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知らんがな。

恋愛なんてもっと知らんがな。

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「ふっ、ふっ、はっ、ほっ!!」
 リズミカルに行っている今日の自重トレーニングは、デクライン・プッシュアップ。これは、両膝をお尻の下、両手を肩の下においた四つん這いの姿勢から始める。両足を椅子やベンチの上に乗せ、主に両腕の筋肉を使って体を上げ下げする。この時、胴体が一直線のラインになるように気をつけなくてはならない。


 俺は現実逃避するように、いつもよりも長くこの自重トレーニングを行った。
 なんていったって、今日はあの社長さんの娘が来るのだ。

あの高級菓子折は、俺の部屋で、母親と父親と一緒に食べた。頑なに開くのを拒む俺を見て、母親が提案してくれたのだ。
 よく考えたら、家族三人で何かを食べるなんて、記憶の中では初めてかも知れない。
 おっと、考えがそれた。社長の娘だ。


 なんでもその社長の娘、何に悩んでいるのかは分からないが、携帯の占いサイトへの課金を始め、電話占い、対面式の占い館など、とにかく占い関係のものにのめり込んでいるらしいのだ。
 どうかんがえても、そこまでやっていれば、答え的なものが出ていると思うし、なんなら言って欲しいことを言ってくれる人もいるだろうに、とにかく占いに行くらしい。
 単なる占い好きだろうと思って見ていたあの社長だったが、どうも娘は本気で何かに悩んでいるようで、今回の会社のこともあり、気休めでも良いから会ってくれないかとお願いされたのだ。
 そしてこれを断れる訳がなく……。


 俺はため息をつきながら、プロテイン置き場に行く。今日の味は定番だが、新しいブランドのバナナみるく味だ。本当はいちごみるく味が良かったのだが、新ブランドでまだ種類がなかった。今後に期待だ。

「うーん、マッスル」
 うむ、これはなかなか飲みやすいし、後味も良い。効果を見ながら愛用ブランドのリストに入れても良いかもしれない。

 そのまま軽く体を拭くと、俺は社長の娘とやらが来るのを待った。
 ただ、今日は少し気が楽だった。
 だって、今日会う社長の娘は、数々の占いを渡り歩いている。社長は親だから深く悩んでいるように見えるのかもしれないが、正直聞く限りではただの占い好きで、興味本位で俺のところに来るように思えるのだ。
 だったらそんなに気負う必要はないだろう。

 そんなことを考えていたら、階段を上がってくる音が聞こえた。
 今回は母親が案内をしているのだろうか、母親の足音も一緒に聞こえる。
「じゃあ、ここに座布団を敷きますから、どうぞ。返事が返ってこなくても気にしないでね」
 うん、母親よ、ナイスフォローだ。これで、何も喋らなくても済みそうだ。


「あ、あの、初めまして。私、結城 美沙と言います。この前は父の会社を救ってくださりありがとうございました。えっと……ここの占いは、生年月日とか、何も個人情報は言わなくて良いと聞きました。悩みだけ言えば良いと。珍しいですね」
「……」
「あ、あの、それで、相談なんですが……。えっと、ジャンルは、恋愛相談です」

 ……ほわい?

 俺の頭の中に、?が渦巻いた。
 引きこもり歴数十年。彼女いない暦=年齢のこの俺に、恋愛相談?
 いや、知らんがな。これこそ本当に知らんがな。

「えっと、私、付き合う人はそこそこ多くいて……。いつも相性を色んな所で見て貰っても、相性が良いことが多いのに、すぐに別れてしまうんです。嫌いになったとかでも、浮気とかでもないのに……。どの占いでも、私は恋愛運は悪くないし、人を幸せにできる人間とも言って貰えたのに、運命の人と言われた相手とも別れてしまって……。今も告白はされていて、好きかなとは思うし、色んなところの占いで良い結果も貰っているんですけれど、それも一時的なものなのかなって思ってしまって……それで、そんな時に父の会社のことを聞いて、父に頼んでここに来ました……」

 知らんがな。告白されているなら、付き合えば良いじゃないか。俺なんて、恋だの愛だのとは無縁に生きてきたぞ。それに本業の占い師に恋愛運が悪くないと言われているならば、特に気にする必要もないではないか。


 そう思って、俺は扉を見つめていた。

 ……こんな時、「あの人」ならなんて言うんだろう? ん?「あの人」って誰だ?
 俺は一瞬自分が考えたことが分からなくなった。だけれど、それを考えたとき、俺の口は勝手に開いていた。




「男性でも占いでも、あなたの心は満たさないと思います」
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