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ゆっくりと。
過去の罪2 許し。
しおりを挟むだけれど俺に向けられた目は、それまでにない冷たいものだった。
Bからは殴られ、責められ、罵倒された。その時一緒にいた男子達も、俺を罵倒した。
でも、それよりも何より俺が傷ついたのは、ずっと状況を見ていたはずのAさんの言葉だった。
「鈴木くんがそういう力を持っていたことは信じてた。だからこそ、あんな危険にみんなを晒すなんて思わなかった。最低」
その言葉に、周りの女子も同調した。
俺は、Aさんの言葉がショックなのと同時に、あの人との約束を思い出した。
私利私欲の為に使わない。悪意を持って使わない。
俺は、あの人との約束を、二つ同時に破ったんだ。
どうしたら良いのか分からなかった。
だって、その時……何故かあの人は、もう俺の前にいなかったのだから。
ちゃんと怒ってくれる人も、どうしたら良いか教えてくれる人も、慰めてくれる人も、飴を握らせてくれる人もいないのだから。
俺は、初めて自分が怖くなった。
もし、俺の私利私欲のせいで、悪意のせいで、もっと大きな事件になっていたら?死人がでていたら?防げたはずのものを、防げなかったら?
そう考えると、怖くなった。
だから俺は、この力のことを無理矢理忘れることにした。
あの人に教えられたのだろうか、それとも本能的に分かっていたのか、感情の起伏が少ないと余り聞こえないし見えないのも分かっていた。
……だから、俺は引きこもる道を選んだ。
一生引きこもって、人と関わらず、あの人のことも全部忘れて、生きようとした。
三人とも、俺の言葉を、ずっと黙って聞いてくれていた。
最初に口を開いたのは、ののさんだった。
「なんよそれ……そんなん、陽介くんが悪いんじゃなあじゃん」
「えっ……」
俺が悪いんじゃない。その言葉に、俺は驚いてののさんを見た。
「だってそうじゃろ。陽介くんをいじめて、試したのは周りじゃろ。AさんもAさんよ。助けて貰っておきながら、自分は安全な場所におって、最後に陽介くんを責めるって、それこそ最低じゃないね」
ののさんは怒っている。……俺のために、怒ってくれているのだ。
「でも、俺は……」
「そんなことをされたら、誰だって陽介さんと同じ選択をすると思いますよ。それに当時は中学生。私利私欲も、善も悪も完全に区別できるわけじゃないと思います」
祐介さんが、優しく言ってくれる。
「それに、それでも陽介さんは、その力でみんなを助けたんですよ。お母様だって、お父様だって、うちの父だって……それに水害を最小限に抑えたんです」
結城さんが、今までにないくらい力強く頷いてくれた。
「俺……俺のこと、責めないんですか……?」
「責めるわけなあじゃないね!!だって陽介くんは悪くないんじゃけえ!!それに、言ったじゃろ、今度は、みんなで考えていこうって!!」
ののさんが、少し大きな声で言ったのでビックリした。
だけれど、祐介さんも結城さんも頷いている。
「でも……でも……俺は、あの人との約束を……」
「陽介」
ずっと黙って見守っていた、じいちゃんが口を開いた。
「よう話せたの。偉いで」
そして、俺にいちごみるく味の飴を握らせる。
「悪いことをしたと思ったら、どうするんかいの?」
「……っ!ごめんなさいをして、次からは……同じことにならないように気をつける……」
これも、あの人が教えてくれたことだった。
「そう。陽介は謝罪の心を持ち、同じ過ちを繰り返してないんじゃ。じゃけん、もうええんじゃよ」
「…………」
俺は言葉が出なくなって、涙だけがまた溢れてきた。もっと、顔面筋を鍛えなければいけない。ここ最近、泣いてばかりだ。
「話してくれてありがとうね。うちらは、陽介くんの傷を癒やすことはできんけど、一緒に考えていくことはできるけえ。みんなで考えていこうや」
ののさんが、笑って言ってくれて、祐介さんと、結城さんも頷いてくれた。
俺は、やっと許されて心の荷が下りた気がしたけれど……。
どうしてあの人がいないのか、それだけが思い出せずにいた。
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