シャルディ?』
「無茶言わないで欲しいですわ。そんな余裕見せてたらやられちゃいますわよ」
『そうだったな。……チッ、向かってくるかよ……!』

 ちょうどシャルディの頭上を通ろうとしていた彼に攻撃の指示を出すシューマだったが、その提案はシャルディによって却下される。
 鋼鉄の戦士プロトが魔弾による攻撃を左手で弾き、シャルディへと向かってきていた。直前に“鋼鉄化”のスキルで防御を上げているため、通常の攻撃で怯むことは無い。

 シャルディはアーメスと2人がかりでナギサのソウハを追い込んだものの、それは再び割って入ってきたプロトによって阻まれ、2人は分断されていた。

 やれやれ。2対1なんて思ったように上手くはいかないものだ。シューマが心の中でそうぼやく。

『――再チャージ完了!決めるんだプロト!“ジェット・ナックル”!』
「応ッ!」

 プロトが速度を増し、左の拳を突き出して迫りくる。

 ――これまでの戦いでシャルディは疲労している。それに元々鈍足気味のこいつに回避は無理か。

 そう読んだシューマは今使えるスキルを即座に確認。
 一角銃は駄目だ。詠唱から発動まで間に合わん。ならば……、こいつだ。

『仕方ない、迎え撃て!“必殺の美脚”!』

 シャルディの右足に光が宿る。
 そしてプロトが迫ってきた瞬間、腰を捻って繰り出すは渾身の横蹴りだ。

「シャルディ・ビューティフル・キイィィィィック!!」
『ダサっ』

 スキル名でも何でもない、単純な叫びと共に繰り出された横蹴りが、プロトの拳と衝突する。
 力の塊同士がぶつかり合い、2人は相手に競り負けないよう叫ぶ。

「うおおおおおおおおおおお!!」
「はあああああああああああ!!」

 2つの物理攻撃はしばらく拮抗したが、少しして小さな破裂音を起こし、2人が大きく後方へと吹き飛ぶ。

「ぐっ…………!!」
「きゃあああああ!!」

 プロトは左腕が、シャルディは蹴りを繰り出した右足がそれぞれデータの乱れのようなエフェクト共に破壊される。
 互いにそれまで負ったダメージが大きかったのか、HPが0になった2人の身体の破壊された部位の先から光が放たれ、消滅しようとしていた。

「これで相打ち……。数の上では互角だ。頼んだぞみんな――」
『ごめん他の3人!後お願い!』
「あーらら。これでお終いですの?最後に観客にアピールする台詞も考えてましたのに――」
『……ハァ。どうせなら、最後まで残っていたかったんだがな――』

 2体と2人はそう呟くと場外へ弾き出される。
 これで互いのチームのカウントは残り3。
 そして、宙をステップで駆けていた少年が、カオルコへと迫るヨーヨー攻撃と機関銃の攻撃を阻むように降り立つ――。

「ハイジョ!」
「……消えて」

 繰り出される機関砲とヨーヨーの攻撃。それらは空中で竜巻でも起こすのかという勢いで回転しながら飛来した少年による、回転を利用した爪の乱舞により弾かれる。
 Aチームのデーヴァ2体は突如飛来した少年に驚く。……ロボットの方は感情が分からないが。

『何ボーっとしてるの』

 モトカズへと通信が入る。少年のプレイヤーの物だ。

『貴方達、これまでずっと逃げ回ってたみたいだけど……この状況でも逃げるなんてやめてよね』
「そーそー。それにこれで2対2。互角じゃん?」

 少年が漆黒の爪を構え直し、目の前の2体……いいや、スタジアムの観客席にまで向けた大きな声で叫ぶ。

「レディースエーン、ジェントルメーン!これより、このぼく様、レウルと、キュートなケモミミちゃんによる殺戮ショーを、始めるよー!!」
「えっ、ケモミミちゃんって、わ、わたしですか!?」
「キミ以外に誰がいるのさー?へっへー、さっきクオンに言われた通り、逃げないでよねー?」

 勝手に殺戮ショーとかいう物騒な演目の演者に任命されたカオルコは立ち上がりながら驚愕した。

「……殺戮ショー?ふぅん。それって主役はココロ達の方だよね?」

 自らをココロと名乗ったヨーヨーの少女が小さく微笑む。それに同意するかのように彼女とリンクした男性プレイヤーも笑った。

『2対2になったところで負けませんから!うちのココロのヨーヨー捌きを見せてあげますよ!』

 ココロに指から放たれた2つのヨーヨーが空中を飛び、先ほど駆け付けたレウルとカオルコ目掛けて迫る。この時はさっきと違い、ボディから刃物のような物は展開されていない。

 モトカズは知らなかったが、レウルのプレイヤーである少年、クオンはヨーヨー武器の特性を知っていた。ボディ部分から刃物を展開させることで斬撃攻撃を、展開させないことで物理攻撃をそれぞれ使い分けることのできる武器だ。
 相手が刃物を通しにくい装備をしていれば打撃攻撃を、そうでなければ打撃攻撃をメインに戦う、といったことが出来る。扱いは難しいが様々な状況への対応が可能だ。

 纏う装備がほぼ衣服に近いレウルとカオルコ相手なら斬撃武器状態の方が有利なのだが、それをしない理由は何か。その答えは次の瞬間に分かった。

『“ハンマー・アタック”!』

 宙を駆けるヨーヨーのボディが輝く。ハンマー・アタック。打撃属性の攻撃スキルだ。
 なるほど、打撃属性のスキルを使うためにヨーヨーを打撃武器状態に変えたのか。
 そして、逃げ場を防ごうと機械兵が腕の機関砲を発射する。軽やかそうな見た目のレウルが持つ機動力を殺しに来たというわけか。

『レウル、銃撃の方は気にしないで。まずはヨーヨーの方を止めよう』
「分かった!」

 クオンからそう指示を受けたレウルはヨーヨーに向かってステップ交じりで突っ込んでいく。機械兵の放った銃弾が彼の衣服を何度も掠めるが、直撃には至らなかった。そして、右手の爪で、ヨーヨーの紐を絡めとろうとする。

 スキルによって勢いを増したヨーヨーを捉えようとするのは至難の業で、ヨーヨーのボディと接触したレウルのツメが鈍い音を立てながら削れていく。

「ぐ、う、うううう…………!」
『辛いだろうけど、耐えてレウル』
「分かってるよ……!へへっ、それにバトルで辛いなんて言ってられないしね」

 バキン!と爪の一部分が破壊される。だがスキル発動の時間を終えて勢いの弱まったヨーヨーの紐はレウルの爪と爪に絡みつくようにして止まっていた。

「つーかまーえたっ」
「あっ……」
『し、しまった!』

 武器の片方を封じられ、焦るココロとそのプレイヤー。レウルがニヤリと笑った。
 一方カオルコは繰り出されたヨーヨー攻撃をしゃがんで回避。それがココロの手に戻される時に生じるもう一撃はステップで回避した。カオルコが駆ける。

「モトカズさん、スキルをお願いします!」
『なーにが“今度は逃げないでよね”だ……。いいぜ、やってやるよ』

 状況が状況なだけにようやく戦う意志を固めたモトカズが1枚のスキルカードに触れ、それを発動させる。
 敵との距離を一気に詰め、一撃で大ダメージを与えられる技……、これだ。

『“ライトニング・ランサー”!』
「倒します!ごめんなさーい!!」

 カオルコの身体が光に包まれ、巨大な光の槍へと変わる。一瞬気をとられたココロへと、光の槍が奔る。……何が“ごめんなさい”なのだろうか。一同は疑問に思った。
 だがそんなカオルコの攻撃に気付いた機械兵のプレイヤーは自らのデーヴァへと指示を出し、ココロの前へと移動させる。
 光の槍の前に立ちはだかる機械兵。機関砲だった腕を大きく振りかぶり、突き出す。

『“メガトンナックル”!』

 スキルを発動させた機械兵の繰り出した巨大な拳が光の槍と化したカオルコと激突する。
 2つの威力はほぼ同じだった。互いの力がその場でぶつかり合う。

『そこの人。知ってるだろうけど、一つ教えてあげるよ』
『なんだよ、いきなり?』

 モトカズにクオンからの通信が入る。クオンは淡々とした声で続けた。

『デーヴァはリンクしている人間の精神状態が良ければ良いほどステータスが上がるんだ。だからお互いの力が同じ時は、“勝ちたい”って思ってる方が勝つよ』

 それだけ。と最後に続けてからクオンは通信を切った。
 ――“勝ちたい”って思ってる方か……。



 モトカズのデーヴァであるカオルコは、彼が数ヶ月前に分かれた彼女を少し幼くしたような外見をしていた。
 別に元カノに寄せようと作ったわけじゃない。どこの世界に別れた元カノにケモミミを生やそうとする男がいるのだ。

 なんとなくこれから流行しそうなゲームを始めて、新参が多くなった時期にマウントでも取るかという非常にくだらない動機でこのゲームをプレイし、デーヴァのデザイン作成に悩んでいる時だ。

 「困った時はこれ!貴方好みのキャラデザインを自動で作成してくれます!」

 という機能に頼ったらこうなった。
 でもまあ、似ているということは、心の中ではやはり彼女にまだ未練があるのかもしれない。

 彼女は優しい人間だった。優しいだけの、普通の女性だった。
 だから自分がゴミ出しや部屋の片づけを頼んでも、大学の講義の代筆を頼んでも、彼女は別に何も言わなかった。

 楽だった。他人に何かを任せるのは。
 だが、ある日突然言われた。

「カズ君はさ、そうやっていつも楽しようとするよね。あなたといるの、正直疲れるよ。さよなら」

 彼女はそんな自分に嫌気がさしていたんだと、その時初めて知った。
 そして彼女は自分のもとからいなくなった。

 そんな彼女に似ているカオルコに傷付いてほしくなかった。そんな風に育成した覚えは無いが、カオルコはいつもどこかオドオドとしていて、か弱い存在だった。
 そんな弱っちいカオルコをなるべく傷つけたくなかったから、なるべく自分より弱そうな相手を狙って戦って、楽して勝とうとしていた。
 だがそう上手くはいかなかった。シューマとかいう全体的にムカつく青年と、ナギサとかいう、なんか…………平凡そうな青年。2人の初心者に2連敗した。

 ――お互いの力が同じ時は、“勝ちたい”って思ってる方が勝つよ。

 じゃあ自分は今まで勝ちたいと思っていなかったということか。
 常にどこかで楽しようとする自分は、勝ちに対する気持ちが無かったと、そういうことなのか。

 ……あいつは、カオルコはどう思っているんだ。前にナギサとかいう初心者と戦った時は「こんな戦い、わたし楽しくないです」と言っていたが。

 じゃあ今の戦いは……楽しいのか?

『――なぁカオルコ』

 ぶつかり合いを続けるカオルコにモトカズが問う。
 カオルコは今にも押し負けそうな自分を抑えているかのような、必死な顔のまま聞いた。

「なんです、か……!?」
『お前、このバトル楽しいか?そして……勝ちたいか?』

 そんなモトカズの声を聞いて、カオルコがハッとなる。
 そして、何やら決意を固めた顔で言うのだった。

「……はい。正々堂々正面から戦うのは楽しいですし、それに……勝ちたい、です……!」
『じゃあ…………』

 モトカズが叫ぶ。相棒の勝利を期待して。
 今までの自分への怒りも込めて、叫ぶ。

『勝てよ!カオルコオオオオオ!!』
「……はい!!」

 光の槍が、輝きを増す。

「やあああああああああ!!」

そして強化された光の槍は、徐々に機械兵の拳を砕くが如くその勢いと威力を上げた。

「ガ、ナンダコノ、イリョクハ……!」
『不味い!押し負け……!』

 今が好機と見たモトカズは更にもう1種類のスキルを発動させる。攻撃技ではない。自身のステータスを上げる補助スキルだ。

『ダメ押しだ!これで終わってくれ!“アタック・チャージ”!』


 <アタック・チャージ>
 レアリティ:N
 チャージ時間:小
 分類:特殊
 ・発動後から2分間、現時点でのHPの減少率10%につき3%を自身の攻撃力に加える。


 更に攻撃力にプラスの補正が加わったライトニング・ランサーがついにメガトンナックルの勢いに競り勝った。
 機械兵の拳にヒビが入っていく。ピキピキと音を立て、そして――砕けた。
 光の槍は機械兵の身体をそのまま貫き、そしてカオルコは前方の床へと着地する。
 胴体に穴の空いた機械兵が、ギギギ……と重い音を立て、自信を貫いたカオルコの方へとメインカメラを向けてから倒れる。

「イヤー、オジョウチャン、ナカナカヤルヤンケ。ツギヤルトキハマケヘンデー」
『あっ、ズィーガ!駄目だって!もっと機械っぽい喋り方しなきゃ!そういうキャラでいこうって約束だろ!?』
「セヤケドナ、マサシハン。ワテ、シズカニシャベルノ、ニガテヤサカイ――」

 そう言ってズィーガと呼ばれた機械兵は爆発し、自らのプレイヤーと共に場外へ弾き出された。

 (普通に喋れたのかよあのロボット)

 そう思いつつもモトカズは、少し高揚した気分でいた。初めてまともに戦って勝った気がした。
 そして。

 ――なんだよ、お前ってそんなにカッコよかったんだな、カオルコ。

 全力を駆使して敵のデーヴァを一撃で葬った相棒の姿を、初めてカッコいいと思った。
 なるほど。相棒を信じて勝ちたいって思うのも、悪くない。
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